話は海岸付近より始まる。大磯へとやってきたいつもの四人。
「ふむ。まだ国内に、これだけ綺麗な砂浜があったか‥‥」
少々関心したように、ゼクシィはそう言った。少し肌寒い気温ではあったが、日差しは充分と言って良いほどで、心地よい光が降り注いでいた。
「問題は、ちょっと風が強いことだけどねー」
吹き上げてくる風に、そう言う衛。たった一つ問題があるとすれば、海風が相当な強さになっている。一般的にも言われている事だが、強風に耐えられるテントの建て方と言うのは、実は非常に難しい。
「難しいな。やはり、設営のゲルを借りた方が良さそうだが‥‥」
ある程度の常識を持ち合わせているゼクシィは、そう言って受付の方を見た。海岸に立ち並ぶ遊牧民用テントを模した施設は、この強風にも遜色なく他の生徒達を迎え入れていた。
だが、そんな大型テントなんぞ無視している2人が居る。
「ネイナ、設営するから、そっち持ってて」
グリーンを基調にした、ドット柄の大型テントを持ち込んでいるマリア。動きやすいようにか、同じ柄のハーフパンツを着こなした彼女は、そう言ってもう1人の少女に手伝わせようとする。
「こんなものなくとも、私の先祖代々受け継いだ生活の知恵とテントがあれば、おそるるに足らん」
だが、そのもう1人‥‥ネイナはと言うと、自分が持ち込んだ象形文字デザインのテントを、自慢げに組み立てようとしている。
「何を言っているんだ。我が独逸のテントは実用性、デザイン共に世界一だ。こっちを使わないで、キャンプが確保できると思うのか!」
いつもは仲の良い2人だが、今日のマリアは、やけにムキになっている。
「独逸の技術は世界一だ!」
「先祖伝来のテントが有効だ!」
そのまま、自分のテントがいかにすばらしいかを語る彼女。一方のネイナも、同じように解説している。
「ねーねー。何でマリアのかばんに、ハニワが入ってんの?」
「そうか‥‥どーりで重く‥‥って、別に意図的に入れたわけじゃないっ」
衛がマリアの荷物の仲に、何故か動くハニワが入っていた事を指摘しても、ご機嫌は斜めのままだ。それを見て、衛が心配そうにこう呟く。
「何か‥‥喧嘩腰?」
「そのようだな。2人とも、いい加減にしたらどうだ」
ゼクシィが割って入る。しかし2人とも、「だってネイナがっ」とか、「マリアこそ意地っ張りっ」と、お互いそっぽを向いてしまう。
「やれやれ‥‥。何が原因なんだが」
頭を抱える保護者ゼクシィさん。ため息を一つつくと、2人をこう諭す。
「落ち着け、2人とも‥‥。そうだな、少し水に入って、頭を冷やしてこようじゃないか」
「別に‥‥」
むーっと頬を膨らます女性陣。そんな彼女達に、ゼクシィはさらに言う。
「せっかくガラス張りプールがあるんだ。リゾート気分でくつろいでからでも、バチはあたるまい」
示されたガラス張りのプールは、きらきらと光を反射して、魅力的に映っている。
「どうしてもって言うなら‥‥。仕方が無いな‥‥」
「せっかく水着持ってきたんだし」
しぶしぶ‥‥と言った調子で、着替えを引っ張り出すネイナとマリア。こうして一行は、ちょっとしたわだかまりを残したまま、ビーチへと向かうのだった。
さて、野郎の着替えシーンを見てて面白いのは、一部の趣味人なので、やっぱりカメラは女子更衣室へと向かう。
「うわー、相変わらず小さい水着だな‥‥」
「だって、この方が衛が喜ぶって言うから‥‥」
もっとも、倫理委員会規定により、下着姿以上は出せないので、既にマリアは着替えを済ませていた。中身は相変わらず悩殺セクシー水着だったりするのだが。
「あ、でもネイナも持ってきた?」
「う、うん一応‥‥」
そう言って、荷物の仲から、自分の水着を見せるネイナ。それは、テントと同じように赤やアースカラーの幾何学模様が描かれたビキニだった。
「わーー。可愛い〜。どうしたの? これ」
「実家に相談したら、これが送りつけられてきて‥‥」
マリアの『セクシーな方が喜ぶ』の助言により、実家に連絡したところ、ビキニが送りつけられてしまったそうだ。
「じゃあ、私がつけてやろう」
「えー、いいよそんなのー!」
この後、お返しとばかりに、つけたり取ったりを繰り返すのは、もはやお約束と言う奴であろう。もっとも、そのちょっと冒険しちゃった水着が、不幸の始まりだとは、誰も予測していないのだった。
そして。
「遅いなぁ‥‥」
「女の着替えは時間がかかるからなぁ‥‥」
あっさり着替えの終わった男性陣は、すでにプールサイドで待ちぼうけを食らわされていた。
「中で喧嘩してなきゃ良いけど」
「うむ‥‥」
心配なのは、さっきまで雰囲気が悪かった事である。しかし、その直後、更衣室に続く扉から、二人が姿を見せる。
「あ、来た」
「お待たせ」
ちょっと恥ずかしそうに、上にパーカーを羽織ってはいるが、2人ともかなり露出度の高い水着だった。
「珍しいな。お前がそんな水着を着るなんて」
「そ、そうか? 結構動きやすいぞ」
あくまでも機能性だ! と主張するネイナ。どうやら照れくさいらしい彼女に、ゼクシィはあるものを投げてよこす。
「なら、これも大丈夫だな」
「ビーチボール?」
ぽふんっと収まったのは、西瓜を模したビニールボール。怪訝そうに首をかしげるネイナに、ゼクシィは外のコートを指し示した。
「バレーだと思うぞ。気分転換にどうだ?」
そこにあったのは、浜辺のビーチバレーコート。
「お前がそう言うなら‥‥」
頷くネイナ。こうして、一行はそれぞれのカップルにわかれ、気分転換を兼ねて、プレイすることになったのだが‥‥。
「えぇい!」
ネイナが打ち込んだボールが、衛の足元に炸裂する。いかに運動神経の発達した彼女でも、同じ運動神経を持ち、なおかつ年上のネイナ&ゼクシィ相手では、少々荷が重かったようだ。
「あーあ、小学生の僕に、大人の相手なんか無理だってーの」
「まったくだ。ハンディくらいつけてくれたっていいのに」
半分あきらめている状態の衛に、頭にきているらしいマリア。その一言で、衛は何か思いついたらしく、こう言ってコートを離れてしまう。
「よし、じゃあ強制的につけさせよう。マリア、ちょっと1人で頑張っててくれる?」
「え、おい! 衛」
止めようとするマリアだったが、そこへネイナが「そーーれっ」とばかりにボールを打ち込んできた。
「うわわっ!」
あわてて応対する彼女。打ち上げられたボールが、ネイナ達のコートへと戻る。
「ゼクシィ、そっち行ったぞ!」
「おー」
ただ一つラッキーなのは、力の差がある事を考慮したゼクシィが、適度に手を抜いてくれている事だろう。もっとも、余裕の無いマリアは、まったく気付いていなかったが。
(衛、まだか〜!)
2対1の攻防は、しばらく続いた。徐々に点差が開いていき、ネイナが勝利を確信して、にやりと笑う。
「そろそろ止めだ! 覚悟しろ!」
「簡単にやられたりしない!」
そして、ネイナが思いっきりボールを打ち込み、マリアが受け止める側に回った直後。
「え」
振り下ろしたサーブの動きに合わせて、ネイナの水着がはらりと落ちた。
「あ」
固まる彼女。発育のよい胸が、ばいーんとさらされる。
「きゃーーー!」
それを認識した瞬間、コートに盛大な悲鳴が響いた。あわてて胸をおさえ、上着を羽織り、見えないようにするものの、時既に遅く、点数を入れられていた。
「ただいまー」
そこへ、何食わぬ顔をして戻ってくる衛。その手には、何故か呪符が握られている。
「何やったんだ?」
「んー、子供の悪戯って奴だよ」
悪びれもせず、そう言って符を見せてくれる彼。そこには『鋭刃符』の文字が。
「よくもやってくれたな! エロ小学生め!」
「ちょっとしたハンディって奴だよ。あ、他にも仕掛けておいたから、安心してね」
講義するネイナに、ひらひらとそれを見せびらかす衛。どうやら『動きが激しいと、符がぶっ飛んでくる』と言う仕様になっていいるらしい。
「安心出来るかー!」
さっさとはずせ! と、衛に詰め寄るネイナ。しかし、そこは小学生の強みで、どこ吹く風の衛くん。
「ふふん、さっきのお返しだ。今度はこっちからいくぞ!」
「人が動けないと思ってー
そこへ、今度はマリアが、ボールを打ち込んでくる。動きの制限されたネイナは、ろくにボールへ食らいつけない。
「俺は別にかまわんが‥‥」
「「黙れ」」
そしてゼクシィ、うっかりな一言を口にして、女性陣の両方からツッコまれる事となる。
「‥‥イーブンか。次のゲームで決まるなー」
「くっそー。動きにくい‥‥」
数分後、点差を盛り返すマリア達に、胸を抑えてぶつぶつ言うネイナ。
「そうか?」
「それに、なんだか視線が絡みつく気がするし‥‥」
怪訝そうに聞き返すゼクシィに、彼女は周囲を見回してそう言った。ふむ‥‥と考え込んだ彼、首の後ろをさすりながら、こう答えてくれる。
「さっきからうなじがちくちくするな。また衛の悪戯じゃないのか?」
「だと良いけど‥‥」
どうも何かおかしい‥‥と、警戒するネイナ。
「衛、トス!」
しかしそこへ、マリアからボールを渡された衛が、打ち込んでい来る。
「えぇいっ」
彼が、思いっきりボールを叩いた刹那だった。茂みの中から、カシャカシャと何かの機械音が聞こえてきた。
「今、なんか音しなかったか?」
「‥‥確かに気配は感じるな」
誰かが潜んでいる。そう感じ取った2人。ネイナが言っても聞き入れられないかもしれないと判断したゼクシィは、片手を上げてマリアにタイムを告げた。
「おい衛、ハンディって何をしかけた?」
彼女が不満そうに口を尖らせる中、ゼクシィは衛にそう尋ねている。それによると、彼が仕掛けたのは、水着狙いの符だけ。機械音が鳴るようなものは、仕掛けていないそうだ。
「やはりか‥‥。ん? どうしたネイナ」
どうやら、彼ではないようだった。と、ゼクシィは彼女がある一点を凝視している事に気付く。
「不届きモノが潜んでいる‥‥。そこだっ!」
砂浜に落ちていた貝を拾い上げ、そこへひゅいっと叩きつける。ここんっと音がして、その不届きモノが転がり出てくる。
ところが。
「きゃあああっ」
出てきたのは、ごっついカメラを持った、女性だった。「あちゃあ、バレちゃったぁ」と、舌を出す彼女に、ネイナが詰め寄る。
「一体何をしてたんだ」
「んー、ちょっと撮影タイム」
カメラマンなんだけどねー。良い被写体がなくてさー。と、答える彼女。マリアが「見せてみろ」と、持っていたデジカメを取り上げる。
「あっ、ちょっと!」
返してよーとわめく彼女なんぞ無視して、中の画像を見てみる一行。と、そこには水着姿の衛やゼクシィを初めとする、男性諸氏が写っていた。
「どうして私達じゃないんだ‥‥」
「そりゃー。女性が男性に興味を持っているだけだしなぁ」
納得できない表情のマリアに、ゼクシィがそう言った。それはネイナも同じ気分だったようで。
「ええい、なんか腹が立つ!」
先ほどとは違う怒りがわき、その彼女を捕まえ、「あ、あたしは何も悪くないわよ!」と訴えるのを「うるさいっ」と却下し、半殺しにしてしまうのだった。
そして。
「ああいう輩には、びしっと言っておかなきゃ駄目だ」
「女でも容赦は禁止と言う奴だな」
妙にすっきりした顔で、仲直りしているネイナとマリア。先ほどまでの剣呑な雰囲気はどこへやら、アイスなんぞ頬張っている。
「‥‥しばらく大人しくしていた方が良さそうだな」
「そ、そーだね‥‥」
一方の男性陣は、戦々恐々とした顔で、その様子を見守るのだった。
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