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【街角組曲】
■桐島めのう■

<ロイ・ファクト/アシュラファンタジーオンライン(eb5887)>
<ブレイン・レオフォード/アシュラファンタジーオンライン(ea9508)>
<所所楽 柳/アシュラファンタジーオンライン(eb2918)>
<ケイト・フォーミル/アシュラファンタジーオンライン(eb0516)>
<エリヴィラ・アルトゥール/アシュラファンタジーオンライン(eb6853)>

●観察者の前詩
世界は音に満ちている

朝を告げる鳥の声
夜を支配するもの達が休む場所を探す音
代わりに置き出す小動物の声
人が今日の生活を始める音

かしましく話す声
鳥が飛ぶ羽音
客を集めようとあがるかけ声
帰り道を急ぐ足音

人に限らず
動物に限らず
草木が育つ微かな音も
世界を構成する音の一つ

生き物に限らず
善悪に関わらず
彷徨える死者さえもまた
その音の一つ

音と音が重なり合い
奏されるいくつもの歌曲
歌曲全てをあわせればそれは世界となりて

世界は音に満ちて…音で、できている

●背中合わせの奏鳴曲
エリヴィラ・アルトゥールとロイ・ファクトは恋人同士だ。
貴方がロシア王国キエフに住まいをもっているならば、キエフに在る教会に行って、その目で確認してみるといい。彼と彼女が誓いあった証が、そこに刻まれているはずだ。
そのまま、その足で冒険者街ヴィナグラート通りに行ってみるのもいいだろう。仲良く隣り合わせの、彼らの住まいがあるはずだ。
ただ、彼らの住まいを本格的に覗き込むのはお勧めしない。最近の冒険者の棲家の例に漏れず、モンスター小隊と鉢合わせしてしまうだろうから。興味本位で怪我をしてはいけないのである。
とにかく繰り返すが、彼ら二人は将来を誓い合った、冒険者家業を営む恋人同士だ。

茶色の髪をした少女が一人、男の姿を待っている。両のこぶしをぎゅっと握り、緊張をあらわな表情。その視線が見つめる先は、想い人が住む家のドア。
服も機能性を重視したいつもの普段着とは違い、袖が広がったシャツにスカート。勿論レースやリボンも付いている。彼女自身の髪色と近い、明るい茶色の布が腰周りを覆い、全体を引き締めている。
つまり、今のエリヴィラは着飾って、隣の家のロイが出てくるのを待っていた。
今日は二人揃って、依頼もなくオフの日。たまには外で一緒に食事でもしようと、昨日ロイを誘ったのはエリヴィラのほう。お前も毎日家事が大変だろう、と頷いてくれたロイの微かな表情の変化が嬉しい。
今ではロイも、自分の自宅で食事を共にしているから、普段の自分を彼に知ってもらえて居るわけで。知り合ったはじめの頃より、自分を見てくれている確かな実感がして、それもまた嬉しくなる理由の一つだ。

キィ…
ロイが出てきた。家の前に待つエリヴィラを見つけると、無言のまま彼女の隣にやってくる。
「待たせたか?」
「ううん、今出てきたとこだよ」
(本当は早く顔を見たくて、少しだけ早く出てきてしまったのだけど)
待っている時間も楽しかったし、待っていたなんていうのも恥ずかしいから、ただ否定の言葉を口にする。
不意に、ロイがエリヴィラの頬に触れた。
「ろ、ロイさんっ!?」
突然の事に真っ赤になるエリヴィラ。ロイは気にせず、頬…違う、彼女の髪に隠されている耳に触れ、すぐに離した。
「冷たいように思うが」
口では要点だけだが、目が嘘を見抜いたと告げている。青い瞳が、エリヴィラを真っ直ぐに見つめる。
「そういうときって、普通は手を触って確かめるんじゃないかな」
まだ頬を染めたままのエリヴィラは視線をそらし、少しの気落ちを隠すように、照れ隠しを装って切り返した。
「お前は耳の方が正直だ」
それに近い方がよく見える、とそっけない。そのまま背を向け歩き出すのは、やはりいつものロイだ。
…でも、隣に居てくれる。見られていないのをいいことに、エリヴィラは小さく微笑んでから追いかけた。

●壁際の追復曲
「足りない、いまひとつ足りないね。そう思わないかい、ケイト嬢?」
「う…うむ、羨ましいな」
さきほどまで繰り広げられていた恋人達の姿を、見守っていた存在が二人。会話のようで会話になっていないこの二人、どちらも女性。
近くの棲家の物陰に身を隠し、顔だけを出して様子を窺っていたようだ。ご丁寧にも、二人の後方には棲家の壁と同じ色をした、大きな盾の様な看板のような、とにかく一枚の板状のものが立っている。キエフの一部で流行っているらしい、携帯壁と呼ばれるアイテムだ。どこでも隠れられると言うスグレモノ。裏側を覗き込むのはマナー違反。
自分より頭半分ほど背の高い女に声をかけたのが、所所楽柳。独り身の楽士。ジャパン出身の人間だが、こうして今はキエフで生活し、カップル達をからかうのをライフワークにしているらしい。先の二人に対しても、仲人を申し出ていたりする。
声をかけられた方はケイト・フォーミル。ハーフエルフのファイターだ。普段は力自慢の優しいお姉さんだが、壁隠れの達人でもある。携帯壁は彼女の私物。今日は柳に呼び出され、こうして二人でデバガメなんぞしている。独り身かどうかは…先ほどの台詞から察するに、可能性は高そうだ。

「どうしてそこですぐに離れるかな、男ならもう一歩進んでしまえばいいのにね。エリヴィラ嬢だってその方が嬉しいだろうに」
「うむ、好きあって居るなら、人目などないだろうな」
先ほどから好き勝手なことを言いあっている。とにかく思ったことが言えればいいようだ。
「あの方角なら、水竜亭かな?」
二人の向かった方角を眺めながら、柳は携帯壁の内側にある取手に手をかけた。
「うむ、そうだろうな …や、柳。それじゃ隠れられないではないか」
ケイトが慌てて押し留めようとする。わたわたと腕を振る姿は可愛らしいと、柳は思う。からかい甲斐もあるしね。
「ケイト嬢、そろそろお腹がすかないかな? 僕はこれから、水竜亭に食事に行こうかと思うんだけど」
「うむ、確かにお腹すいたな」
「それじゃあいこうか」
咄嗟に頷いたケイトにくすりと笑いかけ、彼女が手を離した隙に携帯壁を持ち上げ移動を始める柳。
誤魔化されたケイトが、これが二人を尾行するためだと気づくのは、水竜亭の前についてからなのだった。

●お人好しの接続曲
ブレイン・レオフォードがキエフの街を歩いていると、見知った姿を見かけた。それも四人。
そのうちの二人は、ブレインも見知った店である水竜亭に向かっている様子。残りの二人は…その二人のいくらか後方を進んでいるようなのだが、なぜか大きな障害物のようなものを持って、道の端にばかり寄っている。
前者の片割れロイはブレインと同郷だ。最近になってキエフに居ることを知ったのだが、昔からの付き合いだ、見間違えるはずがない。一緒に居るのは、話に聞く恋人だろう。
後者の片割れである柳はブレインがジャパンに居た頃に知り合った、今では棲家も隣の友人だ。知己が傍に居ると安心するからと乞われて隣に越したのだが、その意味にブレインはまだ気づいていない。その彼女と共に居る女性は…確か、何度か依頼で見かけたことがある。

そこまで考えたところで、ブレインは柳とケイトに追いついた。ロイとエリヴィラは水竜亭のドアに手をかけたところ。とりあえず、ケイト達に後ろから声をかける。
「やあ二人とも、ここで何をやっているんだ?」
「「うわぁっ!?」」
こんにちは、と続けたが、叫び声にかき消されてしまった。驚くとは思っていたが、これは予想以上だ。
「柳さん?それに、ケイトさんも!」
「…ブレイン」
前方の二人が気づき、こちらを振り返っている。エリヴィラは純粋に驚いた顔。ロイはまたか、とでも言いたそうな顔。
「あ〜あ、予定より早く見つかってしまったね」
皆で一緒に食事にしないか? と悪びれずに纏める柳の神経はきっと、太いに違いない。

●水竜亭の喜遊曲
食事会はおおむね和やかに進んでいった。
普段は四人で座る円卓に一つ椅子を追加してもらい、五人は同じ卓に着いていた。円卓は充分な大きさだったため、それほど窮屈ということもない。ロイ、エリヴィラ、ケイト、柳、ブレインの順で一周する形になった。

せっかくの二人のデートを邪魔された形になったエリヴィラは、はじめはいくらか不満そうな顔をしていた。だが、柳にからかわれ、ケイトが相打ちし、ブレインがそこで疑問を投げかけ更に続けさせるというコンビネーションにいつしか乗せられてしまい、時に顔を赤くし照れながらも受け答えていく。
席はしっかりとロイの隣を確保しているためエリヴィラは気がつかなかったが、始終口数の少ないロイが時折エリヴィラを見て、目を細めていたりなどする。これは普段無表情のロイを見慣れていないとわからない変化で、エリヴィラがもしそれを見ていれば、より頬を染める結果となったに違いない。
そんなロイをみて変化が顕著だったのはブレインだ。彼がこの中で一番ロイとの付き合いが長い。ロイが目を細める様子に彼は簡単に気づいた。そしてそれを見る度に表情が揺れていたりする。ブレインは感情が顔に出やすい方だったので、ブレインを頻繁に見ていた隣の席の柳は勿論の事、ロイの次に口数が少なく皆の様子を見る側に徹していたケイトもそれに気づいた。
(そういえば、この二人は積極的に言葉を交わしていないのだな、うむ)
改めて見ていると、男二人隣同士に座っている割に、お互い余り顔を合わせていない。違和感があると思えばこれか、とケイトは思う。
(気まずい…とでもいうのだろうか)
ケイトが少し首をかしげると、隣の柳が気づいたのか、耳打ちしてくる。
「気になるかい?」
「いや! …その、なんだ…少しな」
はじめに耳にかかった息に驚いて、つい大きな声になってしまった。他の三人の視線もケイトに集まる。
くすり、と柳の笑う声。
「すまないけど、僕らはちょっと席を立たせてもらうね? …ほら、エリヴィラ嬢、君も」
無理矢理にケイトとエリヴィラの腕を引いて席を立つ。ブレインはともかく、ロイも心持ち呆けたような表情だ。
「女性は連れ立つものだよ?」
有無を言わせず微笑んで、彼女達は席を立った。
まだ食べ終わってないのに、とエリヴィラの声が遠ざかる。
残ったのは男二人。お互いにどうしたものかと顔を見合わせたのも仕方がないだろう。

●幼なじみの遁走曲
最初のうちは無言で居た二人だが、しばらく待っても女性陣三人が戻ってこない。
どうやら謀られたらしいと気づいて、先に話し始めたのは、意外にもロイの方だった。
「…元気か」
他愛もない一言。脈絡も何もないが、それがロイなのだと知っている分、ブレインもすぐに返した。
「それなりにね。お前は…ま、元気じゃないって方が珍しいか。恋人まで作ってるくらいだもんな」
「…」
すぐに口を閉じるロイ。
「そうやってすぐに黙るのも変わってないんだな。昔っからそうだ」
義務を果たしたと言わんばかりの沈黙に、今度はブレインから声をかける。
「…変わってないお前になら、簡単に勝てそうだよな?」
にかりと笑って続けるブレイン。その笑顔こそ、ロイの知る昔のブレインそのままだ。
「早合点するのは、昔からお前の悪い癖だ」
「それこそ早合点はお前の方だろ。僕はドラゴン退治にも行ったんだぞ?」
「…お前一人の手柄ではないだろう」
「負けそうになると、突然口数が増えるのも変わってない。そういうなら勝負してみるか?」
「いいだろう。 …挑発するところも変わってないな」
次第に会話の合間にあったはずの間がなくなり、お互いに語調も熱くなっていく。
「「お前こそ」」
声がぴたりと揃った。
「「………」」
沈黙する間の長さも同じ。
「わかった、酒飲み勝負でどうだ」
「構わない、何にしろ負けるつもりはない」

一転して女性陣。彼らの後方にある、少し離れた席に陣取りなおし様子をうかがっていた。
エリヴィラは、柳がなだめて説得…誤魔化し、ケイトはエリヴィラが飛び出さないよう抑えていたりする。これは柳の指示。
「二人を放っておいていいのかな? なんだか変な雰囲気なんだけど」
「んー、大丈夫じゃない?」
「大丈夫って… って、なんだか樽を運んできてもらってるんだけど、あれってもしかして、エール?」
「うむ、エールだな」
「ケイトさんも頷いてばかりじゃなくて、説得とかしようと思わないの?」
「まあまあ、腹を割って話すにはお酒の力が必要だってことだろう?」
「それにしたって多すぎー!」
「エリヴィラ、騒ぐと気づかれてしまうぞ」
「そうじゃなくてー!」
「エリヴィラ嬢落ち着いて」
「無理だってばー!」
「二人ともそうお酒に強くなかったはずだから、すぐ終わると思うよ、大丈夫」
「そういう意味の大丈夫じゃないー!」
少女一人を取り押さえる女二人の三人組ということで、別の意味で注目を浴びたりしていた。

●夢連想の小夜曲
柳の予想通り、二人の対決はあっさりと終わった。
一方が次の杯を空けるごとに、負けじともう一方が同じ数の杯を空ける。酒の楽しみ方も何もなく、それだけ急に飲み続ければすぐに酔いも回るというもの。
結果は、二人ともダウンで勝負がつかずに引き分け。

二人が卓に突っ伏した途端にエリヴィラがロイに駆け寄る。給仕の少年に水をわけてもらい、抱き起こしてそれをロイに飲ませ介抱していく。
すぐに目を覚ましたロイは心配顔のエリヴィラを認めると、小さく感謝の意を述べた。
「悪いな」
「あたしがしたくてやってるんだから、気にしないで。まだお水いる?」
「そうだな…頼む」
もう一杯の水を頼み、改めてロイの隣に座るエリヴィラ。視線は真っ直ぐロイに向けたままだ。
「…どうした」
「こういうのならまだ、大丈夫だけど。 …心配させるようなこと、しないで」
お願い、と碧の瞳が静かに懇願する。いつかみたいに、無理しないで。傍に、居て。
言外の言葉を、いつかの記憶をロイが読み取ってくれるかはわからない。それでも、伝わるように、視線を結ぶ。
「エリヴィラ」
「…うん」
「強くなってみせるさ…お前を、守れるくらいにはな」

●追復曲の変奏曲
恋人二人の雰囲気を察した柳とケイトは、ブレインを引っ張り、先ほどまで女三人で居た席まで移動していた。
介抱を進んでやろうとしていたのは柳だが、そこは素人。結局、家事に手馴れたケイトがブレインの介抱を主動する。
「…こういうとき、役に立てないのは堪えるね」
「だ、大事な人なら特に、世話をしたいと思うからな、うむ」
「そういうわけじゃ…」
「違うのか、それは、すまなかった」
しゅんとするケイト。素直さに当てられたのか、慌てて訂正する柳。
「…違わないけど」
ぽつりと零す姿は、いつもの彼女らしくない。
「い、以前背中を押してもらった事が、あってな…柳、背中を押す役なら、じ、自分でもできる」
だから、後悔はするな。この場の誰よりも経験を重ねてきたケイトの言葉は、沁みる。
「そのうち、お願いすることもあるかも。でもまだ僕は、あの二人を見届ける方が先かな」

ブレインが目を覚ましたときには、二人は恋人達を見守る体勢になっていた。ご丁寧に、携帯壁も使用している。逆に目だってはいるのだが。
(さっきも見た風景だな)
今度は声をかけずに、二人の後ろから恋人達の様子を窺ってみる。
気づいた二人が、ブレインのために場所を空けた。
「いい雰囲気だな、うむ」
「これは結婚式まで秒読みかな?」
二人の言うとおり、恋人達の姿は、先ほど以上に睦まじく見えた。

●感慨無量の練習曲
「それじゃ、僕は先に失礼するよ。酔い覚ましに少し動きたいから」
一足先に水竜亭を出たブレイン。まだ少しお酒の残る足どりではあるが、しっかりと歩みを進めていく。向かう先は郊外の森。
無性に素振りをしたくなった。昔の思い出に浸ってばかりいた分、気を紛らわせたい。
(あいつにあんな顔させる子が、いたんだな)
ロイが過去を忘れたわけではないと分かっている。忘れたのだと思い込んで、過去にこだわっていたのは自分の方で。
それに気づいた今、素直に彼らを祝福できる、そう思う。
「あいつらにはこのまま上手く行ってほしいな」
それは心からの祈りだ。

●傍観者の後詩
全ては音

音はどこにでも在る
在ることが音であることの証

無いことが音でないとするならば
音で無いものは無音であると

無音さえも音の一つであるならば
全てが音の一部であると

全ては音に還る



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この小説は株式会社テラネッツが運営するオーダーメイドCOMで作成されたものです。

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