『お疲れ様でしたー!!!!!』
その宴か……打ち上げは大きな声での、全員から全員へ向けての言葉で始まった。
小さなカフェレストランを借りての、ドラマ終了記念の打ち上げ。
料理や飲み物はデリバリーやレストラン側からのものもあるが、各人が持ち寄ったりもしていた。
その主なものは今では元四天王、黎役の明石丹と四天王、斎役の橘川円の力作だった。
それらをつまみつつ騒ぎつつ、やっぱり話は、ドラマのことになる。
「撮影長かったなぁ……」
「でも楽しかったよね」
「明石さんにはたくさんお世話になりました」
葎役、璃久アイジは笑って言う。
「こちらこそ。いい経験になったよ。鳩と戯れたり……本当によく懐いてくれてた」
「すごかったよ、あれ、あの……最初の頃に鳩いっぱい飛ばした……」
撮影開始の頃、画面派手な方がいいよなという監督の一存で飛ばされた鳩百羽。
羽音もすごかったが、やはり画面と生では迫力が違っていた。
「鳩たちの羽ばたきで風が巻き起こってたからね」
あれは僕もびっくりだった、と丹は言う。
「撮影中に画面横切ったりもあったなぁ」
「目立ちたがりの鳩さんだったんだよ。でもあのボス鳩って本当に嵐の……雛姫さんの頭の上、お気に入りだったよね」
「? 何か呼ばれました?」
雛姫は自分の名前にぴくっと反応をして、料理の皿をもったまま丹たちの方を振り向く。
「鳩が頭の上、気に入ってたよなぁって話」
「あああ、鳩さん! 鳩さんもこの場にこれたらいいのに……」
「それはさすがに無理かしらね」
くすくす、と雛姫の言葉に円は笑う。
「残念です……最初に頭の上に乗られたときはどきっとしてたんですけど、だんだん慣れてあの重みがもうないとなるとちょっと寂しいかもしれません……」
しゅん、とする雛姫。
円は彼女ににこりと笑む。
「もしかしたら映画化、なんてことになってまた会えるかもしれないわ。それに監督さんに言えばまた会えるわよ」
「……そうですわね、今日はしゅんとするより楽しまなくちゃ。このお料理もおいしいです」
切り替えてすぐにほわんとした笑顔。
雛姫が食べているのは円の作ってきたからあげ。しっかりと味がしみこみさくっとかろやか。
「え、それ俺も食べる!」
と、どこからかダッシュしてきたのは天道ミラー。
雛姫と同じからあげを手にとってぱくぱくっと食べておいしい! と元気よく言った。
「あー、いいなからあげー!」
もう一人、からあげにつられて悠奈もやってくる。
おいしい、とそこではから揚げもぎゅり大会に。
「おいしいー。もう酷いんだよ、こ悠奈さんが作った訳じゃないよね? とか言われちゃった。しかも冷汗かいて……私そんなにひどいもの作った記憶ないんだけどなぁ」
「それきっと悠の感じでいわれてるんだ! やっぱ役とまざってみえるんだよ!」
「そうそう、漢字読めるんだよな、ミラーは」
「ソレドラマ違いだし読めるから!」
またそのネタ! とミラーはアイジにびしっと突っ込む。
他ドラマの役でひらがな不自由、というキャラを演じたそのイメージがミラーから抜けないらしい。
「なんか役が自然に自分に入ってきて、皆のことをまだ役名で呼びそうでさ。あと昨日夢にも見た」
夢の中で、何をしていたかまでは覚えていないけど皆がいたことは覚えているとアイジは言う。
「なんだか自分の一部がおやすみなさいって、しちゃうみたいで……」
「そうだね、こんなに長い間同じドラマしたのって初めて」
もともと音楽畑のメンバーの多いドラマ。
丹や円たちは音楽活動の傍ら、ということで結構ハードなスケジュールを詰めていた。
「あれ、そういえばまだ……」
と、丹はメインはった子がまだだね、という。
「ああ、遅れて来るって。さっきメールで撮影終わったキャッホウ! とかってメールがきてた……」
ほら、とアイジは携帯をだす。そこにはテンション高すぎ、な音役を演じた役者からの文面。
丹はそれをみて微笑む。
「彼女らしいね」
「きっときたら最初に明石さんに抱きつきにくる」
「そうかな?」
「「「「「絶対そう」」」」」
五人の声が重なる。
撮影中、共に行動することが多かった二人。いつの間にか丹に懐いていたのだった。
「そういえば、ちょっと前なんだけどさ、Passionでフォビ連想って感じで曲やってくれたよな」
あれ嬉しかった、とアイジは言う。
「お客さんも反応してくれててさ、いいよなぁー」
「アイジさんも歌えば」
「それ無理、無理!」
と、変わりに答えたのはミラーだった。
なんで、という表情の面々に苦い表情のアイジ。視線は余計なことをとミラーをじっとりと。
どうやらミラーの、いつもの弄られへのささいなお返しらしい。
「気になります……歌がお嫌いなんですか?」
「いや……」
「じゃあ歌おう?」
「や……」
「楽しいよ〜」
絶対、悟ってわかっているだろうにほら、と促す面々。
ドラマで培ったチームワーク発揮だ。
助けて円さん、という視線も軽やかに交わされていく。
勝てない。
「……すみません、簡便してください」
「アイジ音痴だから」
しれっとミラーは言って笑顔。
そうだったんだー! と悠奈が合の手を入れてゆく。
「それはいいんで、もういいんで」
「歌は毎日歌ってれば上手になるよ。でも本当に、いっぱい色んな事したよね。僕、足の裏がちょっと丈夫になった気がするよ」
ドラマ開始当初、裸足でぺったぺったと歩くことになった丹。
裸足で屋内はともかく屋外を裸足で歩くのは久しぶりだった。
「いろんな経験をしたわね。私も男装、楽しかったわ」
今度またライヴでしちゃおうかしら、と円は言う。
きりっと紫がかった髪を一纏めに。普段と違う言葉遣いもドラマならではだった。
そして、円の役、斎とユニゾンとして一緒にあった嵐。
その嵐と、終盤で仲良くなった悠。
「歌うにしろ演技にしろ、いっぱい色んな事学んだね。私もこれをステップに次のこと頑張らないと!」
大手アイドルプロダクションからユニットを組んでデヴューとなった悠奈。
これからの段階に、ドラマでやってきたことをプラスにしたいと、また新たなスタート地点に。
「俺も! これから音楽に他も色々! やりたいこといっぱいだ!」
それぞれちゃんと心にこれからのヴィジョンを持っている。
ドラマは進む道の一つの分岐。
その分岐をこのメンバーで行えたのは良かったのだと思う。
「撮影、楽しかった。打ち上げも終わらなきゃいいのに」
「楽しい時間は一瞬、ともいうからね。今の時間を楽しまないと」
そう言った時、遅れましたー! と元気な声が店内に響く。
「あ、遅いよー。お疲れ様ー」
「あっ! 遅れましたー! きゃー! 黎ー!! 久しぶりですー!」
皆の予想通りにダッシュ。
新たにメインのメンバー登場ということで、仕切り直そうか、という雰囲気になる。
「ほらほらメインメンバーこっちきてー」
と、監督に言われてぞろぞろと前へ。
他の出演者、そしてスタッフたちからの視線。
「それじゃあ改めて……」
『長い間、お疲れ様でしたー!!!!!』
長いドラマの撮影の中で繋がった縁は、今は太くしっかりと。
得たものはそれぞれたくさん、色々と。
これから道が分かれても、それぞれしっかりと並んで歩いて行ける。
慣れあいでなく、本当の信頼と友情をもって繋がる仲間に出会えたことは喜びだ。
それぞれのステップが、これからまたあがっていく。
やりたいことは、まだまだいっぱいだ。
<END>
※この文章をホームページなどに掲載する際は、必ず以下の一文を表示してください。
この小説は株式会社テラネッツが運営するオーダーメイドCOMで作成されたものです。
|