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「あの馬鹿野郎！」
動物使い、ＬＵＮＡの撮影が終えてから暫く経った頃――ヴォルフェは急いで病院に向かって走っていた。
何故かと言うと、従兄妹の橘・朔耶が入院していると家族経由で聞かされたからだ。それと同時に長期間受けていた女優業も休止するのだという事も‥‥。
「‥‥何も聞かされてないぞ‥‥」
ヴォルフェは舌打ちしながら朔耶の病室の扉を開いた。
すると―‥‥そこには青白い顔で横たわる朔耶―――ではなく治療の為に髪が短くなって、片目に包帯を巻いた姿以外は特に変わりのない朔耶の姿があった。
「どしたの？ そんなに急いで」
うさぎの形に切られた林檎を食べながら朔耶がきょとんとした顔でヴォルフェに問いかける。
「入院したからって――‥‥」
「そういえば言ってなかったっけ？ ごめんごめん」
悪びれた様子も見せずに、林檎が載せられた皿を差し出しながら朔耶が謝る。その様子に安心したのか、ヴォルフェは椅子に腰掛けながらじろりと朔耶を見る。
朔耶の姿を再度見ると、その痛々しさにヴォルフェの表情が険しいものになっていく。
「実は‥‥さ」
ポツリと朔耶が呟く。
「ＬＵＮＡとか動物使いの撮影中も自覚症状はあったんだよ――それで病院に行ったんだけど‥‥本当は即入院したほうがいい、それが最初の診断だった」
片目を押さえる朔耶の姿が痛々しく、ヴォルフェは視線を外へと移し、話の続きを聞く。
「でも‥‥両方ともクライマックス直前だったし、途中で諦めるのだけはしたくなかった」
その後も話を聞き続けたところ、実際に彼女は撮影中も痛みに悩まされ、医者から処方してもらった薬で誤魔化しつつ撮影を続けていたらしい。
「それで‥‥今後は？ 手術とか――‥‥」
きっと、ヴォルフェは何気ない言葉だったのだろう。手術さえすればすぐにもとの生活に戻れる――そう思っていた‥‥いや、思いたかったのかもしれない。
「それは‥‥難しいと思う」
「―――――え？」
「俺の病気は‥‥手術して成功したとしても元の生活に戻れる可能性は限りなく低いものらしくさ」
笑って言う朔耶に、何故かヴォルフェが慌てたように「笑い事じゃないだろ」と低い声で呟く。
「それで満足なのかよ、女優業もカメラマンとしての仕事も――このまま諦めるっていうのか」
「別に諦めるつもりはない――っていうかさ、何でお前がそんなに慌てるんだよ」
クックッと可笑しそうに笑う朔耶に拍子抜けして、ヴォルフェは座りなおして朔耶に向き直る。
「でも元の生活に戻れる可能性は低いって――‥‥」
「低いな、でもゼロじゃないだろ。諦めたら――本当に終わりじゃないか。大丈夫だって。俺が結構しぶといのはお前が一番よく知ってるだろ」
そう言って笑う、朔耶の姿に諦めなどの負の感情は見られない。
「――そうだったな」
朔耶のそんな姿を見て、ヴォルフェは決心したように「養生しろよ」と言って病室を出ようとする。
「次来るときはせめて何か差し入れくらい持って来いよ。手ぶらは失礼だ」
「ふっ‥‥それだけ生意気いう元気があれば大丈夫だな」
ヴォルフェは不敵に笑みながら病室を出て行く。
「社長、ヴォルフェです」
朔耶の病室から出て、病院の入り口で携帯電話を取り出し、自分が所属する事務所の社長に電話を掛けていた。
彼は今まで『スタントマンとしての修行をしにアメリカに来ないか？』と誘われ続けていた。
しかし、映画やドラマなどの撮影もあり、その答えをずっと曖昧に濁してきた。
「俺―――アメリカに行こうと思います」
ヴォルフェの言葉に社長は「そうか」と短く言葉を返し「頑張って来い」と励ましの言葉を言って電話を切った。
「さて――‥‥」
そう言ってヴォルフェは空を見上げる。
澄み渡るように綺麗な青い空が、新たな出発をする朔耶とヴォルフェを祝福しているかのようだった―――‥‥。
●ライター通信
橘・朔耶さま＆ヴォルフェ様
こんにちは、いつもお世話になっています。
今回のノベルを担当させていただきました瀬皇緋澄（水貴透子）です。
お二方の新しい旅立ち‥という事でしたが、どうでしたでしょうか？
楽しんでいただけていたなら、凄く嬉しいです。
それでは、また何処かでお会い出来ることを祈りつつ‥‥失礼します。
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この小説は株式会社テラネッツが運営するオーダーメイドＣＯＭで作成されたものです。
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