トップページお問い合わせ(Mail)
BACK

LIVE UNDER THE SUNSHINE
■神無月まりばな■

<鹿沼・デルフェス/東京怪談 SECOND REVOLUTION(2181)>
<井の頭・弁天/東京怪談 SECOND REVOLUTION(NPC)>
<ハナコ/東京怪談 SECOND REVOLUTION(NPC)>
<みやこ/東京怪談 SECOND REVOLUTION(NPC)>

ACT.1■お約束の地へ

「おおお〜。疲れたぞえ〜〜。ちと最近は飛ばしすぎたかの〜〜」
「ハナコもー。弁天ちゃんに付き合ってると身が持たないよ」
「ふふー。あたし、お店を休んで『蛍鑑賞の夕べ』に行ってきたばかりなんで、すっかりリフレッシュしましたよ」
 弁財天宮1階カウンターで、弁天とハナコは並んで座り、ぼおっと天井を向いていた。
 その前に、ことんことんと、みやこが特製の葛切りを置いていく。
 このところ、井の頭公園は激動続きであった。明治時代へタイムスリップのあとは、異世界の桜を片っ端から動員しての前代未聞のお花見、さらには執事喫茶なるものの企画を進めたりなど、弁天は、ことイベントに関しては不必要に前向きである。
 もっとも、タイムスリップはみやこ救出のためという大義名分があったし、異世界の桜の召還は、井の頭公園のソメイヨシノがストライキに突入したから、という理由があった。執事喫茶は……これは完全に趣味であるが。
 ともあれ、本日の弁天とハナコは、完全に放心状態であった。
 カウンターに行儀悪く肘をついて葛切りを食べながら、ハナコは溜息をつく。
「あーあ、やっぱハナコみたいな働く女性には癒しが必要だよね。結婚とかはもう、逃げ道にならない時代だけどさぁ」
「ん? 素敵な彼氏が欲しいのかえ? まかせい、縁結びの相手はよりどりみどりじゃぞ。ほれ、エル・ヴァイセ亡命者移住地区『への27番』にもルゥ・シャルム亡命者移住地区『ろの13番』にも、アスガルド亡命者移住地区『まの46番』や『むの39番』にも独身幻獣や独身モンスターがいっぱいいるではないか」
「独身ならいいってもんじゃないよう。ハナコにだって理想があるんだから」
「……ふう。せっかく蛍を見て非日常の世界に浸れたのに。もう厳しい現実に引き戻されちゃうなんて……」
「こりゃ、みやこ。ロマンティックで心ときめく縁結びの話題が、どうして厳しい現実なのじゃ!」

「こんにちは、弁天さま、ハナコさま、みやこさま」
 ある意味、いつものやりとりが繰り広げられていたカウンターに、これまた、いつもの救世主が優雅に現れた。
 鹿沼デルフェスはゆったりと微笑み、3人と順番に視線を合わせ、そっと頭を下げる。
「おお、デルフェスではないか」
「デルフェスちゃん、いらっしゃーい」
「いらっしゃいませ。わあ、デルフェスさんのお顔を見るとほっとします。もし井の頭公園に女神さまがいたら、きっとこんな風なんだなあって」
「くの小魚は! わらわを何だと思っておるのじゃ」
「きゃあ! いきなり水鉄砲しないでくださいっ。デルフェスさん、助けてぇ」
「あらあら」
 後ろに隠れようとするみやこをにこやかに庇い、デルフェスはカウンターの上に、受信メールをプリントアウトしたとおぼしき1枚のA4用紙を置いた。
「今日は、遠足のお誘いにまいりましたの。皆さまのもとには、このメールが届いていらっしゃいませんか?」
 
 ☆★☆★ ☆★☆★ ☆★ 当選のお知らせ ☆★☆★ ☆★☆★ ☆★

 鹿沼デルフェス(会員番号2181)さま

 いつもご利用ありがとうございます。このたびの弊社特別企画、
『白やぎ号で行こう! ちょっぴりハードな世界観超越遠足』ツアーにつきまして、
 厳正なる抽選により、全異世界にいらっしゃる数十億の会員さまの中から、
 見事あなたさまが当選し、無料にてご参加の権利を獲得なさいました。

 白やぎ号の乗車チケットとして、添付書類をプリントアウトくださいませ。
 集合場所は、ご存じの寺根駅。集合時間は19時30分です。

 どうぞ、楽しい遠足をお楽しみください。

 ――オリジナルツアー・マジックキングダム・カンパニー(略称OMC)より

 ☆★☆★  ☆★☆★  ☆★☆★  ☆★☆★  ☆★☆★  ☆★☆★

「ぬ? この怪しさ満載の文面には見覚えがあるぞ。たしかに、わらわのもとにも来ておった。以前『湯煙バスツアー』をリリースしたOMCツーリストと関係があるようなないような感じじゃの」
「あ、これ、ハナコあてにも来てたよー。でもハナコ、会員とかじゃないんだけどな」
「あたしのアドレスにも届いてました。不安なので、添付書類は開いてないですけど」
「やっぱり、そうでしたのね」
 デルフェスは大きく頷いた。
「お友だちから聞いたのですが、このメールは、いわゆる関係者全員に届いている一種のスパムだそうなのです。でも、害があるわけではないですし、添付のチケットは実際に使用可能ですの。それも、何回も」
「ほう。そうなのかえ?」
「はい。実はわたくし、ひと足お先に、お友だちと待ち合わせまして、現地に行ってまいりましたの」
「どうでした? 楽しかったですか?」
 興味を惹かれたみやこが目を輝かせる。デルフェスはにこりと笑った。
「ええ。とても。ですから是非、もう一度皆さまともご一緒したくて。弁天さまには、夏の縁結びのシーズンへ向けて英気を養っていただかなければなりませんし。クアハウスもございますから、ハナコさまもみやこさまも、ゆっくりなさることができると思いますわ」
「わーい。いこいこー! ね、弁天ちゃん。みやこちゃんも」
「うむ。そんなに言うなら」
「クアハウス……。いいですね」
「それに……今回はわたくし、イベント計画がございますの」
 悪戯っぽく頬に手を当て、デルフェスは弁天に耳打ちする。
「ふんふん。うんうん。…………ほっほーーーう」
 ほんの今しがたまで、とろんとだれ切っていた弁天の目が、急に、獲物を狙う鷹のようになった。

ACT.2■エンターテイメントバトル乱入!

 もともと、旅というものは人をハイテンションにする魔力を持っている。
 女子4名でおしゃべりすれば、夜行列車9時間半の長丁場など何のその。一睡もしないで話し続けていたデルフェスたちは、車窓から見える日の出を鑑賞したあと、食堂車に移動してバイキング式の朝食を取っていた。
 黒やぎ車掌がアナウンスしながら、とことこと通過していく。
「つぎはーしゅうてん。わくせいおーえむしー。わくせいおーえむしーでございますー」
「惑星OMCじゃとう? どういうことじゃぁぁ車掌! ここは宇宙の果てかぁぁ。機械の身体をもらえるのかっ?」
「お気になさらず、弁天さま。大した問題ではございませんわ」
 2度目の来訪であるデルフェスは、いきり立つ弁天を冷静に押さえる。
「それより、もう一度、楽曲の打ち合わせをしませんこと? 到着までには、まだ少々時間がございます」
「それもそうじゃの。ところでバンド名は『DIVA』で良いかえ?」
「素晴らしいですわ。それではポジションを確認しますわね。ヴォーカルはみやこさま、サブヴォーカル兼ギターは弁天さま、ドラムはハナコさま、ベースは失礼してわたくしが」
「でも、あたし、人前で歌うなんて恥ずかしい……」
「大丈夫ですわ! こんなこともあろうかと、わたくしアイドル服仕様の魔法服――もとい、シャイなみやこさまでも、まるで魔法がかかったようにステージに立てる服を持参してますの」
 ――そう。
 デルフェスのイベント計画とは、この4人でバンドを組み、野外ステージエンターテイメントバトル「E1」に出場しようというものであった。
 以前、湯煙バスツアーに参加したとき、琵琶演奏で中島みゆきメドレーを歌っていた弁天を見て思いついたらしい。弁天の琵琶はギターに生かして、デルフェスのモデルだった王女はヴァイオリンが堪能であったからそれをベースに転用し、ハナコはもともとドラムの才能があるし、みやこは――当然、ヴォーカルである。
 なぜならば、これは『MDH(M=みやこを、D=大胆に、H=変身させる)計画第2弾』を兼ねているからだ。
 そんなこんなで、盛り上がる3人は尻込みする1人を引きずって、電車が到着するなり、降車口を疾走して会場に向かったのだった。

 ☆★☆★  ☆★☆★

 女性4人のバンド『DIVA』が登場するなり、野外ステージは騒然となった。
 どうした仕掛けか、会場全体が、虹色の霧に覆われたのである(それはもちろん弁天の仕業であった。本当はもっと派手なスモークやら水の花火やらを展開したかったのだが、井の頭公園を遠く離れては、これが力の限界だった)
 額を金鎖で飾った可憐なヴォーカルが、ステージ中央に進み出る。
 胸と腰の部分だけを青地に金の刺繍をした布で覆い、半透明のゆったりした上着とズボンをつけ、金糸の縁取りがある青いヴェールをふわりと被った、アラビアンテイストの衣装である。
 露出度は高いのだが、デザイン的要素が優れているため、セクシーさはあまり感じない。
 ――演奏が、始まった。
 ヴォーカルは青いヴェールを脱ぎ捨て、リズミカルに歌い出す。

  ずっと緑の島で 暮らしていればよかったのに
  幻の小鳥が 哀しげに鳴く
  ここは砂の国 ほら 白骨を踏みしだき
  おまえの肌を裂こうと 金の獣が狙っている

  砂漠のBeast 熱砂の竜巻
  だけどあたしは 巻き込まれたりしない

  靴を投げて 走るBeast Morning!

  ずっと花を摘んで 過ごしていればよかったのに
  片翼の蝶が 淋しげに舞う
  ここは岩の国 ほら 絶壁を駆け下りて
  おまえの喉を噛もうと 黒い獣が狙っている

  荒野のBeast 月に光る牙
  だけどあたしは 戦ってみせるわ

剣を構え 振り向くBeast Night!

ACT.3■やぎSPAでひと休み
 
「会場は割れんばかりの拍手でしたわね。最高でしたわ、みやこさまの熱唱」
「あたし、夢中で……。よく覚えてないんです」
「すごい良かったよ。小悪魔的な感じで。ハナコもつられて頑張っちゃった」
「みやこはダンスもいけるんじゃのう。アクションが決まっておった。……うーむ、ギターを弾いたのは久しぶりじゃ。肩が凝ったわ」
「弁天さま作詞作曲の『Beast Morning―Night』も素敵でしたわね。さすがは楽曲の守護神であらせられます」
「いや、あれは皆で相談したのではないか。デルフェスの補詩と編曲がなかったらああは行くまいて」
 野外ステージを後にした4人は、その名もライブハウス「Beast Night」で昼食を取っていた。
 みやこはもう魔法服を脱ぎ、ピンクのキャミソールワンピースに着替えている。
 デルフェスは、山盛りの海老ピラフを頬張っている弁天と、山菜きのこスパゲッティと格闘しているハナコに、食べ放題のサラダを運び、熱いポテトグラタンをふーふー冷ましているみやこに、飲み放題のソフトドリンクをいくつか持ってきたりして、かいがいしく世話を焼いていた。
「汗かいたね。食べ終わったらやぎSPAに行こっか」
「大浴場があるんですよね。展望露天風呂でしたっけ」
「たしか、露天風呂は混浴可だったような気がするのう……。はじけついでに挑戦してみるかえ ?」
「いけません!」
 デルフェスの顔が、さっと強ばる。手に取ったばかりの新しい皿を、がしゃんと落としてしまった。
「そんな……いけませんわ混浴なんて……。気高い弁天さまが……可憐なみやこさまが……愛らしいハナコさまが……あんまりです……ううううう」
「お茶目な冗談じゃぞ? 何もそんなに泣かずとも」

 ☆★☆★  ☆★☆★
 
 デルフェスに泣いて止められたので、混浴露天風呂はあきらめて(止められなかったら、ちょっと行ってみたかったらしい)、まずは水着に着替え、飛び込みプールやウォータースライダーを堪能することにした。
「おーほっほっほ。ウォータースポーツならまかせるがよい。水の女神の本領発揮じゃ」
「あたしだって、水中は生まれ故郷で生活場所ですもん。陸にいるより大得意です」
「ハナコもだよー。水の中の方が身体が楽なんだよね。特に、世界象に戻っちゃうと」
「ここで戻るなぁぁ〜〜!」
「ハナコさま、向こうの、波の出る人工ビーチつき温水プールへ行ってみませんか?」
「おっけー! デルフェスちゃん、そこまで背中に乗りなよ」
「あら……。まるでインドのお姫様になったようですわ」
「だから、世界象の姿でクアハウス内をのし歩くなと言うに!」

ACT.4■お約束再び

 巨大な象が出現したせいで、あわや、やぎSPAはサファリパーク化するかと思われたが――
「こらあ、ハナコ。その格好のままでは女性用大浴場に行きにくかろうし、デルフェスにエステマッサージをしてもらうのに差しつかえるぞ!」
 弁天がそう言ったおかげで、ようやく事なきを得た。

 大浴場では、電気風呂→ジェットバス→サウナ→岩盤浴のフルコースを満喫した。デルフェス渾身のエステマッサージにより、体内の毒素や蓄積疲労は汗と共に流れたので、弁天もハナコもみやこも、むきたて卵のようにつるつる状態である。
 ――そして。
「さあ、弁天さま! そろそろ胸の大きくなるツボを押させていただきます」
 お約束の時間がやってきた。
「い、いや。湯煙バスツアーの時に押してもらったばかりじゃし」
「定期的に押さえたほうが宜しいんですのよ。あれから何ヶ月経ったと思ってらっしゃいますの。さあ!」
「ぐぉおおおおお〜〜〜っ。んがぁぁぁぁ〜〜〜」
 弁天のツボをひととおりクリアしたあとで、デルフェスはハナコに向き直る。
「ハナコさまも!」
「え? ハナコはいいよ。もう十分ダイナマイツバディだからっ!」
「完璧なスタイルを維持するには、地道な努力が必要なのですわ。さあっ!」
「あうううんんがぁぁお〜〜。ふんぬぅぅぅぅ〜〜〜」
 しばしハナコをプッシュしている間、みやこはおとなしく順番待ちをしていた。
 湯煙バスツアーのときに初めてツボを押してもらったのだが、最近、ほんの少し、効果が出ているような気がするのである。
「みやこさま」
「あ、はい。お願いします」
「それでは、まいります」
「きゃぁぁぁぁーーう……。あたたたぃぃぃぃ〜〜〜」

 大浴場に、ヴォーカルみやこのシャウトが響く。
 4人の『DIVA』たちの遠足は、もうしばらく――帰りの白やぎ号の発車時刻ぎりぎりまで、テンション高く続きそうであった。


 ――Fin.



※この文章をホームページなどに掲載する際は、必ず以下の一文を表示してください。
この小説は株式会社テラネッツが運営するオーダーメイドCOMで作成されたものです。

BACK



このサイトはInternet Explorer5.5・MSN Explorer6.1・Netscape Communicator4.7以降での動作を確認しております。