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阿鼻叫喚オリエンテーリング
■神無月まりばな■

<石神・月弥/東京怪談 SECOND REVOLUTION(2269)>
<浅海・紅珠/東京怪談 SECOND REVOLUTION(4958)>

ACT.1■謎の当選メール

 一般的に「遠足」というものは、学校行事に組み込まれているイベントなのではなかろうか? 
 ブルームーンストーンとして生を受けて100年、立派な魔性系つくも神に成長した石神月弥であるが、遠足にはとんと馴染みがない。なにしろ蔵生活が長かったので、未だに学校生活そのものが未知の世界なのだ。
 とはいえ、たとえば夢の中の学園に強引に高校生として召還される等、イベントフラグが立てば別であるが。
 そして、その種のイベントというのは、いつも突然に発生する。
 今回も――

 ☆★☆★ ☆★☆★ ☆★ 当選のお知らせ ☆★☆★ ☆★☆★ ☆★

 石神月弥(会員番号2269)さま

 いつもご利用ありがとうございます。このたびの弊社特別企画、
『白やぎ号で行こう! ちょっぴりハードな世界観超越遠足』ツアーにつきまして、
 厳正なる抽選により、全異世界にいらっしゃる数十億の会員さまの中から、
 見事あなたさまが当選し、無料にてご参加の権利を獲得なさいました。

 白やぎ号の乗車チケットとして、添付書類をプリントアウトくださいませ。
 集合場所は、ご存じの寺根駅。集合時間は19時30分です。

 どうぞ、楽しい遠足をお楽しみください。

 ――オリジナルツアー・マジックキングダム・カンパニー(略称OMC)より

 ☆★☆★  ☆★☆★  ☆★☆★  ☆★☆★  ☆★☆★  ☆★☆★

 こんなメールが、月弥のアドレス(フリーメール・家だと保護者の目が光っているので、おもにゴーストネットOFFにて確認)に届いたのである。
「OMC……? 知らない旅行会社だなぁ。それに俺、会員なんかじゃないし」
 昨今の、迷惑メールを配信する悪徳業者の跋扈は目に余る。生き馬の目を抜く東京に暮らす者の常識として、星マーク付きの「☆★当選のお知らせ☆★」なとどいう件名を見た日には、開封前に即削除であろう。
 月弥とて、年相応……とはいかぬものの、それなりの分別はある。
 だが、困ったことに、分別よりは好奇心の方が勝っているのだった。
「……でも面白そうだな。行っちゃおう」
 にこにこしながらチケットをプリントアウトしつつ、さて、リュックの中には何を詰めようかなどと考える。
 本日の外見年齢は12歳。冒険に挑戦したくなるお年頃であった。

 同じようなメールは、浅海紅珠も受け取っていた。
 正確には、東京湾の別宅にいた師匠あてに届いたのだが、紅珠はその権利をさくっと譲られたのである。
 まるでそれが当然であるかのように。
「………………怪しい。ものすごく」
 紅珠は率直にそう思った。若い分、師匠よりは常識人であったし、本能的な勘も優れている。
 従って、譲られて嬉しい権利であるかどうかの判断もつくというものだ。
 しかしながら、紅珠はその若さゆえ、飽くなき挑戦心も持ち合わせていた。
「うーん。でも、遠足か。運動できていいかも」
 ときに、若さとは無謀なものである。
 
 ともあれ、紅珠もまた、寺根町駅に集合し、白やぎ号に乗ることになったのだ。

ACT.2■心の準備もないままに
 
「つぎはーしゅうてん。わくせいおーえむしー。わくせいおーえむしーでございますー」
 車掌服を着た2頭身の黒やぎが、アナウンスしながら、とことこと客車を突っ切っていく。
 さまざまな世界からやってきた、遠足ツアー参加者のざわめきが車内を包む。
(惑星OMCだってぇ?)
(白やぎ号というのは、銀河鉄道でございましたの?)
(んなわけないだろ。車窓から普通に日の出が見えたぞ)
 とりあえず真相はおいといて、9時間半という長い電車の旅は終わった。停車した白やぎ号から、次々に人々は降りていく。
 これから彼らは、目的別に、それぞれのコースに分かれるのである。
「ぱんふれっとほしいかた、どうぞー」
「あ、ください」
 降車口で黒やぎ車掌が配っていたコース説明パンフレットを、月弥は広げた。
「いろんなコースがあるんだな、どうしようかな……」
「俺にも一部」
 月弥のすぐ後ろから、紅珠も手を伸ばした。なりゆきで、月弥と並んで歩きながら、同じようにコースを物色しはじめる。
「東京から来たの? ひとりで?」
「うん。そんなとこ」
「同じだね。俺、石神月弥」
「浅海紅珠」
 東京湾の別荘から寺根町駅近くまで、師匠の使役する巨大タコの頭に乗ってきたんだ、とは、いくら闊達な紅珠といえど、初対面の男の子にカミングアウトできない。しかし、自分と同じ年頃に見える月弥に、紅珠は同じクラスの男子に対するような気安さを感じた。
「コース、決まった?」
「まだだけど」
 パンフレットをぱらぱらとめくり、とあるページを紅珠は指さす。
「俺、『古の隠れ家』縦断オリエンテーリングがいいかなって思うんだ。アトラクションクリアして、スタンプ集めて。お散歩がてら、運動にもなりそうだし。どうかな?」
「いいかもね。俺もそうしよう」
 そして、ふたりは、元気に目的地へ向かった。
 
 なお、ここに至るまで、月弥も紅珠も、まったくといっていいほど事前情報は持っていなかった。そしてパンフレットには、必要最低限のことしか書かれていない。
 ――だから。
 ここでどんな恐怖のアトラクションが待ちかまえているかは――知るよしもなかったのである。

ACT.3■オリエンテーリング、開始!

「いらっしゃいませー。すたんぷようのかーど、どうぞー」
 入口では、係員の白やぎが、蹄でカードを挟みながら渡してくれた。
「ありがとう、やぎさん」
「へえ。アトラクション係って、全員白やぎなんだ」
 北欧風ログハウスを模したゲートと、2頭身の白やぎに心和まされたのもつかの間であった。
 中に入るなり、開けた視界にふたりは息を呑む。
「うわ……」
「なんか、すごいね」
 広大な敷地には、おどろおどろしい形のピラミッドやら、いったいどこから入ってどこから出ればいいのか、とんと不明な緑したたるジャングルやら、超巨大ミラーハウスやら、ありえない角度で、うねうねとレールがのたくっている摩訶不思議なジェットコースターやら、直径200mくらいはあろうかと思われる巨大観覧車やらが、激しい自己主張をしていたのである。

 ☆★ ☆★

「きゃー! うがぁぁぁー! いやぁぁぁぁ〜〜〜〜!!!!」
「紅珠。落ち着いて。猫系サーヴァントといっても、まだほんの子猫だよ」
「近寄るなぁぁぁ〜! なつくなぁぁ〜〜!! あっち行けっしっしっ」
 まずはここから、と、軽い気持ちで入ったジャングル「サーヴァントサファリ」で、紅珠は絶体絶命の危機に陥っていた。
 この密林は、どうやら野良サーヴァントを放し飼いにしてある危険いっぱいの場所のようだ(もちろん、そんなことはパンフのどこにも乗っていない)。あちらの葉陰、こちらの木の上に、赤い目を光らせた獰猛な存在が待ちかまえている。
 しかし、某ゲーム世界でレベルを上げた月弥にとっては、サーヴァントは驚異ではなかった。
 何しろ、究極奥義『超魅了』を身につけているし、まして、遭遇するサーヴァントは、ドラゴン、ケルベロス、フェンリル等の、何となく馴染み深いものである。『ワード・オン・コマンド』をかけて使役することすら可能であった。
 だから、子猫なサーヴァントなど、むしろペット扱いのはずだが……猫が天敵の紅珠にとっては、そうでもないようだった。
 絶叫しながら、ものすごいスピードで紅珠は逃げ回り、やがて――
「あ。すごい。早い」
 ぐるぐる走ったあげく、月弥の前を子猫に追いかけられたまま横切り、出口に一直線。
 驚異的スピードの、クリアであった。

 スタンプをゲットして勢いづいた(?)まま、ふたりは「伝説の金字塔」へと進む。
 この階段状ピラミッドは、アンデッドモンスターの巣窟であるらしいことがわかったのは、やはり足を踏み入れてからだった(もちろんパンフには以下略)。
 ここはつまり、ダンジョンであるからして、月弥的には楽勝……ではなかった。
 クリア方法は確かにダンジョン風味なのだが、問題は。
 月弥の魅了効果が、ここのアンデッドには変則的に発現してしまったことである。
 つまり皆、癒しと浄化を求めて、わらわらわらと月弥に群がって身動きを取れなくしてしまったのだ。
 アンデッドの皆さんの下敷きになった月弥を、紅珠は懸命に発掘しようとする。
「おーい。月弥? 生きてるか? どこにいる?」
「ミイラさんの下〜〜〜。重い〜〜〜。包帯がカビくさい〜〜。そこのゾンビの人、手が腐って落ちましたよぅぅ〜〜」
 月弥救出は不可能かと思われた矢先。
 天の助けが現れた。
 一天にわかにかき曇り、バケツの水をひっくりかえしたようなスコールが降ったのだ。
 おかげさまで月弥は、崩れたミイラの下からはい出すことができた。さらに、巨大な滝と化したピラミッドを、まるで鯉の滝登りのように逆泳する紅珠の尻尾に、命からがら掴まることができたのである。

「だ、だめだ。観覧車にでも乗ってゆっくりしよう」
「賛成。俺も尻尾が乾くまでは走ったりできないし」
 這々の体で、ふたりは「ギガテンプルム」に移動した。
 座席に座って、あーやれやれとひと息つく。観覧車はゆっくりと回り始め、徐々に展望が開けてきた。
「いい眺めだね」
「わ。さっきのピラミッドがあんなに小さい」
 だが、下界の様子を余裕で見下ろせた時間は短かった。
 なぜならば、「ギガテンプルム」は、あまりにも巨大だったからである。

 ああ――地球って丸いんだな、と実感できるほどに。

「…………ぅぅぅぅぅ」
「………………ぉぉぉぉぉ」
(……………………と め で)
(…………………………お ろ じ で)

 ふらふらになりながら地上に到着したときは、踏みしめた大地が骨身に浸みるほど嬉しかった。
 もう、地上から離れたくない、と激しく願ったふたりだが、まだアトラクションは残っているのである。
 それも、最強の絶叫マシン「コアビークルコースター」が。

 ☆★ ☆★ 

(もう、だめかも……。100年か……長いようで短かったな)
(さよなら、ばぁちゃん。俺、もう海に戻れない。あいつに……伝言を)
 心ここにあらず、というか、魂を遥か遠くへ飛ばしたまま、地上30cmを浮き上がって、ふたりはひたすらレールの上を疾走していた。
 すでに、絶叫さえ出てこない。
 彼岸のかなた、お花畑が広がり、白っぽい誰かが手を振っているような気さえする。

「おつかれさまでしたー」
 一体、どれだけの時間をこのマシンに費やし、いつそれが止まったのか。
 気づいたときには、月弥と紅珠は、ぺたんと地面に座り込んでいた。
「すたんぷおしましたよー」
 係員の白やぎが、放心状態のふたりの膝に、スタンプ済カードをひらん、と乗せていく。

 ようやく、月弥は気づいた。
 どうやら、手(前足?)を振っていた白い誰かは、係員だったらしい、と。
 
 
ACT.4■コースクリアなるか?

 とうとう、最後のアトラクション、「ヒステリックミラーハウス」である。
 ここは、サバイバル系でも絶叫系でもない、おとなしめの迷路アトラクションとあって、疲労困憊していたふたりにはありがたい内容だった。
 数百枚もの鏡が、さまざまな角度を取りながら壁を構成し、大きな迷路を形作っている。映し出される光景は、幻想的な万華鏡となり、内部の照明の演出とも相まって、とても美しい。
 ふたりはしばらく、鏡の織りなす幻想に見とれながら、無言で通路を歩いていた。
 迷路そのものはさほど難しくはなく、モンスターが出る気配もない。この分だとすぐクリアできそうだな、などと思いながら。

 しかし、甘かった。
 曲がりくねった通路が、一面に巨大な鏡のある広間に突き当たり、そこを通り抜けようとした瞬間――
 月弥のリュックが、いきなり発火したのである。
「えっ? わ? なんでっ?」
 慌ててリュックを下ろし、中のミネラルウォーターをかけて消し止める。幸い、被害は少なかった。おやつの袋が、少し燃えてしまったのを除けば。 
 紅珠は鏡の壁に近づいて手を触れ、さあっと青ざめた。
「この壁全体が凹面鏡になってるんだ。月弥は今、その焦点に立っちゃったんだよっ」
「危ないなぁ……」
「うわ、移動しちゃだめだ! また」
「あああ! 俺の大事な『暴君パパはネロ』が! 『うまいんだ棒チョコバナナ味』が燃える! ていうか、リュックが! リュックがぁぁぁぁ!」
「ええい、こうなったらっ! 最後の手段!」
「??」
「歌う! 歌ってやるっ!」
 毒には毒を、非常事態には非常事態を。
 紅珠は歌った。張りのある声に、魔力を宿らせて。

 一種の超音波を受けたがごとく、鏡が振動する。やがて、ぴしぱしとヒビが入り始め――

 ぱり〜〜〜〜ん。ぱらぱらぱら。

「ヒステリックミラーハウス」全体の鏡が、粉々に砕け散ったのだった。

 ふたりはほどなく、危険な迷宮から無傷で出ることができた、が。
 果たして、係員の白やぎが、最後のスタンプを押したかどうかは――定かではない。


 ――Fin.



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この小説は株式会社テラネッツが運営するオーダーメイドCOMで作成されたものです。

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