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趣を味わう者、食い尽す者!
■高原恵■

<ヒルコの癒し手・碧/武神幻想 サムライキングダム(w2z009)>
<ヒト族の剣匠・翔/武神幻想 サムライキングダム(w2z063)>
<ヒト族の戦巫女・明日香/武神幻想 サムライキングダム(w2z066)>
<ヒト族の姫巫女・紫紋/武神幻想 サムライキングダム(NPC)>
<超人覇流躯・砲巖/武神幻想 サムライキングダム(w2b061)>

●がたごと揺られてやってきた
「到着したです!」
 駅の改札口から飛び出してきた瞬間、両手のこぶしを朝の空に向けて突き上げた可愛らしい少年――碧。先程降りてきた夜行列車に揺られて、遠足にやってきたのである。
 もちろん碧1人だけでやってきた訳ではない。翔に明日香、砲巌、そして紫紋も一緒である。
「はは、朝から碧は元気だなあ」
 てくてくと集合場所へ早く向かおうとする碧の姿を、翔が微笑ましく見つめている。
「ええ、本当に……」
 紫紋も目を細めてまぶしそうに碧に優しげな視線を向けていた。
「なんの! 元気さなら私も碧に負けておらんぞ!!」
 人差し指を立てた右手を高らかに上げて、砲巌が対抗するかのごとく言い放つ。確かにその言葉に嘘はなく、大人たちの中では一番元気よさそうであった。
「……朝からどうしてそんなに元気なんでしょう」
 そうつぶやいたのは、大人たちの中では一番元気がなさそうな明日香であった。若干眠た気な目を軽くごしごしと擦る。
「どうしたのです」
 紫紋が気になったか明日香に尋ねた。
「枕が……」
 ぼそっとつぶやく明日香。なるほど、枕が違ったからか眠りにくかったのか。納得する紫紋。すると翔がニヤッと笑って明日香に言った。
「そうか、やっぱり慣れた枕の方がいいのか」
 何故か自分の腕をさする翔。
 ゴイン!
 ……鈍い音とともに、翔が頭を押さえてうずくまっているが、気にしないよーに。
「参りましょう、紫紋様」
「……よく分かりませんね……」
 何やら静かに怒りつつ歩き出す明日香の後を、首を傾げながら紫紋がついてゆく。前方には、早く来てほしいとばかりに碧がぶんぶんと手を振っていた。

●京料理をあなたへ
 さて、夜行列車を降りた後はいくつかのコースに分かれて遠足を楽しむこととなっていた。当然ながら碧たちもコースの1つに参加していた。
 いくつか見て回った後、碧たちがやってきたのは『京都・寺田屋』なるいわゆる食事処であった。時刻はちょうどお昼時となっていた。
「ここでは京料理を楽しめるようですわね」
 駅を出発する際に配られた説明書きを読む明日香。まあ店の名に『京都』とついていて、実際に出てきたのがメキシコ料理だったりするとそれはそれで面白くもあるのだが、普通に考えてそういうことはなく。ごく当たり前のことである。
「今日料理ですか? じゃあ昨日料理や明日料理もあるですね!」
 元気よく言う碧。いやあ、期待通りのボケをありがとう、碧くん。でも残念ながらそっちの『きょう』ではなく。
「……という訳です。分かりましたか?」
 紫紋が静かに碧へ説明をした。
「あう、違ったですか」
 しゅんとなる碧。そんな碧の肩を翔がぽむと叩く。
「何、食えば皆一緒だ」
 翔の言葉はある意味真理ではあるが、料理人からすればどうなんだという言葉なのでちと微妙。だが翔なりに碧を励ましていることは伝わってきた。
「食うといえば……」
 ふと思い出したように砲巌が翔を見た。その砲巌の視線に翔も何事か気付いた様子。
「よし! 行くか砲巌!!」
「もちろん! 決まっているだろう!!」
 店の前でがしっと右腕をクロスさせてから、不敵な笑みをたたえて入ってゆく翔と砲巌。その2人の姿に明日香はピンときた。
「……また、ですの? 行きの列車でも、散々食べたはずですわよね」
 呆れた表情で溜息を吐く明日香。実は行きの列車の食堂車で朝食バイキングが提供されていたのだが、翔と砲巌の2人は朝早くにも関わらず結構な量を食べていたのである。そりゃ明日香も呆れるはずだ。
 ともあれ店へ入る一行。中はいわゆるテーブル席と座敷席とがあった。
「お庭が見えるのがいいです!」
 この碧の一言で、よく整えられた庭に面する座敷席へ一行は陣取ることとなった。時折聞こえてくるししおどしの音が、何とも言えぬ風情があってよい。
「これこそわびさびですね……」
 目を閉じ、耳だけでししおどしの音を楽しむ紫紋。ところが明日香があることに気付く。
「はて? ししおどしはどこに……?」
 庭をじっくり見ても、見える範囲にししおどしが見当たらないのだ。もしかすると見えない所にあるのかもしれないが、それにしては音が近過ぎると明日香は思った。
 ここで種明かし。ししおどしの音は実はテープで、一定間隔で鳴らしていたのであった。こういう場合、それに気付かぬ方が幸せであろう。
 けれども男2人に、そんな音のことなど関係なく。座敷席に上がって早々、翔と砲巌はお品書きをつかんで真剣な表情で見つめていた。
 やがて注文を取りに、和服の店員が一行の所へやってくる。
「ご注文お決まりですやろか」
 おお、京言葉。店員にこういうことを徹底させるのなら、何故にししおどしを作らないのかと思わず言いたくなるが、それはまあ置いておくとしよう。
「わたくしは、このコースの松を。紫紋様は」
 紫紋へ注文を尋ねる明日香。小さく頷いたのを見て、明日香は店員へこう言った。
「では同じ物をもう1つ」
 どうやら紫紋も一緒の物でいいようだ。
「俺はこのお品書きの右から……」
 翔がお品書きを店員に見えるように持つ。店員もお品書きを注視するが――。
「左端まで全部!」
 ちょっと待てい! 翔よ、いきなり何を言い出すのだ?
「はあっ!?」
 ほらほら、思いがけぬ注文に、店員が目を丸くしてしまっているではないか。
「ミー、トゥー!!」
 言ってるそばから砲巌、お前もかあっ!!
「ぜ……全部が2つ、でよろしおすな?」
 しかし店員もさすがにプロ、どうにか立ち直って注文を記録する。そして最後に残った碧の注文だけれども。
「碧も挑戦です!」
 やめとけっ!!
「男らしく碧も頑張るです!!」
 いやいやっ、絶対無理だから、碧くん!!
 当然のことながら女性陣からストップがかかるが、碧はふるふると頭を振る。結局、男性陣が『碧は食べたい物だけ食べろ』と助け舟を出して、結局全部が3つという注文となったのである。
 前途多難な昼食は、こうして始まった……。

●味わう者、食い尽す者
 座敷席はちょっと異様な雰囲気であった。それもそのはず、傾向が見事に真っ二つに分かれてしまっていたのだから。
 女性陣の方はこれぞ定番、京料理のコースが順番に出されてゆく。先付八寸から始まって、造りに焼き物、煮物、蒸し物、油物、酢の物などなどと。
「……さ、紫紋様」
「ええ。お食事は美味しくいただきましょう」
 大人の男性陣のことはさっくりと無視して、目の前の京料理に舌鼓を打つ明日香と紫紋。あっさりだが、それでいて深みのある味。料理自体に込められた趣とともに女性陣2人は味わっていた。
 一方の男性陣。単品料理がつらつらとテーブルの上に並んでゆく。それを片っ端から食べ尽さんとする翔と砲巌。もちろん単品料理にも趣は込められているはずだが、楽しむうんぬんではなくそれごと飲み込んでいるように感じられた。
「よし次の椀だ!」
「何のっ、負けんぞ!」
 大食いのみならず、早食いの要素まで入っている翔と砲巌の2人。明らかに料理の届くスピードが追い付いていない。ちなみにそんな2人を女性陣が冷ややかに見ていることは、あえて触れないことにする。
「ふえー、凄いですー」
 翔と砲巌の食べっぷりに感嘆する碧。けれども碧も負けてはいられないと思ったようで、果敢に目の前に並んだ料理へ挑戦する。
「碧も食べますです!」
 ……と意気込みはよかったのだが、そこはそれ、子供のやること。大人たちを真似しようとしてもなかなか難しい訳で。
「はう、お魚に骨がいっぱいあるです!」
 焼き魚に手こずってみたり。
「何だかむにゅむにゅするです……」
 生麩の感触に戸惑ってみたり。
「……酸っぱいですー」
 酢の物そのものにやられてみたり。
「お腹が大きくなってきました……」
 そして案の定、途中でお腹が大きくなってきてしまう始末。だから無理だと言った訳で。
「ああやっぱり……」
 ふう、と溜息を吐く明日香。予想が的中してしまった。
「どうしてあんなに食べられるですか……? 碧も頑張るです……」
 首を傾げつつも、碧は箸を手放さない。なかなか見上げた根性だ。
「無理をしてはいけませんよ」
 けれども紫紋が、それでもまだ食べようとしていた碧を諭す。子供が好きゆえ、紫紋としては碧に無理はさせたくないのである。
「……はいです」
 しゅんとなる碧。すると翔と砲巌が、ニカッと笑って碧へ言った。
「大丈夫だ、俺たちが食べてやろう」
「うむ、食い尽してやる!」
「……ごめんなさいです」
 碧がぺこんと頭を下げる。その表情は寂しく、申し訳なさそうであった。何であれ、自分から言い出して、途中で音を上げてしまったことが悪いと思ったのであろう。
「碧」
 翔と砲巌が再び大食い&早食い対決に戻ったのを見てから、明日香がちょいちょいと碧を手招きした。すすっと寄ってゆく碧。
「最後に出てくる果物を一緒に食べましょうか?」
 明日香がにこっと微笑んで碧に言った。たちまち碧の表情が明るくなる。
「はいです!!」
 にこにこにこ、笑顔の碧。それを目を細め、紫紋が見つめていた。
「ははは、まだまだだ! まだ食えるぞ!」
「ぬぬ、しぶといな!! 勝負は私が……イチバ〜ン!!」
 ……翔と砲巌の勝負はもう別次元の出来事となりつつあった。正直な話、どっちが勝とうが明日香や紫紋など女性陣にとってはどうでもよいことであるのだから。
 それよりも何よりも、碧が楽しんで帰ることが出来ることの方が重要であった。もし先程も止めなければ、碧の遠足の想い出は苦しいものとなってしまっていたことだろう。けれども止めたことによって、苦しいこともあったけど楽しい想い出として転化出来るのである。
「碧はもっと大きくなって、今度は挑戦をやりとげてみせるです!」
 いや、だから、近くのガキ大将2人を見習って、真似をやらなくていいからね、碧くん?
 そんなことをのたまう碧の頭を、嗜めるように、それでいて優しく明日香と紫紋が相次いで撫でてあげた――。

【おしまい】



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この小説は株式会社テラネッツが運営するオーダーメイドCOMで作成されたものです。

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