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【ここで会ったが100万年】
■姫野里美■

<信楽・恭子/学園退魔戦記ZERO(a193)>
<上月・美笑/東京怪談 SECOND REVOLUTION(3001)>
<ヴェリオール/学園退魔戦記ZERO(NPC)>

 初夏。
 梅雨の中休みとは、良く言ったもので、前日まで雨だったにも関わらず、遠足当日は、すっきりと晴れ渡っていた‥‥。
「わぁ‥‥」
「立派な建物ですねー」
 雨上がりのきらきらとした水滴が、天然の演出効果を生み出す中で、美笑と恭子は、目を輝かしている。小高い丘を、まるまる使ったそこは、まるで映画に出てくる白亜の宮殿だ。
「いこ、早く行かないと、怒られちゃいますよ」
「うん、さっさとセンセの説教終わらせて、遊びに行きたいもんね」
 そんな周囲の様子にみとれながらも、そう言いあう美笑と恭子。一応、学校行事で来ている都合上、担任からの注意事項と言うのが、必ずある。遅くなれば、比例的に話は長くなる為、彼女達は探検を後回しにして、集合列へと並びに行った。
「へー、結構色んな施設があるんだね」
 配られた案内パンフを見た恭子、感心したようにそう言った。全員に配られたそれを、美笑も興味深そうに覗き込む。
「えぇと‥‥何々‥‥当SPAは、数々の温泉施設と、総合屋外競技場、最先端のトレーニング機器を備えております‥‥だって」
 説明文を読み上げる彼女。温泉、サウナ、スポーツジムは言うに及ばず、乗馬やテニス等も出来るらしい。良く見れば、見た事のないジム機器に混じって、VMSまで完備済み。
「あー、お風呂混浴だーーー」
 そんな中、恭子はパンフレットに、『バスタオルを着用して下さい』と、写真付きで書いている事に気付いた。
「だから、水着もってこいって言われたんですね‥‥。あ、でもプールもあるみたいです。温泉プールだって」
 そう答える美笑。学校でそう指示され、二人のバックには、スクール水着が押し込まれている。タオルは無料貸し出ししてくれるそうだ。
「じゃあ、浸かってるだけでも良いんだ」
「そうみたいです。後で行ってみましょう」
 学校のプールと違い、流れるプールや飛び込みプール等、遊園地並の施設も揃っている。そう言う恭子に、美笑が誘いかけると、「うん」と笑顔で応えてくれるのだった。

 そして。
「ここは、普通のお風呂みたいだね。じゃあ、遠慮する事もないか」
 男女別に分かれた脱衣所にやってきた恭子は、周囲に女性しかいない事もあって、景気良く制服を脱いでは、ロッカーに放り込んでいる。
「って、恭子ちゃん、前くらい隠して下さいよ〜」
 そんな彼女とは対照的に、綺麗に制服をたたんで、前をタオルで覆った美笑、あわてて恭子にも、タオルを押し付けている。
「ごめんごめん。だって減るもんじゃないし」
「私が恥ずかしいんです〜」
 恭子の大胆な姿に、顔を真っ赤にしている美笑。こうして2人は、これまた景気良く湯船へダイブしたわけだが。
「ほほー、確かにその胸は恥ずかしいかもしれないなー」
「そ、そんな事っ」
 美笑の胸を見て、そう言う恭子。初めてあった時は、まだほんの子供だった彼女も、今は立派な乙女である。身体も、それなりに女性らしくなったようで。
「どれどれ、おねーさんが、サイズを調べてあげましょう〜」
「くすぐったいー。バスタオル取らないでー!」
 女湯にも関わらず、まだタオルを身に付けたままの美笑から、成長チェックと称して、バスタオルを奪い取ろうとする恭子。きゃっきゃと歓声を上げ、湯船で追いかけっこを繰り広げる女の子達に、岩風呂の影にいた御仁が、たまらず怒鳴りつけた。
「だーーー! そこのガキども! 湯船の中で、おっかけっこするんやないっ!」
「「すみません‥‥」」
 怒られて、しょんぼりとなってしまう2人。ところが、である。
「って、何か聞いた声なんですけど‥‥」
「あーーーーー! ヴェリオーーーールっ!!」
 美笑がそう呟いたのを聞いて、ちらりと顔を上げた恭子、説教垂れようとしてきた御仁が、顔見知りの妖魔だと気付く。
「げ。なんでおまいら、こんな所におんねん!」
 相手‥‥ヴェリオールも、彼女達に気付いたらしく、驚いた表情をしている。
「それはこっちの台詞よ! なんで妖魔のあんたが‥‥」
「いやー、人間界で生活すると、色々と先立つモノが‥‥」
 恭子の問いに、顔を引きつらせながら、そう答えるヴェリ子。
「もしかして、アルバイトですか?」
「いや、ちゃうで。うちは路銀を稼いでいるだけや!」
 美笑が首を傾げると、彼女は慌てて否定する。
「やっぱりアルバイトなんじゃん」
「言うなっ! 妖魔がバイトなんて、情けのーて、合わす顔があらへんやないかっ!」
 恭子がそうツッコむと、ヴェリ子さん、指を唇に当てて、『ナイショ』と言う顔をする。
「別に、変じゃないよね?」
「他に働いている妖魔さん、いっぱい居ますし」
 恭子が美笑にそう言うと、彼女もそう言って頷いている。しかし、ヴェリ子はかえってげんなりした表情で、こう呟く。
「待ておまいら。それじゃまるで、働いてない妖魔が悪いみたいやないか」
「そ、そんな事はともかくっ! ここで会ったのも、運命のカードの導きって事で、始めるよ!」
 何故か、風呂場にまで設置してあるヴィジュアル・マッチ・システム‥‥通称VMSのスイッチを入れ、挑戦状をヴェリ子に叩きつける恭子。
 ところが。
「デッキがあらへん」
 両手を上にして、何も持ってなーいと言ったポーズをするヴェリオール。恭子が「え?」と意外そうな顔をすると、彼女はこう続けた。
「仕事中やもん。休憩室起きっぱや。と言うわけで、美笑、お前が代理や」
「そ、そんなぁ」
 ずずいっと背中を押されて、気の強い方ではない美笑ちゃん、ぶつぶつ言いながらも、抵抗出来ない様子。
「じゃ、そういう事で!」
「「逃げるなーーーー」」
 さっさと湯船から逃亡するヴェリ子に、2人が同時に叫んだのは、言うまでもない。

 暫く後。
「えーん、なんでこうなるんですかぁ‥‥」
 裸に、タオル一枚巻いただけの美笑が、『代理』の札をはっつけられて、VNSを装着していた‥‥。
「そんな事言ったって、もうシステム起動させちゃったし、ヴェリはとんずらってるし‥‥。仕方ないじゃない。付き合ってよ」
「はぁい」
 しかし、根は素直な彼女、恭子の要請に、素直に従っている。
「「デュエル!」」
 ぴろろろろー‥‥と、派手な効果音がして、お互いのキャラクターと、スタミナが表示される。以前より格段に進化した次世代システムとか言う奴である。
「いくよ!」
 だが、『先攻』と表示されていた恭子は、新しいカードを引き抜かなかった。通常、AS−TCGでは、先攻権が与えられた者は、ドローフェイズとメインフェイズ、どちらかを選ばなくてはならない。が、ドローをしなかったとなると。残る選択肢は一つ。
「って、えぇぇぇ!? もしかして、先行メイン!?」
「アンタのジークじゃ、ちんたらしてたら、攻撃出来なくなるじゃない!」
 驚く美笑に、恭子はそう言いきった。美笑の使用キャラクターはジーク。召喚獣が並ぶと、格闘攻撃キャラのサフィアでは、手も足も出なくなる。その為彼女は、いきなり攻撃を仕掛ける事にしたようだ。
「酷いよ、恭子ちゃーーん」
「問答無用っ!」
 泣きそうな表情の美笑を、さっくり無視して、恭子は容赦なくチャージを使う。強化の力を持つそのカードは、サフィアの腕力を倍にし、続くヘビーストライクのパワーをアップさせる。べしべしと容赦なく突き刺さったダメージは、美笑のスタミナを、4分の1ほど削ってしまった。
「わぁん、いきなり酷いです。こっちは時間かかるんですよぉー」
 なす術のない美笑、めそめそと泣きながら、カードを引いている。だが、いくら速度を上げ、召喚獣達を呼び出しても、彼女は積極的にアタックしてこようとはしなかった。
「って、攻撃して来ないの?」
「くまくまさんしかいないのに、そんな怖い事出来ないです!」
 恭子がそう言ったが、美笑は即座に首を横に振る。その目の前には、可愛らしい白熊が2匹。恭子の動きは、まだ遅い。その遅さを考えれば、素早い白熊達は、簡単にパンチを振り下ろせるのだが、カウンターを畏れているのだろう。
「ち‥‥、中々考えてるじゃない‥‥。次のカードは‥‥。げ」
 ようやく、最初の攻撃のダメージが回復した恭子、そう言って次のカードを引いた。が、出てきたそれを見て、顔色を変える。
「どうしたんです? 恭子ちゃん」
「な、なんでもないわっ。手札ためてるだけよっ。バジ瞳をセットして、ターン終了!」
 心配そうに尋ねる美笑に、彼女はぶんぶんと首を横に振ると、手元に仕込んだバジリスクの瞳で、美笑に睨みをきかせていた。
「そうなんですか? うーん、えぇと、次はこれとこれに、これを装備して‥‥」
 次のターンには、彼女は確実に仕掛けてくるだろう。その為か、美笑は使えるだけの護符や鎧、盾を配置していた。しかし、対策を悩む彼女に、恭子は苛々したように、指先を突きつけた。
「あーもー、じれったいなぁ!」
「だって、今速度落としたら、恭子ちゃん、絶対に大技使うもの‥‥」
 静かにそう言う美笑。今度こそ、顔を引きつらせる恭子。すっかり作戦がバレているようだ。
「私だって、成長しているのは、胸だけじゃないから。皆! 出てきて!」
 その美笑が呼び出したのは、金色に輝くエース級の竜‥‥イーグルドラゴン。それも、彼女を守る翼の様に、2匹である。
「く‥‥、やっぱり出てきたわね‥‥。宿敵が!」
「こんなに可愛いのにー」
 最近のVMSは、反応が進化しているらしく、忌々しげにそう言う恭子から、美笑を守ろうと、ごろごろ喉を鳴らしている。甘えるイーグルドラゴンの頭を撫でる、天使の翼を生やした少女に、ぷぅぅっと頬を膨らます恭子。
「ボクには、強力な敵キャラなんだよ!」
 特にそこの羽が生えてるヒトタチ! と、すでに召喚が済んでいるペリグリンやウィバーンにまで、けちをつける彼女。確かに、天空を優雅に舞い飛ぶ彼らは、格闘キャラの恭子にはちとつらい。
「しくしく。かわいそーに。ねぇ?」
 イーグルドラゴンに乗ったまま、悲しそうにそう言う美笑。ドラゴン達も、答えるようにきゅうと鳴く。と、仲の良い召喚獣とマスターの姿を見て、恭子はぼそりとこう言った。
「それが出てきたと言う事は‥‥。そろそろ決着つけないとダメって事ね‥‥」
「え」
 固まる美笑。ちょうど、彼女のターン終了。
「このターンで決める! やってやれない事はない!」
 そう叫ぶと、恭子はバジリスクの瞳を叩き割った。固まる美笑の前で、まるで力を誇示するかのように、片手を上げる。その腕には、既に炎吹く剣が召喚されていた。普通では使えないはずのその剣は、今まで使った力を吸い上げるかのように、赤く‥‥禍々しく輝く。
「焼き尽くせ、地獄の業火! 我が敵を、紅蓮の炎で染め上げろ!」
 文字通り、焔と化す剣。重量を倍化したそれを、恭子は上段から、力を込めて振り下ろしていた。
「必殺! 真空炎法斬ッ!」
 全てを溶かす熱波が、美笑へと遅いかかる。庇うように、前へと出るイーグルドラゴン。それこそが、恭子の狙い。吹き荒れる真空の風刃は、空を飛ぶ者に、盛大なダメージを与える。いかに天空の覇者とは言え、人たまりもないだろう。
「きゃあぁぁ」
 余波で、悲鳴を上げる美笑。
「やったかしら?」
 足元の温泉が、蒸気を吹き上げ、2人の視界を奪う。ガラスの砕けるような音が響く中、煙が晴れた時、状況は一変していた。
「なぁんてね☆」
 湯船でバスタオルを、まるで天使の様に纏った美笑は、そう言って微笑んで見せた。見れば、彼女の足元には、苦だけ散った幻惑光鎧た、水鏡の盾がごろごろしている。おそらく、それで自身へのダメージを、最小限に食い止めたのだろう。
「生きてる!?」
 ぎりっと拳を握り締める恭子。そんな彼女に、美笑は悲しそうな表情で、配下の召喚獣達にこう命じた。
「ごめん、恭子ちゃん。負けると失礼だし‥‥皆! 総攻撃!」
 今まで、彼女の周囲を取り囲んでいるだけだった召喚獣が、その命令に、様子を一変させる。ある者は牙を剥き、そしてある者は、牙を振り下ろす。
「わぁぁぁぁ!!」
 取り囲まれ、悲鳴を上げる恭子。スタミナの比較的多いサフィアでも、それだけタカられれば、力尽きるまでに、大して時間はかからない。
「なんや、もう終わっちゃったんかいな?」
 ヴェリオールが、いつもの黒翼ボンテージの姿で現れたのは、2人の決着が完全についた後だった。
「「遅いっ!」」
「あー、すまへんなぁ。休憩もぎ取るのに、時間かかったんや」
 2人にそろってツッコまれ、まぁまぁと宥めながら、申し訳なさそうにそう言うヴェリ子。
「ったく、勝負付いちゃったじゃないの」
「聞いてくださいよー。恭子ちゃんってば、酷いんですよー」
 負けるしーと、ぶつぶつ言う恭子に対し、美笑は自慢の召喚獣達を黒こげにされたーと訴える。それらを聞いていたヴェリ子は、にやりと笑って、こう言った。
「そかそか。それは実技指導が必要やなー」
「え」
 いやな予感がした恭子、くるりと回れ右をして、さっさと湯船から上がろうとする。が、妖魔なヴェリ子に敵うわけもなく、あっという間に、後ろからはがい締め。
「ジークは、剥き方考えんと、勝てへんやん。こーんな風に」
 何をするかと思えば、彼女、そのままこちょこちょとわきの下をくすぐっている。
「きゃはははは、笑い死ぬ〜! 助けて美笑〜!」
「いやです。さっきのお返しですよー☆」
 しかも、美笑まで、足の裏をつつつぅっと撫でてみたり。
 こうして、女風呂では、少々はた迷惑な歓声が、男子風呂まで響いていたのだった。

【ライターより】
 サフィアでジークに勝てるかぁぁぁぁっ!(ちゃぶ台ひっくり返し)
 まぁ、それよりも頭を抱えたのは、明らかにオーパーツで強化してぶった斬る方向のサフィアより、対策てんこもりで、トドメなコンボの見えないジークだったりしますが(笑)。ええ、ドラゴンやエンジェルやなんかが、メインアタッカーなんだろな‥‥とは思いますが、イマイチ花がネェなと。
 ちなみに、何故VMSが温泉装備なんだとか、カード濡れないのかと言うツッコミに関しては、謹んで『耐水仕様』の名を献上させていただきます。
 しかし‥‥、ヴェリ子の出番ないなー‥‥。



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この小説は株式会社テラネッツが運営するオーダーメイドCOMで作成されたものです。

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