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+ 遠足準備に追われてます? +
■蒼木裕■

<門屋・将太郎/東京怪談 SECOND REVOLUTION(1522)>
<門屋・将紀/東京怪談 SECOND REVOLUTION(2371)>
<門屋・京華/東京怪談 SECOND REVOLUTION(5634)>

 その日、門屋 将太郎(かどや しょうたろう)とその甥、門屋 将紀(かどや まさき)は明日の遠足のための準備に勤しんでいた。各々のリュックサックの傍には主催側から指定された小物を並べ、一目して足りないものが分かるようにしておく。
 しばらくはそうやって進めていたが、やがて家の中にあるものでは準備出来るものが無くなってしまった。


「よっし、そんじゃあ必要なものでも買出しに行くかっ」
「わぁーい!! 遠足遠足ー!」
「そうかそうか、そんなにも嬉しいか」
「だっておっちゃんがいつも連れてってくれるトコって言うたら、大抵近場やもん」
「交通費が安上がりで良いじゃないか。その分他に回せる」
「いつもそない言うて誤魔化してくるやん」
「連れて行ってもらえるだけ有り難いだろ」


 若干強めに将紀の頭を叩く。
 叔父の言葉にぷぅっと頬を膨らませつつ、将紀は玄関を潜る。何だかんだ行っても将太郎の言葉は一理あると思いながら。
 将太郎はポケットから取り出した鍵で施錠し、将紀を隣に位置するように移動させながら歩き出す。すると前方から何やら見覚えのある女性がやってきた。年の頃は将太郎よりも少々上だろうか。
 将太郎は一瞬反応出来ず、瞬く。
 将紀は口を開き、ああ! と思わず指をさした。


「久しぶりね、将紀、将太郎」
「お母ちゃん!!」
「何だ、珍しい。どうしたんだ?」


 現れたのは将太郎の姉であり、将紀の実の母親である門屋 京華(かどや きょうか)。
 普段はジャーナリストとして自由奔放に活動している彼女が今二人の前に立っていた。彼女は軽く手を持ち上げて挨拶をする。将紀は久しぶりに逢う母親に対して嬉しそうに近付き、腕にじゃれる。
 京華は子供の頭を撫でつつ、将太郎に対してにこにこと微笑みながら言葉を続けた。


「久しぶりにまとまった休みが取れたから、あんたんとこで世話になるわね」
「なっ!? そういう時は電話の一つでもしろよっ」
「抱えていた仕事がやっと終わって休みが取れたのが今日だったのよ。だからもう電話するよりも直接行った方が良いかなって思って。ほらもう荷物も持って来てるし」
「んな、勝手な」


 足元に置かれた旅行用バックを見つめ、将太郎は深い溜息をつく。
 姉のマイペースさに思わず脱力してしまう。すると、今まで脇にいた将紀が二人の間に入るように位置し、母を見上げる。


「お母ちゃんも一緒に遠足に行こう!」
「遠足?」
「ああ、明日俺ら遠足に行くんだわ。で、今から買いだしにいくところ」
「あら、楽しそうな話題ね」
「なーなー、一緒に行こうやーっ」
「んんー、どうしようかしら」


 久方ぶりに逢う母親に甘える将紀。
 何だかんだいっても彼は小学生。母恋しい季節なのかもしれない。普段は将太郎や将太郎の運営する『門屋心理相談所』を訪れる患者さんと一緒だとは言え、やはり親子の絆は別物だ。
 なにやら楽しそうに喋る二人を見て、将太郎はくいっと親指を立てて今し方閉めたばかりの扉を指差した。


「たまの休みくらい母親らしいことしてやれ、姉貴。荷物をさっさと置いて来い。それと……着替えろ」
「え、このままじゃ駄目?」
「いかにも『探検家です』みたいな格好で街中を歩くな」
「えー、此処までこの格好で来たのに」


 京華の格好は長袖、長ズボン、帽子、滑り止めの付いた手袋、運動靴。いかにもな格好に山登りでもしてきたのか? と思わず問いかけたくなる。
 彼女は弟の言葉にブーイングを飛ばす。だが、将太郎が「泊めないぞ?」と一睨みすると、しぶしぶながらも彼女は将太郎から鍵を受け取り、着替えと荷物を置くために中に入って行った。



■■■■■



 ラフなTシャツと綿パンツに着替え終わった京華と共に将太郎、将紀は近所のスーパーにやってきた。
 メモしておいた必要最低限の小物を買い物籠の中に放り投げていく。やがて籠いっぱいになった頃、将紀がカートを持ってきたので其れの上に買い物籠を乗せた。
 三人揃ってお菓子コーナーに移動すれば、子供らしく将紀が駆け寄っていく。
 興味のあるスナック菓子を手にとって、なにやら見比べている。一頻り比べた後、選んだ方を籠の中に放り投げた。大人組からすればどう見ても同じ種類のものだが、子供にしてみれば何か拘りがあるらしい。


「そういやちょっと思ってんけど」
「なぁに、将紀」
「なあ、何で遠足のおやつは五百円までって値段決まっとるん?」


 非常に素朴な疑問である。
 将太郎は持っていたメモを広げ、京華はそれを覗く。確かに其処には「おやつは五百円まで!」と走り書きをしている。連絡を受けた際そう伝えられただけなのだが、今回の場合学校行事ではないのだから別に五百円以上持って行っても良いじゃないかというのが将紀の意見だ。
 だが大人陣にも主催側の考えは分からず、返した言葉は。


「「さあ?」」


 という、見事な二重音声だった。
 一語一句間違えることなく返事をした二人に将紀は思わず笑う。そして「まあ、ええか」と言いながら再度お菓子選びを始めた。口で「お菓子は五百円まで、五百円まで」と自分に言い聞かせるように言いつつ、消費税まできちんと計算して選んでいる姿に京華が微笑む。
 だが、将紀が選び抜いた菓子を籠の中に入れようとした瞬間、ばしっとその手を掴んだ。


「将紀。これは駄目。ああ、これも駄目よ」
「ぇえええ! ええやん。別に遠足なんやし、お菓子自体に制限はないねんでっ!!」
「だぁめ。スナック菓子ばっかり買ってちゃ身体に悪いのよ。ああ、こっちのも駄目よ。これも駄目。……んーっ、これならいいわ」
「お母ちゃんのけちぃい!」


 反論しつつも完全には母親に逆らえない。
 名残惜しくも将紀は選び抜いた菓子類を棚へと直していく。将太郎は却下された菓子全てがカード付きのスナック菓子だと言うところに笑ってしまう。
 そして自分の選んだものを籠の中に入れようとする、が……またしても京華のストップが掛かった。


「こら将太郎! あんたはどうしてビールとつまみを持ってくるのよ!」
「別に良いじゃねえかこれくら……」
「それはおやつじゃないでしょう! 今すぐ返していらっしゃい!!」


 将太郎が「イベントには欠かせないアイテムじゃないのか」と反論しても駄目の一点張り。
 てこでも動かない京華に心の中で文句を言いつつも持ってきたばかりのそれらを直しに渋々移動する。京華はふぅっと腰に手を当て、将太郎と将紀の行動に満足する。そんな彼女は自身の好む菓子を掴むとぽいっと籠の中に入れた。


「やっぱり、これだけは外せないわよね」


 ふふっと笑う彼女に「理不尽だ」と二人から文句が来るまであと数秒。



■■■■■



「お弁当に鳥の唐揚げが食べたい」


 将紀がそう言ったので三人で肉コーナーへ。
 細かく分けられた胸肉パックを籠の中に入れ、これで他に何か買うものはないか三人でメモを眺める。最終確認が終わるとそのままレジの方へと方向を変えた。
 その道中、京華がぱんっと手を叩き合わせる。何だ? と将太郎と将紀が彼女を見つめれば、京華は嬉しそうに微笑みながらこう言った。


「そうだわ。久々にお母さんが料理の腕を奮ってあげる」
「……え?」
「マジ?」
「鳥の唐揚げがいいのよね。大丈夫よ、任せて!」


 どんっと自信を持って胸を拳で叩く京華に慌てて……しかし表面上は極めて冷静に二人が言葉を返した。


「いや、姉貴は休んでてくれ。弁当は俺らが作るから」
「おっちゃんの言うとおりや。お母ちゃん今まで忙しかったんやろ? ボクの料理の腕もあがってんでっ。な、食べてみてぇや!!」
「……そーお? 二人がそこまであたしのこと気遣ってくれるなら作って貰おうかしら。将紀の手料理も食べたいしねー」


 頬に手を当ててんーっと天井の方を見上げる。
 特に気分を害した様子のない京華にほっと胸を撫で下ろした他の二人。そんな彼らは、ほぼ同時に同じ事を心の中で呟いた。


―――― 京華の料理の腕前は殺人的に下手、だと。



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「将紀の奴、何だかんだ言ったってやっぱり子供だな」
「はしゃぎ疲れて眠るだなんて可愛いじゃない。子供ってこんなもんよ」


 よっと京華が身体を跳ねさせ、背中に乗っている将紀を上部へと押しやった。
 将紀を負ぶっている京華の両手が当然塞がって使えないので、荷物は全て将太郎が持っている。幾つにも分けられた袋の持ち手が手の平に食い込んできたので、適度に手を動かして重心をずらした。
 ふと通りすがりの家族が向かい側からやってくる。母親と父親、そして二人に手を繋がれた子供。
 思わず目が離せなくて出来るだけ相手に不快を与えないようやんわりと視線を向ける。将太郎はその仲の良いその光景に、もしかして自分達もあんな風に見えているのだろうかと考えた。
 それはそれは仲の良い親子に見えているのかと。


「将太郎、何してんの?」
「あ、な、なんでもない」
「ぼぉーっとしちゃって。ほら、しゃきっとしなさい。しゃきっと!」


 姉の言葉に若干苦味を含んだ笑みを返す。
 ああ、こんな風に叱られるのも久しぶりだなと思った。


 明日は楽しい遠足。
 姉と甥のおまけでもいい。二人が楽しんでくれるなら父親や夫の代わりでもいい。将太郎は隠しきれない笑みを浮かべながら、自分も明日と言う日を楽しむかと心に決めた。そうして持ち上げた唇は誰も知らない。



……Fin




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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【東京怪談 / 1522 / 門屋・将太郎 (かどや・しょうたろう) / 男 / 28歳 / 臨床心理士】
【東京怪談 / 2371 / 門屋・将紀 (かどや・まさき) / 男 / 8歳 / 小学生】
【東京怪談 / 5634 / 門屋・京華 (かどや・きょうか) / 女 / 33歳 / フリージャーナリスト】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、今回はイベント商品の方の発注を有難う御座いましたv
 何て言いますか、京華さんと将紀さんの親子を描写するのがとても楽しかったですっ。(特に料理のところとか、おんぶとかが)将太郎さんを含め、親子愛的なものを書くのが好きなので、個人的にうはうはと書かせて頂きました。有難う御座いますv



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この小説は株式会社テラネッツが運営するオーダーメイドCOMで作成されたものです。

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