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■あおぞら日記帳■ |
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紺藤 碧 |
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【2919】【アレスディア・ヴォルフリート】【ルーンアームナイト】 |
外から見るならば唯の2階建ての民家と変わりない下宿「あおぞら荘」。
だが、カーバンクルの叡智がつめられたこの建物は、見た目と比べてありえないほどの質量を内包している。
下宿として開放しているのは、ほぼ全ての階と言ってもいいだろう。
しかし、上にも横にも制限はないといっても数字が増えれば入り口からは遠くなる。
10階を選べば10階まで階段を昇らねばならないし、1から始まる号室の100なんて選んでしまったら、長い廊下をひたすら歩くことになる。
玄関を入った瞬間から次元が違うのだから、外見の小ささに騙されて下手なことを口にすると、本当にそうなりかねない。
例えば、100階の200号室……とか。
多分、扉を繋げてほしいと頼めば繋げてくれるけれど、玄関に戻ってくるときは自分の足だ。
下宿と銘うっているだけあって、食堂には朝と夜の食事が用意してある。
さぁ、聖都エルザードに着いたばかりや宿屋暮らしの冒険者諸君。
あなただけの部屋を手に入れてみませんか？
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旅立ちの日
アレスディア・ヴォルフリートはあおぞら荘の自室をゆっくりと見回す。
もともと大した荷物のない部屋ではあるが、何時も以上に丁寧に掃除をして、備え付けの家具などの整理を行う。
そして、1回、ゆっくりと深呼吸をすると、突撃槍の柄を握り締め部屋から出る。
今では見慣れた廊下を通りホールへと出れば、何時ものようにルツーセがテーブルを拭いていた。
「ルツーセ殿、折り入って話がある」
そう言えば、この前もそう言ったな。などとボンヤリ思う。
「どうしたの？」
テーブルを拭く手を止めて、アレスディアの前までかけてきたルツーセは小首を傾げて彼女を見上げる。
「実は少し旅に出ようと思っているのだ」
一瞬驚くように目を丸くしたルツーセだったが、すぐさま瞳を伏せ薄らと笑う。
「そっか……。寂しくなるね」
「うむ……ここで暮らし始めて何年になるか……」
「何年だろう？ 全然考えた事無かったな」
うーんと、考える仕草を見せるルツーセを微笑ましく見る。それほどに、きっと何年もここに居るのだと実感できた。
「あ、何処へ行くか予定はあるの？」
「久方ぶりに、里帰りをしようと思っている」
「アレスディアさんの故郷かぁ……」
そういえば、そういった自分のことをしっかりと話した事はあっただろうか。アレスディアは、そんな事をふと考える。
「此処から遠いの？」
「うむ……」
アレスディアはその問いかけに一呼吸置いて、改めて話し始める。
「私の故郷は遠い辺境故、道のりだけでも時間がかかるのだ」
ホールの窓から懐かしい風景を思い返すように空を見やり、そのままゆっくりと言葉を続ける。
「それに世界は広い。そのまましばし、旅から旅へ渡り歩くやもしれぬ」
「旅かぁ。あたしもいつかは旅とかしてみたいな」
今は大家が楽しいけど！ と、にっと笑ったルツーセの顔に、思わず笑みが零れる。
「部屋は、維持が大変なら処分いただいても構わぬ。だが、帰る場所として残していただけるのなら、お願いする」
「勿論残しとくよ！ 何時でも帰ってきていいからね？」
「ありがとう」
そう言ったアレスディアが直ぐにでも出て行ってしまいそうで、ルツーセは軽い足取りで駆け寄ると、徐に外套を詰まんで問いかけた。
「直ぐに出る？」
「うむ。部屋は片付けてきた故、今日にでも」
アレスディアの言葉に、ルツーセは再度「そっか……」と小さく呟いて、寂しそうに眉根を寄せた笑顔で顔を上げる。
「お弁当、用意させて貰ってもいいかな？」
それくらいの時間はある？ と、問われ、アレスディアは頷くと、ルツーセはキッチンの方へとかけて行った。
そういえば、ルミナスの料理が壊滅的だという事は知っていたが、いつも料理はそれなりに食べられるものが出ていた。思い返してみても、ルツーセを始めとした他のメンバーが料理をしている姿を見た覚えもない。
はてさて、彼らはどうやって料理をしているのか。
そんな事を今更ながら考えていると、ルツーセはキッチンの中でくるくると指を動かして、何かしら指示を出しているだけ。
知りもしない小人でも居るのかと思いチラリと中を覗きこんでみれば、調理器具が勝手に動き、食材さえも勝手に動いてルツーセが一切触ることなく調理が進んで行っていた。
「ちょっと待っててね」
ルツーセは自動で調理しているキッチンをそのままに、アレスディアに一言そう告げて、何故だかあおぞら荘の中へと駆けて行ってしまう。
何か問題でもあったのだろうか？
アレスディアは待つ間、ホールの椅子に腰を下ろし、ルツーセが戻ってくるのを待つ。
程なくしてパタパタと戻ってきたルツーセは、そのまま急いでキッチンへと吸い込まれるように戻って行く。
「アレス」
それを視線で追いかけていると、後ろから名を呼ばれ、アレスディアは振り返った。
「コール殿」
「暫く旅に出ると聞いてね」
コールは微笑んでアレスディアの側まで歩み寄る。
「ルツーセ殿から、お聞きになられたか……」
「見送りくらいは、させてもらいたいと思ってね」
その言葉にコールは頷き、チラリとキッチンの方向を一瞥する。
「出来たよ〜！」
丁度両手で持てる程度の大きさの弁当箱を持ったルツーセが、こちらへ駆けてくる。弁当箱を包んでいる黄色バンダナは、どこか見覚えがあるような？
どうぞ。と、アレスディアの前に差し出された弁当を、もう一度よく見る。
そうだ、このバンダナはコールが最初に着けていた―――
「コール殿の――……」
弁当をそっと受け取り、アレスディアはコールを見る。
何かを言わなければと唇を開きかけたが、コールの穏やかで優しい微笑みに、そのまま閉じる。そして、一度の瞬きの後、ルツーセに振り返った。
「ありがとう」
「どういたしまして」
頷いたルツーセの笑顔もまた、優しいもので、ついこれまでの日々を思い返してしまいそうになる。
「弁当箱は燃やせるものだから、途中で捨てて大丈夫だからね」
「承知した。心遣い痛み入る」
捨てられない弁当箱では、道中洗う事もままならない状況に陥った時、衛生上心配だ。要するに、野営するような状況になった際、薪代わりにでも使って欲しい。そういう意味合いも込められているのだろう。
「今まで、大変世話になった」
アレスディアは深々と頭を下げる。
「また帰ってくるんでしょう？」
「……そうだな」
それが何時になるかは、自分でも分からないけれど、彼らは待っていてくれる。それだけは変わらない真実なのだろう。
あおぞら荘の入り口まで見送られ、深呼吸一つ置いて気持ちを切り替え振り返る。
「それでは、行ってきます」
「いってらっしゃい！」
「ああ、いってらっしゃい」
それぞれテンションの違う言葉で見送られ、アレスディアは笑顔で歩き出す。
振り返り、手を振ろうかと思ったが、それは何だか未練のようで。
アレスディアはゆっくりと一度瞬きし、顎を引き、前を見据えて歩き出した。
fin.
☆―――登場人物（この物語に登場した人物の一覧）―――☆
【2919】
アレスディア・ヴォルフリート（18歳・女性）
ルーンアームナイト
☆――――――――――ライター通信――――――――――☆
あおぞら荘にご参加ありがとうございます。ライターの紺藤 碧です。
足掛け何年になるか分かりませんが、ブランクの期間を含めましても長い間コール達や当方の世界観にお付き合いくださりありがとうございました。情報の小出しなど、分かりにくい部分もあったかと思いますが、それでも関わってくださって本当に嬉しかったです。
真直ぐに護る姿勢を貫いていただいたことで、そのぶれなさに、彼らもまた何かしら変わっていけたのではないかと思います。
また別の機会、別の世界で会う事がありましたら、宜しくお願いします。
さよならではなく、またどこかで！
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