■エルザード祭〜旅籠屋―幻―の出張屋台!?■
暁ゆか
【2948】【ジェイドック・ハーヴェイ】【賞金稼ぎ】
 うららかな青空の下、王女はペティ、ルディと共に天使の広場をカラフルなリボンや旗、風船などで飾り付けていた。
 装飾用の道具担当のシェリルがテキパキと指示を出し、周囲の微妙な空気に気づかないままレーヴェは聖獣王と王女から頼まれた高所の飾り付けを粛々とこなしている。
 広場の一番外回りには、エスメラルダの監修の屋台がいくつもおいしそうな匂いをさせる。
 カレンのハープの音に吟遊詩人達も調律を始め、普段見かけないディアナの姿までもある。

 今日が特別なのだ。だが何が起こるのか。

 飾り付けの終わった広場に聖獣王の姿が見え場が静まり返る。
 舞台上から王の声が響く。
「聖獣王の名の元に、今日を国民の祝祭日とする。皆の者、今日は無礼講である。存分に楽しむが良い」

 それは王と王女のサプライズ。
 今、天使の広場を中心に、エルザード祭が幕を開けた。

***

 旅籠屋―幻(まほろば)―。
 それは、人通りで賑わう、大きな通りから、一歩踏み入った裏通りに佇む一軒の宿屋。
 いつもは裏通りにて、ひっそりと営業し、けれども知る人は知っていて、夜にもなれば賑わう食堂も兼ねた酒場を含む宿屋であるが……。

「いらっしゃいませー」
 天使の広場の片隅で、簡易調理場を携えたテントと、いくつかのテーブル、そして椅子を並べた一角があった。
 そこで、客引きの声を出しているのは、背中に鳥類の翼を一対生やした、一見少年とも見間違えそうなボーイッシュな恰好をした少女・如月誠だ。
「誠、これをそちらのテーブルのお客さんに……」
 奥の簡易調理場で、調理した料理を差し出しているのは、黒髪の女性・闇月夜。
 日頃、裏通りで旅籠屋―幻―を営む2人の女性は、祭りに託けて、広場の片隅でプチ食堂を開いていた。

 祭りの途中でお腹が空いたら。
 いろいろ見て回って、少し休憩がしたいなと思ったら。
 この屋台を訪れてみるのは、いかがだろうか――?
■ エルザード祭〜旅籠屋―幻―の出張屋台!? 〜ジェイドックの様子■

 祭りの準備が整い、開催宣言が告げられた聖都の広場。
 人々の楽しそうな声で賑わう中、辛気臭い顔で広場へとやって来た1人の男――ジェイドック・ハーヴェイが居た。
(せっかくの祭りの日だってのについてない……)
 賞金稼ぎであるジェイドックが、少しばかり遠出になったけれども、久しぶりに大物の賞金首を仕留めることが出来、気持ちも、懐具合もほくほくで、聖都へと帰還したのは、数刻前のこと。
 広場を中心に行われている祭りに繰り出す前に、シャワーで埃でも落として少し休憩してから繰り出そうと思いつつ、下宿に戻ったところ、入り口に1枚の張り紙が貼られていた。そこには、大家の都合で下宿をたたむ旨が書かれていたのだ。
(今日から宿無しか……ああ、くそ、美味しいものでも食わないとやってられん)
 遠出で疲れた身体を休める宿が欲しいところだが、すぐに次を探す気力など湧くワケもなく、長旅の荷物を手にしたまま、広場へと来たところであった。
「……ん?」
 美味いものをと食べ物の屋台が並ぶ一角に足を向けたところ、いい匂いが漂ってくる。
 一番端の方で、屋台だけでなく、テーブルや椅子など食べるスペースも設けている1軒の屋台が、その匂いの素であるようだった。
「いらっしゃいませー。お好きな席にどうぞー」
 簡易調理場である奥のテントと、周りに並べられたテーブルの間を行き来している店員――如月誠が、ジェイドックに気付き、声をかけてくる。
 適当に空いている席に座ったタイミングで、お冷を手に、誠がやって来た。
「何かオススメはあるか?」
「今日のオススメ、というか、メニューが1つしかなくて、お祭り限定定食なんだけど……それでも、良かったかな?」
 訊ね返す誠に、「じゃあ、それを頼む」と応えると、彼女は微笑んでから、簡易調理場であるテントの方へと戻っていった。
「夜ー。定食1つ、お願いねー」
 テントの中で、調理をしている女性――闇月夜が、頷いて応えている。
 ジェイドックは調理を開始する彼女の様子を少し見てから、その後、辺りを見回した。
 広場や大通りは、いつも賑わっているのは賑わっているのだが、祭りである今日は、いつもと違った賑わいを見せている。
 夢のような一日に、下宿先が畳まれたのも夢であるといいのだけれど……そういうワケにはいかない。
 どうしたものかと、視線を遠くに向けていたら、再び誠がやって来た。
「お待たせしました、お祭り限定定食だよっ」
 ジェイドックの前に、彼女がプレートを置いた。
 プレートの上には、プレートとほぼ同じサイズの大皿が乗り、その中に、ご飯とメインのから揚げ、グリーンサラダ、更にスープが入った小さなカップが盛り付けられている。
「メイン料理の、トリのから揚げは、特製のおろしダレ。それからグリーンサラダには夜お手製のドレッシングをかけさせてもらってるよ。どうぞ召し上がれ」
「おお、美味しそうだな。早速、いただくぜ」
 誠の説明を受けてから、ジェイドックは早速、から揚げを口に運んだ。
 衣はパリッと揚がっていて、中のトリ肉はジューシーな仕上がりになっている。
「美味いな!」
「良かったんだよ。……っと、他のお客さん来たので。ゆっくり味わってってね」
 接客に向かう誠を見送って、ジェイドックは一口、また一口と食べ進めていく。
 美味しいご飯に、落ち込んだ気持ちは晴れてくるものの、次の下宿先を決めないからには宿無しなことに変わりはない。
 それを思い出して、ジェイドックは頭を抱えた。
「お、おにーさん、どうしたのっ!? 何か口に合わないものでもあった!?」
 頭を抱えるジェイドックに気付いた誠が慌てて飛んできた。
「あ、いや。飯は美味いよ。ただ、頭の痛いことがあって、それを思い出してしまってな」
 定食に問題ないことを告げると、誠は「良かったぁ……」とホッとしている。
「その頭の痛いコトっていうのは……、訊いてもいいコト?」
「ああ」
 訊ねてくる誠に、ジェイドックは今日起こったことを話した。
「まあ、そんなワケで、美味しいもの食べたことだし、次の宿を探さなきゃなんねぇんだが……」
「……うちで良ければ、来てもらえば?」
 ジェイドックの話を聞いていたのだろう、テントの奥で調理をしていた夜が、ぽつりと呟く。
「ああ、それいいね、夜!」
 そして、その言葉に誠がポンッと1つ手を打った。
「うち、に……?」
 夜と誠、2人の間で納得されて、ジェイドックは不思議に思い、訊き返した。
「えっとね、僕と夜とで、旅籠屋やってるんだよ。ちょっと入り組んだところにあるから、なかなか人の入りは少ないんだけども、それこそ夜のゴハンを気に入ってくれた人が、長期宿泊に使ってくれてたりするんだよ。だから、貴方もどうかなーって」
「旅籠屋なのか! それに、こんな美味いご飯付きと来た! それは是非、こっちも下宿先として行かせてもらいたいな!」
 いい話を聞いたとジェイドックは、彼女らの話に乗ることにした。
「じゃあ、今日のお祭りの後で案内するから、また後でここに来てほしいんだよ」
「ああ、それじゃあ、もう少し祭りを楽しんでくるか」
 定食を食べ終えたジェイドックは、席を立つ。
 一時は宿無しの危機を迎えた彼であったが、この出会いを機に、ジェイドックは聖都での新しい生活を始めることが出来そうだ。
 広場に来た時とは真逆の、高揚感を胸に、彼は祭りの他の催しを楽しむために、踏み出していくのであった。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

PC
【 2948  / ジェイドック / 男性 / 25歳 / 賞金稼ぎ】

NPC
【闇月 夜 / 女性 / 23歳 / 女将】
【如月 誠 / 女性 / 18歳 / 用心棒】

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■         ライター通信          ■
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 先ずは、大変遅くなりまして、申し訳ありませんでした。
 そして、この度は、ご依頼ありがとうございます。

 物語は終幕を迎えましたが、ジェイドックさんの新たな生活の始まりに、旅籠屋―幻―が関わっていけることが嬉しいです。
 お祭りの一面も、楽しんでいただけましたら、幸いです。

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