今回の舞台は、山の中にある闘技場みたいなところだった。ご丁寧に観客席まで用意されており、中央の舞台で、何やら円形のディスクを腕につけた少女が2人、対峙していた。
「今日こそ決着をつけて差し上げますわ!」
びしぃっと指先を突きつける少女‥‥美恵利。
「望む所よ! 何しろ、今日は二つもデッキ持ってきちゃったんだからぁ!」
受けて立つ美笑は、ふんぞり返りながら、プラスチックのケースを見せる。だいたい50枚前後入ったそれを、くるくると回してみせる美笑。
「通りでバックが大きいと思いましたわ」
見れば、美笑の足元に転がるかばんは、やたらとデカい。
「さぁ、選びなさい!」
が、美笑は全く気にせず、そのデッキケースをくるくるとルーレットのように回した。半ばお手玉状態になっているそれを、美恵利はまるでダーツを射るように、指定する。
「じゃあねーー、こっち」
すたんっと停止したデッキケースが片方、美笑の手元へと落ちてくる。やや黒味がかった半透明のそれは、軽く電子音を立てながら、腕のディスクへと収納されて行った。
「よーし。行くわよ!」
同じように美恵利も、自信のデッキを、ディスクへとセットする。
「「デュエル!!」」
声を揃え、宣言する2人。と、その刹那、ディスクの上部に、何やら半獣化した人物の姿が現れていた。
「モンスター?」
観客になっているのは、男女の2人連れ。どこの住人なのか、驚いたような顔をしている。だが、女性の方がそれを制止、こう言った。
「ヴィジョンね‥‥。なるほど、そう言う事か‥‥」
何やら納得した表情の彼女。では、説明をお願いしてみよう。
「なんなんだ? あれは」
眉根を寄せている彼氏。んー、まぁ知らないのも無理はない。と、一緒にいた女性の方が、こう説明する。
「こっちの言葉で言うと、幻影を利用したチェスみたいなものね。もっとも、もっとリアルで、もっと危険なシロモノだけど」
何しろ、ちょっと油断すると、すぐ暴走して、幻術のはずのモンスターが、実体化するとか言うシロモノなのだ。もっとも、普通に人々の手元に行き渡るものは、使いやすくした廉価版なので、そこまでの暴走はしないはずなのだが。
「あたしのターン! ドロー!」
先攻は美笑。びしゅっと2枚が手元に召喚され、あっという間に、幻の速度表示が上がる。赤字なのを見ると、速度は最大になっているのだろう。
「ずいぶん色気たっぷりの幻だなー」
もっとも、男性にとっては、そんな彼女の動きより、その豊かな胸の方に、興味があるようだ。
「そうねぇ‥‥って、どこ見てるのよ」
「す、すいませんっ」
おかげで、連れの女性にお仕置きを食らうように、両耳を引っ張られている。
「応えよ! 我がヴィジョン、その絆! 意思繋がる時!」
その間に、デュエルはある程度進んでいたらしい。美笑がそう宣言すると、引き抜いたカードが、運命の赤い糸を思わせる光線となり、セットされた束から、目的の絵柄を引き抜く。それには『ジャンヌ』と書かれていた。
「エヴォリューションなんてさせない。我が炎の舞にひれ伏せっ」
対抗するように、美恵利が、赤いカードをちらつかせる。その手には、小さなサルビアの指輪がはめ込まれていた。
「あぶなっ」
飛び散ってきた炎の粉に、男性が慌てて女性を庇う。だが、その姿に、黙っていられなかったのは、戦っている少女のほうで。
「これ、私も使えますわ☆」
指をぱちんと鳴らした美恵利が、飛操火玉を使う。炎を操作するその術は、勢い余って、彼氏の尻を襲った。
「あちちちち!!」
「観客への攻撃は禁止しまーす」
ばしゃーっとどこから取り出したのか、水がかけられている。そんな彼女の姿に、やれやれと思いながら、美笑はこう言って取り出したカードをかざす。
「今度はこちらの番ね! おいで、聖なる天空の猛禽、そして白銀の大地に君臨するものよ!」
そのカードは白い光玉となって、姿を変えた。片方は白い鷲、そしてもう片方は、純白の毛皮に包まれた熊だった。
「むう。熊さんと鳥さんは、固くて早いから嫌いですぅ!」
防御するように、並べたアンデッドモンスターが、前へと進み出る。その光景に、女性はポツリとこう言った。
「長くなりそうねぇ」
まだ、デッキの枚数は、かなり残っている。
「そうなのか?」
「2人とも、まだ切り札を残しているみたいだしね」
良く分かっていないらしい男性が、怪訝そうにそう尋ねてくると、彼女は頷いて、デッキの一枚目を見せてくれた。それには、狐尻尾の少年が描かれている。そちらを使えば、また話は変わったかもしれないが、魔法を主体とする戦い方は、やはり時間がかかるものらしい。
「長いなー」
その予想通り、少女達の戦いはかなり続いていた。二人とも、モンスターを出せば潰され、そして潰しの繰り返しである。そうして‥‥30分くらいたった頃だろうか。
「よし、出揃いましたわ。出でよ、ヴァルシオー‥‥きゃあっ」
殲騎ピュアホワイトと書かれたカードを使おうとして、美恵利の手元で、軽くスパークが起きる。
「どうしたの?」
「エラーが出てる〜。えぇん、言いたかったのに〜」
見ると、『コールネームが違います』と、赤文字で表示されている。仕方なく、普通に呼び出す美恵利。レディシルエットの優美な機体が、姿を現す。
「ふん、そう簡単に鎧に乗らせてたまるもんですか。こっちも奥の手を出させてもらうわ!」
と、その手元に数枚のカードが引き抜かれた。ばっと天空へ舞い散らす美笑。それは増殖し、そして魔方陣となり、彼女の目の前で魔法の柱となるヴィジョンを変化させる。
「出でよ、我が友、トゥインクルドラゴン!」
その魔力は、美笑のフィールドに、巨大なドラゴンを出現させる。金色に輝くその竜は、とてもリアルで、幻術とは思えなかった。
「こ、これも幻なのか?」
「た、多分っ」
きしゃあああ! と吼えるドラゴンに、慌てふためく男性と、落ち着きなさいっと言わんばかりの女性。しかし、両方とも何故か腰が引けている。
「行くよ、クロスマッ‥‥わぁっ」
ぼむっと、美恵利の手元のディスクが煙を吹いた。
「だからー。音声認識機能意識しないと、エラー出まくるってば!」
「わかってますわぁよぉ。‥‥滅びよ! ガンマレイ!」
美笑の台詞に、エラーになったそれを打ち消すかのような強い口調で、カードをコールする。まるでサンレーザーのような強い光に、美笑のスタミナがぐぐんと削られる。
「く‥‥」
体力を削られるのは、術者にそのまま負担となるらしい。片膝を付く美笑。
「すごいな‥‥」
幻術とは思えないリアルさ加減に、感嘆の声を上げる彼氏。
「まだですわ! もう一発!」
攻撃側の美恵利はと言うと、二発目のレーザーを、装填していた。
「きゃああああんっ。2枚も持ってるなんて、卑怯ですわー!」
まさか、2枚も入れているなんて思わなかったのだろう。悲鳴を上げて逃げ回る美笑。トゥインクルドラゴンにカバーさせる事を、すっかり忘れている。
「勝ちましたわ♪」
一方の美恵利は、耳をぴょこんと飛び出させ、くるっと一回転して尻尾をふりふり。まるでどこかの格闘ゲームな絵面に、観客の女性がぼそりとこう言った。
「ねぇ、さっきのガンマレイ、壁壊してるけど」
「それに、あのトゥインクルも、どっかいっちまったんだが」
見れば、ガンマレイのレーザーが、竹垣を壊して、中のお風呂を盛大に覗かせ、ドラゴンはでっかい足跡を記しながら、湯煙の奥へと消えて行くところだ。
「わぁぁぁ。ごめんなさぁぁぁい!」
慌てて、その後を追いかける2人だった。
そのドラゴンを追いかけた美笑と美恵利が見たのは。
「いたぁ!」
美笑がそう声を上げる。視界に映るのは、ばりばりと周囲を破壊しまくっているトゥインクルドラゴンの姿だった。
「うわ、酷い事になってるー」
竹垣は壊され、女風呂は晒され、木々も踏み荒らされているが、不思議なことに母屋の部分や、ボイラー等、重傷になりそうな部分は、器用に避けられている。
「だーーー! お前ら調子に乗って、変なところイタズラするなーーー!」
「嫁入り前なのにー」
襲われていたのは、入浴中だったらしい女性陣だ。面白がってつつきまくっているドラゴンを、蹴り飛ばしたり、鼻っ面叩いたりしていた。
「おーい。何か騒動が起きてるのか?」
そこへ、騒ぎを聞きつけて、人が集まってくる。どう言うわけか、こう言う事には場慣れしているらしく、あっという間に女性陣を助け、ドラゴンを簀巻きにしていた。と、そこへ従業員が何食わぬ顔で、姿を見せる。
「何か騒いでいたようですが‥‥どうかなさいましたか?」
「おま、ふざ‥‥むぐ」
文句つけようとした入浴客を抑える美恵利。その背中は、ちょうど壊された竹垣部分に重なっている。
「いいえ、なんでもないですっ」
ぶんぶんと首を横に振る美笑。
「そうですか。では夕食のご用意が出来ましたので、食堂へどうぞ」
従業員さんは、にこりと笑いながら、くるりときびすを返す。それに「はーい」と答えながら、追随する不利をし、従業員が姿を消すのを待つ一行。その間に、トゥインクルドラゴンは光の欠片になり、まるで壊された部分が逆再生するように復活して行く。どうやら、問題なさそうだ。
「みえみん、今度は中で音ゲー勝負ですわ」
「だから! 私は紅葉を見にきたんであって罰ゲーム受けに来たわけじゃなーいっ!」
それを見届けた所、美恵利は、美笑に再び勝負を挑まれ、じたばたと若干八つ当たり気味に暴れているのだった。
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