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【うららかな春、流るる川のそのほとり】
■蘇芳 防斗■

<クリステル・シャルダン/アシュラファンタジーオンライン(eb3862)>

●依頼のその、帰り道にて
 とある依頼を請け負っては無事に果たせばその帰りの道中、エルフのクレリックであるクリステル・シャルダンは遠目に見えた穏やかに流れる川と、その袂にて一面に広がる花畑を見付けるとその光景に目を奪われる。
「綺麗な風景‥‥」
 幸いにも視線を前へと向ければキャメロットの街並みがみえる程に近く、歩いてもそれ程時間は掛からないだろう事に気付けば彼女は他の皆と歩調を合わせつつ、思考を巡らせる。
(「普段、外へ連れて行けないあの子達の散歩をするにはぴったりの場所ですね」)
 その思考の矛先とは、何時もは棲家にて養っているペット達の事で‥‥平然と連れ立って歩く事の出来ない彼らの事を考えれば唐突にでこそあったがそう思いつくと
「‥‥それなら人目に付かない様、暗くなる頃を待ってあの花畑へ行く事にしましょう」
「ん、どうかしたか?」
「いいえ、何でもありません」
 最後こそ口に出してしまい他の冒険者に尋ねられる事となるが、何事もなかったかの様に微笑んで彼女が応じれば小さく溜息をつきながらもクリステルは早く棲家へ帰りたくなるのだった。

●闇落ちる、一夜の出来事
 光と闇は表裏一体、やがて太陽が沈めば月が昇り夜の帳が落ちる中‥‥日中、唐突に思い至った事を行動に移したクリステルらは漸く、昼に見た花畑へと辿り着く。
「何とか無事、辿り着けましたね‥‥」
 夜も夜中‥‥人目を忍んでキャメロットの街こそ無事に出る事が出来たが、それより此処までの道中、二度程人影を見掛けた時は大いに焦った彼女はそれでもこの場へ無事に辿り着いた事を主へ感謝し、次いで安堵の溜息を漏らしては多少強張っていた体の力を抜けば
「皆、自由に遊んで来て良いわよ。但し‥‥遠くへ行き過ぎ無い様に気を付けてね、約束よ」
 自身の後に着いて来た皆の方へ振り返り、見回しては注意すべき事も告げて花畑の中にて解放すれば‥‥それぞれが鳴き声を響かせた後に思いのまま、駆け出し羽ばたき彼女より周囲へと散る。
「取り敢えず、大丈夫そうですね」
 その表情こそ見えなかったがクリステルは久々に解放された空間の中で彼らが楽しげに動き回る様を見つめ、この場へ連れて来て良かったと心の底から思い笑顔を湛えれば‥‥近くにある川の方から上がる水飛沫の音を聞き止めて、そちらの方を見やる。
「ホアンも楽しそうに泳いで‥‥棲家では中々出来ない事だから尚更でしょうか」
 するとその場にて見た目の割、優雅に川面を泳いでいるクロコダイルのホアンが姿を見付ければ、稀にしかない機会を精一杯に楽しむその姿に笑みは絶やさないままに視線を川から花畑の方へ移すと一頭の、翼持つ白馬が視界の内に収まる。
「それにしても‥‥」
 それは花畑の傍らにある緑豊かな草原の只中において草を食むペガサスのスノウで、その姿を見止めればクリステルは馬だった頃の姿を思い出し‥‥その光景を見つめ感慨に耽るも
「姿は変われど、改めて見れば普通の馬だった頃のスノウと何ら変わりませんね」
 その仕草、様子、雰囲気‥‥目の前にいるペガサスと比較するが一片として変わらない事に思い至ると、神々しくも映るその光景に暫し魅入るクリステルだったがその時。
「‥‥真面目な子なんだから、もう少し甘えてくれても良いのだけど」
 夜の冷たい空気を叩いては辺りに響く勇壮な羽ばたきを耳に止めると彼女、虚空を見上げれば暗き空を浮遊するイーグルドラゴンパピーのファルが姿を目に留めると周囲を見回っているのだろうその光景に苦笑を漏らして後に呟けば、改めて辺りの長閑の光景の全体を視界に収め‥‥自身の袂で静かに寝そべっているグリフォンがフォルティスの頭部を優しく撫で、詫びる。
「皆、優しい子達ばかりなのに‥‥ごめんね」
 冒険者達にとっては別段、気に留める程でもないが一般の人々から見れば異形とも映る彼ら‥‥それ故に殆どの時間を棲家の中で過ごさなければならず、自由に外へ連れ立ち遊ばせてやる事が出来ない事に対して彼女は詫びるが、それでもフォルティスは『気にしていない』とでも言う代わりか、主の掌に尚も頭を摺り寄せてくる。
「‥‥ありがとう」
 その仕草に、クリステルは顔を綻ばしては胸一杯に広がる感謝の気持ちを込め、言葉と共にそれを伝えるべくフォルティスの頭を愛おしく抱き寄せると見た目の割、可愛らしい声をグリフォンが上げた時‥‥揃い、ファルの甲高い咆哮を上げれば何事かと上空を見上げたクリステルの両の瞳に一筋の光条が映る。
「流れ星‥‥」
 それを見止め、しかし暗闇の中ですぐに掻き消えた流星が流れて行った方を見つめて彼女は確かな祈りを自身の為‥‥いや、それ以上に何よりも彼らの為に織るのだった。
「何時までも一緒に、何時かは他の人達にも可愛がって貰いながら皆平和で穏やかな日を過ごせます様に‥‥」

●ささやかな宴のその終わり
 しかしペット達と戯れる楽しい時間も有限ではなく、まだ微かにではあるが闇の中に昇らんとする太陽よりもたらされた一筋の光条を見止めたクリステルが終わりの刻を察すると
「‥‥そろそろ帰らないと、明るくなってしまいますね」
 声を響かせれば辺りを見回すと‥‥主人の心を読める筈もないのに何時の間にか自身の周りへ『彼ら』が集っている事に気付けば嬉しさの余り、顔を綻ばせて彼女。
「じゃあ皆、帰りましょう‥‥今度来た時は一緒に遊んであげるから、ね」
 『彼ら』に纏わりつく泥や草を丁寧に払いながら、今回は皆が遊ぶ様子に魅入っていただけだったクリステルはまだ満足していないのか帰るのを嫌がるティオを宥めるべく約束を交わしては踵を返すと、キャメロットの街並みがある方へ顔を向けるが
「急ぎましょう、思っていたよりも夜明けは早そうです」
 視界の中、思っていた以上にその向こうが明るくなっている事に気付くと皆を促しては急ぎ、棲家へ戻るべく駆け出した。

 その先にきっと続いているだろう、明るき未来を信じて。

 〜Fin〜




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この小説は株式会社テラネッツが運営するオーダーメイドCOMで作成されたものです。

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