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【Lively sounds turn into music.】
■風華弓弦■

<LUCIFEL/Beast's Night Online(fa0475)>
<慧/Beast's Night Online(fa4790)>
<早河恭司/Beast's Night Online(fa0124)>
<紗綾/Beast's Night Online(fa1851)>
<ラシア・エルミナール/Beast's Night Online(fa1376)>

 都内に乱立する数々のビル群の中、改装した三階建ての小さなビルを、音楽プロダクション『be mixed』は事務所としている。
 一階に事務所機能と、主に練習用として使われている小さなスタジオ。
 二階には、プロダクションに所属するミュージシャンたちが集まり寛ぐ、広めのリビングとキッチンがあり。
 三階は所長である早河恭司の私室と、使用目的がまだ未定の部屋が一つ、開放されていた。
 所属するミュージシャンたちの顔ぶれを考えれば、幾分こじんまりとした感のある事務所だが、アットホームな雰囲気がいいのだろう。
 そんな和やかなプロダクションも、慌しい12月を迎えていた。

「今から、大掃除しようか」
 突然、寛ぐメンバーへ恭司が切り出した。
 いきなりの宣言に、二階のリビングで寛いでいた者達が揃って彼を見上げ、紗綾がしゅたっと挙手をした。
「はーい。まだ、大晦日じゃないよ?」
「大晦日じゃなくてもね。その頃は皆、忙しくなるだろ?」
「確かにそうだね。番組収録や生放送に、ライブ……やるなら今のうちか」
 腕を組んで、ふむとラシア・エルミナールが考え込む。
「一応、確認しておくが。掃除要員には、俺も含まれてるのか?」
 面倒そうなLUCIFELがおもむろに質問すれば、「当然だろ」とラシアが返した。
「ルシフだって、メンバーなんだから」
「そうか。ラシアの頼みとあっちゃ、仕方ないな」
 ぱらりと銀髪を指でかき上げた、LUCIFELはラシアへ笑みを向ける。当の彼女は、どこ吹く風といった感じだが。
「善は急げで、ちゃっちゃと片付けるよ」
 かくして、『be mixed』の大掃除が始まる。

「で……恭司には、別に買出しを頼んでいいかな」
 本格的な掃除が始まる一方、ラシアは恭司を廊下へ引っ張り出すと、走り書きをしたメモを手渡した。
「必要だと思ったものは、買い足していいから」
「皆には、内緒なんだ?」
 メモに目を通した恭司が、視線を上げて苦笑する。
「教えてもいいんだけど、手がつかなくなるのも困るしね。そうそう、帰りは慧と合流するといいよ。買い物してから、来るらしいから」
「判った。じゃあ、後は頼むよ」
 段取りのいいラシアへ頷き、恭司はビルを出た。

   ○

「あーっ。ルシ君、ちゃんと拭いてないーっ」
 モップで床を拭く紗綾は、窓ガラスの真ん中付近を丸く拭くLUCIFELを目撃し、声をあげた。
「ちゃんと、四隅まで拭かなきゃ」
 彼女の指摘に、LUCIFELはガラスを軽く拳で叩く。
「適当でいいだろ。いつも、それなりに掃除してんだから」
「ダメ。大掃除なんだよ?」
 頬を膨らませる紗綾に構わず、彼はひらひらと手を振りながら雑巾をバケツへ放り込んだ。
「だいたい、俺が雑巾がけなんかやってるって知ったら、ファンが驚いて卒倒するぜ」
「大丈夫だよ。きっと、見る目が変わるだけで」
「ほ〜ぅ? どんな風に変わるか、詳しく聞かせてもらおうか」
 笑顔でにじり寄るLUCIFELに、紗綾はモップを彼へ向けて『応戦』の構えをみせ。
「そこの二人、掃除の手を止めて遊ばない」
『掃除監督役』のラシアが、すかさず間に入る。
「ラシアさ〜ん、ルシ君がいぢめる〜っ」
「正しい認識を教えてやろうとしただけで、別にいじめてないぞ」
「はいはい。事務所が終わったら、リビングも掃除するんだからね」
 紗綾の訴えとLUCIFELを抗議を慣れた風にあしらいながら、彼女は手際よく調度を拭いた。
「あれ? ところで、恭司君は?」
 ふと紗綾が人数の足りないことに改めて気付くと、したり顔でLUCIFELが笑う。
「きっと、サボってるな」
「恭司君は、ルシ君と違ってちゃんとするもん。たぶん」
「恭司なら、あたしが買出しを頼んだよ」
 また話がこじれる前に、ラシアは恭司の不在を明らかにした。
「帰ってくるまでに、二階と一階の事務所を掃除だからね。それまでにちゃんと終わったら、『いいコト』があるから」
「いいコト? なんだろ〜」
 目を輝かせながら、紗綾は再び床を拭く。
「いいコトって言ったら、そりゃあ限られてるだろ……なぁ」
 意味深に同意を求めるLUCIFELへ、「窓は四隅まで拭くように」とラシアが念を押した。

   ○

「三人で、ちゃんと掃除出来てるのかなぁ」
「ラシアさんもいるなら、大丈夫と思うけど」
 やや不安げな面持ちの恭司に、慧が苦笑いを返す。
 駐車場に車を入れると、膨れ上がった数個の紙袋を分けて持ち、二人は事務所へ足を踏み入れた。
「うわぁ……綺麗になってるね」
 綺麗に物が整頓された机や取り替えられた蛍光灯、そして一年の汚れを拭い取られた調度に、慧は目を丸くする。賑やかな声のする二階へ上がれば、三人が……熱心さに差はあれど……掃除に取り組んでいた。
「あ、慧君だ〜っ!」
 二人がリビングに入ってきたことに気付くと紗綾は雑巾を放り出し、一目散に慧へと駆け寄る。
 LUCIFELが小さく肩を竦め、ラシアは投げ出された雑巾を広い。
「ただいま。掃除は、随分と進んだみたいだね」
 慧と紗綾を横目に見ながら二人の脇を抜けた恭司が、荷物を広いテーブルへ置いた。
「ああ、ちゃんとやっといたから。その代わり、恭司は自分の私室くらい自分で掃除、よろしく」
「……判った」
 バケツで二枚の雑巾を洗いながら言い含めるラシアに、嘆息して恭司は天井を仰いだ。
「それじゃ、準備にかかろうか。紗綾、掃除はいいから、手を洗いなよ」
「ん、何の準備だ?」
 疑問顔のLUCIFELに、汚れた水で満たされたバケツを持ち上げたラシアが口の端を上げる。
「パーティーの、準備。クリスマスのね」
「なに? もしかして、ようやく俺に口説かれる気になったとか?」
「ナンで、そこで一対一になるんだか。プロダクションの皆でやるパーティだよ」
「なんだ……皆で、か」
 素気無く答えるラシアに、すこぶる残念そうにLUCIFELが肩を落とすが。
「で、誰を呼ぶんだ? 特にレディの名前は気になるな」
 瞬時に立ち直って、恭司へ『参加者』を確認した。
「相変わらず、タフだね……ルシフ」
 妙な感心をする恭司へ、LUCIFELはあしらう様にひらひらと手を振る。
「世界中のレディが俺を待ってるからな」
「えーっと……じゃあパーティの料理、沢山作らないとね」
 二人の会話へ入れない慧は、腕の中へすっぽりと紗綾を収めたまま、笑顔で話を『本題』へ戻した。

 リビングと隣接した広いキッチンは、忙しく四人が動き回っていた。
 ラシアと紗綾は肩を並べてスポンジ作りに精を出し、恭司と慧は食事系を担当している。といっても簡単につまめる一品料理を作り、あるいはデパートで買ってきたチキンや惣菜を皿へ盛り付け、それらしい雰囲気に飾る程度だが。
「じゃあ、俺はドリンク関係だな。ワインか、シャンパンか……カクテル用に、リキュールなんかもいいか」
 冷蔵庫の空き具合を確認したLUCIFELが、重い腰を上げる。
「きついお酒ばっかりじゃなくて、ジュースとかシャンメリーも〜!」
「こら、そこ。泡立て器を振らない」
 泡立て器を握った手をぶんぶん振って主張する紗綾を、ラシアがたしなめた。
「俺が、お子様用ジュースを買うのはなぁ」
「ひどーいっ。お子様じゃないもーんっ」
 LUCIFELに、また紗綾が頬を膨らませれば、なだめるように慧が彼女の頭を撫でる。
「うん。紗綾は可愛いんだよね」
「はいはい。買ってくるモノは、任せたよ」
 二人へ適当に返事をして、恭司がLUCIFELへ頼んだ。

 明るいビルから外に出れば、外はもう暗く。
 まだ白い息は見えないものの、LUCIFELはコートを合わせて寒そうに歩き出した。

   ○

 重いビニール袋を提げて戻ると、部屋には美味しそうな匂いと甘い香りが漂っている。
 恭司と慧は、テーブルに料理と取り皿を運ぶと、簡単な飾り付けに移り。
 ラシアが出来上がったチョコクリームのブッシュドノエルへ、仕上げの粉糖を振っていた。
 苺ケーキを作りかけていた紗綾は、すこぶる微妙な顔をしている。
「なんだ、また失敗したのか?」
「またって言わなくてもっ」
「失敗したら自分で食べましょう」
 LUCIFELが聞けば涙目の紗綾が答え、ラシアはあっさりと宣告する。
「う……おにー! あくまー!」
「俺が口移しで食べさせてやろうか?」
 ラシアの背中へ抗議する紗綾へLUCIFELが微笑めば、ずざざと一気に彼女は身を引き。
「ルシ君も、おにぃぃぃ?!」
「紗綾が、自分で作ったんだからね?」
 そこで笑顔の恭司が、引導を渡した。
「恭司君まで鬼……恭司君は、もともと鬼だけどっ!」
「紗綾、無理しなくていいからね」
 やはり恋人の側に立つ慧に笑いつつ、恭司は紗綾の前に並んだ料理を次々とテーブルに運び。
「紗綾は俺が作ったのも要らない、と」
「……う……うわあぁあぁぁん! みんなのばかぁ! ばかぁ!! いいもん、全部あたしが食べるもんっ」
 ザックリとケーキにフォークを差し、切り取ったケーキを紗綾が口へ放り込む。それからむぐもぐと口を動かして飲み込むと、力尽きたようにその場へ崩れ落ちた。
「まづぅぅいぃ〜。『Limelight』で姉さまと作った時は、美味しかったのに〜」
「まったく……ほら、口直しにどうぞ?」
 苦笑しながら恭司が小皿へクッキーを取り、凹んだ紗綾へ差し出した。
「いただきます……おいしひ……」
 大人しくクッキーを齧る紗綾の肩へ、ラシアがふわりとマフラーをかける。一人では随分と余る長さに、紗綾は小首を傾げた。
「……ラシアさん。これ?」
「一足早いけど、プレゼント。長いから、二人で包まるのに丁度いいだろ?」
「ありがとうございます」
 ぽむっと紗綾が真っ赤に頬を染め、慧は笑顔で礼を言う。
「ほら、時間だろ。皆、もう来るぞ」
 そんな騒動の間に、冷蔵庫へジュースや酒を入れたLUCIFELが声をかけ。
『おっはよーございまーっす』
 元気のいい声が、階下で響いた。

 その夜、『be mixed』の窓の明かりは遅くまで消えることなく。
 賑やかな声と音楽に包まれて、夜は更けていった。





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この小説は株式会社テラネッツが運営するオーダーメイドCOMで作成されたものです。

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