「スポーツの秋――だったか?」
まだ少しだけ暑さの残る今日、レイスは面倒そうに欠伸をしながら呟く。
事の始まりはレイスの友人が持ちかけてきた話だった。
どうやら近くで友人の会社の同僚同士で開催する運動会があるという事で、レイスは助っ人として呼ばれたのだ。
「めんどくさいな? 何で、そこまで熱くなれるかねぇ?」
目の前を見れば、短距離競争で苦しそうな顔をしながら必死に走る友人の姿。
「ねえ、暇そうにしてるね」
ピンク色のジャージを着ている女性が二人ほどレイスに話しかけてくる。
「まぁな? どうせ助っ人で呼ばれてるだけだし――そっちも暇なら此処からフケてお茶でもしねえ?」
何故か運動会の場でレイスはナンパを始める。
「えぇ〜、どうしようかな、ねぇ、どうする?」
一人の女性は連れの女性に話しかける―――のだが「NO!」とレイスの友人が腕を掴み、顔を真っ赤にして怒っている。
「ナンパさせる為に呼んだワケじゃないぞ!」
「えー‥‥」
「えー‥‥じゃない! 次のリレー! 行って来い!」
ドン! と突き飛ばされレイスはため息混じりに「適当にやるか」と二回目の欠伸をした。
「適当じゃすまされないからな!」
友人がレイスに「得点表を見ろ!」と指差しながら叫ぶ。
その言葉にレイスは得点表に視線を移す――‥‥と同時に「げ」と短く呟く。レイス、そして友人が所属する赤組は白組・青組に比べて得点が遥かに低い。他の2組が三桁なのに対して二桁、しかも五十より低いものだった。
「今回のマラソンで一位にならなけりゃ赤組は悲惨なことになる! もし悲惨な結果になったらお前のせいだ!」
何気に理不尽な事を言われ、プレッシャーまでかけてくる始末。
「はあ―‥‥俺、こういう熱くなるの苦手なんだよなあ」
レイスは屈伸をしながら呟く。
「‥‥‥‥けど、苦手なだけで嫌いでもないんだけどな」
そう呟き、自分にバトンを渡す人物を見続ける。
「げ――‥‥ビリじゃねえか」
レイスは盛大なため息を吐きながら呟く。距離はどんどん離されていき、普通の人間では、とても一着になるのは無理だろう。
けれど、レイスなら一着‥‥もしくは二着まで浮上するのは簡単だろう。面倒そうにしているが、レイス自体は運動神経は良いのだ。
ただ、バレてしまえばきっと全ての種目に出される可能性が高いため、黙っていたのだ。
(「俺が悪いんじゃないからな、聞かれなかったから言わなかっただけだし」)
うん、レイスは頷きながらバトンを受け取り、走り始める。現在ビリの五位、四位まではそんなに距離はないものの、先頭に半周以上距離が開いている。
「がんばれえええっ! 一着にならなかったら一ヶ月先まで朝・昼・晩の飯を奢らせるからな!」
友人の叫びを聞いて「勘弁してくれ」とレイスは呆れたように呟く。しかし友人の顔を見れば本気で言っているのか表情が険しい。
(「‥‥冗談かと思ったら、マジか――‥‥」)
負けられない理由が出来てレイスの表情に真剣さが伺える。
そして徐々にスピードを上げていき、二位までは浮上したものの、先頭までは追いつかない。
ゴールまでもう少し――‥‥その時、レイスの表情に笑みが浮かんだ。
「‥‥なーんてな、場的に盛り上がったろう」
呟き終わると、レイスはスピードを上げて一位の男性を追い抜き、見事にゴールテープを切ったのだった。
「お前‥‥お前って奴は――」
友人が少し涙ぐみながらレイスに話しかけてくる。雰囲気的に「ありがとう」とか「よくぞ追い抜いた」とかの言葉が出てくるものだろうと思っていたレイスだったのだが―――‥‥。
「運動神経抜群じゃないか! 何で言わなかったんだよ! よし! 次の騎馬戦にも出てもらうぞ!」
腕をがっしりと掴み、友人はこれ以上ないくらいの笑顔でレイスに話しかける。
「か、勘弁してくれよ! 今のでも結構疲れたってのに‥‥」
「大丈夫さ! お前ならやれる!」
そう言って友人は騎馬戦選手の所に連れて行こうとするが、レイスはその腕を振り払い「冗談じゃない」と逃げ出した。
「あ! 逃がすか! 赤組が優勝するにはお前が必要なんだからな! 絶対に逃がさん!」
そう言って友人だけならともかく、赤組の人間全員がレイスを追いかけてくる。
「だから暑苦しいのは嫌いなんだって!」
レイスの悲しい叫び声が運動場に響いていたのだった――‥。
END
●ライター通信
レイス・アゲート様>
こんにちは、いつもお世話になっています。
今回はMSノベルの発注をありがとうございます。
今回は運動の秋――という事でギャグ有・真剣有(?)の内容になりました。
い、いかがでしょうか?
楽しかったと思ってくださりましたら嬉しいです。
それでは、またお会いできることを祈りつつ‥‥失礼します。
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