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【今日の魔現学】
■桐島めのう■

<Kassis Law/学園創世記マギラギ(NPC)>

始業のチャイムが鳴る。
今日もふわり、金の流れが壇上を舞う。

タン、トン
軽快な音に視線を向ければ、予想に違わず、小柄な体躯が目に入る。
前者のタン、は壇上に登る音。後者のトン、は彼愛用の踏み台に登る、その音であった。
「それでは」
右目を飾るモノクルは、彼の意図に反し大人びた子供であることを演出させ…彼は学者であることを強調するために用いているのだが…レンズ越しの緑の輝きを良くも悪くも引き立たせる。
そして生徒達の注目を一身に集めたと確認したところで、
「今日の講義を始める」
小柄な学者、今はユグドラシル学園の一賢者である彼Kassis Law(カシス ロウ)は、開始の合図を告げるのであった。

「今日は4回目、前回にも予告をしておいたが、色の再現について話していく。今までにも授業後半の時間を使って、おまえ達自身、実際に具現化に挑戦してもらったから、記憶に新しいとは思う…」
黒板に今日の表題として『色の具現化について』と書きながらも、話はしっかりと続けていく。踏み台の上であっても少し背伸びをしなければ、学生全員の見やすい位置まで届かない。その背伸びの瞬間だけ、声が少し途切れたりする。
「その際、個人個人で具現化した物体の色は違ったはずだし、中には色が定まらずにいた者も居たはずだ。この色が定まらない現象はなぜかというと、三角錐や立方体といった、これといって一般に色が定まらないものを題材に使っていたからに他ならない。色という概念を省き、形という概念に専念してもらったからだが、今日という授業のために先送りにした意味もある」
書き終えたかと思えば、今度は教壇の上に乗せた教材の準備に手を動かしている。ちょこまかと忙しい。
「だから今日は『色が決められているもの』を主な題材にするので頭に入れておいてくれ。誰しもが分かるような…例えば『リンゴは赤い』等だな。魔現学には限界があり、生物的なものを無から取り出しあたかも本物のように食すことはできないが…レプリカとしての具現化は可能であることは初回でも話…」
突然講義が途切れた。ここで、カシスが小さく舌打ちしたが、それに気づいた者が居たかどうか。彼は講義を中断すると共に意識を集中させ、右手に白のチョークを出現させたのだった。
…ヒュンッ!
迷わず投げたチョークは狙い違わず滑空し、教室の上空に浮かぶいびつな球体へと吸い込まれていく。赤いような緑のような曖昧な色をした…トマトのようにみえなくもない、しかし大きさは普通の十倍はあろうかという物体だ。
「いてっ!?」
吸い込まれたのと、その球体は霧散した事、生徒の悲鳴がほぼ同時だ。チョークは原因の生徒のおでこに当たり、彼の意識を途切れさせることで物体を消したのだ。吸い込まれたように見えたのは、物体が具現化途中であったためチョークが容易に透過できたに過ぎない。
「…後で実践の時間をとるのだから、先走って具現化を試さないように」
更にカシスが淡々と告げる。
「初回の自己紹介では言い忘れていたことがある。 …私の得意技はチョークの具現化だ」
それでは講義を続ける。とカシス本人としては格好良く決めたつもりだったのだが、教室には笑いの渦が巻き起こった。
「………」
彼が考えるのに要した時間は数秒。カシスは新たなチョークを具現化させた…その色は先ほどとは違い、緑で…実用性の低い、妙に蛍光色をしている。
勿論具現化したからには投げる。投げ方も違い、狙いもつけずに投げ込むような動作。
ヒュンッ…コンッ、コンコンッ…コンッ!!!
チョークは、幾人かの生徒に当たり、当たっては跳ね返るを繰り返した。だが跳ね返る回数を重ねても威力の落ちることがない。カシスの具現力の強さゆえか、あたかも生きたカエルのように教室内を飛び回った。チョークが暴れるにつれ、徐々に教室が静かになっていく。
「騒がしいと私の声が全員に届かないだろうが」
再び淡々とした口調で告げるカシスを笑う者はいなかった。

それから後はチョークの被害者も出ることはなく、つつがなく進んだといえよう。
虹の色を例に挙げた際、指名用としてピンク色のチョークが飛んだが…これは生徒の目前で止まる類で、具現とは別の魔力が働いていたために被害には含めない。
授業も終わりに差し掛かり、今は質問の時間のようだった。
「そろそろ時間か、今日はここまでとするが、まだ質問がある者は後で聞きに来るように」
短く一呼吸。口を挟む余裕は与えず、自分のペースを保つ事は常に彼が意識していること。
「次回は材質と、それらの質感の違いについてだ。今日の色の話の延長線でもあるから、実技に多く時間を割ける。 …ではまた次回」
連絡事項を伝える合間も、カシスの両手が教材を片付ける作業は止まらない。言い終える頃には丁度良い、コンパクトな形に纏まっている。
タンッ!
軽やかに踏み台を降りたちょうどそのとき、終業のチャイムが鳴った。



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この小説は株式会社テラネッツが運営するオーダーメイドCOMで作成されたものです。

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