■錆びた剣■
水貴透子 |
【8636】【フェイト・−】【IO2エージェント】 |
「この『世界』にまた新たなる『悪』が増えた――我らはそれを戒めねばならん」
黒い外套を頭まで被った人物が低い声で呟く。
声から察するに初老の男性なのだろう。
「またか、人間と言うものは理解しかねるね。何で自分から危険に足を踏み入れるのか‥‥」
その黒い外套の人物以外、誰もいないのに別の声――若い男性の声が響き渡る。
「ルネ、勝手に出てくるなと言うておるだろう」
先ほどのしゃがれた声が若い男性を戒めるように呟くが「別にいいじゃないの」と今度は若い女性の声が響く。
「今度の奴は『ログイン・キー』の封印を解除したんでしょう? あの女が封印を解くなんて――どんな奴か気になるわぁ」
けらけらと女性は笑いながら言葉を付け足す。
「ログイン・キーか‥‥奪うのかい?」
「いや、あれはただ奪えばいいだけのものではない。封印を解除された時から主の為にしか働かぬ。つまり――」
初老の男性が呟いた時「主ごと貰っちゃえばいいじゃないの」と女性が呟き、ばさりと外套を取る。
「7人で体を所有しているアタシ達だけど、今日はアタシの日よね? ちょっとからかいに行って来るわ」
そう呟いて女性・リネは甲高い声をあげながら黒い部屋から出たのだった。
――
そして、それと同時に新しいシナリオ『錆びた剣』と言うものが追加された。
まるでリネが『ログイン・キー』を持つ者を呼び寄せるかのように。
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―― 錆びた剣 ――
「この『世界』にまた新たなる『悪』が増えた――我らはそれを戒めねばならん」
黒い外套を頭まで被った人物が低い声で呟く。
声から察するに初老の男性なのだろう。
「またか、人間と言うものは理解しかねるね。何で自分から危険に足を踏み入れるのか‥‥」
その黒い外套の人物以外、誰もいないのに別の声――若い男性の声が響き渡る。
「ルネ、勝手に出てくるなと言うておるだろう」
先ほどのしゃがれた声が若い男性を戒めるように呟くが「別にいいじゃないの」と今度は若い女性の声が響く。
「今度の奴は『ログイン・キー』の封印を解除したんでしょう? あの女が封印を解くなんて――どんな奴か気になるわぁ」
けらけらと女性は笑いながら言葉を付け足す。
「ログイン・キーか‥‥奪うのかい?」
「いや、あれはただ奪えばいいだけのものではない。封印を解除された時から主の為にしか働かぬ。つまり――」
初老の男性が呟いた時「主ごと貰っちゃえばいいじゃないの」と女性が呟き、ばさりと外套を取る。
「7人で体を所有しているアタシ達だけど、今日はアタシの日よね? ちょっとからかいに行って来るわ」
そう呟いて女性・リネは甲高い声をあげながら黒い部屋から出たのだった。
――
そして、それと同時に新しいシナリオ『錆びた剣』と言うものが追加された。
まるでリネが『ログイン・キー』を持つ者を呼び寄せるかのように。
視点⇒フェイト・―
「……」
先日行った『LOST』の調査報告書を提出した後、フェイトは小さなため息を吐く。
いつの間にかポケットに入っていた『ログイン・キー』というアイテム。
それもきっちりと報告書と共に上司へ提出した。
「引き続き、調査を頼む……か」
結局、先日の調査ではまだ何も分かっていない。
分かったのは、自分が何かに選ばれたという事と、後戻りが出来ないだろうという事。
「とりあえず、今日は『錆びた剣』のクエストをしてみようか」
この前と同じようにパソコンの電源を入れ、LOSTを起動する。作成したキャラクターを選び、フェイトはLOSTの世界へと再び足を踏み入れた。
※※※
「しかし、どうすればいいのか分からないクエストだな……」
新しく追加された『錆びた剣』のクエスト内容を見て、フェイトはため息混じりに呟く。
「とりあえず、指定されているフィールドに行ってみるか」
多少の回復アイテムを購入した後、フェイトは『錆びた剣』の依頼者である『ルネ』が待つフィールドへと向かい始めた。
※※※
指定されたフィールド、廃墟に行くと、黒い衣を纏った女性が立っていた。
「あら? あなたが『あの女』に選ばれた人なの? もう少し屈強な人を想像していたわ」
値踏みするような視線を向けられ、フェイトは居心地の悪さから眉根を寄せる。
「そんなに怒んなくてもいいじゃない、今はまだあなたの敵になるつもりはないわよ?」
今は、という言葉に引っ掛かりを感じて、フェイトは一歩退く。
「へぇ? 実際のキミって、結構かっこいいんだ? あたしがデータじゃなければ、お付き合いしない? って告白しちゃってたかも」
画面越しに女性と視線が合い、フェイトはガタンッと勢いよく立ちあがった。
「驚かないでよ、あんたが足を踏み入れた場所はこれよりもっと驚くことなんだから。そうねぇ、今日はこれをあなたにあげる、後から絶対に役立つはずだから」
フェイトは女性から『錆びた剣』を受け取る。
現実世界の事も知っている事もあり、本当に信用出来るのかどうか、とフェイトは訝しげな視線を彼女に向けた。
「あなた『あの女』は信用出来るくせに、あたしは信用出来ないって言うんだ?」
「……あの女?」
「『ログイン・キー』を貰った時に会ったでしょ? あの女よ、あぁ、そういえば……ログイン・キーは使った事ある? 結構便利だけど、使い過ぎには注意した方がいいわよ」
意味ありげな笑みを浮かべながら、女性が呟く。
「現実世界のあなたも、結構珍しい力を持っているのね。苦労したでしょう? 何なら、あたしが普通の人に戻してあげましょうか?」
「……必要ない」
女性の言葉に、フェイトは即答する。
フェイトは過去に己の持つ能力の事で辛い目に遭ってきた。そのせいで人を憎んだ事もあったけど、それもすべて自分なのだと受け入れていた。
自分の力を決して否定せず、誰かを傷つけるためのものではなく、誰かを救うための力なのだ、と心に言い聞かせていた。
「……心、ね」
ふ、と女性が嘲るように呟く。
「誰かを救いたいのなら、ログイン・キーを使いなさいな。それはあなたの望む形に姿を変え、あなたの願うままに物事を運んでいく」
ただ、と女性は言葉を止めた。
「魔法を使うためにMPが必要なように、ログイン・キーを使う時も……ふふっ、これ以上はやめておこうかしら、あなたがどんな風に狂わされていくのか、興味があるもの」
(……狂わされる?)
物騒な言葉に「どういう事、ですか」とフェイトが問い掛ける。
「さぁ? 残念だけど、あたしはそこまで良い人じゃないわ。もう少し経てば分かるわ。あの女に選ばれたことが、あなたにとって最大の不幸だったという事に、ね」
それだけ言葉を残すと、女性は景色に溶け込むように消えていった。
後に残されたのは、錆びた剣と、フェイトのみ――……。
※※※
「選ばれた事が、最大の不幸? 俺が、狂わされる?」
LOSTを切り上げて、現実に戻ってきた後、フェイトが小さな声で呟く。
あの女性が言いたいのは、恐らくフェイト自身の心の事だろう。
前回と今回、現実に戻ってきた後に感じる僅かな空虚感。
本人もまだ気づいていないけど、彼の心から何かが少しずつ失われている。
ただ、今までIO2エージェントとして動いてきた直感が、彼に訴えていた。
LOSTは危険だ、と――……。
「……危険でも、ちゃんとやるしかない。これ以上、誰も傷つかないために。俺がこの問題を片づければ、LOSTによって傷つく人はいなくなるんだから……」
フェイトは拳を強く握り締めながら、今はもう真っ暗な画面を見つめた。
まだ、今は闇の中に放り出されたような感覚で、何も分かっていないけど、いつかすべてを解決してみせよう、とフェイトは強く心に誓っていた。
そして、フェイトの強い心に呼応するように、ログイン・キーが淡い光を放つ。
「あなたこそ、私の願いを叶えてくれる……今度こそ、私は失敗しない、私の願いを叶えるために、あなたに力をあげる――……そう、あなたが願うなら、いくらだって――」
フェイトの頭の中に響いてくる声。
その声の主が誰なのか、フェイトが知るには、もう少しの時間を要する事になる。
―― 登場人物 ――
8636/フェイト・―/22歳/IO2エージェント
――――――――――
フェイト様
こんにちは。
前回に続き、今回もご発注頂き、ありがとうございます。
今回の内容はいかがだったでしょうか?
気に入って頂ける内容に仕上がっていれば幸いです。
それでは、またご機会がありましたら、
宜しくお願い致します。
2014/8/23
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