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■東京怪談本番直前(仮)■

深海残月
【7348】【石神・アリス】【学生(裏社会の商人)】
 ある日の草間興信所。
「…で、何だって?」
 何故かエビフライを箸で抓んだまま、憮然とした顔で訊き返す興信所の主。
「どうやら今回は…ノベルの趣向が違うそうなんですよ」
 こちらも何故かエビフライを一本片付けた後、辛めのジンジャーエールを平然と飲みつつ、御言。
「…どういう事だ?」
「ここにたむろっている事に、いつもにも増して理由が無いって事になるわね」
 言い聞かせるように、こちらも何故かエビフライにタルタルソースを付けながら、エル。
「…怪奇事件をわざわざ持ってくる訳じゃなけりゃ何でも良いさ…」
 箸でエビフライを抓んだそのままで、思わず遠い目になる興信所の主。
「そう仰られましても、今回は…『皆さんから事件をわざわざ持って来て頂く』、事が前提にされているようなんですけれど…」
 ざらざらざら、と新たなエビフライを皿の上に大量に足しながら、瑪瑙。
「…」
「…」
「…まだあるのか」
 エビフライ。
「誰がこんな事したんでしょうかねぇ…」
 じーっとエビフライ山盛りの皿を見つつ、空五倍子。
「美味しいから俺は良いけどねー☆」
 嬉々としてエビフライをぱくつく湖藍灰。
「…いっそお前さんが全部食うか?」
 嬉しそうな湖藍灰を横目に、呆れたように、誠名。
「…嫌がらせにしても程がある…くうっ」
 嘆きつつも漸く、抓んでいたエビフライを頬張る興信所の主。
「あの、まだ軽くその倍はあるんですけど…」
 恐る恐る口を挟んで来る興信所の主の妹、零。
 それを聞き興信所の主は非常ーに嫌そうな顔をした。
「…誰がこんなに食うんだ誰が」
「誰かの悪戯だ、って話だったか?」
 タルタルソースの入った小皿と箸を片手に、立ったままビールを飲みつつ、凋叶棕。
「そうだ。しかも出前先の店曰くキャンセル不可で、だがそういう事情があるならと…折衷案として食べ切れたなら御代は無料で良いと来た…何がどうしてそんな折衷案になるのか果てしなく謎なんだが」
 そして草間興信所には金が無い。
 客人もなるべくならば払いたくは無い。
 故に、そこに居る皆総掛かりで…何となく食べて片付けている。
 客人も合わせるなら、別に金銭的には何も切羽詰まっている訳では無いが…。
「ところで『事件を持って来て頂く事が前提』ってのはなんだ?」
 誰にとも無く問う興信所の主。
「誰かから御指名があったら、ボクたちここから出て行かなきゃならないんだよね」
 答えるように丁香紫。
「…逃げる訳か」
「そんなつもりは無いが…。そうやって『我々の中の誰か』を指名した誰かの希望に沿う形にノベルを作るのが今回のシナリオと言う事らしい…まぁ、制約緩めなPCシチュエーションノベルのようなものだと言う話だが…それが今回の背後の指定だ…」
 頭が痛そうに、エビフライの載った小皿を持ったまま、キリエ。
 その話を聞いて、更に憮然とする興信所の主。
「………………だったらせめてそれまでは意地でも付き合わせるぞ」
「わかってますって。でもこれ…ひとつひとつを言うなら結構美味しいじゃないですか。たくさんあるとさすがにひとりでは勘弁ですけど、幸運な事に今は人もたくさん居ますし。きっとその内片付きますよ」
 興信所の主を宥めるように、水原。
「ところでいったい誰がこんな悪戯したんでしょーね…」
 エビの尻尾を小皿に置きつつ、ぽつりと呟くイオ。
「それさえわかればお前ら引き摺り込まずともそいつに押し付けられるがな…」
 この大量のエビフライとその御勘定の両方が。
 興信所の主は再び嘆息する。
「まぁ、どちらにしろ…誰か来るまでは誰も逃がさんぞ…」
→『何よりあなたの作品は』

 今、石神アリスが居るのは神聖都学園の自分の教室。学友たちの噂話を聞いている。直接話を振られる事もある――その場合は、見た目通りの学生らしく無難に受け答える。
 アリスが今こうしているのは、必要な情報収集の為、になる。

 何の情報収集かと言えば、近頃、アリスの領域内で起きている不快な事件についての事。それは――アリスが部長を務める美術部の部員一人が行方不明になり、後にその行方不明者とそっくりな、まるで行方不明者当人が石化したかの如き精緻な石像が発見された…と言う事件が一件目。二件目は、顔見知りの下級生の女の子が…以下同文。
 文字の上で『コト』だけを見るならばアリス自身がやりそうな事と思われるかもしれないが――これは、決定的に違う。…一緒にされてしまっては困る。

 …既に、学校内でも事件の事が噂になりつつある。
 アリスは興味があるとも無いとも判然としない微妙な距離感を取りつつ、それらの噂話を情報としてそれとなく聞き集めておく。精査については後回し。学友の輪から離れた後に、携帯でも使って裏の伝手で裏付けを取ればすぐに済む話。
 今は、関わりがありそうな話は片っ端から収集して頭に入れておく段階。…事が『石化』と関わるとなれば、どんな噂話の中に真実が紛れ込んでいるかもわからない。

 そう、『石化』、である。
 行方不明者が出、後にその行方不明者そっくりの精緻な石像「だけ」が発見されたとすれば、もう『それ』しかないだろう。…石像の方を目撃した者ならもう感覚的にそう確信している筈だ。けれど、頭では信じられない――社会的、一般的には人間が石化するなどと言う現象は認められないだろうから。あくまで神話・伝承・物語の中の話。
 …が、アリスは『それ』が実際にある事を知っている。
 知っているどころか、己自身が『それ』をする事が可能な『魔眼』を持っている。

 そしてアリス自身も、この石化能力を用いての『芸術活動』を密かに行ってもいる。『芸術活動』――気に入った可愛い子を、石化させて自分の『コレクション』に加える事。また、アリス自身の素性を――裏の貌を探ろうとした者や邪魔をした者を処分する為に已む無く石化能力を使用する、と言った場合もある。主たる目的はあくまで前者。後者はモノ自体が目的と言うより、単純に必要不可欠な行動を取っているだけ。でも、そちらの場合でも『作品』として仕上げる際に手を抜いた事は無い。…出来の悪いモノは高価く売れない。

 放課後まで情報収集に努め、下校の時間――HRで行方不明事件についての役に立ちそうもない注意を教師から聞いて後、普通に荷物を纏め、いつも通りに帰途に就く。
 その、筈だったのだが。
 意外な顔が校門に寄り掛かって人待ち風に佇んでいるのに気が付いた。確か、速水凛。タンクトップにホットパンツの上に、サイズが大きめのレインパーカーを羽織った少女。
 佇んでいるそれだけでオーラが派手なのも記憶通り。何処か野生の猫科の獣めいた――それでいて滴るような闇を孕んでいる印象。総じて目立って当たり前の人物――でもあるのだが、巨大な複合学園である神聖都学園の校門付近、と言う場所柄、意外と誰にも気にされている節は無い。…この程度の「奇抜な人物」ならば学校関係者の中にも意外と多く居る。凛も凛でその辺の事をわかっていて、何の擬装もせずただ佇むなんて無防備にも見える真似をしているのかもしれない。

「お。やっと出て来たか」
「…何をしてらっしゃるんです?」
 虚無の方がこんなところで。
「…つーかお前、なんか全然違ぇのな」

 以前アトラスで会った時と、と言う事だろう。
 …否定はしない。

「それは。学校で『魔眼』を使うような真似はしませんよ」
 まぁ、必要と認めれば学校だろうといつでも使うが。
「そうかい。『アンタの仕業』って線もあるかと思ったんだが」
 今回の件。
「…。…一緒にしないで頂けますか」

 思ったよりも低い声が出た。
 その時点で、凛も察したらしい。誤魔化すみたいに軽く肩を竦めている。

「おーこわ。つぅとアンタは『この件』、不快に思ってるって方か」
「虚無が乗り出して来るような案件なのですか」
 この石化事件は。
「俺ァ『掃除』に来ただけでね」
「あなたが『掃除』を担当するような筋のお話しで?」
 凛さん。
「どうだかな」
「少なくとも、この『犯人』に味方するつもりはないようだとお見受けしますが」
「だったらどうする」
「…協力、しませんか」



 アリスと凛は取り敢えず落ち着ける場所――場所を選べばある程度人目を避けられる、近くの公園へと移動する。そこで、協力態勢を取る為に互いの持つ情報を照らし合わせる事をした。
 元々、アリスだけではなく凛の方でも「同じ件」でここまで出張って来ていたらしい――それも腹立たしい事に今回の「この件」、アリスの仕業と言う線もあるかと思ったなどと戯言を言われたのは心外だった。少々憤りを覚えもしたが――彼女を前にした場合、実のところそれより収集欲の方が先に来ている。…隙あらばこの彼女も『コレクション』に、とは初対面の頃から思ってはいたのだ。今回わざわざ協力態勢を申し出たのは、その辺りの思惑も兼ねている。

「…昔、凛さんのお父様に懐いていた方、ですか」
 今回の石化事件の、凛サイドが付けている犯人の目星。
「ああ、その疑いがあるって話がウチの――虚無の方で出てな? んで、もし本当にそいつだとするとちぃっと厄介な奴だったんで、組織に妙な火の粉が掛からない内に始末しとけって俺が引っ張り出されたんだが…そいつじゃねぇといいなぁ、と思ってさっきアンタにも訊いてみたってところでよ」
 でもその反応だと確実にアンタじゃねぇ。
「当然です。わたくしも大変迷惑しています。折角静かに暮らしているのに、IO2のような輩に目を付けられては鬱陶しいですから」
 ですので、彼らが乗り出して来る前に、片付けてしまいたいのですが。
「…へぇ。面白ぇなアンタ」
 虚無とIO2天秤に掛けて虚無を取るかよ。
「虚無を取った訳ではありません。今目の前に居る凛さん個人が信用出来る方だと思っただけですよ」
「…俺がか?」
「少なくとも、エヴァさんの件で以前お会いした時からして「話がわからない方ではない」とは信用しています」
「そうかい。ま、アンタがそう言うなら「そういう事」にしとこうか」
「そうして下さい」

 では、次はわたくしの方で得た情報を。



 …と、アリスが現時点で自分の得ている情報を伝えようとした時点で。
 アリスはふと、何処からか自分を見ている視線に気が付いた――アリスだけではなく凛の方でも気が付いているようだった。…この視線の主の目的は、何か。アリスと凛とどちらかが目的か。両方か、それ以外の何かか。

「…早速お出まし、と言う可能性もありますね」
「っつってもここでそんな御都合主義な展開になるモンかよ?」
「ええ。…この公園、『件の二人』が最後に目撃された場所…のすぐ近くで、意外と人目が避け易い場所でもあるんですよ」
 だから今、あなたと話すのにここを選んだのですが。…この場所、すぐ近くに防犯カメラもある場所なんですが、その割に死角も多いので意外と盲点なんです。
「…。…おいおい。狙ってたンかよ」
「二件ともわたくしのすぐ側の人間が餌食になっていますから。そもそもわたくしが狙いと言う可能性もあるかと思ったので」
 ちょうど凛さんの手も借りられるとなれば、片付けるのは早い方がいいでしょう。
「ッハ。抜かり無いねぇ。んじゃ、どうする?」
「…そうですね」

 まずは視線の主の思惑を確かめるのが先。取り敢えずは凛がごく自然にアリスと別れてこの場を離れ、視線がここに残るか凛の方に付いて行くかどちらになるかを確認――どうやら、残った。となると初めの推測が正しい可能性が増す――次は、あくまでただのカモであるかのように無防備――に見えるよう振舞い、囮を務める――さて、一人でここに残って自然な行動となると。…アリスは少し携帯を弄ってからすぐに仕舞い、傍目では何かの用件が済んだと思わせて――そのまま、移動しようと歩き始める。
 そこに。
 ねぇ、と声を掛けられた。甘やかな声。貴方よ、貴方、と重ねられ、アリスは漸く気が付いたとでも言いたげに、その内実では細心の注意を払って振り返る――その時点で、クスリと笑う女性の姿に迎えられた。
「何でしょう」
「貴方が石神アリスさんで間違いないかしら」
「…? あなたは?」
「間違いないのね。だったら良かったわ――やっと見付けた。やっと、素敵なものにしてあげられる!」
 何処か狂気を孕んだ嬉しそうな声音。アリスに向かって伸ばされる指先――そこに、ザザッと蛾の群れ――否、邪妖精の群れが二人の間を遮るようにして飛んで来る。きゃっ、何ッ! と取り乱す甘い声も聞こえるが、アリスの方では想定内の事。…この邪妖精の動きは凛の仕業。アリスは現れた女性にではなくそちらに――幾分下がった場所へと身を隠していた凛に声を掛ける。
「どうやら『大当たり』だったようですよ」
「…だな。まさかそこまで迂闊な奴だったとは。こうなりゃ俺の協力別に要らなかったんじゃねぇの?」
「いえ。念には念を入れてと言いますから」
 今の邪妖精のタイミングも有難かったですし。
 堂々と言いつつ、アリスは女性へと冷ややかな目を向ける。
「…さて。あなたはわたくしに何をなさるつもりだったのでしょうか」
「くっ…嵌めたのね…」
「不審な方に目を付けられていると思えば警戒して当然でしょう。何故わたくしの名を御存知なのです?」
「ダリア様から聞いたのよ」
 私からの初めてのプレゼントを受け取って下さった時に。まるで石神アリスみたいな事をする、って。
「…。…誰ですって?」
 今、何やらとてつもなく予想外な名が出なかったか。
「綺麗な綺麗なダリア様の事? ふふ、嫉妬なんてされても困るのよ。だから私はあの方の為に、貴方で素敵な作品を作らなくちゃならないの!」
 二度言われたら聞き間違いは無いだろう。にしても何故ここでダリアの名が出てくるのか。反射的に困惑する――ついでに言うなら要するに…この女性曰く、ダリアはあの出来の悪い作品をプレゼントとして受け取っていると?
 悪趣味な。

 素で思った時点で――まるでそれに答えるようなタイミングで、いいかげんにしてくれませんか、とまた別の声がした。
 ダリア。
 やけに疲れたような溜息混じりのボーイソプラノ。何処から聞こえたかと思えば――いつの間にそこに居たのか、氷のような黒衣の美童が何やら公園の街灯の上に無造作に腰掛けている。
 お、と凛の方でも声を上げていた。
「何かどっかで見た顔が」
「…。…何でこんな場面で『先輩』までいらっしゃるんでしょう? 速水凛さん。ただでさえ面倒な状況だと言うのに」
「…『先輩』?」
 そこを思わず耳に留め、アリスはダリアから『先輩』と言われた当の相手――凛を問うように見る。と、昔俺を指してた呼称の一つが今こいつ指してるらしいって聞いた事ある、とあっさり言われた。まぁそれだけの事なんですが、とダリアの方からもあっさり続けられ――それからすぐに街灯から飛び降りて来、危なげなく当たり前のように着地。ダリア様! と女性の方から歓喜の声が上がる――当のダリアの方は何やら溜息を吐いていた。
 が、女性の方はその溜息をそもそも意に介さない。
「来て下さったんですねダリア様! ちょうど今石神アリスでダリア様へ差し上げる為の作品を作るところだったんです! もう少し待っていて下さいね?」
「…そうですか」
「はい!」
 にこにこと嬉しそうに語る女性は、ダリアの姿を認めた時点で再び勢い付く。…が、ダリアの様子はそうでもない――むしろ対照的で、何やら投げやりと言うかおざなりと言うか、そんな気配がある。そして女性はそんなダリアのやる気の無い様子をやっぱり意に介していない。…何だか妙な具合である。
「これで貴方の有利は無くなったわ!」
 大人しくダリア様の為の作品になりなさいっ! 意気揚々と叫びつつ女性は再びアリスを捕まえようとでも言うのか指を伸ばして来る――アリスはその指先に何らかの石化を行う力があると判断。すかさずたたっと後退り女性から離れる――同時にまた、数体の邪妖精が小さな竜巻のように割って入って女性の動きの邪魔をする。
 また、ダリアの溜息が聞こえた。
「…これで幾らかやり易くなりますか?」
 言葉と同時に、ぱんっと破裂するような音がしたかと思うと、割って入って来た邪妖精――だったものがあっさりと四散する。…ち、と軽い舌打ちが凛の方から。直後、四散した邪妖精と入れ替わるようにして、何処からともなく大量の邪妖精が一気に現れた。更にはまるで巨大な蚊柱の如きモノを作り出す――確実に、人目を引く仕業。それは、遠目にだけではなく――間近に居た者も同じで。
 アリスを狙った女性は勿論――対話同然に人の心を読んで来るようなダリアでさえも邪妖精の群れで出来た柱に軽く驚いている。…この動きは読めなかったのか。
 今この場で邪妖精が動くならまず凛の仕業――否、凛はそもそも邪妖精を「召喚して使役している訳ではない」。全部が全部、邪妖精の自発的な行動。邪妖精の方で、凛の意思を読んで望みを叶えようと動きたがる。凛の舌打ち一つを聞いただけで、次に取るべき行動を勝手に模索する。…だからこそダリアも咄嗟に気が付かなかったのかもしれない。ダリアが凛の心を読んでいたとしても、その時まだその場に居さえしなかった邪妖精の心など、読む必要も感じなかっただろうから。
 ただ、そんな中でもアリスだけは素直に驚くより優先していた事があった。…『魔眼』の発動。ただ静かに、自分を狙った女性をじっと見つめている――そうする事で無防備な相手の視線を、呼ぶ。蚊柱めいた邪妖精の柱に気を取られていた女性の視線が、アリスの視線に気付いてか――僅かに絡む。

 それだけで、全てが終わった。

 視線が僅か絡んだ時点で、もう相手の意識は捕らえている。こうなればどうとでもなる――思い知らせる為に、意識だけは残しておこうと思う。思う間にも、ぴしりぱしりと女性の身体が硬化し始める音が響く。皮膚の、髪の、服の色合いが変わり始める。え、あ、と事態に気付いて喘ぐ女性の姿――その姿を憐れむと同時に見下すように見続け、茶番はここまでです。とアリスは宣言。
 既に殆ど石と化したその姿に、冷ややかな声で語り掛ける。

「もう必要も無いでしょうが、あなたに言っておきたい事があります。あなたの行動は、そもそも軽率極まりない上に迷惑なんですよ。ですので、あなたに出しゃばられるとわたくしの仕事がやり辛くなりますし…何よりあなたの『作品』は芸術家としてのわたくしから見たら全然美しくありません」

 そこまでを言い切り、新しく出来上がった『石像』から興味を失ったように視線を外す――ダリアを見る。以前、『魔眼』が効かなかった過去のある相手。緊張を覚えるが――今この場面では、無視する訳にも行かない。
 ただ、何故か今の時点では、ダリアは殆ど手を出して来てはいないのだが。

「あなたは、まだ続けますか」
 ダリアさん。
「…いえ。むしろ助かりました。お礼を言いたいくらいですよ。石神アリスさん」
「? …どういう事です」
「色々と話が通じない方で対処に困っていましてね」
 この女性。
 ただ、どれ程邪険に扱おうと関係無く懐いてくるもので。ここまで無条件に裏表無く懐かれてしまうと、どうも殺して処分する気にもなれなかったんですよ。
 ですから、やりたいようにやらせてあげていただけなんですが。
「…」
 アリスは思わず、無言のままで凛と顔を見合わせる。蚊柱状になっていた邪妖精を撤収させていた凛は、ダリアの言い分に処置無しとばかりに肩を竦めている。…何やらアリスとしては頭痛がして来た気すらする。
「まぁ、そんな訳なので僕は失礼しますね。その彼女の事は、貴方のやり方で、お好きなように」
 それだけを言い残すと、何やら晴れ晴れとした様子でダリアはあっさりと身を翻し、姿を消してしまう。その様子を思わず見送ってしまってから、アリスは思わず溜息。

 いったい、何だったのやら。

 と、そんな疑問が当然のように湧きはするが――今はそんな呑気な事もしていられない。正直、想定より派手にやってしまったので、すぐに証拠を消して撤収する必要がある。
 特に目の前の、この『石像』については人目に付かない内に運ばないと。下校前、噂の裏付けを取るついでに、念の為近くに待機させていた裏の運送業者へとすぐさま連絡を取る。…わたくしの『コレクション』に加えるまでも無い『作品』。直行でオークションに掛ける方向でいいだろう。…ああ、それでも作品として造形を少し調整する必要はあるか。

 まったく、余計な手間を掛けさせてくれる。
 …せめてそれなりの金銭になってくれないと、割に合わない。

××××××××
 登場人物紹介
××××××××

■PC
 ■7348/石神・アリス(いしがみ・-)
 女/15歳/学生(裏社会の商人)

■指定NPC
 ■速水・凛
 ■ダリア

 ■石化事件の犯人

(他、名前のみ)
 □エヴァ・ペルマネント

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 ライター通信改めNPCより
××××××××××××××

 …出された名が複数だったので座談会方式で。

凛「やー、まさか俺がアリス姐さんのお眼鏡に適ってるたァ思いもしなかったっつーか…取り敢えず今回は御指名ありがとよ。ライターも「今回は発注有難う御座いました。大変お待たせしました」って言ってたな」
ダリア「それから、今回の発注自体も、僕と速水凛さんが指定される事も全く想像もしてなかったとかで、非常に驚いたらしいですよ」

ダリア「…内容についての話に移りましょうか」
凛「そだな。で…まず俺に事件解決の協力って話だったが…ぶっちゃけアリス姐さんの方から話持ち掛けられただけだと俺無視しそうな気がしたんで、元々同じ事件追っ掛けてた…って風になったんだよな。そうでもないと協力が成立しなさそうな気がしたとかで」
ダリア「僕についても…正直こういった芸術には全く興味が(苦笑)」
凛「お前ってラスボス気質だけど黒幕気質無ぇもんな。背後で糸引くより自分で前に出て全部ぶち壊すだろ」
ダリア「なので、今回は懐いて来た犯人をどうも突き放せなくて渋々付き合ってた、と言う形になっていますね」
凛「開けっぴろげに懐いてくるようなのにゃ意外と弱そうだからな、こいつ」
ダリア「非常に不本意ですが。『なぜか』部分はそういう事になりました」
凛「アリス姐さんの石像に関する美学については…俺じゃ何とも言えねーんでさておき。あんまりまともに戦ってもいねぇのは気になってるな。俺結局何もしてねぇし。あくまでやったのァ邪妖精だからよ」
ダリア「あれはこの場合、貴方がした事と見做していいと思いますよ。…そういえば石神アリスさんの『裏の貌』の加減についてですが、いまいち掴み切れていない気がするともライターが言っていましたね」
凛「ああ、今回の場合俺は『裏』を知ってる…っつーか明かしていい事になるのかどうかちょっと考え込んだらしいしな。まぁ結果としてノベルはこんな加減になったんだが…どうだったんだろうな。ライターからの伝言としちゃ、『ご期待に添えているか微妙な気もしないでもないですが、如何だったでしょうか。少なくとも対価分は満足して頂ければ幸いです。またの機会が頂けるようでしたらその時は』って事らしいが…まぁ、また縁があったら、って事でな。文字数も厳しくなって来たし、この辺りにしとくわ」
ダリア「ええ。御縁がありましたら、またいずれ」

 …幕。