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Another Meeting〜いつか出逢う旅〜
■南恭介■

<皇來・カグラ/神魔創世記 アクスディアEXceed(w3a422)>
<ハヤカワ・キョウジ/神魔創世記 アクスディアEXceed(w3d550)>
<堂島・志倫/神魔創世記 アクスディアEXceed(w3c846)>
<かなめ/神魔創世記 アクスディアEXceed(w3a422)>

1.プロローグ
 いまでない、いつか。
 ここではない、どこか。
 世界の果てにあるという「寺根駅」に、冒険者たちが集まっていた。
 今日は遠足の日。冒険の日々を忘れ、ひとときの夢の時間を過ごすために、彼らは集う。そう――日常を離れ、仲間たちと夢の旅に出かけるために。
 寺根駅は大きな駅だ。毎日多くの人が行き交い、人でごった返している。その中央コンコースの真ん中に、待ち合わせ場所によく使われる黒やぎの像があった。
 その前で誰かを待っている様子の二人組がいる。ハヤカワ・キョウジと、堂島志倫だ。
 「カグラたち、遅いなぁ。そろそろ列車の時間だろ?」
 手元の時計とコンコースを交互に見ながら、志倫が呟く。その足はせわしなさげに地面をこつこつと叩いていた。
 「……買い物でもしてるのだろう。かなめがついているのだから、遅刻すると云うこともあるまい。もうしばらく待とう」
 一方のキョウジは、落ち着いた様子でそう告げた。
 黒やぎ像にわずかに寄りかかりながら、腕を軽く組み、目を閉じている。ミュージシャンでもあるキョウジは、そういう仕草の一つ一つが様になる。
 「ま、お前がそういうなら待つけどよ……お」
 科白と共に、志倫がぱっと顔を明るくする。正面から、皇來・カグラと逢魔・かなめがやってくるのが見えたのだ。
 「わりぃわりぃ、遅くなっちまったな」
 両手いっぱいの荷物を抱えて、カグラが云う。その隣には、しかたないなぁ、という顔のかなめ。お兄ちゃんを心配する妹のような表情だ。
 「って、その荷物は何だよ?」
 「あ、これか? おやつに決まってるだろ。列車の中で食うんだ」
 「……一人500円までと決まっていたはずだが?」
 キョウジの問いに、かなめはため息をひとつ吐き、
 「……どうせ買ってないだろうから、みんなの分も買ってくるって、カグラが」
 なんだか申し訳なさそうに云う。
 「おぉ。気が利くな。今回食べ物は現地超脱だって聞いてたからよ、俺たち何も持ってこなかったんだよな」
 「……ってさ、四人分にしてもすごい量だな」
 両手いっぱいのビニール袋を見て、志倫が呟くと、
 「あ? 大丈夫だって、キョウジ。ちゃんと決まりは守ってるよ」
 「それより、もう整列が始まっているぞ。急がないと置いていかれる」
 キョウジの科白に、
 「お、やべぇやべぇ。急がねえとな」
 云うが早いか、カグラは皆が整列している場所へと走りだした。志倫とキョウジもそれを追う。ひとり取り残されたかなめは、
 「……もう。仕方ないんだから……」
 またひとつため息を吐くと、自分も集合場所へと急いだのだった。

2.列車「白やぎ」号
 整列した冒険者たちは、先導の係に引き連れられて寺根駅のホームへと向かった。そこには、車体に白やぎのペイントが施されている今日の特別列車、「白やぎ」号が鎮座していた。冒険者たちはわいわいがやがやと騒ぎながら、先導に案内されてそれぞれの車両へと乗り込んでいく。
 カグラたちは3号車だった。席は4人一組のボックス席。
 「お、ちょうど4人でいい感じだな」
 「うん。あたしたちだけだから、なんか個室貸し切り、みたいだね」
 汽車にしては珍しくふかふかの座席に、ぽむっと腰を下ろしながらかなめが云う。
 「確かに、これは落ち着くよな。寝るのもここなんだろ?」
 志倫の問いに、
 「そのはずだ。確か22時になると、この座席がベッドになるとパンフレットに書いてあった」
 座席に腰掛け、長い足を組みながらキョウジが答える。
 それから程なくして、列車ががたんと音をたて、動き出した。
 19時55分。発車の時間だ。
 「失礼いたします」
 発車と同時に、カグラたちのボックス席に車掌がやってきた。
 「わたくし、車掌の黒やぎと申します。皆様が無事にこの遠足を楽しめますよう、精一杯努力させていただきますので、何卒よろしくお願いいたします」
 「はぁい。こちらこそ、よろしくね」
 ついに始まった遠足に期待でいっぱいというふうのかなめが、元気よく答える。
 「それでは、早速ですが切符の確認をお願いいたします」
 「……あぁ、そうだったな。確かみんなの分の切符は……」
 「うん、キョウジ。あたしが預かってるよ。はい、車掌さん」
 「はい、四名様ですね。ありがとうございます。それでは、よい旅を!」
 そう言い残すと、車掌は次のボックス席へと向かい、そこにはカグラたちだけが残った。さっそく、と先ほどのビニール袋をがさごそやり始めるカグラ。
 「なんだよ、その中身、ほとんど酒じゃねぇか」
 「いいだろ、志倫。好きなんだから」
 「……カグラったら、お酒はおやつに入らないんだーって、すっごいいっぱい買うんだもん。あたしは重いからいやだって云ったのに……」
 「まぁまぁ、俺が持ったんだからいいだろ? それにどうせ今全部飲んじゃうんだから、重さなんて関係ないし」
 「……あきれたな。目的地に着く前に酔いつぶれるぞ」
 「大丈夫大丈夫。ほれ、お前も飲めよ、キョウジ」
 ――と、そんな具合で。
 宴会に入った志倫たちは、夜遅くまで騒ぎ通したのだった。その間にも列車は走り続け、一行は目的地へと向かう。それぞれの、想いを乗せて――。

3.朝焼けに映す思い
 翌朝。
 一人早く起き出したかなめは、窓際に立ち、朝日を見ていた。遙か地平線の彼方から、少しずつ太陽が顔を出してくる。なんとも神々しい光景を、かなめは言葉もなく見つめていた。
 「……早いな、かなめ」
 背後から声を掛けられ、かなめはゆっくりと振り向いた。そこに立っていたのは、キョウジ。結局カグラにつきあわされて少々酒を飲んだものの、それほどの量ではなかったため今日に響かなかった、というわけだ。
 「ん。キョウジこそ」
 ぽつりと云うと、かなめはふたたび視線を陽光へと戻した。
 靴音をならしながら、キョウジがその隣へと並ぶ。二人、しばらく無言。その間にも太陽は昇り続け、あたりはきらめく陽光に満ちていた。
 と、思い出したようにキョウジが、
 「なぁ、かなめ。カグラのこと、どうおもってる?」
 突然の問いに、かなめはびっくりした顔でキョウジを見、それから背後で眠るカグラを見た。持ってきた酒を全部飲み尽くしたカグラと志倫は、そのまま沈むように眠りについてしまっていた。今も、すぅすぅと軽やかな寝息を立てている。
 その横顔をじっと見ながら、かなめはゆっくり、言葉を探した。
 「うぅん……なんていうのかな。パートナーだし、大事な相方だし、それに……」
 「うん」
 「……それに、お兄ちゃん、かなぁ、やっぱり」
 予想通りの科白。キョウジはそれにくすりと笑ってみせると、わしわしとかなめの頭を撫でてやった。年齢は同じはずなのだが、こうしているとかなめの方が年下に見える。
 それから。
 1時間ほどしてカグラたちが起き出してきた頃、列車は目的地へと到着した。

4.弱肉強食サバイバルランチ!
 何処までも広がる大草原。彼方には、うっそうと茂る森も見える。
 「あの森が、今日のハンティング・ポイントってことらしいぜ」
 地図を見ながら、志倫が云う。
 「なら、森へ向かおう。日が暮れる前には戻ってこないといけないしな」
 キョウジは云うが早いか、森の方向へと歩き出した。かなめはその隣につき、その少し後方にカグラと志倫。
 「ねぇねぇ、朝のお話、あれどういう意味?」
 興味津々というふうでかなめが尋ねると、
 「……。まぁ、そのうち分かる日が来るさ。かなめにも、カグラにも、な」
 それだけ云うと、キョウジはまた地図に目を落とした。一行は談笑しながら、彼方にある森を目指して歩き続ける。
 ――一時間も歩いただろうか。どこまでも続くと思われた草原が終わると、あたりは唐突に森に包まれた。
 「ここが食料調達エリアだ。森の奥には川が流れていて、魚も豊富。森の中にはさまざまな動物たちが居て、食料の宝庫、だそうだ」
 志倫の説明に、俄然張り切るのはカグラである。
 「じゃ、早速食料調達といこうぜ。俺は動物を狩る。キョウジたちはどうする?」
 「俺は……川で魚でも釣ってこよう」
 「あ、あたしもそれがいいな」
 「じゃあ、俺はカグラと狩りにつきあうぜ」
 「なら、決まりだな。俺と志倫は森で狩り。キョウジとかなめが川で釣り、と。正午になったら、ここに戻ってこようぜ。昼飯にしよう」
 「了解した」
 「がんばってね、カグラ! 期待してるよ〜」
 「そっちもな、かなめ」

 さて。
 かなめたちと分かれたカグラと志倫は、森の奥へと分け入っていった。パンフレットによれば、動物たちの水場があるらしく、そこが絶好の狩り場らしい。
 というわけで、その水場にやってきたカグラと志倫、さっそく獲物を見つけた。
 「おー、いるいる。イノシシに狼、……あのでっかいフクロウはモンスターか?」
 「さすがにモンスターは食えないだろう。ねらうのは動物だけだな」
 武器を取り出し、やる気十分の志倫が云った。
 ――そして、それから十分ほどが経過して。
 「……って、なんか数が多くないか?」
 「騒ぎを聞きつけて、モンスターたちが集まってきてるんだ。こりゃ、きりがないな」
 顔をしかめながら、志倫が云う。すでにまわりはぐるりとモンスターたちに囲まれていた。地面には倒したモンスターや動物たちが多数、転がっている。
 「どうする、カグラ? 一点突破するか?」
 「でも、それやると獲物が……」
 「いや……こりゃもう下手するとこっちが獲物になっちまうぞ……」
 真剣な表情で志倫が云う。
 じりじりと、モンスターたちが包囲の輪を狭めてきていた。
 「あぁもう、こうなりゃ全部倒してやるよ! いくぞ、カグラ!」
 「お、おう!」

 同じ頃。
 静かに釣りを愉しんでいたキョウジとかなめは、彼方にモンスターたちの騒ぐ声を
聞いていた。
 「……カグラたち、派手にやってるみたいだね」
 「そのようだな。まぁ、志倫もついているし、滅多なことにはならないとおもうが」
 科白と共に、ぴっ、っと釣り竿を引き上げるキョウジ。びくの中には、大降りの魚が5匹ほど、入っていた。それを指先でつつきながら、かなめが、
 「こっちはこれで十分かなぁ。キョウジが釣りが上手なんて知らなかった」
 「いや……ここはよく釣れる。つぎはかなめもやってみるか?」
 「え、いいの? わぁ、やってみたいやってみたい!」
 はしゃぎながら、キョウジから竿を受け取るかなめ。
 と。突然辺りに、咆吼が響き渡った。同時に草木が揺れる音。
 キョウジが音のする方を見ると、そこには巨大な熊が立っていた。声もなく、立ちすくむかなめ。すばやくそれをかばうように前に出ると、キョウジは真魔創の弓を取り出した。魔力で矢を創り出し、大熊へとねらいを定める。
 「……キョウジ……」
 震える声でかなめが云う。同時に、キョウジは矢を放った。吸い込まれるように大熊を貫いた矢は、そのまま虚空へと消えていく。少し遅れて、大熊の倒れる音。
 「大丈夫か?」
 ゆっくりというキョウジに、かなめはちいさく震えながら頷いたのだった。

 それからしばらくして、キョウジとかなめはカグラたちに合流した。辺りには倒されたモンスターや動物たちが転がっており、木々はあらかた切り倒され、まるで台風のあとのようなありさまだ。あまりの惨状に、かなめは大きくため息を吐き、
 「……あぁ、男ってなんでいつもこうなのかしら」
 腰に手を当てながら呟いた。と、その視界に、なにか動くものが映った。顔を向けてみると、片足を引きずったウサギが茂みの中へと逃げていくところだった。
 「……お、こいつは食べられそうだ」
 素早く、そのウサギを捕まえるカグラ。だが、
 「ダメっ。その子は逃がしてあげようよ」
 「なんでだよぅ。狩ったのはほとんどモンスターで、食べられるのっていったらこいつくらいしかいないんだぜ?」
 「あたしたちが採ってきたお魚があるし、イノシシも何頭か倒してるじゃない」
 カグラに耳を掴んで持ち上げられ、きぃきぃと声を上げるウサギ。それをカグラの手からなかば奪い取るようにすると、かなめはウサギを抱きしめた。
 「助けて、あげようよ」
 そのままの格好で、カグラを上目遣いに見るかなめ。その視線にカグラは弱い。
 「わかった。じゃあ、応急手当てするから、こっちに」
 笑顔で云うカグラ。それを聞いて、かなめの顔に安堵の表情が広がる。
 それから、狩ったイノシシで昼食を採り、一行は遠足を満喫したのだった。

5.Another Meeting
 ぐったりと疲れた体を引きずり、森を後にするカグラたち。地平線には、沈んでいく太陽が見えていた。
 「しかし、あんなにモンスターが居るとは思わなかったなぁ」
 志倫の科白に、キョウジは、
 「パンフレットにも書いてあったろう。獲物も多いが、それを狙ったモンスターも多数出没すると……」
 「まぁ、そうだけどよ。まさかあんなにたくさん出るとはなぁ」
 「いいじゃんか。ぜんぶやっつけたんだし、無事に昼食にもありつけたんだし」
 頭の後ろで手を組みながら、カグラが呟く。
 4人の足下には、長い影法師がのびていた。もう日没間近。大平原は夕日色に染まっていた。かなめが顔をあげると、カグラの顔も夕日の色で赤くかすんでいた。
 「あのウサギさん、元気かなぁ……」
 「俺が応急処置したんだ。きっと大丈夫さ」
 カグラがそう云って、ぽむっとかなめの頭を撫でた。くすぐったそうに首をすくめながら、かなめは微笑む。
 「うん。きっと、そうだね」
 手を腰の後ろで組みながら、ととっとかなめは3人の前に出た。それからくるり、と振り向き、
 「ね、今日、楽しかったね」
 「そうだな。いろいろあったけど……いい思い出になったよな」
 志倫も頷く。
 それから一行は、お互いの戦果を話し合いながら、駅へと戻っていったのだった。

 駅に着くと、すでに「白やぎ」号がホームに停まっていた。未だ時間はあったものの、ホームですることもないということで、指定された席へと向かう一行。
 「あーあ、疲れたなぁ」
 ぽむっ、っと体をソファに投げ出し、カグラが大きく伸びをした。
 「ほんと。今日一日、すっごい歩いたよねー」
 「確かに。あの森までも結構な距離だったしな」
 ぱきぱきと肩を鳴らしながら、キョウジが頷く。
 「森の中も、結構歩いたしなぁ。何キロぐらいあったんだろ、あれ」
 「10キロは軽くいってるんじゃないか。さすがの俺も足が痛くなってきた」
 ふくらはぎをもみほぐしながら志倫が笑う。つられてかなめも、
 「あはは、あたしも。もう今日はあるけないぃ……」
 うつぶせにソファに飛び込んだ。
 そのまましばらく、一行は窓の外に映る夕日を見ていた。
 終わってみれば、永遠の一瞬。ついさっき「白やぎ」号に乗った気がしていたが、もう帰る時間なのだ。それがなんだか、寂しく感じられた。
 「ねぇ……遠足、もう終わりなんだね」
 かなめが、皆の気持ちを代弁するように云う。
 「そう……だな。なんだかあっという間の一日だったなぁ」
 志倫が感慨深げに天井を見上げた。その横顔も、夕日に照らされている。
 「なんか、帰りたくないね。もう少し、ここにいたい感じだな、あたし」
 「あぁ、それ俺もかも。もう一日遊べたらいいなぁ……っておもうぜ」
 カグラもそう云って、ソファの上にあぐらをかいた。
 と、志倫が、
 「……疲れたし、のども渇いたよな。な、発車までまだ時間があるし、食堂車、行ってみないか? せっかくだから見てみたいし」
 「あ、それ、賛成ー! あたしも食堂車見てみたい!」
 かなめも賛成し、志倫たちは連れだって食堂車へと向かった。2両目から6両目までが客車で、それを抜けると食堂車だった。
 わくわく、といった表情のかなめを先頭に食堂車に入る4人。
 「ありゃ……なんか閑散としてるね」
 着いてみると、席はがらがら。人の姿はほとんど無かった。
 「あー……みんな疲れて部屋で休んでるのかもね」
 かなめはそう云うと、手近な席に腰を下ろした。キョウジたちもそれに続く。
 ウェイターを呼び、思い思いに飲み物を注文したところで、一行に声がかかった。
 「あの……相席してもいいですか?」
 「ん? あ、あぁ。いいぞ」
 カグラが頷くと、少年は嬉しそうに空いている席に腰を掛けた。それから少年はお礼にと、持っていたバスケットから木の実や果物をテーブルに並べていく。
 「あそこの森でとれたものなんです。よかったら……」
 「わぁ、ありがとう。そういえば、木の実とかもいっぱいなってたよね」
 「そうだな。俺たちはモンスター狩りに気を取られてすっかり忘れていたが」
 志倫の科白に、カグラも、
 「そうだなぁ……あやうくこっちが昼飯になるところだったもんな」
 そう云って笑ってみせた。
 それからしばらくの間、少年の持ってきてくれた果物を肴に、カグラたちは今日のできごとを語り合った。その間、少年は興味深げに一行の話に聞き入っていた。

 やがて窓の外も暗くなってきた。汽笛が鳴り、発車の時間が近いことを知らせる。
 「あ……僕、そろそろ行かなきゃ」
 「え? あ、部屋に戻るのかな。よかったら、またお話ししてね」
 「うん、お兄ちゃん、お姉ちゃん、ありがとう」
 席を立ち、ぺこりと一礼すると、少年は食堂車の外へと出て行った。とてとてと、跳ねるような足取りで席を離れていく少年。
 そのとき、ふと、かなめは少年の足に目がいった。そこには――見覚えのある包帯が巻かれていたのだった。
 「あの、キミ――」
 かなめが声を掛けたとき、少年の姿はすでにそこにはなかった。
 同時に、また汽笛が鳴り――ほどなくして、「白やぎ」号は走り出したのだった。

6.エピローグ
 汽車は走る。人々の想いを乗せて。
 がたん、ごとんと眠気を誘う音を纏いながら、汽車は夜の闇をひた走っていた。
 自分たちのボックス席へと戻ったカグラたちは、すぐにベッドに横になった。今日一日の疲れが、どっと出てきた感じだ。
 それぞれのベッドを覆うカーテンが閉められ、中からは寝息が聞こえてくる。と、かなめが誰にというでもなく、云った。
 「ねぇ、さっきの子、もしかして……」
 「あぁ。おそらく、間違いないだろうな」
 カグラの返事。かなめにとっては、それだけで十分だった。不思議な、不思議なできごと。きっとそれは、素敵なキオクになる。

 眠気はあるのだけどなんとなく眠れなくて、かなめは最後尾の車両、ロビー車にやってきていた。大きな展望台があり、先ほどまで歩いていた草原や、その彼方にある森が一望できる。
 「あーあ……終わっちゃった。なんか……寂しいなぁ……」
 一人きりの展望台で、誰に云うともなしに呟くかなめ。
 「……なんだ、かなめも起きてたのか」
 その声に振り向くと、そこにはキョウジの姿。
 「なんだか寝てしまうのがもったいない気がしてな。廊下を歩いていたら、カグラたちも同じだったようなので、展望車に来てみたところだ」
 キョウジが云い、すっと身を引いた。その背後には、カグラと志倫の姿があった。
 「遠足は、家に帰るまでが遠足です……ってな」
 「そういうわけで、もう少しこの気分を楽しもう、というわけだ」
 志倫の科白を継いで、キョウジが云う。
 志倫はそう云って笑うと、手近な席に腰を下ろした。皆眠ってしまっているのであろう、展望車にはかなめたち4人だけがいた。
 展望車は天井がガラスになっており、見上げれば満天の星空が見える。
 まるで、星の海を往く船に乗ったようだった。
 「ま、そういうわけで、だ」
 カグラはそう云うと、両手に持ったビニール袋を高く掲げた。
 「遠足の残り、ぱーっと楽しもうぜ!」

 さまざまな思い出を乗せて、列車は寺根駅へとひた走る。
 また明日からは、戦いの日々だ。
 つかの間の休息に、神様は、すてきな思い出を残してくれたのかもしれない。



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この小説は株式会社テラネッツが運営するオーダーメイドCOMで作成されたものです。

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