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【ガチDEデート=強腎対決=】
■有天■

<亜真音ひろみ/Beast's Night Online(fa1339)>

「ひろみ先生、まったねぇ〜♪」
「歌ばっかりじゃなくって道場にも遊びに来てね!」
 門下生でもある子供達がブンブンと指導を依託している道場の前で手を振る。
「ああ‥‥」
 本日、久しぶりに取れたオフである。

 ワールドメジャーデビューして以来休みらしい休み等無くなってしまった亜真音ひろみ(fa1339)。
『絶対、休みを取るったら取る! このまま日頃あたしに代わって門下生の面倒を見ていくれている道場に挨拶行けないなら年末のコンサートを止める!』
 マネージャーを脅してもぎ取った貴重なオフである。

 師走に入ってしまえば、またコンサートに明け暮れる毎日になる。
 少し早めの年末の挨拶回りである。
 カレンダーと菓子折りの入った紙袋を下げ、胴衣に袴という姿である。
「うー‥‥こればっかりは旦那やマネージャーにやらせる訳に行かないし‥‥あ、待てよ? 年始回りのタオルを頼まなきゃいけないのか? 年賀状は、親しい友人以外は全部印刷で間に合わせる事でいいか‥‥‥」
 前倒しの年末行事と強行軍になろう年始の事を考えると頭が痛くなるひろみだったが、個人事務所の事業主で道場主、かつアイベックスの売れっ子ヴォーカリストである以上、人付き合いは広範囲になる。予定を考え、ブツブツと手帳を見乍ら歩いているひろみ。
 ドン! と誰かにぶつかる。
「あ、ゴメン。うっかり前を‥‥あれ、親父さん?」
「ん? ひろみか、どうしたこんな所で? 撮影か?」
 ライブハウス『7』のオーナー、通称『親父さん』こと獅子頭 治樹である。
 ひろみは歌手であるが、同時に俳優として映画等にも出演していた。
「ああ、これ? 実家の道場の挨拶回りで‥‥‥」
 胴衣の袖を少し照れくさそうに引っ張るひろみ。
「ああ、確か実家が道場をやっているって言ってたな」
「親父さんこそ、どうして?」
「知合いの所で将棋でも打とうかと思って来たんだが‥‥‥留守でな。清澄公園で一休憩して『7』に顔を出すか、それとも遊びに行くか? と悩んでいた所だ」
 ひろみの実家がある深川と『7』のある森下まで直線距離で約1kmちょいと近いのである。
「じゃあ、あたしも一緒に行っていいかな? あたしもこの後予定がないんだ」
「俺は洒落た所は知らないぞ」
「あたしも洒落た所なんて知らないよ」
「お前なぁ‥‥仮にも若い娘なんだから少し位は洒落っ気を持てよ」
「無理だよ」
 商店街のおばちゃん達が店番の暇つぶしに地元から出た『超』が着く有名人と強面の爺の会話を面白そうにクスクスと笑い乍ら見ている。
 小さい声で本人達は話しているつもりだが、隅田川っ子は平均的に声がデカいのである。
「見せもんじゃねぇぞ!」
「だったら店先でやるんじゃないよ」
「ひろみちゃんに洒落っ気持たせんだったら、人生の先輩である爺が手本を見せてやるべきじゃない」
 親父さんの罵声に、おばちゃんらの威勢の良い声が帰って来る。
 1言えば10帰って来る東京の下町らしい光景である。
「ケッ! まあ、婆ぁ共の言う事には一理あるか‥‥しょうがない。ひろみ、俺とデートするか?」
 ガリガリと頭を掻く親父さん。
「これも何かの縁だ。少しは洒落っ気とか色気ってのが着くようにな。俺は江戸資料館の前で待っているから、お前は着替えて来い」
「は?」
「つべこべ言わず着替えて来い。じゃねぇと家迄押し掛けるぞ」
「久しぶりに会っても親父さんは相変わらずだな」
 押し切られるように親父さんとデートをする事になるひろみ。

 古いレコードショップをぐるっと回った後、谷中にひろみを連れて来る親父さん。
 古い佇まいの甘味処である。
 立て付けの悪い引き戸を開け「おう、来たぜ」と店主に言う親父さん。
「いらっしゃい。治ちゃんも隅に置けないね。こんなに若い美人さんとデートかい?」
「おおよ。ここの餡と餅は旨いぞ。俺でも1つ位は食べてみようって気になる」
「へぇ‥‥」
「そう言い乍ら、あんたは何時も磯辺か鍋焼きうどんしか食わないじゃないか」
「うるせぇ、こっちとらデート中だ。少しは気を効かせろ」
「どうせ、こいつが『冥土への手向け』だとか頼み込んでお情け掛けて貰ってんだろうよ」
「はは‥‥」
 『7』で見せる親父さんとは一味違う、同世代のの友人らに見せる親父さんの姿である。

 甘味処で軽く腹を脹らせた後、親父さんは結局谷中から根津、弥生、池之端、湯島、直線約4kmの距離をぐるぐると散策し乍ら縦断する。
「‥‥親父さんって思ったより健脚なんだな」
 アスファルトの上を2時間歩き通し、先に音を上げたのはひろみである。
 幾ら若く体力があるひろみでも半日以上休みらしい休みを取らずに歩くのは中々大変である。ましてや朝から挨拶回りで気も体力も使い果たしている。
「ん? ああ‥‥」
 時計を見る親父さん。
「この近くに旨いおでん屋がある。そこで一休憩しよう」

 連れて来られた店は、先の店と同様やはり古い佇まい乍らも来る客がホッとする雰囲気を持つ店であった。
「なんでもいいぜ、好きな物を頼め。親父、俺にはお銚子だ」
「あたしにもお酒。あとは‥‥」
 カウンターから鍋を覗き込み乍ら、ひろみがおでん種を選んで行く。
 熱燗とおでんが二人の前に並べられる。
「今日は、付き合わせちまって悪かったな」
「ううん、親父さんの意外な一面っていうか、らしいっていうか、そんなのが見れて面白かったよ。それに『とっておきの店』も教えてもらったし」
 ひろみが笑う。
「んじゃあ、お疲れ様でした」
「お疲れ様でした。早いけど親父さん、来年もよろしく」
 杯が交され、ぐいっと熱燗を煽る。
「かーっ、効くね」
「ああ、お腹空いた。遠慮なく頂くよ」
 酒を酌み交わし、昔話に花が咲く。
 いつしかそれが店をあげての呑み競べになり──。
「行けぇ、姉ちゃん。ホレ、頑張れ!」
「爺さんも負けるな」
「じゃかましい、人を爺呼ばわりすんじゃねぇ」
「‥‥孫迄いるんだから、充分爺さんだろう」
 酔いが回ってか何時になく辛口コメントのひろみ。
「なんか、言ったか?」
「何にも! 親父さん、外野に絡んで休憩? それともギブアップ?」
「まだまだ、イケるぞ!」
 ──こうして下町の夜は更けて行った。


●判定:引き分け




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この小説は株式会社テラネッツが運営するオーダーメイドCOMで作成されたものです。

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