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■LOST■

水貴透子
【8636】【フェイト・−】【IO2エージェント】

『ログイン・キーを入手せよ』

それがLOSTを始めて、ギルドから与えられるクエストだった。

そのクエストをクリアして『ログイン・キー』を入手しないと他のクエストを受ける事が出来ないと言うものだった。

クエストにカーソルを合わせてクリックすると、案内役の女性キャラクターが『このクエストを受けますか?』と念押しのように問いかけてくる。

「YES‥‥っと」

その途端に画面がぐにゃりと歪んでいき、周りには海に囲まれた社がぽつんとあった。

「あの社には大切な宝があるんだ、だけどモンスターがいて‥‥お願いだから宝が奪われる前にモンスターを退治しておくれよ」

社に渡る桟橋の所に少年キャラが立っていて、桟橋に近寄ると強制的に話しかけてくるようになっているようだ。

「ふぅん、まずはモンスターを退治するだけの簡単なクエストか」

小さく呟き、少年キャラが指差す社へと渡っていく。

そこで目にしたのは、緑色の気持ち悪いモンスターと社の中の中できらきらと輝く鍵のようなアイテムだった。



―― LOST ――

『ログイン・キーを入手せよ』
それがLOSTを始めて、ギルドから与えられるクエストだった。
そのクエストをクリアして『ログイン・キー』を入手しないと他のクエストを受ける事が出来ないと言うものだった。
クエストにカーソルを合わせてクリックすると、案内役の女性キャラクターが『このクエストを受けますか?』と念押しのように問いかけてくる。
「YES‥‥っと」
その途端に画面がぐにゃりと歪んでいき、周りには海に囲まれた社がぽつんとあった。
「あの社には大切な宝があるんだ、だけどモンスターがいて‥‥お願いだから宝が奪われる前にモンスターを退治しておくれよ」
社に渡る桟橋の所に少年キャラが立っていて、桟橋に近寄ると強制的に話しかけてくるようになっているようだ。
「ふぅん、まずはモンスターを退治するだけの簡単なクエストか」
小さく呟き、少年キャラが指差す社へと渡っていく。
そこで目にしたのは、緑色の気持ち悪いモンスターと社の中の中できらきらと輝く鍵のようなアイテムだった。

視点⇒フェイト・―

「……今度の調査はゲーム、か」
最近異変の多いというオンラインゲーム。
その話は聞いていたけど、まさか自分が調査する事になるとは思っていなかったフェイト・―は苦笑気味に真っ黒な画面を見つめる。
IO2が用意した監視カメラ付の部屋で、淡々とゲームをする。それはそれで中々シュールなのかもしれない、とフェイトは自嘲気味に呟いた。
「職業は……魔界剣士にしようか、禍々しい能力を持った自分に相応しいからな」
 職業、初期ステータスを振り分け終え、決定にカーソルを合わせる。
 すると――……。

 貴方ハ 全テヲ 失ウ覚悟ガ アリマスカ?
 ⇒YES
  NO

「仰々しいな、たかがゲームなのに」
 そう呟き、フェイトはため息を吐く。
 彼自身も分かっていたのかもしれない。ただのゲームならば、IO2に依頼が来る事なんてありえないという事を。
「……とりあえず、イエス、と」
 カチ、と決定ボタンを押した途端――……画面が激しく輝き始める。
「くっ、これも演出の一環か……?」
 目を開けていられないほどの眩しさが来たかと思うと、次の瞬間、LOSTのフィールドにフェイトは立っていた。

(特に変わった点は見られない、他のゲームより画像が綺麗だ、という点くらいかな)
 いつの間にか魔界剣士の初期装備を着て、自分が歩いている事に気づく。
「ねぇ、あそこのお社にゴブリンが住み始めたんだ! 倒しておくれよ!」
 小さな子供がフェイトに駆け寄ってきて、街の中央にある社を指差している。
(他のクエストは受注出来ないようになっている所を見ると、これはチュートリアル的なクエストなんだろうな)
 ぴこん、と頭上に『少年の依頼を受けますか?』と表示され、フェイトは『YES』にカーソルを合わせた。
 すると社までの矢印が表示され、その表示に従ってフェイトも社まで向かって行く。
(……随分と小さいな、本当にゴブリンが住んでるのか?)
 街の中央にある社は、小さな社でありゴブリンはおろか人間さえも入れるような作りではない。
「チュートリアル前に何かする必要があるのか? さて、どうしたものか……」
 小さなため息を吐き、社に手を当てた途端、ぐにゃり、と周りの景色が歪んだ。

「……っ、画面が変わるたびのぐにゃっとした感じは気持ち悪いな」
 社に触れれば中に入られる仕組みだったらしく、壁に背中を預けながらフェイトは愚痴を零す。
「しかし、ゲームの中だけあって何でもアリなんだな。まさか社の中がこんな迷路みたいな洞窟になっているとは思わなかった」
 しっかりとしたコンクリート造りの迷宮、このどこかに少年の言っていたゴブリンが存在しているのだろう。
「いや、ただのゴブリンじゃないんだろうな」
 目の前には普通のゴブリンが数匹、フェイトを睨みつけている。
 恐らく、少年の言う『ゴブリン』はここに住むゴブリンの親玉的存在なのだろう。
「さて、このまま突っ切るか」
 初期モンスターだけあって、あまり苦労なく倒せる。
 だからフェイトは剣を握り締め、一気にゴブリンの群れを駆け抜ける事を決意する。
(やっぱり使い慣れない武器は身体に馴染まないな、銃を装備出来ればいいんだが……って、このゲームに銃という武器は存在するのか?)
 そんな事を考えながら、自分に向かって襲ってくるゴブリン達を斬りつけ、迷宮の最深部に到達した。
「……あれは?」
 親玉であろう巨大なゴブリンの後ろには淡く輝く何かがある。
 恐らくあれを持ち変えれば、このクエストを達成した事になるのだろう。
「とりあえず、これも仕事だ」
 ぐ、と剣を握り締める手に力を込めながら地面を蹴って巨大ゴブリンに向かう。
「くっ……親玉、というだけあってさすがに雑魚とは違うな」
 巨大な斧を振り下ろされ、フェイトはそれを剣で受け止める。
 斧と剣が触れ合う場所が微かに震えており、少しでも力を抜けばそのまま斬られてしまいそうなほどだった。
「さすがに何の準備もなく来たのは間違いだったか、くっ……」
 フェイトが押され始めた時、どくん、と心臓が揺れる感覚に見舞われる。
「……え?」

 貴方は私が選んだ、簡単には終わらせない。

 鈴が鳴るような、そんな表現に相応しい少女の声が頭の中に響いてくる。
 それと同時に、それまでの苦戦が嘘であるかのように力が沸き上がってきた。
「はぁっ!」
 巨大ゴブリンの攻撃を避け、フェイトは強力な一撃をお見舞いする。
「グォォォっ……」
 巨大ゴブリンは苦しげな呻き声をあげながら、そのまま地面に倒れ、砂のようにさらさらと消えていった――……。
「……さっきのは何だったんだ、明らかに俺以外の力が加わっていた」
 自分の手を見つめながら、フェイトは怪訝そうに呟く。
「おめでとう、あなたは選ばれたの」
 ふわふわと浮かぶ鍵のようなものの前に、少女が現れた。
「その声、さっきの……」
「あなたは私の願いを叶えてくれるかしら、ふふっ、さぁ、これを受け取って」
 少女に誘われるように浮かんでいた鍵が、ふわり、とフェイトの前に降りてくる。
「それはログイン・キー。あなたと運命を共にするもの、決して肌身離さず持っていてね」
 少女はそれだけ言うと、すぅっと景色に溶け込むように消えていく。
「……何だったんだ、今のは。このクエストに組み込まれたもの? ……それとも、異変に関する『何か』なのか?」
 とりあえずフェイトは『ログイン・キー』を入手するクエストのみを終わらせ、それ以上の調査は後日行う事になった。
 大きく背伸びをするフェイトはまだ気づかない。
 自分のポケットの中にゲームの中に登場した『ログイン・キー』が入っている事に。
 そして、自分の心に僅かな異変が起こり始めているという事に。
 彼が、その事に気づくのはこれから10分後の話――……。


―― 登場人物 ――

8636/フェイト・―/22歳/IO2エージェント

――――――――――

フェイト様

初めまして。
今回はご発注頂き、ありがとうございます。
今回の内容はいかがだったでしょうか?
少しでも気に入っていただける内容に仕上がっていれば幸いです。

それでは、またご機会がありましたら宜しくお願い致します。

2014/8/3