江戸艇花柳 あやかし奇譚

■オープニング■

 柳は緑、花は紅。
 初夏の風が表通りを駆け抜けようとも、色無き風が物悲しく吹き荒ぼうとも、ここにあるのは穏やかなぬくもりと春の陽だまり。
 春を売る、ここは色里、花の街――江戸艇花柳。

 大門の奥に並ぶ廓屋の一角に、この里一番の古い見世がある。中は広くて廊下にはいくつも障子戸と襖が並んでいた。
 そこに、一人の艶やかな娘が立っていた。
 見かけない顔だから新しい妓だろうか。化粧もしていないようなのに、透き通るように綺麗な白い肌と濡れた紅い唇が妙になまめかしくて、椛はわずかに息を呑んだ。
 女の自分でも思わず見惚れてしまうほどの美少女だったのだ。傾城に登りつめるのもそう遠くは無いかもしれない。
 その娘が、長襦袢姿で立っていた。
 まだ大門も開いてはおらず見世の開く時間でもなかったから、別段その事に問題はない。
 ただ、娘の立っていた場所が問題であった。
 いつからなのかは椛も知らない。
 自分がこの廓屋へ訪れた時には既にそうだった――襖や障子戸の並ぶ廊下の奥にポツンとある、開かずの木戸。
 その奥に何があるのかはわかわない。
 ただ、時折奇妙な音が聞こえてくるだけだ。
 ずるずると何かを引きずるような音。それから、カタンと乾いた木のぶつかる音がする。
 札の貼られたその木戸には、しっかりと鍵がかけられ、かすがいでしっかり柱に止められていた。
 外には窓もなく、いや、あった筈の窓は板でふさがれ釘を打たれていた。
 中に入ることは出来ず、誰かが破って入った形跡もなかったが、時折奇妙な音がする。
 けれど誰もそれについて触れることはしなかった。
 ねずみか何かのいたずだろう、ぐらいに思っているのかもしれない。
 それは椛がそうであったからだが。
「ここに……」
 娘が、椛に気付いて振り返った。
 まるで、この木戸の奥にある部屋に用があるとでも言いたげな目で、木戸に手を伸ばしている。
 椛は困ったように首を傾げて彼女に近寄った。と、その時。
「開けてはならん!」
 振り返った先で怖い顔をして、この遊女屋の遣り手婆、梅が立っていた。
「その部屋には縊鬼が住み着いておるのじゃ」


 ■1■

 山本建一は半ば途方に暮れたようにきょとんとして、その大門を見つめていた。
 変わった頭の形をした人間――いや、正確には髪型が変わっているのか――が、極稀に異界人が着ている“和服”と呼ばれる装束を身につけ、次々に大門の中へ吸い込まれている。
「ここは一体?」
 建一は逡巡するように再び大門を見上げた。
 何が起こっているのかさっぱりわからない。瞬く間の出来事だったのだ。
 大門の向こう側で誰かが手招きをしているのが見えた。小さな子供のようだ。髪は結われておらず、おかっぱ頭の切り禿である。頭には大きな蓮の花かざりを付けていた。着ている物は他の者達と似通っていたが、梅襲に朱色地の着物は金糸銀糸で華やかに飾られていた。
 その子供に誘われるように大門をくぐると、女の子は建一の手をそっと掴んで言った。
「お侍さん、ここは初めてなん?」
 お侍さんといわれて建一は初めて自分を振り返った。
 いつの間にやら自分も和服を着込んでいる。彼はその着物の名前をよく知らなかったが陣袴に腰には2本差姿であった。代わりに、持っていたはずの杖も竪琴もなくなっていて、建一は眉間に皺を寄せた。大切な持ち物を紛失して、それでも蒼褪めたり慌てたりするでもなかったのは、どこかこの世界が曖昧としていて、一向に現実味を帯びてこなかったせいだろう。
 これは、夢か何かだろうか。侍というのはどこかで聞いた事があるような気もする。
「ああ、初めてらしい」
 建一は困ったように首を傾げて女の子に答えた。
「したらうちが案内したげる」
 女の子がにこっと笑う。
 建一もつられて笑みを返しながら、女の子に促されるままに歩き出した。
「それで、ここは一体?」





 風が舞い、花が舞う。

 柳は緑、花は紅。
 初夏の風が表通りを駆け抜けようとも、色無き風が物悲しく吹き荒ぼうとも、ここにあるのは穏やかなぬくもりと春の陽だまり。
 春を売る、ここは色里、花の街――江戸艇花柳。





   ◇



「…………」
 シュライン・エマは目の前の格子を見やりながら小さく溜息を吐き出した。さすがにもう、驚いたり慌てたりするような事もない。またか、と内心で呟いて自分の姿を確認し状況を判断するだけだ。
 艶やかな藤と茜の内掛けに、花の刺繍の襟を半分折り返している。
 半襟を折り返すのは元は京都島原の遊女たちだけの着付けで、京都御所に上がる事を許される証であった。そのため、遊女の中でも天神や太夫といった上級の遊女者達だけに許されたものである。
 にもかかわらず、この状況は、下級遊女の如く格子の前で客を呼んでいるというのだろうか。
 シュラインは自分の置かれている状況を思いやって、頭が痛くなってくるのを覚え、そっとこめかみをおさえた。
「なんで私、春を売ってるのかしら……」
 疲れたように呟いてみる。
 だが、程なくしてそういうわけでもないらしいと気付いた。
 自分は立っていたのだが、目の前にいる若い娘たちは座っていたのである。
 何となく脳裏を、教育係なんて言葉が過ぎっていった。
 開門の鐘が鳴り響く。大門が開かれたのだろう間を置かず前の通りを男どもの影が見え隠れしはじめた。
 シュラインは誘われるようにそちらを振り返っていた。
 通りを歩く男と目があう。
 この世界には不似合いな金色の髪。トレードマークのようなサングラスは付けてはいなかったが、一人の見知った男の名が浮かぶ。
 ――北城善。
「あなたも来てたのね」
 シュラインが声をかけると、着流しの男は肩をすくめて面倒くさそうに応えた。
「なんかよくわからないんだけど、気付いたら遊郭だったからさ、ま、遊んどこうかなっと思って」
 切迫感も何もない。空間転移の怪奇現象には慣れているのか、胆の据わった男である。
「……で、もしかして売れ残り?」
 善はあっけらかんとした笑みを向けて言った。まったくもって胆の据わった男である。
 善の言葉にシュラインは胸元から静かに懐刀を取り出してみせた。
「ここでなら絶対バレないかしら?」
 柔らかい笑みを湛えてはいるが、目は微塵も笑ってはいない。
 善は慌てて手を振った。
「じょ…冗談だって」
 それから顔を寄せると声を潜めて言った。
「買ってやろうか?」
 今のこの状況に対する何かを察したのだろう。
「結構よ。……と言いたいところだけど……」
 シュラインは小さく溜息を吐いた。何かがあって呼ばれたのであれば、呼ばれた者同士で動くのは悪いことではない。それに、全然無関係の誰かに買われるよりはよほど身動きがとりやすいだろう。
 頷くしかない。
「旦那じゃなくて悪いな」
 善がぼそりと言った。視線のやり場に困ったようにそっぽを向きながら。
「何言ってるのよ」
 シュラインは肩を竦めて、格子を抜けると、その揚屋に入って行く。
 この妓楼のやり手婆――梅が2人を2階へと案内した。
 階段をあがると長い廊下に障子戸が並んでいる。しかし一番奥の一室だけ木戸になっているのに気付いて、シュラインが遠目に尋ねると、梅は物置だと答えた。それから近寄るなと付け加えられる。シュラインと善の2人は顔を見合わせたがそれについては何も言わずに梅の後に続いた。
 2人が案内されたのは木戸の部屋から十も離れた6畳の座敷であった。
 既に酒の膳が用意されている。
 シュラインは小さく肩を竦めて、中へ入ったのだった。



   ◇



 セレスティは、その大門をしばらく眺めた後、相好をほころばせてそれをくぐった。
 前回は、いろいろあって豪遊とまではいかなかったし、今回も豪遊できる保障などどこにもない。
 しかし、せっかく来たのだから遊ばない手はないのである。
 供も付けず1人ゆったりとした足取りで花街を歩きながら、セレスティは一番奥にあった、一番大きな揚屋を覗いて、一番広い座敷を借り切るとこの花街で一番の花魁を呼んだ。
 大店の主人である。金に糸目などつける気は毛頭ない。本当は揚屋をまるごと借り切りたいところだったのだが、既に客もあるというので諦めた。
 20畳はある広い部屋に案内され、待っているとやがて一人の花魁が数人の取りまきをつれて現れた。
「兵衛太夫にござんす」
「これはこれは」
 セレスティは目を細めて太夫を見た。
 何のいたづらか、ここに呼ばれたゆえの必然であったのか、太夫は左右で長さの違う黒髪を江戸風に結い上げるでもなく下ろしていた。その瞳が赤い。
 一見してこの世界の人間でないことは容易に窺い知れた。
 それは彼女も同じだったろう。セレスティの長い銀色の総髪は、馬のしっぽのように一つに結い上げられているだけだったのだ。
「不思議な世界に迷い込んだと思っていましたら……」
 兵衛はセレスティの隣に座って言った。どこか安堵の混じった声音である。
「今回は何があるのでしょうね」
 セレスティは杯を取りながら、少しだけ楽しげな笑みを返して言った。
 酒の肴に兵衛はこれといった話題も見つからずに話した。
「あちらでは古書をしております」
 読書好きのセレスティが目を細める。
「一度伺いたいものですね」
 とはいえ兵衛の営む古書は誰でもが簡単に訪れることの出来る場所ではない。兵衛は曖昧に笑って続けた。
「しかしここにはあちらにないものが多くあるような……」
 この世界には、自分の古書にははい本が存在しているような気がするのだ。勿論これは、彼女自身確認したわけではない。感覚的なものがそう告げるだけだった。だは勘というよりも確信に近い。
 兵衛の古書がどれほどの品揃えであるのか知らないセレスティだったが、その意見には同意して杯を傾ける。
 兵衛が注ぎ足すとっくりに、セレスティはこの江戸艇のことなどを徒然話し始めた。
 何か用事があって呼ばれたこと。用事をかたづければ元の世界の元の時間に返されること。
「まぁ、用事の内容はその内明らかになるでしょうし、今はのんびり待ちましょう」
 何とも暢気にセレスティが言うのに、兵衛はにこりと笑って立ち上がった。
「では、それまで舞でもひとつ舞ってみましょうか」
「ほぉ、舞えるのですか?」
「これでも長と生きてきましたから」
「なるほど」





 ■2■

「わっちは椛……椛でござんす」
 艶やかな女が柔らかい笑みを湛えてそう言った。小さな童女に連れられて奥の見世までやってきた建一は、童女に促されるままに花代とやらを払い、一室に案内されたのである。
 部屋には酒の膳と座布団が並んでいた。
 慣れぬ袴の裾をさばいて何となくその上に、緊張のためか背筋をピンと伸ばして正座して待つ事、数分。
 その女がやってきた。
「わっち?」
 建一は耳慣れない言葉に異国の言葉だろうかと首を傾げた。しかし何となく意味はわかるような気もした。
 椛とは彼女の名前だろう。ならば、わっちとは「私」ぐらいの意味か。
「ここは初めてでありんすか?」
「……はい」
 少し躊躇いがちに答えたのは、質問の意図を自分が把握している自信がなかったからだ。
 しかし椛はそれにホッとしたような笑みを零した。
「良かった。ここの言葉は少うし独特で、うちもあんまりよう喋らへんのよ」
 椛はふふふと笑って建一の隣に腰を下ろすと、膳のとっくりを両手でそっと取りあげた。彼女の訛りのあるイントネーションも耳慣れなかったが、先ほどよりは随分と通りがよくなった気もする。
「楓さんが気ぃ遣うてくれはったんやねぇ」
 そう呟いて椛は彼の杯に酒を注いだ。
「もっとくつろうてもろてえぇんよ。そない畏まらんと」
「はぁ……」
「せっかくやし、楽しんでっておくんなんし」
 そう言って椛はゆったりと立ち上がった。
 すると隣の部屋で控えていたのだろう、先ほどの童女――楓が三味線を持って現れた。
 聞いた事もない節回しで艶やかに椛が舞う。彼のいた聖獣界ソーンには吟遊詩人がいて竪琴を爪弾いたり、時にジプシーたちが軽やかに踊るが、それらとは全く違った踊りだった。軽やかに宙を舞うというのでもなければ、大地に跪くでもない。
 ただ、はらはらと扇子は花にもなり蝶にもなり落ち葉にもなって、それを愛でるように優しく舞うのだ。
 それが、妙に懐かしく感じられ耳に馴染んだ。
 柔らかい彼女の唄と三味線の音。それに相俟って何かがこすられるような音が遠くから耳に届く。微かに、だが。
 建一は少しだけ眉を顰めてそちらを振り返った。
 カタンと乾いた木の音が障子戸の向こうの廊下の方から聞こえてくる。
 建一が訝しみながらも、どこかの部屋の騒音だろうと再び椛を振り返ったら、椛は顔を蒼褪めさせて扇子を取り落としていた。
「あ……ごめんなさい」
「椛さん?」
 椛はすぐさま扇子を取り上げて、再び舞いの続きを始めようとした。しかしその顔色があまりによくなかったので、建一はそれを止めて尋ねた。
「どうしました? 顔が青いですよ。今の音と、何か関係が?」
「…………」
「お姉はん?」
 楓も三味線の手を止めて心配そうに椛の顔を覗き込んでいる。
「ただの鼠か何かでしょう」
 椛は努めて明るい笑顔をつくるとそう言った。しかし彼女が無理をしているのを感じ取って建一は嗜めるような強い語調で彼女の名を呼んだ。
「椛さん」
 椛はしばらく俯いて何事か考える風だったが、やがて顔をあげて言った。
「……お侍さんはお強いんやろうか」
 建一はそれに答えず、先を促す。
「何があったんです」
「ここには開かずの間があって、そこには縊鬼という鬼が棲んでいるのです……」
「鬼?」
 今まで椛はそれを、鼠かいたちかその程度に思っていた。けれど聞いてしまったのだ。開かずの間には縊鬼という鬼がいると。縄を引き摺り首を括って足を支える台を倒す。何度も何度もそれを繰り返しているのだと。首くくりの鬼。それに出会うと自分も首を括らずにはいられなくなるという。
 そう知ってから怖くなったのだった。忘れようと努めても。木戸には封印の札が貼られている。中に入らなければ何も起こらない。今までもそうしてきた。
 けれど、不安が募るのをどうにも出来なくて。
 今いる、この部屋から二つ隣の奥の部屋だった。
「では、僕が退治してさしあげましょう」
 建一が言った。
「本当ですか?」
「えぇ。僕には探している女性いるのですが、あなたと居て、今もどこかでこんな風に笑ってくれていたらいいなと思いました」
「…………」
「だから、あなたにも笑っていてもらいたい」



   ◇



「今、何か音がしなかった?」
 シュラインが杯に注ぐとっくりの手を休めて言った。
「音?」
 善が怪訝に首を傾げる。別にこれといって気になる音は聞こえなかった。外から聞こえるのは夜の風にざわめく葉擦れの音。それから小気味よく鳴るししおどしくらいのものだ。
「ええ、拍子木を打ったような……」
 シュラインはとっくりを置いて考えるように指で顎をなぞった。ししおどしは竹と石がぶつかる音だが、確かに先ほど聞いたのは木と木がぶつかる音のようだったのだ。
「拍子木なら火の用心ってやつじゃないのか?」
「でも、それなら火の用心って声も後に続くでしょう?」
 おかしいのは、その後に何も音が続かないことである。誰かが何かを倒してしまったにしても、その後しんと静まり返っているのが何とも不自然に思えた。
「気のせい……とは思えないんだけど」
「まぁ、音に関しては、あんたにゃ勝てないからな」
 そう言って善は立ち上がった。確認しに行こうとでもいう風に。何もなければ何もないでいい。ただ、自分たちがここにいる理由を考えるなら動くべきだと思われた。
 2人は座敷を出る。
「音はどっちから?」
 尋ねた善に、シュラインは暫し考える風に視線を彷徨わせるとそちらを指差した。その先に、物置と言われた木戸が見える。近寄るなと言われた木戸だ。
 2人は顔を見合わせてそちらに歩き出した。
 シュラインの足がふと止まる。
「ん?」
 それに善も足を止めて振り返った。シュラインがノックもなく声をかける事もなくおもむろに傍らの障子戸を開けるのに驚く。
 シュラインは口の中で小さく、やっぱり、と呟いた。
 後ろから善が中を覗く。
「おや、皆さんご一緒で。事件ですか?」
 突然無粋に開けられた障子戸に別段気を悪くするでもなくセレスティが開いた扇子を掲げてみせていた。
「まだわからないんだけど……」
 シュラインは肩を竦めて一歩中へ入る。
 それにセレスティは部屋を見渡すと、袖から財布を取り出し小判を投げた。兵衛が心得たように取り巻きたちに目配せすると、彼らは小判を取って部屋を出て行く。
「それで?」
 シュラインと善が部屋に入り、兵衛の並べた座布団に腰を下ろしたところで、セレスティが尋ねた。
「物置が、少し気になってね」
 シュラインが言う。
「近寄るなと釘を刺されたんだ」
 善が付け足した。
 そしてその物置の方から聞こえたという音の話に、セレスティはなるほどと頷いて扇子をたたんだ。
「では、行ってみましょうか」
 そう言って立ち上がりかけた時、取り巻きを下がらせた事を訝しんできたのか、梅が、今の話を聞いていたのだろう通せんぼでもするように障子戸の前に立ちはだかっていた。
「行ってはならん」
「何故?」
「あそこには縊鬼がおる」
「……いき?」
 眉を顰めたシュラインに、心当たったように兵衛が呟いた。
「首くくりの鬼」
「げっ……。そりゃたちが悪いな」
 善が嫌そうな顔をした。
「知ってるの?」
「まぁ。鬼の中でも3本の指に入るくらい厄介な代物だ」
「…………」
 生きたものは死んで鬼になるという。それはどちらかといえば幽霊に近いだろう。中でも首を吊って自殺したものを縊鬼と呼んだ。縊鬼はその場所を動くことも出来ず、まるで自縛霊のようにその場に留まり、夜毎、自分が自殺した時の光景を繰り返すのだった。そして、自分に出会った者たちも皆、首を括らせ死なせるのである。
 暫しの沈黙を兵衛が破った。
「鬼を退治する方法は私の知る限り3つです。祭る。心残りを晴らしてやる。道術などによって成仏させる」
 指折り数える。
 祭るとは、縁日や宴のようなものではなく、この場合、お盆やお彼岸に行うような、食べ物などを供えたりする行為の事だった。
「だが、縊鬼に関しちゃ2つ……いや1つかもな」
 善が溜息を吐く。
「どういう事です?」
 セレスティが尋ねた。
「聞いた事があります。昔、中国では100年を生きて更に試験まで受けてなるといわれる仙狐でさえ、返り討ちにされた、と」
 兵衛の言葉に善が頷く。
「まず、術の類による力押しでの退治はほぼ不可能だろうな。もともと死んでるわけだから、殺せるわけでもないし、怨念のかたまりみたいなもんだから物理攻撃も殆どきかないし」
「なるほど」
 セレスティは頷いて考え深げに閉じた扇子で軽く膝を叩いた。
「それに祭って退くなら、とっくの昔に退いてるだろうし、下手に顔合わせてこっちまで首括らされた日にゃ、しゃれにならん」
「つまり、心残りを払拭してやるしかないということですか」
「しかもこの場合、心残りとは恨みつらみって事よね?」
「自殺をするほどの、自殺に追い込まれるほどの何かが過去にあったと」
 善は梅を振り返った。
「ばーさんは何か知らないのか?」
「わしがこの揚屋に来た時には既にあれはおったからな」
「そりゃ、恨みの対象が既に亡くなってる可能性があるなぁ」
 善はそこでふと風に誘われるようにそちらを振り返っていた。
 いつの間に窓が開けられていたのか、そこから涼しい風が入ってきている。
 皆も、そちらを振り返っていた。
 そこに一人の娘が立っていた。
 化粧もしていないのに、透き通るように綺麗な白い肌と濡れた紅い唇が妙になまめかしい誰もが思わず見惚れてしまうほどの美少女だった。セレスティもまた男女を問わず魅了してしまう絶世の美を持っていたが、それとは少し異なる愛らしさである。
「!?」
「あなた……」
 その娘が長襦袢姿であるのに、慌ててシュラインは駆け寄ると自分の内掛けをかけてやった。
「あの部屋に私の……」
「え?」
 呟く娘にシュラインが彼女の顔を覗き込む。
「…………」
 あの部屋に、この娘の一体何があるというのか。
「あの部屋は梅さんが遊女をしてた頃から1度も開いてないんですか?」
 シュラインが尋ねた。
「うむ」
 梅が頷く。
「じゃぁ、決まりだな」
 善が言った。
「何がじゃ」
 梅が狐につままれたような顔をして善たちを見たが、誰もそれには答えなかった。
 ただ――。
「お嬢さん、あの部屋の鬼のことをご存知なんですね? たとえば鬼になる前の話とか」
 尋ねたセレスティに娘は困惑げに俯いた。
「…………」
 ゆっくりと、首が縦に振られる。
 刹那、シュラインが立ち上がった。
「待って! ……今、木戸が開いた」
「何だって!?」





 ■3■

 札は破れ木戸は開かれた。
 どれほどの間、開かれなかったのか。しかし木戸は軋むでもなくするりと音もなく開いた。
 怖がる椛を庇うように立って建一が1人一歩中へ入る。
 4畳半ほどの狭い板張りの部屋には長持ちが一つと和箪笥が2つ左右に並んでいた。部屋の真ん中には行灯の灯り。その傍らに鏡台が一つあって女が1人その前に座っていた。
 建一は無意識に息を呑んだ。
 たった今、この木戸は自分が札を破って開いた。その後、誰もこの部屋に入っていない。自分が一番にこの部屋に入ったのだ。
 けれど中には女がいる。つまりは最初から中にいる、この女が縊鬼。
 綺麗に化粧をした、垂れ目の女が、どこか嬉しそうに顔を歪め、そして入ってきた建一をゆっくり振り返った。
 反射的に建一はその顔から視線をそらせる。
 女は悠然と立ち上がった。控えめで品の良さそうな佇まいに見えた。少なくとも、鬼などと呼ばれる類には見えない。
 ただ、その白い手が一本の縄を握っていた。やはり、この女が縊鬼なのだろう。
 建一は一つ深呼吸する。
 小さく口の中で呪文の詠唱を始めた。
 彼が軽く握った手の中に白い光が現れる。それはやがて剣の形を象った。魔法で作り出した聖なる剣――オーラソード。
 その切っ先を下段に構え一拍。
 縊鬼は自ら建一の間合いに入ってくると、その顔を覗き込んだ。
 彼の後ろにいた椛の衣擦れの音がする。建一は半歩下がろうとした。
 木戸の外にいる筈の椛を庇うように。
 ――そうだ。椛は木戸の中には入ってきていない。今の衣擦れの音は……。
 顔をあげた刹那、縊鬼と目が合った。
 一瞬だったが、縊鬼にとっては充分だったらしい。縊鬼の目が暗く底光りしているのを感じた瞬間、彼は狼狽した。
 自分の体が自分の意志で動かなくなったからだ。
 ――操り……。
 油断していたわけではなかった。縊鬼に出会った者は皆、首を括らされるのだ。
 縊鬼は縄を差し出し、抗いがたいほどの力で建一の手首を掴むと引っ張った。
 木戸の外から覗いていた椛を縊鬼が睨みつける。
 椛は悲鳴をあげる事も出来ず、助けを呼ぶ事も出来ずに頽れた。
 見えずとも、音だけでわかる。
 建一は思い通りにならない体に苛立ちながらもその唇に全意識を集中して一つの短い呪文を唱えた。
 彼の手首が光に包まれたかと思うとスパークする。縊鬼が反射的に彼の手を離した。
 反動で建一は後ろに尻餅をつく。
 ――何とか、この部屋を出られれば。
 縊鬼の顔が怒りに歪み、彼を見下ろしていた。透き通るように白い手が建一に伸ばされる。



 ◇



「誰かがあの開かずの間を?」
 セレスティが尋ねたのにシュラインは確信に満ちた顔で頷いた。
 音が聞こえるのだ。はっきりと。
 板張りの床を叩く足音。何かが倒れる音。それから――悲鳴?
 部屋を飛び出すシュラインと善にセレスティと兵衛が続く。
 木戸の前に倒れている遊女に気付いて善が走りながら尋ねた。
「おい、この家に桃の木はあるか?」
 一緒に走っていた梅が答える。
「庭先に……と、ありゃ椛と楓か?」
「梅はん!」
 倒れていた遊女の傍らにいた切り禿の童女が梅たちに気付いて駆け寄ってきた。
「椛ねーはんが……お侍さんが……」
「落ち着け。誰か桃の木を一枝とってきてくれ」
 善が言った。
「私が行くわ」
 シュラインは重い花魁装束の裾を両手で抱えあげた。こういう時、花魁装束は重くて動きにくい。悪態をついていると、楓が、シュラインの着物の裾を器用にはしょりあげた。
「うちにも手伝う」
「うん。桃の木のある場所わかる?」
「こっちや!」
 楓は庭の方を指差すと階段とは逆の方に走りだした。
「え?」
 庭なら1階から外に出るのではないか。しかし。
「こっちの窓から届くんえ」
「うん」
 シュライン達が桃の枝を取りに走った。
 兵衛とセレスティが椛を介抱するようにその傍らで膝を折っている。ただ気を失っているだけなのか、それとも縊鬼の何かが働いているのか慎重に見極めるように。
 善は木戸の中へと飛び込んだ。
 縊鬼の白い手が建一の首を掴んでいる。
 建一の持っている剣に気付いて、善は力いっぱい彼の腕を蹴りあげた。
 腕が動き剣は弧を描くようにして縊鬼がたった今いた場所を一閃する。
「ちっ……外したか」
 舌打ちしながら建一を振り返った。まだ縊鬼の呪縛は解けていないのか、建一は尻餅ついた状態のまま固まっている。
 とりあえず、この部屋から出さなくては。建一の体に手を伸ばす。それより早く縊鬼の手が善の腰帯を掴んでいた。
「げっ」
 と呟いた時には縊鬼の信じられないような力で飛ばされて、そこにあった長持ちにしたた背をぶつけていた。一瞬息が詰まる。
「げほっ……」
 小さく咳き込んで、膝をつく。立ち上がりかけて、結局彼はやめた。
 戸口にシュラインが立っていたからだ。
「桃の枝、取ってきたわ!」
「それで奴を打て」
 善の言葉にシュラインが桃の枝を縊鬼に向かって凪いだ。
 桃は邪気を祓う力があるという。その効果か縊鬼はそれに怯えたように退くと、どこかへと姿をくらました。
 刹那、建一の呪縛が解ける。善は建一を抱えるようにして部屋から出た。
「大丈夫か、あんた」
「ありがとうございます」
 建一が礼を言うのに善は疲れたように息を吐いた。
「いや、普通の鬼なら今のでも充分太刀打ち出来ただろうが……」
 善の顔が嫌そうに歪む。建一の手にしている剣。これほどの術者をも首くくりへと追いやるのか……と。
 そして、そこに佇む娘を振り返った。
「…………」
 娘は戸惑うように善から視線をそらせる。
「一度、対策をたてた方がいいわね」
 シュラインが言った。
 椛の介抱を梅と楓に任せ、残りの一同は、セレスティの部屋に入った。
「教えていただけませんか? あの鬼の事を」
 兵衛がお茶を淹れ皆に配りおえたところで、セレスティがそこにいる娘に尋ねた。
「…………」
 しかし、俯くばかりである。
 業を煮やしたようにセレスティが続けた。
「あの鬼が恨んでいるのは、あなた、ですか?」
「!?」
 善とシュラインが驚いたようにセレスティを見て、娘を振り返った。
「なっ……」
 娘は困惑げに、それでも頷いた。
「どういう事?」
 シュラインが尋ねる。
「…………」
 答えようとしない娘の代わりに、セレスティが言った。
「あの鬼は生前、あなたの何かをあの部屋に隠し、自らを門番にしたのではないですか。そう、あなたは……」
 セレスティの言葉を兵衛が静かに遮った。それより先は他人が口にすべき事ではないとでもいう風に。互いに占いを嗜む者同士、彼女の中にも何かが見えたのか。兵衛は気遣うように娘を振り返った。
 娘はゆるりと口を開いた。
「どこにいんだのか、わかりませなんだ」



 昔、将来を誓い合った男女があった。
 そこへ一人の傾城の娘が現れた。男はその娘に骨抜きになり、娘を自分の元へ留めおくために、女を捨て、娘の『大切なもの』を盗みどこかへ隠してしまった。
 娘は已む無く男の元に嫁ぎ、その男は少し前に息を引き取ったのだという。男が死の間際に語った場所に、果たして娘の『大切なもの』は見つからなかった。
 捨てられたことに怒った女がそれを盗み、隠してしまっていたのである。



 娘の話を誰もが静かに聞いていた。
 話し終えてもしばらく誰もが無言だった。
 梅がまだ年若であったほどの昔話である。しかし歳をとった様子もない娘に、それを尋ねる者も、恐らくは疑問を抱く者のなかった。そういう人間はこの場にもいる。
 彼女の探しものもその正体も、やはり聞こうとする者はなかった。誰もが薄々と感づいていいることだったのだろう。
 やがて、何事か考える風だったシュラインが口を開いた。
「おさらいするわね。鬼を退治する方法は、祭る、心残りをなくしてやる、道術などを使って成仏させてやる。この3つね」
「3つ目は難しいと思いますが」
 建一が言った。縊鬼と相対して感じたことだった。力押しでは無理なのだ。
 桃の枝は、恐らくその場しのぎにしかならない。また、桃の枝で縊鬼を退け、とりあえずは娘の『探しもの』を取り返したとしても、根本的な解決にはならない筈だ。
「縊鬼の心残りって、やっぱり彼女よね?」
 シュラインが困惑げな溜息を吐く。
「まさか討たせるわけにはいかないでしょう」
 セレスティが言った。
「…………」
 誰もが口を閉じる中、兵衛が言った。
「祭りますか?」
 それしか方法がないのだろうか。
 だがシュラインはふと思い立ったように首を振った。
「いいえ。やっぱり鬼の恨みを晴らさせてあげましょう」
「え?」
「僕も賛成です」
 建一が手を挙げる。あの縊鬼も可哀想な女なのだ。
「もし、何かしらの方法があるのなら」
 それにシュラインは頷いた。
 何か考えがあるのだろう。
「僕は先ほど縊鬼の声を聞いたような気がしたのです」
「なんて?」
「助けて、と。そう言ってるように聞こえました」
「…………」





 ■4■

 この日、開かずの間は再び開かれた。
 2度目にその木戸を開いたのは娘であった。
 その部屋の鏡の前で縊鬼はおしろいをつけ、唇に紅をさしていた。化粧を終えると縄をつかんで立ち上がり、そうして初めて娘を振り返った。
 縊鬼と娘の目が合った。
 縊鬼の口の端が上がって嗤いを象る。
 その眼力にどれほどの呪力がこめられているのか。
 娘はゆっくりと縄を手に取り梁に投げた。
 しっかりと柱に結んで輪をつくる。
 それを縊鬼が見守っていた。
 その面には、恨みがこれで晴れるという歓喜と、長く待ち望んだそれがこれで終わるのだという喜びが浮かんでいるように見えた。
 けれど、どこか寂しげなそれにも見える。
 娘の足を支えていた踏み台がカタンと乾いた音をたてて転がった。
 縊鬼は嗤った。
 寂しい笑顔だった。
「満足しましたか?」
 木戸からセレスティが声をかけた。
 縊鬼がセレスティを振り返る。
「さぁ、終わりにしましょう」
 セレスティは縊鬼と目を合わさぬようにしながら言った。
 だから、縊鬼が自分を見てこれ以上ないほどに目を見開いている事には気付かなかった。
 縊鬼がセレスティに気をとられている間に、シュラインと善が静かにその小部屋に入った。
 娘の傍にそっと歩み寄り、お神酒で清められた札を刃に巻いた短刀で、娘の首をつるす縄を切りにかかる。
「大旦那様」
 縊鬼が呟いたそれに、シュラインが驚いたように振り返った。善も、娘を抱きとめるべく構えながら、縊鬼を見やっていた。
「え?」
 縊鬼はその場を動けぬ自縛霊のように、この部屋から出る事を許されず、何度も何度も同じ過ちを繰り返し続ける。
 けれど縊鬼はまるで、たった今、その呪縛から解き放たれたように木戸の入口に立つセレスティに抱きついていた。
 いや、彼女の目にはセレスティが、かつての想い人のように見えているのだろうか。
「大旦那様」
 鮮やかな銀髪の彼を、どうしてそれと見間違えるのだろう。
 だがそこに重なった幻が、シュラインにも見えたような気がした。
 手に扇子を持ち、羽織をかけて、大店の主が柔らかい笑みを湛えて立っている。
 もしかしたら、彼女が待っていたのは、娘へ恨みを晴らすことではなく、彼だったのではないか、と思った。けれど娘を呪って縊鬼に身を落としてしまった。助けて、とは、そんな彼女の悲鳴だったのかもしれない。
 幻が、セレスティから少しづつぶれて、大店の主は女の手を取ると、女を部屋の奥へといざなった。
 壁があった筈の場所が今は闇に覆われている。その先に光が見えて、そこへ2人がゆっくりと歩き出した。
「ありがとう」
 そんな声が聞こえたような気がした。
 シュラインはホッとして、しばらく2人が光の中へ消えて行くのを見守っていた。
 それからふと思い出したように、持っていた短刀を動かす。
 シュラインが娘を吊るす縄を切っても、娘は落ちなかった。代わりに縄が床に落ちた。建一が魔法で娘の体を支えていたからである。
 だから、娘は首を絞められることもなく死ぬ事もなかった。
 縊鬼の気を晴らすために皆で一芝居うったのだが。
 ゆっくり下ろされる娘の体を善が抱きとめ床に下ろしてやる。
 娘はゆっくりと部屋を見渡すと、そこにあった長持ちを開けた。
 そこに、一枚の内掛けが入っているのを見つけて初めて顔をほころばせた。
「ありがとうございます」
 そう言って娘はシュラインに内掛けを返すと、長持ちに入っていたそれを手に小部屋を出ていった。
 隣の部屋から窓辺に立つ。
 軽やかに内掛けを羽織った刹那、それは大きな鳥の翼となった。
 しかし、それに驚く者はなかった。想像していた事だったのだろう。
 天人羽衣。そんな伝説は日本のどこにでもあった。たまたま、その一つに出会ったのだ。
 窓の外へと優雅に飛び立つ娘を見送って、兵衛が木戸の部屋の奥に供物を捧げると、誰からともなく皆、静かに黙祷した。

 そうして、世界は白く解けて、次に目を開けると、自分は元の世界に戻っているのだろう。
 そんな風に思っていたシュラインは、だから目を開けても、代わり映えのしない物置小屋に目を見開いた。
「あら?」
 いつもは、ありがとう、という言葉で返される。
 事件は終わったはずだった。自分がここに呼ばれた理由は、今ので解消されたのではなかったのか。
 だが、動じているのはどうやら自分だけのようだ。
「何を言ってるんです? まだ、終わっていませんよ」
 セレスティがあっけらかんとして言った。
「せっかくですから、遊んで行きたいですしね」
 建一が笑った。
「はぁ?」
「今のは単なる予定外ではないかと思うのです。ここは花街ですよ。花街に呼ばれて、花街でやる事といったら、春の夢を見る事です。私たちがここに呼ばれた理由がそれ以外にあるとは思えません」
 なんともきっぱりとセレスティが言ってのける。
 シュラインは呆気にとられたように呟いた。



「……嘘」







 ■大団円■



【獲得アイテム】

アイテム名:江戸艇通行手形




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■         ライター通信          ■
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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】

東京怪談
【0086/シュライン・エマ/女/26/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【1883/セレスティ・カーニンガム/男/725/財閥総帥・占い師・水霊使い】


聖獣界ソーン
【0929/山本建一/男/19/人間/アトランティス帰り(天界、芸能)】


東京怪談・異界〜時空艇−江戸〜
【NPC/江戸屋・楓/女/9/子役】
【NPC/江戸屋・椛/女/20/若い女役】
【NPC/江戸屋・梅/女/52/老婆役】


東京怪談・異界〜怪聞奇譚怪奇通り〜 緋烏IL
【NPC/北城・善/男/30/狛鬼使い】
【NPC/化野・兵衛/女/900/古本屋の主】

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