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■悲しい子供の愛し方■

智疾
【8636】【フェイト・−】【IO2エージェント】
『今日は全国的に天気が悪く、関東地方では夕方以降雷雨の可能性が高いでしょう。降水確率は……』

この悪天候の中、タイミング悪く買い置きの煙草が尽きた。
頭上は傘で凌げても、足元は既に気持ち悪く濡れている。
近くのコンビニまでの五分の道程が、草間にはとてつもなく長く感じられた。
「そういや、単三電池もストックがなかったな」
生憎、買い物には不向きの天候だが、それでも仕方がないだろう。
小さく舌打ちをして、漸く見えてきた看板を目指す。
買うべきものは、煙草と電池。
微かに強くなった雨音を背に、草間は傘の柄を握り直した。

歩みを止めない人混みの中。
まるで其処だけが時を刻み忘れたかのようだった。
雨だというのに、足早に通り過ぎる人々は、普段ならば立ち止まった人間を非難の視線で見やるというのに。
何故か其れには、視線一つを向ける事もなく。
―違う。
草間が感じ取ったのは、其処の一種異様な空気。
自分では認めたくないが、探偵稼業の中で、そういった空気に身を投じる事が多い。
だからこそ、遠目で見ただけでも理解出来たのだ。
其処だけが、違う。
ほんの少しの興味心があった事は、認めざるを得ないだろうが。
平素の草間ならば、完全に無視して通り過ぎるというのに。
何故か其の時だけは、其処へ向かって歩みを進めていた。

其処にいたのは、水銀色の髪を腰の辺りまで伸ばした、小さな少女。
黒を基調にし、白のレースをふんだんに使ったゴシック調のワンピースに。
同じデザインのヘッドドレス。
見える横顔から覗く瞳は、瞳と同じ色。
雨の中、傘も差さずに空を見上げているその表情は。
無。
見る限りでは、十歳前後だろう。
だというのに、視線の先の少女の纏う雰囲気は、年とはかなりかけ離れたものだった。

「おい。何してるんだ、こんな雨の中」
草間の問いかけに、少女はゆっくりと視線を彼へと動かした。
其処で初めて分かる。
少女の瞳は、左右違い、ルビーと水銀のオッドアイだった。
顔を顰める草間を見ると、少女は濡れる事も厭わないのか、緩慢な動作で頭を下げた。
「お初にお目にかかります。草間・武彦様」
初対面のはずの少女が、自分の名前を間違う事無く口にしたのを見て、更に表情は鋭くなる。
「どうして俺の名を?それに、おまえは何者だ」
「貴方様の名を知ったのは先程。わたくしは『創砂深歌者』と呼ばれるものに御座います」
淡々と告げる少女は、その違いの瞳で草間をしっかりと見詰め。
「お会い出来て光栄です。草間・武彦様」
もう一度、深く頭を下げたのだった。

人の形をしたものを拾ったのは、二度目だった。
悲しい子供の愛し方

『今日は全国的に天気が悪く、関東地方では夕方以降雷雨の可能性が高いでしょう。降水確率は……』

悪天候の中、タイミング悪く買い置きの煙草と電池が切れてしまった。
草間・武彦は陰鬱な気分に陥りながら、傘がまるで役に立たない空の下へと繰り出している。
一番近いコンビニまでの五分が、とてつもなく長い。
コンビニまであと少しといった所で草間が感じ取ったのは、一種異様な空気。
自分では認めたくないが、探偵稼業の中で、そういった空気に身を投じる事が多い。
だからこそ、遠目で見ただけでも理解出来たのだ。
其処だけが、違う。
ほんの少しの興味心があった事は、認めざるを得ないだろうが。
平素の草間ならば、完全に無視して通り過ぎるというのに。
何故か其の時だけは、其処へ向かって歩みを進めていた。

其処には、水銀色の髪を腰の辺りまで伸ばした小さな少女が佇んでいた。
黒を基調にした白レースをふんだんに使ったゴシックワンピースに、同じデザインのヘッドドレス。
見える横顔から覗く瞳は、瞳と同じ色。
雨の中、傘も差さずに空を見上げているその表情は。
無。
見る限りでは、十歳前後だろう。
だというのに、視線の先の少女の纏う雰囲気は、年とはかなりかけ離れたものだった。
「おい。何してるんだ、こんな雨の中」
草間の問いかけに、少女はゆっくりと視線を彼へと動かした。
其処で初めて分かる。
少女の瞳は左右非対称、紅玉と水銀のオッドアイ。
顔を顰める彼を見ると、少女は濡れる事も厭わないのか緩慢な動作で頭を下げた。
「お初にお目にかかります。草間・武彦様」



フェイト(8636)は、コンビニでその場凌ぎに購入したビニール傘越しに空を見上げた。
「急に降ってくるなんてな……」
折角の休日だというのに、全くついてない。
街をぶらりと散策しようかと思ったが、これは予定を変更して何処か喫茶店にでも入った方がよさそうだ。
「この辺りにある喫茶店は……ん?」
急遽目的地にした喫茶店を目指して歩いていると、ふと視界の端に見慣れた影。
「……草間さん?」
しっかりと確認すれば、其処には傘を手に立ち止まる昔馴染みの探偵の姿があった。
こんな雨の中、何故立ち止まっているのだろうか。
気になって歩み寄る最中で、その理由に気付く。
草間の前に、見知らぬ少女が傘も差さずに立っていた。
原因はその小さな少女だろう。
「草間さん」
驚かせない様に、けれどこの雨で声が掻き消されない様に。
柔らかいけれどしっかりと通る声で呼びかければ、草間が振り返る。
「あぁ、フェイトか。お前、仕事はどうしたんだよ」
「今日は非番なんです。……それで」
笑いつつ、フェイトはそっと傘を持つ手を草間の眼前に立つ少女の頭上に伸ばした。
「この子は草間さんの『お知り合い』ですか?」
「……いや」
含みを持たせたフェイトの問いに気付いた草間が、何処か苦い表情で首を横に振る。
草間でも分かるレベルの異質。フェイトが気づかない訳がない。
この悪天候の中少女は、何の感情も映す事なくただ只管草間だけを見つめ。
傘を差し掛けているフェイトに見向きもしない。
まるで、紅玉と水銀の世界には草間しかいない。と言うかの様に。
草間が自分に投げかける「助けてくれ」という視線を無視する訳にもいかず、フェイトはそっと草間の横で少女と同じ目線になる様に腰を折った。
「こんにちは。どうかしたのかな?」
フェイトの優しい問いかけに、漸く少女が非対称の瞳を彼へと向ける。
微かに首を傾げた少女が徐に口を開いた。
「わたくしは、草間・武彦様にお渡ししたいものがあって参りました」
「草間さんの事を知ってるんだね。前に会った事があるの?」
頭上で首を横に振る草間を感じつつ、笑みを絶やさず少女に声をかけ続けるフェイトをじっと、色違いの瞳が見つめている。
「いいえ。お会いしたのは先ほどが初めてで御座います」
「それなのに、草間さんの名前を知ってるの?何処かで聞いたのかな?」
「いいえ。わたくしは貴方様の名前も存じ上げております。『    』様」
名を呼ばれ、フェイトは僅かに目を見開いた。
記憶をどれだけ遡ろうとも、眼前の少女に会った事などない。今回が間違いなく初対面だ。
なのに少女は自分の名を呼んだ。しかも、フェイトという今現在名乗っている名ではなく、本名で。
草間と顔を見合わせて、フェイトはゆっくりと少女へと向き直った。
「君は一体……」
紡がれた言葉に、ビニール傘の下の少女はゆっくりと深く首を垂れるのだった。
「初めまして。わたくしは『創砂深歌者』と呼ばれるもの。草間・武彦様に、砂時計をお届けに参りました」



悪天候の中会話を続ける訳にもいかず、三人は草間の事務所へと場所を移した。
インスタントコーヒーを準備した草間が、自分の分を啜りながら小さな少女へと声をかける。
「で、何だったか。砂時計?」
「はい。此方が、草間・武彦様の砂時計で御座います。先日より不可解な動きを見せておりましたので、管理を行っているわたくしが、この度お持ち致しました」
淡々と告げて少女は何処からともなく一つの砂時計を取り出すと、そっと草間へと差し出した。
「この砂時計は、草間・武彦様の刻む時そのものに御座います。通常であれば其のまま進むべきものなのですが、つい先日から砂は行ったり来たりを繰り返す様になり……」
「ちょっと待て。一気に話すな混乱するだろ」
左手で砂時計を受け取りつつも、右手を突き出して静止を促す草間を苦笑しつつ見やって、フェイトは助け船を出すべく口を開く。
「えぇと。つまり、この砂時計は草間さんの『寿命』を示すもの、って事なのかな。普通は下に砂が落ちるはずなのに、今は落ちたり戻ったりしてる、と」
草間から視線をフェイトへと移し、自らを『創砂深歌者』と名乗った少女は一つ頷いた。
「はい。わたくしもこの様な現象は初めてで御座います。ですが、出現してしまった以上、この砂時計は草間・武彦様のもの。ですのでお届けに上がった次第です」
お受け取りください。と無表情のまま草間へと頭を下げる少女に、突き出していた右手を頭に運んでガシガシと掻く草間。
「この砂時計は草間さんのものだから、君としては草間さんに持っていてもらいたいんだね」
「いいえ」
フェイトの言葉に、少女は首を横に振った。
「その砂時計をどうするかは、草間・武彦様の自由で御座います。持ち続けるも壊すもご自由にどうぞ」
「壊す、って……」
「砂時計は、持ち主の『時』を刻むもので御座いますので」
そのフレーズに、フェイトはふと思いつく。それは、つまり―――。
「砂時計の砂が落ちきる時が、持ち主の寿命……」
呟かれた言葉に、無表情のまま少女はひとつ頷く。
「はい。その通りで御座います」

暫く、三人は動きを止めていた。
草間は砂時計を見つめ続け、フェイトはそんな草間と無表情のままの少女を交互に見やり。
少女は、草間を只管に見ていた。
「俺の自由にしていいんだな?」
「はい」
「草間さん、どうするつもりですか?」
溜息交じりに告げる草間へと問いかければ、草間は空いた手で頭を掻いたまま。
「こうすんだよ」
無造作に。まるで、吸い終わった煙草を捨てるかの様に。

初めて少女の目が、驚愕に見開かれる。
止める間もなく、草間の手を離れた砂時計はそのまま落下し。
―――ガシャン。



「寿命が分かるだか何だか知らねぇが。俺の寿命は俺が決める。砂時計なんぞに決められてたまるか」
「草間さんらしいというかなんというか」
吐き捨てる様に言った草間へと笑いかけつつ、フェイトはそっと立ち尽くす少女の肩へと手を置いた。
「ごめん。びっくりしたよね。でも、これが『草間・武彦』さんだから」
草間から視線を外し、粉々に砕けた砂時計をじっと見つめる少女は。
のろのろと口を開いた。
「申し訳御座いません。理解が出来ません」
何処か悲しそうな声音で紡がれる言葉に、フェイトはそっと微笑みながら話しかける。
「そっか。それじゃあ、こういうのはどうかな。君はこれから草間さんと一緒に過ごしてみるんだ。一緒にいれば、草間さんがどうして砂時計を壊したのか、分かるかもしれないよ?」
「一緒に……」
「おいフェイト」
「いいじゃないですか草間さん。この子が普通の子じゃないって、最初から気づいていたでしょう?」
「いや、そういう問題じゃ」
「じゃあ、こうしましょう。これは俺からの依頼です。草間さん、暫くこの子の面倒を見てあげて下さい」
勿論報酬もお支払いしますよ。と。草間の逃げ道を少しずつ削っていく。
万年『怪奇』と友人状態の草間の事務所だ。今更もう一つ『怪奇』が増えた所で構わないだろう。
それに、長年の付き合いだ。フェイトはちゃんと知っている。
草間・武彦という男は、口ではああだこうだ言うけれど意外と面倒見がいい、という事を。
大きなため息を一つ。口を開いた草間が答を返そうとした、その瞬間。
フェイトの持つ通信機に、緊急招集連絡が入った。
「あぁ、すみません。俺行かないと」
「ちょっと待てフェイト!」
「それじゃ、待たね?草間さんは『いい人』だから、きっと大丈夫だよ」
「畏まりました」
「フェイト!」
「それじゃあ草間さん。依頼、よろしくお願いしますね」
笑いながら事務所を出れば、中から草間の声が響き渡った。

(ま、なんだかんだ言っても草間さんの事だし。大丈夫だろう)
事務所の入ったビルを見上げつつ、フェイトは思う。
そう遠くない未来、草間の事務所には正式にもう一人居候が増えるだろう。
波打つ銀の髪、紅玉と水銀の瞳。
ゴシックドレスを身に纏い、不思議な砂時計を管理する小さな少女。
「頑張って、草間さん」
笑う自分のズボンのポケットで、小さな破片が音を立てた事を。
フェイトはまだ、知らない。



END

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【8636/フェイト/男/22歳/IO2エージェント】
【公式NPC/草間・武彦/男/30歳/草間興信所所長・探偵】
【NPC4579/遥瑠歌/女/10歳(外見年齢)/創砂深歌者】      


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■         ライター通信          ■
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大変お待たせ致しました。
草間と遥瑠歌(まだこのお話では名前がついてはいませんが)とフェイト様の3名で出会い編。をお届けいたします。
気心の知れた草間とフェイト様であれば、きっとこういう流れで少女を受け入れたのではないかな。と思っております。
ポケットの中には、少女がそっと忍ばせた何かが。
ご発注誠に有難う御座いました。