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■限界勝負inドリーム■

ピコかめ
【1122】【工藤・勇太】【超能力高校生】
 ああ、これは夢だ。
 唐突に理解する。
 ぼやけた景色にハッキリしない感覚。
 それを理解したと同時に、夢だということがわかった。
 にも拘らず目は覚めず、更に奇妙なことに景色にかかっていたモヤが晴れ、そして感覚もハッキリしてくる。
 景色は見る見る姿を変え、楕円形のアリーナになった。
 目の前には人影。
 見たことがあるような、初めて会ったような。
 その人影は口を開かずに喋る。
『構えろ。さもなくば、殺す』
 頭の中に直接響くような声。
 何が何だか判らないが、言葉から受ける恐ろしさだけは頭にこびりついた。
 そして、人影がゆらりと動く。確かな殺意を持って。
 このまま呆けていては死ぬ。
 直感的に理解し、あの人影を迎え撃つことを決めた。
限界勝負inドリーム



 ああ、これは夢だ。
 唐突に理解する。
 ぼやけた景色にハッキリしない感覚。
 それを理解したと同時に、夢だということがわかった。
 にも拘らず目は覚めず、更に奇妙なことに景色にかかっていたモヤが晴れ、そして感覚もハッキリしてくる。
 景色は見る見る姿を変え、楕円形のアリーナになった。
 目の前には人影。
 見たことがあるような、初めて会ったような。
 その人影は口を開かずに喋る。
『構えろ。さもなくば、殺す』
 頭の中に直接響くような声。
 何が何だか判らないが、言葉から受ける恐ろしさだけは頭にこびりついた。
 そして、人影がゆらりと動く。確かな殺意を持って。
 このまま呆けていては死ぬ。
 直感的に理解し、あの人影を迎え撃つことを決めた。


***********************************

 勇太の目の前に現れたのは、小柄な少年。
 見覚えのある顔である。
 ジャージの上着を羽織り、その手には光る剣を持っていた。
「お前、小太郎か!?」
 勇太が尋ねるのに、少年――小太郎はニヤリと笑うだけであった。

 勇太が身構える前に、小太郎が素早く間合いを詰める。
 そして、剣の届く範囲に入った瞬間、横薙ぎに一閃。
 勇太はよろけながらも、それを避けたが、突然の事に困惑する。
「なんだよ、どうしたってんだ!?」
「ここでは戦うのが当然だろ。戦ってシロクロつけないと、夢から出られない」
 確かに、勇太が数回経験した中でも、勝負がつかないと夢が覚めた事はない。
 しかし、だからと言って急に戦えと言われても……。
「良いか、勇太! よく聞け。俺はこのゲームで勝てば、大金を手に入れられることになっている」
「いきなり何を言い出してるんだ、お前は……」
「その大金を手にし、草間さんへの借金を帳消しにして、なんの経済的負い目もなくなったところで……ユリに告るつもりだ!」
「ホント、何言っちゃってるんだ、お前!?」
 妙なカミングアウトに、勇太の頭はさらにこんがらがる。
 そもそも、夢で勝負したからと言って、現実で大金がもらえるような物なのだろうか?
 それを疑わないのも小太郎らしさと言えば、らしいと言えよう。
「だから、勇太。それとなく、自然に見えるように負けろ」
「はぁ!?」
 だが、その物言いには少しカチンと来る。
「八百長で勝って嬉しいのかよ? それとも、ガチでやって、俺と勝てる気がしないのか?」
「ヘッ、バカ言いなさんな。俺が勇太に遅れを取る要素は一つもない」
「……いいぜ、だったらガチでやってやろう。後で泣きを見ても知らねぇからな!」
「泣いて這い蹲るのはお前だッ!!」
 こうして、少年二人のガチ対決が始まるのだった。

***********************************

 小太郎の霊刀に対抗して、勇太が取り出したのは透明の刃、サイコクリアソードと名付けたサイコキネシスの剣である。
 触れる物を切り裂き、かつ刀身が見えないので相手の感覚を鈍らせる事も出来る。
「一応、手加減はしてやるぜ、小太郎。年上のハンディってヤツでな!」
「闘る前から言い訳作りしてんじゃねぇよ!!」
 踏み込んできたのは、またも小太郎。
 霊刀を振るい、上段から切り下ろしてくる。
 勇太はそれを剣で打ち払い、小さく腕を折って手首のスナップを利かせる。
 サイコクリアソードは剣術のスキルを必要としない。触れれば相手を引き裂く能力。その上、間合いは自由自在。
 腕力や遠心力、斬る為の技術なども要せず、振るうだけで相手に致命傷を与えられる能力だ。
 故に、ナイフのように小回りの利く取り回しをしても、一撃で勝負を決められる。
 故に、普通の剣ならば皮を裂く程度にしかならないであろうこの攻撃も、当たれば必殺となる。
 だが、小太郎は器用にも身体を反らし、勇太の剣を辛うじて避ける。
 更にその上、そのまま身体を回転させ、今度は勇太の胴を狙った薙ぎが襲い掛かってきた。
「おぉっ!?」
 小太郎の攻撃には遠心力が乗っている。
 腕を大きく伸ばし、手に持つ剣に最大限の破壊力を加えようとしているのだ。
 霊刀自体に重さは付随させられるらしく、恐らく、この薙ぎの一撃を食らってしまえば、勇太も無事ではすまないだろう。
 だが、避けられない程の攻撃ではない。
 勇太は軽くバックステップを踏んで小太郎との距離を稼ぎ、横薙ぎの一撃を回避した。
「安心しろよ、勇太。刃は潰してあるから、ちょっと鈍器で殴られるぐらいの痛みだ」
「それのどこが安心できる要素なんだよ!」
 小太郎なりの配慮なのだろうか、どうやらズンバラリと切り裂かれるような事はないらしい。
 言葉に続けて、小太郎は勇太との距離を詰めつつ、剣を上段へと構えなおしている。
 恐らく、もう一度打ち下ろしが襲い掛かってくるだろう。
 だが、その瞬間、胴はがら空きになる。
「甘いぞ、小太郎!」
 勇太はその隙を見逃さず、剣を寝かせ、小太郎へ向けて踏み出していた。
 小太郎の脇をすり抜け、そのまま胴を払い抜く。
 完全に入った一撃……と思ったが、手ごたえがない。
「なっ……!」
「言い忘れてたかもしれんが、俺のジャージは特別製だ」
 勇太の剣はジャージに阻まれていたのだ。
 小太郎の言うように、彼のジャージは特別製。霊刀と同じ物で構成されており、そこそこの防御力を誇っているのだ。
「ちっ、胴への攻撃はもう少し強めにしなきゃならないか……」
「俺もどうやら、勇太を見くびっていたらしい。……もう少し本気で行くぜ」
 小太郎は剣を両手上段から片手中段に構えなおし、勇太に対して半身で構える。
 雰囲気が変わったような気がした。
「ピリピリするね……それがお前の本気ってことか、小太郎?」
「まぁ、五割程度って所かな。能力者とは言え、一般人に近い勇太には全力なんか出さねぇよ」
「でかい口叩きやがって……。決めた。お前の本気の本気、見せてもらおうじゃねぇの」
 お互いに間合いを慎重に測りつつ、ジリジリと足を滑らせる。
「勇太だって、それが能力の全部ってわけでもないんだろ? だったらお互い様だ」
「じゃあ、俺が全部の能力を出したら、お前も乗ってくれるのか?」
「さて、それはどうかな」
 言い終わるや否や、三度、小太郎から攻める。

 モーションは最小限に。
 上半身をほぼ動かさず、運足によってのみ勇太との距離を縮めた。
 小太郎の構えた剣の切っ先は勇太を向き、そして少ない動きでそれが突き出される。
「……うっ!」
 少ない動きによって、攻撃の機を見極め損ねた勇太。
 だが、かわせない程の攻撃ではない。
 小太郎の狙いが頭を狙った突きならば、それを避けつつ前進、もう一度小太郎に一撃を加えるだけの余裕が生まれるはず。
 カウンターを決めれば、勝てる。
 そう思って勇太は身をかがめ、小太郎に対して踏み込もうとした……のだが。
 ふと無意識の内に勇太の生存本能が働く。それは小太郎の異常な殺気によって引き起こされた物だった。
 ……フェイントだ。
 小太郎の動きがフェイントである事が、何故だかわかった。
 それはもしかしたら、無意識の内に行使していたテレパスかもしれない。
 勇太は慌てて体制を立て直し、小太郎の攻撃を回避する事に専念する。
「ほぅ……」
 それとほぼ同時、手の内を読まれた事を察した小太郎は、フェイントであった突きをそのまま繰り出し、勇太を退かせる事によって距離を稼いだ。
 勇太がテレパスを使うのと同じく、小太郎にも不思議な目がある。
 これによって、テレパスほど確実な物ではないが、相手の感情の動きを窺う事が出来るのだ。
「あ……っぶねぇ!」
 冷や汗を噴出す勇太に対し、小太郎は笑っていた。
「ははっ、いいぜ、勇太。調子出てきたじゃねぇの! まさか避けられるとは思わなかったけどなぁ……」
「小太郎こそ、何が本気じゃない、だ! 割りとマジだったじゃねえのか、今の!?」
「大丈夫大丈夫。刃は潰してるから」
「鉄パイプで頭殴られたら、最悪死ぬっての!」
 軽口を叩きつつ、お互いに息を整える。
 相手との距離を測りなおし、作戦を立て直す。
 今の攻防だけで二人の意識が変わった。
 生半可では倒せない、と。

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 死を意識するほど切羽詰っていないのは、前に立つ敵が知り合いだからだろうか。
 勇太はゆっくりと息を吐きながら、剣を構えなおす。
 いつものように、身体の内側が焼け付くような、意識が引き絞られるような、崖っぷちの感覚が湧かない。
 それはそれで良い事だと思う。あの感覚を覚え始めると自分で自分を抑えきれなくなる。
 嫌な事を思い出してしまいそうになる。
 だから、このままで闘えるのなら、それはそれで良い。それで負けても、この夢なら仕方ない。
 だが、知り合いであるからこそ、小太郎には負けたくないという思いもある。
 負けても仕方ないとは思うが、出来る事なら勝ちたい。
「だったら、やるっきゃないよなぁ!」
 勇太はサイコクリアソードを手放し、自分の周りに空間が歪むほどのサイコキネシスの塊を、複数個浮かせる。
「本気で行くぜ、小太郎! 負けても怨むなよ!」
「上等だぁ! かかってこいやぁ!!」
 勇太はサイコキネシスの塊を、小太郎に目掛けて飛ばす。
 触れれば大ダメージ必至の塊。三次元方向から襲い掛かるそれらを避けるのは、小太郎でも至難の業だろう。
 小太郎がそれらの相手に手間取っている間に、勇太は精神を集中させる。
「シラフでこれをやるのは……あんまりなかったかな」
 いつもは『覚醒』した時のみだった。
 だが、小太郎に勝つためには手段を選んでいる暇はない。
 勇太は手の中でイメージを膨らませ、その中にサイコキネシスを注ぎ込む。
 だんだんと形作られていったそれは、まさに槍。
 一点突破の究極の形。
 それを手に持ち、勇太は顔を上げる。
 未だ、サイコキネシスの塊との追いかけっこに必死な小太郎。
 それを見据え、移動方向を予測しながら、テレポートの位置を決める。
「……今だッ!!」
 勇太はサイコジャベリンを握り締め、テレポートを使う。
 出現した場所は小太郎の真上。
 小太郎は今、サイコキネシスの塊に四方八方を埋め尽くされ、逃げ場のない状態。
「喰らえッ!!」
 満を持した弓矢の如く、勇太の引き絞った右手からサイコジャベリンが発射される。
 それに気付いた小太郎は、素早く防御の体勢を整えていた。
 流石に反応は早かったが、万全ではないはず。そこに勝機がある。
 虚を突いた攻撃。それを完全にガードする事はほぼ不可能なはずだ。
 サイコジャベリンは小太郎に向けて一直線に降りかかり、小太郎はそれを防御するために、霊刀を防御スタイルに変更させていた。
 二つがぶつかった時、激しい光と、霊子の火花が散った。
 ジャベリンの勢いを殺しきれなかったか、アリーナの地面はひび割れ、せり立つ。
 巻き起こった粉塵があたりを埋め、一瞬、視界が閉ざされた。
「……どうだ!?」
 地面に降り立った勇太は、目を眇めて土煙の奥を窺う。
 そこには……少年の影が立っている。
「……マジかよ、アレはホントに、全力だったんだぞ」
「だったら、俺の方が強ぇってことだろうが!」
 ボロボロではあったが、持ち前の明るい笑顔で小太郎がやって来る。
 全力を出した攻撃が防がれてしまっては、勇太の方も負けを認めるしかない。
「あー、くそ……次は絶対勝つからな」
「ふふん、いつでも待ってるぞ、チャレンジャーよ!」

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 後日、興信所にて。
「そう言えば、小太郎」
「なんだよ?」
「大金はもらえたのか?」
「は? 何の話だ?」


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【1122 / 工藤・勇太 (くどう・ゆうた) / 男性 / 17歳 / 超能力高校生】





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■         ライター通信          ■
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 工藤勇太様、ご依頼ありがとうございます! 『好敵手と書いてライバルと読む』ピコかめです。
 同年代の男の子たちですもん、そりゃ闘うのも燃えちゃいますよね。

 さて、今回は勝敗も好きにして良いって事でしたので、惜敗ですかね。
 一応小太郎は色んな修羅場を潜り抜けてきていたので、普通を追い求める勇太くんとはちょっと経験値の差が出るかな、と思ったのであります。
 力量は競っていると思いますが、そこはスタンスの違いですかね。
 ではでは、また気が向きましたらどうぞ〜。