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■闇の中の住人■

水貴透子
【8504】【松本・太一】【会社員/魔女】
また新しい宿主が現れた。

今度は誰だ?

どうせ『また』喰われるだろう。

でも錆びた剣まで入手している。

どちらにしろ、どうなるかは『彼女』次第だろう。

『彼女』の期待にこたえられぬ者ならば、消されるだけの事。

我らのように?

次々に増えていく仲間達を見るのは悪くはないけれど、な。

果たして『約束された日』までに『彼女』の期待にこたえられるだろうかね。

※※※

「これは‥‥」

突然フィールド上に現れたのは『闇の街』と表示された街。

ログイン・キーが輝いた次の瞬間に現れたのだ。

つまり、異変に関係する街なのだろう。

「ほぉ? 『彼女』がこの街まで導いたのか‥‥ふむ、どうやら我らよりは期待されているらしい」

街の中に入るとクックッと喉で笑いながら話しかけてくる老人の姿。

「そう構えずともよい。我らもお前と『同じ』だ。ログイン・キーを託され、彼女の期待にこたえられなかった者。それらで寄り添いあうようにして出来たのがこの街だ」

「異変の、被害者‥‥?」

「結果的に言えばそうだろう。しかし我らはこのネット以外での記憶は『彼女』によって消去されている。だからこの姿としての記憶しかない」

ついてくるがいい、老人にいざなわれるままに街の奥へと進み歩いていく。

「今度はあいつか‥‥」

「何故私が見捨てられ、あのようなやつが‥‥」

居心地の悪い視線と言葉に少し窮屈さを感じていると「気にする事はない」と老人が此方を見ずに言葉を投げかけてくる。

「皆、キミが羨ましいのさ。この街に存在する者の中で錆びた剣まで入手した者は多数存在する――だが、この街まで誘われたのはキミだけだからな」

だから、と老人は呟き突然首に手をかけてくる。

「だから、私も他の者同様にキミを羨ましいと感じる反面、憎くも思う――『彼女』の願いは既に私たちの手を離れているのだからな」

「彼女って‥‥」

「キミも会った事があるだろう。ログイン・キーを入手する時に。この街は『彼女』から願いを託され、そして『彼女』の願いを叶えられずに見捨てられた者たちの集まりだ」

さぁ、街に入るといい――彼女が示したのであればこの街でキミがすべき事が必ずあると言う事なのだろうから。




―― 闇の中の住人 ―

また新しい宿主が現れた。
今度は誰だ?
どうせ『また』喰われるだろう。
でも錆びた剣まで入手している。
どちらにしろ、どうなるかは『彼女』次第だろう。
『彼女』の期待にこたえられぬ者ならば、消されるだけの事。
我らのように?
次々に増えていく仲間達を見るのは悪くはないけれど、な。
果たして『約束された日』までに『彼女』の期待にこたえられるだろうかね。

※※※

「これは‥‥」
突然フィールド上に現れたのは『闇の街』と表示された街。
ログイン・キーが輝いた次の瞬間に現れたのだ。
つまり、異変に関係する街なのだろう。
「ほぉ? 『彼女』がこの街まで導いたのか‥‥ふむ、どうやら我らよりは期待されているらしい」
街の中に入るとクックッと喉で笑いながら話しかけてくる老人の姿。
「そう構えずともよい。我らもお前と『同じ』だ。ログイン・キーを託され、彼女の期待にこたえられなかった者。それらで寄り添いあうようにして出来たのがこの街だ」
「異変の、被害者‥‥?」
「結果的に言えばそうだろう。しかし我らはこのネット以外での記憶は『彼女』によって消去されている。だからこの姿としての記憶しかない」
ついてくるがいい、老人にいざなわれるままに街の奥へと進み歩いていく。
「今度はあいつか‥‥」
「何故私が見捨てられ、あのようなやつが‥‥」
居心地の悪い視線と言葉に少し窮屈さを感じていると「気にする事はない」と老人が此方を見ずに言葉を投げかけてくる。
「皆、キミが羨ましいのさ。この街に存在する者の中で錆びた剣まで入手した者は多数存在する――だが、この街まで誘われたのはキミだけだからな」
だから、と老人は呟き突然首に手をかけてくる。
「だから、私も他の者同様にキミを羨ましいと感じる反面、憎くも思う――『彼女』の願いは既に私たちの手を離れているのだからな」
「彼女って‥‥」
「キミも会った事があるだろう。ログイン・キーを入手する時に。この街は『彼女』から願いを託され、そして『彼女』の願いを叶えられずに見捨てられた者たちの集まりだ」

さぁ、街に入るといい――彼女が示したのであればこの街でキミがすべき事が必ずあると言う事なのだろうから。

※松本・太一の場合

「これを、鍛え直せばいいんでしょうか……」
 松本の手には与えられた『錆びた剣』があり、どうするべきかを考えていた。
(錆びた剣を鍛え直せば、私が失った『何か』を取り戻す方法につながるかもしれない)
 松本は『自分の中の男性』を失っており、これ以上自分の中の『何か』を失いたくないという気持ちでいっぱいだった。
 けれど、まだ『失う覚悟』については出来ておらず、本当に錆びた剣を鍛え直す方法を見つけてもいいのか、と不安になる部分もあった。
(……もう、私には時間が残されていないような気がする)
 謎のクエストに挑まずとも、今の松本は外見上ではどこからどう見ても女性でしかない。
 つまり、それだけ『女性化』しているということになり、最後の部分に堕ちるまで時間の問題でしかないような気がしているのだ。
(どちらにしても、この錆びた剣に一縷の望みを託すしかないんだ……)
 見えない相手への恐怖、それが松本の身体を震えさせていた。
「……ログイン・キーを渡してきた女性と、錆びた剣を渡してきた女性……」
 どちらかと言えば対立関係にあり、錆びた剣を渡してきた女性側からは特に嫌悪感露わだった。
(闇の街はログイン・キーを渡してきた女性側……)
 底なし沼のように謎が謎を呼び、まったく先が見えない恐怖に怯える日が増えている。
(闇の街では錆びた剣について聞かない方がいいのでしょうか……)
 実際の関係がどうかは分からないけれど、ログイン・キー側の人間なのだから、対立相手の持っていた物のことを聞いたら、自分の立場を悪くするだけのような気がした。
(とりあえず、臨機応変に行動した方がいいでしょうね)
 松本は手を強く握りしめながら、心の中で呟いた。
「どうした? さっきから何か考え込んでいるようだが?」
 闇の街の住人が、松本に言葉を投げかける。
「……このログイン・キーについてなのですけど、何かしりませんか? 私はこれがただのアイテムにはとても思えなくて……」
「ふ、ふふふふ、なかなか勘が鋭いようだの。確かにそれはただのアイテムではない」
 そう言いながら、老人は松本の持つ『ログイン・キー』へと手を伸ばす。

――バチンッ!

 だが、老人の手がログイン・キーに触れる寸前で激しい音が響く。
(……ログイン・キーが彼の手を拒否するように見えたのは、気のせいでしょうか?)
 老人は弾かれた手を見つめながら、忌々しそうに松本を見つめる。
「もう、わしはそれに触れることさえも適わぬのか。資格なき者が触れるなど、出来ぬのは当然だな……」
 穏やかなく口調ではあったが、松本に対しての棘を感じてしまい、松本は居心地悪さを覚えた。
「お主が悪いわけではない、彼女の期待に応えられなかったわしが悪いのじゃ。だが……彼女は資格を失った我らには情けを見せぬ、彼女に使われるだけの道具としてただここで過ごすことしか出来ぬのだよ」
 ぶるぶると手を震わせながら、老人は松本をジッと見つめた。
「ログイン・キーは彼女へ続く道しるべ、わしらはついに彼女の本体に目通りすることも適わなかった……いや、わしだけではなくこの街に住む者、全員がな」
「彼女の本体……?」
「誰も知らぬ遺跡の地下深く、彼女が眠る神殿があるのだと聞いたことがあった。それが事実なのか、そうではないのか、それはわしにも分からぬ……」
「このログイン・キーを渡した彼女は、一体私に何をさせようと言うのですか」
「白は世界を浄化へ、黒は滅びへと――……この街に伝わる言葉だ。恐らくは彼女がいつかやってくるログイン・キーの最後の持ち主のために伝えた言葉なのだろうな」
(白は世界を浄化へ? 黒って……)
「黒は錆びた剣を持っていた奴らのことじゃよ。滅びの剣を復活させ、この世界を滅そうと企む……邪悪で醜い連中じゃ」
(……滅びの剣、まさかこの『錆びた剣』が滅びの剣だとでも……?)
 黒衣の女性はログイン・キーを渡した女性を信用するなと言っていた。
(分からない、どちらが善で、どちらが悪なのか……)
 錆びた剣を渡された時のことを考えると、彼女を悪だと断定するには早いような気がした。(知らないことが多すぎる。このまま流されるように行動していると、いつか選択を誤ったと後悔する時が来るかもしれない…)
「何も考えずともええ、彼女に従っておけば間違いはないのじゃ」
 この街の住人達はログイン・キーを渡してきた女性に対して盲目的な所がある。
 それゆえ、完全に信用できるとは言いづらかった。
(どちらの陣営が良いとも言えない、私は自分の目を信じて思うように行動してみるしかない)
 例えそれが間違った選択だったとしても、自分で選んだことならば納得できる。
 松本はそう考えていたからだ。
『うふふふふ、賢い子は好きよ。ただ……手綱の切れた犬は必要ないわ』
「……ぐっ」
 頭の中に声が響いた途端、急にめまいがして床に膝をついてしまう。
 まるで警告のような出来事にぞっと背筋が凍る。
(私の命は、常に握られたまま……)
 恐怖心、そしてどうしようもない悔しさが松本の心を苛む。
(私は、他の誰でもなく私自身のために何とか生き残ってみせる……!)
 決意するように、松本は心の中で叫んだのだった。