「ふむ。今年も獲物が集まっているようだなー」
バルコニーから眼下を見下ろしながら、満足げにそう言っている金髪の御仁。
「戦闘力もかなりあるようです」
「だろうな。出なければ、反応しないようになっている」
オペレーターのお姉さん‥‥通称もみじっ子さんに、そう答える御仁。良く見れば、その手元には、明滅する宝珠のようなもの。
「いかがいたしましょう」
「そうだなー。ただやるのは面白くない。オプションをつけてやろう」
口元が、にやりと笑みの形に曲げられ、具体的な策が、指示される。「かしこまりました」と従うもみじっ子達。
その部屋には『本部』と流麗な文字で書かれていた。
さて、招待状を受け取ったフレイヤはと言うと。
「感想はどうですか? 私はこちらの温泉を紹介するように言われてきたんですけど」
「ふむ。日本式と言うのは、あまり慣れてはいないが‥‥良いものだな」
取材に来ていたらしい記録係につかまっていた。フレイヤさんは、ちょっと怪訝そうに思いながらも、感想を告げる。
と、そこへ、着物に身を包み、半纏を来た旅館の従業員が現れた。営業スマイルを浮かべた彼女は、人形のような笑みのまま、ロビーの一角へと案内する。
「ようこそ、お嬢様方。長旅お疲れ様でした。まずはこちらをどうぞ」
そこにあったのは、 この辺りの山や畑で取れた、色とりどりの果物をふんだんに使ったスィーツに、足の高いグラスに注がれた、ピンク色のドリンク。女性が好みそうな宝石のようなウェルカムサービスだった。
「わぁ、美味しそう」
「綺麗な色だなー」
目を輝かせる女性客と、こう言った物を見るのは始めてなのか、怪訝そうな表情を浮かべるフレイヤ。そんな彼女達に、従業員さんは低い声音でこう言う。
「裏山で取れたフレッシュな果物を、ノンアルコールカクテルにいたしました。他にも、様々な飲み物やスイーツをご用意してあります。いかがですか?」
指し示した先には、付随しているバーの名前が書いてある。確か、深夜にちょっと飲みたい時など、おしゃれに使ってください‥‥と書いてあったのを思い出した女性客は、こう言って、フレイヤさんを誘う。
「行って見ましょうよ。レポにもなりますし」
「そうだな」
案内にも乗っているまっとうな店と判断した二人は、その誘いに乗り、バーへと向かったのだったが。
「きゃっ」
通りすがりのお姉さんが、運んでいたお茶を盛大にこぼしてしまう。
「あら、大丈夫ですか?」
「あ、ああ‥‥」
慌ててふき取る女性客。って言うか、ビキニアーマーにそれは、色んな意味で危ないだろうと言うツッコミはさておき、慌ててタオルを持ってくる従業員。
「大変でしたね。お洋服が乾くまで、こちらをどうぞ」
差し出されたのは、可愛らしい柄の木綿の浴衣。女性用の特注品なのだろう。色とりどりのそれに、女性らしい一面を除かせるフレイヤ。
「浴衣か‥‥」
「やぎさん柄ですねー」
白と黒のやぎさんが、仲良くお手手を振っている絵柄に、女性客嬢も興味を示す。温泉地では、時たまある女性客へのサービスだ。
「それに、せっかくですから、温泉でもどうですか? その間に、こちらはランドリーに出しておきますから」
「はぁい、入らせていただきます」
何の疑いもなく、従業員の勧めに応じる女性客。まぁ、半分は仕事なので、断れないわけだが。
「これがもみじ風呂か‥‥」
色とりどりの紅葉が映える露天風呂。不届き者の入れないように、高い竹垣が目隠ししているものの、その向こうからも、山の便りが届き、竹垣を良い効果として取り込んでいる。今はまだ、青い木々もあるが、編集して放映する頃には、良い感じになっているだろう。その証拠に、廊下にかけられた毎年の紅葉写真は、赤や黄色の裾模様とか言う奴だ。
(本当にこのまま終われば良いんだけど‥‥)
が、女性客には、まだ嫌な予感がぬぐいきれない。それは、フレイヤも同じだ。
「女2人は、釜に入りました」
その証拠に、バーでは、何やら話しこむ従業員。
「そうか。では、例の策を」
「畏まりました」
頭を垂れる彼らの口元には、共犯者の表情が浮かんでいたと言う。
その頃、湯船の内側では。
「おかしい‥‥。人がいない‥‥」
フレイヤさんが、周囲を見回して、そう呟いた。気付けば、ちらほらといた筈の他の客が、綺麗さっぱり姿を消している。
「ご飯の時間だからかもしれませんね。そろそろ上がりましょうか」
もう結構な時間、湯船に使っていた。女性客がそう言って、出口を指し示す。
「そうだな」
頷いて、上がろうとしたのだったが。
「って、あれ? 服がない!?」
からっぽになった籠を見て、言葉をなくす女性客。
「やられた‥‥。こっちもだ」
フレイヤも同様である。
「どうしましょう! って、おねーさん?」
若干パニくった入浴客が、フレイヤを見ると、彼女は竹垣の向こうを睨みつけていたところだ。
「‥‥くる!」
フレイヤがそう言った刹那、竹垣を壊して乱入する金色のドラゴン。見たことのないモンスターに、目を丸くする入浴客嬢。
「な、なんですかアレ‥‥」
「どうやら、あれもアトラクションの一つみたいだな‥‥」
口をぱくぱくさせる彼女に、フレイヤさんはそう言った。一方のドラゴンさんは、あんぎゃあああ! と、盛大なそれらしき雄たけびを上げつつ、目の前のお肉‥‥この場合、フレイヤと女性客である‥‥に、その爪を振り下ろす。
「襲ってきましたぁ。きゃあんっ」
逃げ回る女性客。
「く‥‥武器さえあれば‥‥」
恨めしそうに籠を見るフレイヤだったが、空っぽで武器も防具も品切れ中だ。
「いやぁん、ビキニ引っ張らないで〜っ」
一方の入浴客はと言うと、着ていた撮影用水着を、爪に引っ掛けられて、まるでツリーの飾りのように、吊り下げられている。
「仕方が無い。ちょっと借りるぞっ」
掃除用具入れを蹴っ飛ばし、中からモップを取り出すと、その柄をまるで槍のように握る。
「たぁすけてぇ〜っ!」
「待て! その娘を放せっ!」
じたばたと暴れる入浴客を解放するべく、モップで力の限り爪の部分を叩くフレイヤ。ドラゴンは、ぎしゃああ! と悲鳴を上げるが、怪我をしたようには見えない。
「け、結構固いな‥‥うわっ」
それでも、痛かったのだろう。悲鳴を上げて放り出される女性客。
「大丈夫か? 怪我は?」
「へ、平気‥‥です」
駆け寄ると、しばらく口をぱくつかせていたが、落ち着いたようで、首を上下に動かしてくれた。が、そこへ再びドラゴンさんが突進してきた。
「えぇん、ビキニぼろぼろですよぉう」
「と、ともかく体制を立て直そう!」
これ以上ここで戦ったら、どんな被害が出るかわからない。入浴客の姿を見て、そう判断したフレイヤさんは、人家のない山の方へと、場所を移すのだった。
「だーーー! お前ら調子に乗って、変なところイタズラするなーーー!」
「嫁入り前なのにー」
セクシー衣装で逃げ回る2人を、面白がってつつきまくっているドラゴン。それを、蹴り飛ばしたり、鼻っ面叩いたりしながら、いよいよ追い詰められちゃった2人。
「おーい。何か騒動が起きてるのか?」
そこへ、騒ぎを聞きつけて、人が集まってくる。どう言うわけか、こう言う事には場慣れしているらしく、あっという間に女性陣を助け、ドラゴンを簀巻きにしていた。
「み、見ないでくれないか‥‥」
助け出された方のフレイヤは、安心したのか、胸を押さえてへなへなと座り込んでいる。
「ああっ。すまんっ」
「と、とりあえずこれをっ」
駆けつけた方の男性が、纏っていたマントを、フレイヤと入浴客にかぶせた。
「こ、これで大丈夫のはずだっ」
「あ、ありがとう」
ぽっと頬を染め、礼を言うフレイヤ。このあたりはやっぱり女の子しているようだ。と、そこへ従業員が何食わぬ顔で、姿を見せる。
「何か騒いでいたようですが‥‥どうかなさいましたか?」
「おま、ふざ‥‥むぐ」
文句つけようとしたフレイヤを抑える少女。その背中は、ちょうど壊された竹垣部分に重なっている。
「いいえ、なんでもないですっ」
ぶんぶんと首を横に振るもう1人。入浴客が「ちょ、どう言う‥‥」と、問いただすと、他の客がボソッとこう言う。
「これでばれたら、請求書のあて先はあたし達よ」
それもそうだ。納得した彼女、他の面々と同じように、黙り込む。
「そうですか。では夕食のご用意が出来ましたので、食堂へどうぞ」
従業員さんは、にこりと笑いながら、くるりときびすを返す。それに「はーい」と答えながら、追随する不利をし、従業員が姿を消すのを待つ一行。その間に、トゥインクルドラゴンは光の欠片になり、まるで壊された部分が逆再生するように復活して行く。それを見届けた他の面々も、それぞれ散って行くのだった。
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