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【巻き込まれ少女・未亜〜鏡の幻惑〜「古の隠れ家」縦断オリエンテーリング編】
■切磋巧実■

<早春の雛菊 未亜/聖獣界ソーン(1055)>
<ヒト族の忍者・楓/武神幻想 サムライキングダム(NPC)>
<シノビ族の忍者・紅葉/武神幻想 サムライキングダム(NPC)>
<サバラン/聖獣界ソーン(NPC)>

「ひやあぁぁっ!!」「きゃあぁぁっ!!」
 生い茂る森林の中、甲高い少女達の悲鳴が響き渡った。
 緑色に照り返すショートヘアの後ろで結ったツインテールを靡かせ、早春の雛菊 未亜が美しく繊細な顔立ちに必死の形相を浮かべて駆けてゆく。未だあどけなさの残る少女の細い腕に引っ張られて共に走るは、黒いショートヘアと白いシャツの胸元を揺らす褐色の娘、サバランだ。二人の後方を短めの茶髪を軽やかに揺らし、胸の膨らみを激しく弾ませながら、ヒト族の忍者 楓と、腰ほどある長い紫色の髪をポニーテールに結った、シノビ族の忍者 紅葉が風の如き足運びでシュタタタと追う。
 ‥‥これだけの説明では二人の乙女が何故か忍者の娘に追われているように見えるかもしれない。
「未亜っ!!」
 駆けながらタンッと雑草と土煙を舞い上がらせながら楓と紅葉が跳躍。腰から小太刀を抜き構えると、少女の背後に次々と迫る細い枝に斬光を疾らせた。神機装置の施された切先は『カヴィットウッド』と呼ばれる樹の姿をしたサーバントの触手の如き枝を断ち切ってゆく。
「楓ッ! どんどん枝の数が増えてるわよ!」
 ややツリ目の瞳に焦りの色を浮かばせる、紅葉の声が注意を促がした。前方を逃げる未亜とサバランへ伸びてゆく枝の数は次第に増えだし、何とか躱すもののカサついた樹皮に衣服の切れ端を持って行かれる状況だ。油断すれば自分達にも枝は容赦なく伸びて来る。応戦するにも限界だ。残像を描かせて切先を薙ぎ振るう中、凛とした眼差しの楓が口を開く。
「罠に嵌まったか! しかし、ここまで来た以上、戻る訳にもいくまい! 幸い、道の脇から枝が伸びているなら‥‥」
「未亜ちゃん達に追い着いて横からの攻撃に気をつければ抜けられるわね!」
 二人の忍者が土煙を巻き上げて一気に加速すると、悲鳴を響かせて走る未亜とサバランの腰を抱いて地を蹴った。跳躍した刹那、一斉に伸びる枝が身体に巻き付くのを切り裂き奮戦する中、ヒュンと枝が楓と紅葉の足を掬う。
「なッ!?」「やばッ!」
 普段ならこんな事で体勢を崩されたりしなかったが、互いに少女を抱えた状態だ。宙に舞ったままガクンとバランスを乱れさせると、一気に落下してゆく。当然のように未亜とサバランは悲鳴をあげて涙を散らす中、楓と紅葉の眼下に黒い沼が迫る。
「ひやあぁぁああああっ!!」「きゃあぁぁああああっ!!」
 ――どぷんッ!!
 鈍い粘液っぽい飛沫が飛び散り、四人の少女は沼に落下した。
 小柄な未亜はズッポリと沈み、慌てて泥塗れの端整な風貌をあげる。
「わっぷ! あれ? やッ、どんどん沈んでくよぉ!」
「嘘っ!? 本当だわ! これって‥‥」
 ジタバタと足掻いて尚も沈んでゆく少女と共に、サバランも何時の間にか腰から胸元までズブズブと沈んでゆく。状況は楓と紅葉も同じだ。
「底無し沼か!?」
「ちょっとッ、冗談でしょ? アトラクションでアリな訳!?」
 そう。これはテーマパーク『古の隠れ家』の広大な敷地に点在するアトラクションをクリアして、スタンプを集めるオリエンテーリングである。強暴なモンスターを放し飼いにした密林=サーバントサファリも常識を疑うが、底無し沼は洒落にならない。
「あぁっ、未亜ちゃんが!!」
 サバランの悲痛な声が響く。慌てて視線を流す楓と紅葉の視界に映るは、円らな赤い瞳を潤ませて既に顔半分を沈ませながら、両手をパタつかせる少女の姿だ。
「未亜! あまり動くな! 足掻くほど沈むのは早いぞ!」
「楓! どうするの? わたし達だけなら未だ抜けられるわよ!」
 忍者である二人なら一気に瞬発力で沼から出られるだろう。しかし、サバランに腕を伸ばして届く距離ではない。まして未亜の運命は空前の灯火だ。
 ふと楓が腕や腰に巻き付いていたモノに、憂いを帯びた茶色の瞳を向けた。
「あのサーバントの枝が使えそうだ。長さが足りなければ結べばいい」
「その手があったわね。枝の癖に軟体みたいだし♪ 楓、なら急ぎましょう!」
「承知!!」
 意識を集中させ、二人の少女が飛沫と共に跳躍! 泥状の液体を滴らせながら、反対岸へと着地すると、急いで枝を解いて結び直す。
「サバラン、この枝に掴まれ!」
「未亜ちゃん、聞こえる? 手元に枝を投げるから怯えないで掴むのよ!」
 ヒュンと風を切り、枝を放り投げる二人の忍者。褐色の少女が掴む中、もはや緑色の髪しか見えない少女の手中に枝が触れる。慌てて握り締めた所を一気に引っ張った。ズブズブと不快な音と共に泥沼から抜け出て来るサバランと未亜。数分後、ようやく二人を救い出した――――。

 泥を滴らせる中、四つん這いになり、涙を零しながら未亜が咳き込む。
「けふっけふっ! もう駄目かと思ったよぉ」
「頑張ったわね、未亜ちゃん」
 どんな色の衣服だったか分からない状態の背中を擦りながら、円らな深紫の瞳を細めて、紅葉が微笑んだ。傍ではサバランがうつ伏せに倒れて荒い息を洩らしていた。
 そんな中、泥塗れの楓が歩いて来る。
「‥‥先の様子を見て来たが、スタンプの設置場所を確認した。あと少しでゴールだ」
「もうサーバントに襲われる心配はなさそうね。未亜ちゃん、歩けるかしら?」
「‥‥命を落とし掛けたのだからな、肉体的、精神的にも疲れているだろう。紅葉は未亜を背負ってくれ。私はサバランを背負って行く」
 伝えながら、もはや素肌と衣服の区別が困難な褐色の少女を背負う楓。
「そうね、時間切れでスタンプ逃がしちゃ意味ないわ。未亜ちゃん、大丈夫?」
「う、うん‥‥未亜は平気だから‥‥こふッ! けふッ! 未亜、足手纏いかなぁ?」
 四つん這いの状態で、泥を吐き出す少女が、涙目で赤い瞳を上目遣いであげた。そんな幼さの残る娘をギュっ☆ と紅葉が頬を紅潮させながら抱き締める。
「なに言ってるのよ、これ以上切ない事を言ったら食べちゃうわよ☆」
「‥‥く、苦しいよぉ‥‥食べなくていいですぅ」
 その後、二人を背負った忍者達は重い足取りで歩き出した――――。

「‥‥ちゃん? 未亜ちゃん?」
 聞き慣れた声が耳に流れ込んだ。
 未亜は身体を揺すられて赤い瞳をゆっくりと開く。霞む視界の中、不安そうに覗き込むサバランと楓と紅葉が、次第に微笑みを浮かべる姿が映った。慌てて褐色の膝から半身を起こす。
「あっ、未亜、眠っちゃったんだ‥‥ごめんなさい」
「気にしないで☆ さあ、スタンプ押しに行くわよ♪」
 ポニーテールに弧を描かせ、端整な風貌を向ける紅葉。視線の先を追うと、スタンプの設置された泉が映った。澄んだ水が天然の岩場から流れ落ち、水面はキラキラと陽光に照り返して、とても神秘的だ。未亜は赤い瞳を輝かせて立ち上がると、ゆっくりと歩み出す。
「わぁ☆ 綺麗な泉だね♪ ‥‥それに比べて未亜は泥だらけかぁ‥‥」
 改めて視線を落とすと、汚れに塗れた自分の姿に苦笑した。そんな中、陽気な声で紅葉が提案する。
「そうよ! ね♪ 先ずは服と身体を綺麗にしちゃわない? 水浴びよ♪ 水浴び♪」
 暫しの沈黙と共に固まる三名。一陣の乾いた風が流れた後、呆れたように口を開いたのは楓だ。
「‥‥何を言い出すかと思えば‥‥紅葉、ここは私達だけとは限らないのだぞ? アトラクションの一つなのだから、他の人が訪れるかもしれん。スタンプの設置された泉で水浴びなんて、頭が弱いと思われるぞ?」
「か、楓さんの言う通りです! 公衆の面前で水浴びなんて!」
「そうだよぉ、見られたら恥かしいよぉ!」
 当然の反応だ。例えれば公園で遊んでいて汚れたから泉に入って水浴びするようなものである。秘境の川や湖なら兎も角、人が来る為に用意された場所で、そんな露出狂のような事は出来ない。因みに彼女達には衣服を着たまま泉で汚れを落とすという考えが、全く無い事を付け加えておこう。
「チッチッチッ☆ 甘いわよ、皆の衆」
「み、皆の衆って‥‥」
 人差し指をフリフリさせながら、勝気そうな雰囲気を取り戻した美少女が不敵な笑みを浮かべる。
「こんな非常識なアトラクションを他に誰が突破できるのよ! それに誰かに会った? 出会ったのはサーバントばかり! わたし達だからこそクリアできたのよ!」
「‥‥まあ、それは有り得るがな。だからと言って私達まで非常識な事をしても良い事にはならないと思うが‥‥」
 楓が豊かな胸元で腕を組み、淡々と告げた。傍で未亜とサバランがコクコクと頷くが、そんな事で紅葉の自信は揺れたりしない。左手を腰に当て、フフン♪ とハナを鳴らす。
「そお? じゃあ、この泥塗れで達成記念を迎えるつもりなのね? この汚い有様をよく見なさい! それに匂いだって相当なものよ? 天然の汚れと匂いは時間が経過するほど落ちないわよ?」
「‥‥う、確かに泥臭いかも」
 クンクンと匂いを嗅ぎ、未亜が端整な風貌を顰めた。思えば艶やかな緑色の髪すら泥で変色してパサパサに乾いている。確かに時間が経過すれば容易に落ちる事は無さそうだ。
「未亜‥‥水浴びするよ。密林の湖だと思えば平気だもん」
 意を決して泉に向かうと汚れた衣服を脱ぎ始めた。細くしなやかな背中は、衣服から流れ込んだ泥で白さも失われている。そんな光景に戸惑いの色を見せるサバラン。
「私も‥‥汚れを落とすわ」
「そうよ♪ さ、皆で脱げば恥かしさも4分の1よね☆ 楓も行くわよ」
「‥‥仕方が無いな。承知した」
 うら若き乙女達が次々に衣服を脱いで肢体を曝け出す中、楓は溜息を洩らして向かった――――。

「ひゃんッ、未だ冷たいんだね」
 岩場から流れ落ちる湧き水に細い腕を伸ばして、未亜はピクンと肩を跳ね上げる。それでも汚れを落とさなければならない。覚悟を決めて腕から肩へ水滴を弾かせ、弱々しい声をあげた。
「ひゃあぁぁッ! つ、冷たい〜っ」
「そんな浴び方してるからよ? ちゃんと浸かって洗っちゃいなさい」
 紅葉は水面に波紋を揺らし、腰を下ろすと手で水を掬い、丹念に身体の汚れを落としてゆく。楓も水の冷たさは平気なようだ。岩場から流れ落ちる水を浴び、さながら修行僧のようだ。赤い瞳がサバランを探すと、多少冷たさを感じているのか、パシャパシャと身体に水滴を浴びせてはプルンと震えている。未亜は端整な風貌をキュっと引き締め、結ったツインテールを解くと、懸命に汚れを洗い流した。次第に水の冷たさに身体が慣れて来た気がする。
(‥‥わぁ〜☆)
 再び幼さの残る少女が周囲に視線を流した。キラキラと輝く水滴を弾く少女達の肢体が彩る、神秘的且つ美しい光景に、思わず頬を染めて見惚れてしまう。
「みんな綺麗だなぁ‥‥未亜も魅力的な女性になりたいなぁ‥‥ひっ、ひゃああっ!」
 スルリと背後から手を伸ばされ、少女は素っ頓狂な声をあげた。戸惑いの色を浮かべて背後に赤い瞳を流すと、抱き締めたまま妖艶な微笑みを浮かべる紅葉の顔が飛び込む。
「なに言ってるのよ♪ ちっちゃくてぷにぷにした未亜ちゃんだって魅力的じゃない☆」
「そんなこと‥‥って、何時の間に後ろに回ったんだよぉ」
「シノビ族の忍者を甘く見ないでくれる? わたしが洗うの手伝ってあげる♪」
「い、いいよぉ!」
 まるで姉妹がじゃれ合うような光景に、サバランがクスリと笑みを洩らす。
「仲良しですよね、未亜ちゃんと紅葉さんって」
「‥‥私には悪い癖が出たとしか良いようが無いがな‥‥ッ!? 誰だ!!」
 呆れた色を見せた楓が瞳を研ぎ澄ますと、胸元を腕で庇いながら鋭い声を発した。慌てて褐色の少女も肢体を庇い、肩を竦めて固まる中、未亜と紅葉も異変を感じ取る。
「だ、誰かいるの?」
「そうね‥‥でも、この気配は人間のものじゃないわ!」
 一瞬にして緊張した空気が包み込んだ刹那、動物の影が姿を見せた。鋭い牙の揃う口から涎を流し、獰猛な赤い眼光をギラギラとさせるは、蒼い体毛の犬だ。通称『狂犬』と呼ばれるサーバント――ブルードッグが、低い唸り声をあげてゆっくりと近付いて来る。
「ひっ!」
 サバランが短い悲鳴を洩らして戦慄く。ブルードッグは一匹ではなく、彼方此方から取り囲むように姿を現した。このサーバントは群れを成して狩りを行うモンスターである。
「‥‥サバランは下がっていろ」
「未亜ちゃん、ゆっくりと下がるのよ‥‥」
 楓と紅葉が狂犬から鋭い視線を離さず、ゆっくりと汚れた衣服の傍に置いてある小太刀へ手の伸ばす。ブルードッグの唸り声以外、何も聞えない静寂の中、濡れた肌から水の滴り落ちる音が響き渡った。
 刹那、一斉にサーバントが少女達に飛び掛かる!
 直ぐさま小太刀を逆手に握り、斬光を疾らせ切先を薙ぎ振るった。一挙動の度に水面が激しく揺れる中、一糸纏わぬ肢体を躍動させ、水滴を煌かせる姿は、とても優麗で妖美な舞いのようだ。獣が散らせる鮮血さえ、彩りを添えているように見えた。
「きれい‥‥」
「でも、数が多過ぎるわ‥‥」
 正に多勢に無勢。優れた忍者だとしてもブルードッグの数は多過ぎた。しかも何匹か地面に転がっているのに、一向に怯む気配すら見せない。次第に楓と紅葉の息も上がってゆく。
「ハァハァ、切りが無いな‥‥」
「‥‥楓、所持品だけ持って一時撤退しない?」
「‥‥そうだな、だが何処に逃げる?」
 狂犬へ切先の洗礼を薙ぎ振るいながら、鋭い視線を紅葉へ流した。腰ほどに届く紫の長髪を揺らし、勝気な美少女が周囲を見渡す。視界に飛び込んだのは、室内型アトラクションの施設だ。
「向こうに別のアトラクションがあるわ。ヒステリックミラーハウス‥‥そこまで」
「承知した。未亜とサバランは私が抱えよう。紅葉は牽制を頼む。‥‥未亜! サバラン!」
 切先を休めず短めの茶髪を軽やかに揺らし、肩越しに凛とした横顔を見せると、鋭い視線を流した。
「え? なに?」
「所持品だけ持って逃げるぞ。放り投げるから受け取れ! 後は私が抱えて連れて行く」
「う、うんッ! わかったよ!」
 キュッと胸元で小さな拳を固めて力強く頷く未亜。楓は薄く微笑むと、更に激しく洗礼の舞いを繰り広げる。鮮血が飛び散る中、素早く所持品を掴むと切先を薙ぎ振るった腰の捻りを活かして一気に後方へ放り投げた。宙を舞うモノを両手を広げてフラリと揺れながらも胸元に受け止め、未亜が微笑んだ。
「取ったよ! わっ!」「きゃッ!」
 二人の少女は一瞬風に運ばれたような感覚に思わず悲鳴を洩らした。未亜とサバランの腰は両の腕で抱えられており、容易く荷物の如く楓に運ばれていたのだ。見る見る裸身を舞い躍らせて奮戦する紅葉が遠退いてゆく。
「紅葉ッ!!」
「分かったわ! 追い掛けられるものならッ、追い掛けてッ、ごらんなさいッ!」
 言葉の区切りに合わせ切先を振るうと、紫の長髪を棚引かせて未亜達を追い掛ける中、夥しい狂犬の群れが吠えながら迫る。しかし、流石は忍者の娘。四人は無事ヒステリックミラーハウスに逃げ込んだ――――。

「ハァハァ‥‥ドアを閉めて来たから、もう追って来ないわよ‥‥」
 腰を屈めて荒い息を弾ませる紅葉。楓も二人を抱えて疾走した事による疲労は大きいようだ。ペタンと腰を落として反射する床を両手で支える茶髪の少女が、様々な角度で映っていた。
「うわぁ‥‥彼方此方に楓さんや紅葉さんが映って‥‥え?」
 頬を染めて一糸纏わぬ少女達の魅惑的な姿を見つめていた未亜が、改めて周囲を見渡す。瞳に映ったのは腰を捻って振り向いた自分のスレンダーな背中だ。更に赤い眼差しを向けると、幼さの残るあられもない姿の自分があらゆる角度で映った。鏡が反射して見えない部分もあるにはあるが、普段、自分の視線から見えない部分が曝け出されており、一瞬にして真っ赤に染まると慌てて肢体を庇う。
「わっ! と、取り敢えず外の様子を見ようよ‥‥もうサーバントも行ったんじゃないかな?」
「‥‥でも、未亜ちゃん? どこが出口なのか‥‥」
 言い難そうに豊かな胸元を腕で隠したサバランが、困惑の色を浮かべた。無我夢中で走った事と全面鏡張りというミラーハウスの為、見事に迷ってしまったらしい。
「えぇ〜!? じゃあ服っ、服だけでも着ようよぉ‥‥あれ? 所持品は?」
「所持品は? って、未亜ちゃんが持ってたんじゃないの?」
「へ? ‥‥まさか逃げてる最中に落としちゃった!? ごめんなさいっ! ごめんなさいっ!」
 未亜が緑色の髪を揺らして何度も頭を下げる。生まれたままの姿で謝る姿は何とも情けなく滑稽だ。しかも様々な角度で映っているのだから、怒り心頭だとしても許してしまうかもしれない。
「はぁ‥‥」
 ――少女の溜息が漏れた。
 未亜の失敗に呆れる響きというより、どこか切なく艶かしい吐息だ。未亜がピクンと肩を跳ね上げる中、ゆらりと背後に紫色の長髪を優麗に流した少女が映り込む。慌てて踵を返して組んだ両手を胸元に当てた。只ならぬ雰囲気に頬を冷たい汗が伝う。
「も、紅葉さんっ、えっと、なに、かな?」
 紅葉の唇が妖艶な笑みを模った。頬を紅潮させ甘い吐息を漏らす。
「なに隠しているの? 見なさいよ、隠しても色んな角度から映っているのよ? ほら☆」
「ひゃんッ!」
 紅葉の細い指が少女の肌に触れた刹那、未亜はピクンと肢体を震わせると声をあげた。別に敏感な部分を触られた訳ではない。
「何気なく身体に触っても、映る角度によっては気持ちが高まらない? 見えるでしょ? 自分の背中を他人の指が伝う姿が☆ ほら、あの鏡から映る角度もドキドキするわよね♪」
「んんっ、紅葉さん、は、恥かしいよぉ」
 何度も説明するが、敏感な部分には触れていない。ただ、言葉で改めて告げられ、あらゆる角度で映る、切なげに眉を戦慄かせて赤い瞳を潤ませる自分の姿に、膝の力が抜けてゆく感じを覚えた。甘い吐息が零れ出すと、紅葉が尚も言葉で責める。
「なぁに? 自分の裸と切なそうな表情みて感じているの?」
「ハァ、ハァ‥‥そんな、こと、ないよ‥‥はやく、戻ろうよぉ‥‥サバランさんや楓さんだって‥‥!?ッ」
 鏡に映る自分から視線を逸らして少女達を探す中、見開いた赤い瞳に、いつしか寄り添う魅惑的な白と褐色の肢体が映り込んだ。未亜の見つめる鏡に紅葉が映り、細い指を柔らかそうな頬に伝わせる。
「楓達も鏡の不思議な魔力に当てられたみたいね♪」
「そ、そんなぁ‥‥だって、こんな事してたら達成記念に間に合わなくなっちゃうよぉ‥‥んっ☆」
「なに言ってるのよん♪ こんな不思議な空間を楽しまない手はないじゃない☆ さ、そろそろ力を抜いたらどお?」
 まるで幻惑の魔力みたいに紅葉の声が切なげに囁く。
 ――あぁ、未亜、もう抗えないかも‥‥。
 少女達の姿が映らない鏡張りの中、落とした所持品が暫らくの間放置されたままだった――――。


●ライターより
 この度はイベント発注ありがとうございました☆ お久し振り♪ 切磋巧実です。
 今回は楓と紅葉にサバランとNPC尽くめで、嬉しい反面、未亜ちゃんの活躍が少なくなりそうで一寸不安なところです。ミラーハウスのその後はご想像にお任せします。
 それにしても‥‥毎度危うい少女達ですね(苦笑)。遂にサバランまで禁断の花園へ‥‥。今後、未亜ちゃんがどんな巻き込まれ方をするのか楽しみです(笑)。
 あ、紅葉のイラスト拝見させて頂きましたよ☆ 紅葉に新たな彩りを与えて頂き、この場を借りて感謝いたします。
 楽しんで頂けたら幸いです。よかったら感想お聞かせ下さいね。
 それでは、また出会える事を祈って☆



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この小説は株式会社テラネッツが運営するオーダーメイドCOMで作成されたものです。

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