●相変わらずの二人
臨海学校。それは、長い学校生活において、生徒達にひとひらのうるおいを与える、長期休みの楽しみだ。ここ、私立テンプルム高校でも、それは同じだったが、たった一つ、他の学校とは違うイベントが存在した。
「ふふん。こっちの参加生徒は36人。あんたのクラスの3%増しよ。ざまぁみなさい!」
ホームルームで集めてきたらしき申込書の束をみせびらかし、そう言って高笑いしている女性教師がいる。黒髪に赤いスーツと言う、目立つ格好の彼女は、名をレミエルと言い、とあるクラスの担任だ。
「たかだか3%じゃないか‥‥」
廊下中に響くようなその笑い声に、向けられた等の本人は、グリーンのシャツに、白のうわっぱりと言った‥‥いかにも理系の教師と言った男性である。名前は東雲辰巳。
「だいたい、1人2人の差で、何があるってんだよ」
「給料に響く」
若干あきれたように東雲が尋ねると、彼女はきぱりとそう宣言した。どう言う意図だかは知らないが、臨海学校の参加生徒数によって、教師に若干のボーナスがつくらしい。
「100円200円だろ。何ムキになってるんだよ」
「たとえ臨海学校の人数とは言え、負けたくないのよ! 特にアンタには!」
いや、この2人の場合、そう言った金銭上のトラブルなわけではなく、ただ単に張り合っているだけのようだ。その証拠に、教室でやりとりを見守っていた生徒からは、「また始まった‥‥」だの、「ほっとけよー。どうせ、楽しい事になるんだからさー」だのと、さして気にも留めていない会話が聞こえてくる。
「をほほほ。悔しかったら、別の手段で私にチャレンジしたらどうかしらぁ☆」
「おし。そんなにかまって欲しいのなら、やってやる。ちょうど、ステキな競技もあるしな」
さて、勝利の高笑いを垂れ流すレミエルに、東雲はそう答えて、『臨海学校のしおり』を見せる。別の教師が作ったと思しきそれには、持ち物や諸注意の他、当日行われるイベントについて、記されていた。
「何々‥‥ロングランビーチフラッグ‥‥? あぁら、面白そうじゃない」
その一つが、広大な砂浜を使って、1kmのマラソンビーチフラッグダッシュをしようってな競技である。興味を示すレミエルさんに、東雲はこう言った。
「せっかくだから、殲機授業に取り入れようと思ってな」
「じゃ、こっちは神機用ね。楽しみにしてらしゃい!」
ふふんっと不敵な笑みを浮かべて、その挑戦状を受けて立つ彼女。なお、殲機だの神機だのゆーのは、彼らが授業で使っている巨大ロボット‥‥みたいなものだ!
「さて、どうやって対抗しようかな」
ふんっときびすを返して書類を提出しに行くレミエルの後ろ姿を見送りつつ、何か企んだ笑みを浮かべる東雲先生。
「「楽しそうだなー」」
生徒に突っ込まれるのも、いつもの事である。
●BBQだっしゅ
さて、当日。
「と言うわけで、今回のバトルは、お互いの機体で、ビーチフラッグを行うことになりました」
「「「えー」」」
集合先で、生徒達に恒例となった賭け勝負の内容を発表する二人。生徒達は不満そうだが、その程度で、取りやめになるような彼らではない。
「いいこと! 絶対に東雲のクラスに負けるんじゃないわよ!」
「まぁ、勝たなくても良いが、奴の悔しがる顔が見たい。そう言うことだ」
お互いのクラスの生徒に、そう言ってはっぱを賭けるレミエルと東雲。どちらかと言うと、レミの方が向きになっている感もあるが、東雲はみないふりだ。
「んじゃ、ルールの確認。勝った方が、好きな部屋と食材を好きなように取る。それでいいわね?」
バスに乗り込みながら、そう言うレミ。一応説明しておくと、ビーチフラッグで汗を流した後は、美味しいバーベキューと温泉が用意されているらしい。
「ああ。それと‥‥あの約束も忘れるなよ?」
「わ、わかってるわよ!」
東雲が耳元でささやくようにそう言うと、ぷいっと横を向きながら、答えるレミ。生徒がバスの上から、「せんせー、何の約束したの?」と突っついて来たが、「うるさいわねー。あんた達には関係ないのよ!」と一喝されてしまう。
「そーなの?」
「んー。そうだな‥‥勝ってからのお楽しみ♪ って奴だ」
比較的穏やかな東雲の方に尋ねると、彼はそう答えた。生徒達が「「なるほどー」」と納得した声をあげる中、バスは一路臨海学校へー‥‥。
そして。
「勝者! 東雲先生のクラス〜!」
どたどたと巨大ロボットで走り回った結果、金色に輝く巨大なフラッグは、東雲クラスの生徒が、しっかりと握り締めていた。
「こんなの認めないっ! 絶対認めないっ!」
相変わらず往生際の悪いレミエルさん。そんな彼女に、東雲はくいっとあごを持ち上げて、こう言いきる。
「勝ちは勝ちだ。約束は守ってもらおうか」
「むーーー! し、仕方ないわね」
まさか生徒の前で、それ以上の事をされるわけにはいかないので、あわててそう言って、身を離すレミ。ようやく認めた彼女に、満足げに頷いた東雲は、指をくわえて見守っていた生徒達に、GOサインを出す。
「と言うわけだ。皆、好きなだけ食え!」
「「「わーーーい!」」」
生徒、大喜びで出番を待っていた肉や魚介類に飛びついている。たまに飛び掛られてる輩もいるが、2人の対抗試合で鍛えられた彼らの事、そう簡単に逆バーベキューにはならなかった。
「まったく‥‥。子供は現金なんだから‥‥」
「んー。大人だって現金だぜー」
その光景を眺めていたレミがぼそりとそう呟くと、東雲が隣に陣取りながら答えていた。そして、ボーっと見ている彼女の肩へと、腕を伸ばす。
「何するのよ」
「レミ、約束☆」
するりと逃げ出すレミに、彼はあわてもせず、鼻の下を伸ばしたよーな表情で、ささやく。
「ねーねー。約束って何なの?」
「俺も知りたーい」
見咎めた生徒達が、串を片手に、そう聞いてきた。まぁ、年頃の男女なので、それなりに気になるのだろう。言わんでも分かっているくせに‥‥と思いながら、東雲は口を開く。
「実はな‥‥負けた方が勝った方の‥‥」
「わーわーわー!!」
が、無論途中で、レミ子さんに後ろから羽交い絞めにされるように、口を閉ざされてしまうのだが。
「何騒いでるんだよ」
「そう言うのは秘密にしておきなさいっ」
聞きたがってるんだから、いいじゃないか‥‥と言いたげな東雲さんを、今にも手にしたハルバードでぶった斬りかねない表情でにらみつけるレミエル。
「はいはい。ま、そう言うことだから、知りたきゃこっそり教えてやるよ」
「「ちぇー」」
そのとばっちりが、下手すると自分達にも降り注ぎかねない事を知っている生徒達は、東雲の台詞に、ようやく手を引いてくれるのだった。
●こっそり見物
そして、その夜。どういうわけか人気のなくなった露天風呂に浸かっているレミエルがいた。昼間の騒動がまだ尾を引いているらしく、その表情はほっぺが膨れたままである。
「‥‥よぅ」
そこへ、からりと脱衣所の扉が開いて、姿を見せる東雲。片手を上げて挨拶してきた彼は、軽く湯を浴びると、湯船の中へ‥‥。
「‥‥ふん」
面白くない様子のレミエル、ざぶざぶと乗り込んでくる彼から、目を逸らす。拗ねた様にそっぽを向いた彼女に、東雲は身を寄せて、こう囁く。
「綺麗なお肌☆」
「こらぁぁぁっ! いきなりくっつくなぁぁぁ!」
ついでにぴとりと頬を肩口に寄せられて、思わずレミ子さんの鉄拳制裁が飛んできた。が、東雲さんはそれをひょいっと下がって避けると、ニヤニヤ笑いながらこう指摘。
「暴れるとタオルがはがれるぜ?」
その台詞に、はっと胸を押さえるレミ。念のために説明しておくと、必要以上に仲良くしたいお客様の為に、バスタオル着用での混浴が認められている。
「それに‥‥約束、まだ果たしてもらってないし」
「むー‥‥。だったら、好きにすれば?」
賭けに負けたのは事実だ。反論の出来ていないレミは、そう言って、表情を意図的になくす。せめてもの反抗に。
「じゃ、お言葉に甘えて」
が、東雲はそんな彼女の、精一杯の抵抗なんぞどこ吹く風で、レミの事を抱き寄せていた。
「‥‥‥‥」
レミは答えない。ただ、過ぎる時間をじっと待っているように、東雲には思えた。
「ずいぶん機嫌が悪いな?」
「別に」
即答するあたり、相当に機嫌が悪い。そりゃそうだろうなーと思いつつ、彼はこう一言。
「すねるなよ」
「すねてなんかいないわよっ!」
いい加減にしなさい‥‥と、再び平手打ちを食らわそうとしたレミ。しかし、東雲はその手をやんわりと受け止め、その手にキス。
「‥‥‥‥」
黙りこんだ彼女。
「まぁ‥‥いいさ。そろそろ時間だし」
その沈黙を破るように、東雲はそう言った。と、その直後、露天風呂の少年に、大輪の花が舞う。夜空を彩るその花火に、一瞬、目を奪われるレミエル。
「綺麗、だろ?」
「そうね‥‥」
きっと、これを見せたかったのだろう。それが分からないレミではないので、嬉しそうに話す東雲の姿に、何も言えなくなってしまう。
「何もしないからさ。一緒に見てくれるだけでいい」
「仕方ないわね‥‥」
懇願するようにおねだりする彼に、レミはため息をつきながらそう答えると、その言葉どおりの態度で、身を預ける。
花火は、そんな2人をも、明るく照らしているのだった。
●深夜の見回り
さて、その日の深夜。
「それにしても、どうして誰もこないのかしら‥‥」
時間は1時をさしている。臨海学校と言うと、普通は朝までばたばたしているものだが、何故か起きている人間の気配はまるでなく、宿舎の廊下は静まり返っていた。しかも、見回りに向かうはずの教師陣すら、起きてこない。
「おまたせ」
いや、1人だけ居た。いつもは羽織ったままの白うわっぱりを脱いだ東雲だけは、時間通りに姿を見せていた。
「って、やっぱりアンタだけなの」
「そんなに膨れるなよ。せっかく人払いしたのに」
げんなりした様子のレミさんに、東雲はそう喉を鳴らしてくる。あきれた表情で、彼女が「何やったのよ」と問いただすと、彼はあっさりと悪巧みを吐露する。
「んー。ちょっと眠りを深くしといただけ」
ひらひらと彼が取り出したのは、範囲強化用のお守りである。
「たちの悪いいたずらをさっくり語るんじゃないわよ」
「やっておかないと、あいつら一晩中騒いでるぜ? それでよかったのか?」
頭を抱えるレミ子さんに、東雲はしれっとそう言ってのけた。普段、そう言ったものはあまり使ってはいけないのだが、今回はイベントと言う事で、特別らしい。
「‥‥ふん。だったら、さっさと見回って終わるわよ」
「ヤダ」
くるりときびすを返して歩き出そうとするレミ子さんに、東雲はあっさりとそう言って近づくと、そのお手手を握ってしまう。
「いい加減にしなさいよね」
「せっかく2人になれたんだから、もう少し素直になれよな」
もう夜中だと言うのに、デートする気満々の彼。
「おあいにくさま。そういう風に出来てないのよ。私」
レミエルはそう言って、手を離そうとするが、彼は強く握り締めたまま、離そうとはしない。逆に、引き寄せられてしまう。
「じゃ、強制的にそうしてやる」
「あ‥‥」
抱き寄せられる。そのまま、廊下の壁に押し付けるように体を入れ替えられ、逃げられなくしてしまう。
「観念しろよ。罰ゲームは、まだ終わってない」
「強制はよくないわよ」
低い声音。普通の女性ならば、それだけでくらくらしてしまいそうな態度だが、その程度では、顔色なんぞ変わらない。
「逃げるのか?」
「そう言う言い方しないの。逃げないから」
逆に、怪しげな笑みを浮かべられ、額を小突かれる。
「じゃ、それでいいじゃないか」
「面白くないのよ!」
踊らされてるじゃないのさ! と、不満顔のレミ子さん。そんな彼女の姿が、妙に可愛くて、抱きしめた手を離したくない東雲だった。
●家に帰るまで遠足
そして、翌朝。
「全員いるなー?」
朝ごはんと朝礼を済ませ、バスに乗り込んだ生徒達に、点呼を取る東雲先生。ところが、生徒達からこんな報告が。
「せんせー! レミエル先生がいませーん」
見れば、いつもはうるさいくらいに騒いでいるレミの姿が無い。
「あー、奴は良いんだ。今、ちょっと準備中だから」
と、東雲自身がそう答えた。なんでも、昨日の罰ゲームをやっているそうで。それを聞いた生徒達は、口々に「じゃあそれ以外は全員大丈夫でーす」だの「レミ先生のクラスもOK〜」だのと、報告してくれる。
と、そこへ。
「‥‥お待たせ」
そっぽを向きながら現れたのは、赤いバスガイド服に身を包んだレミ子さん。髪を結い上げ、帽子もそれっぽく、さらに『臨海学校ご一行様』と書かれた手旗まで装備。
「「わー。先生かわいーーー!」」
生徒、大喜びである。中には携帯カメラやデジカメを持ち出す子もいたりする中、当のレミ子さんは、東雲捕まえてこう問い詰めている。
「何で私が2日目のツアーガイドなんかやんなきゃ行けないのよ!」
「それが罰ゲームだもーん☆」
きゃぴるんっと、ぜんぜん可愛くない格好で、声を裏返す東雲。聞きとがめた生徒達も『罰ゲーム☆』とはやし立てている。
「そう言うことだ。せっかくだから案内してもらおうか」
「断るっ」
即答するレミ子さん。しかし、東雲含め周り中から「「「えー」」」と言う文句が吹き上がった。
「んー‥‥。よし、こうしよう。皆、手を貸して」
ごそごそごそごそ。一計を案じたらしき東雲は、生徒達にそっと耳打ち。
「何するつもりよ。とにかく! 着るだけ着ただけで、そんな事やらな‥‥」
「いまだ! かかれー!」
レミ子が荷物片手に、最後まで言いきらないうちに、その体がふわりと浮いた。どうやら、東雲が生徒達に術でも使わせたらしい。
「‥‥っ!?」
怪訝そうな顔をする彼女。じたばたと抵抗しているうちに、いつの間にかガイド席までご案内。
「よし、これで強制的にバスガイドさんやって貰えるな」
しかも、席には既にガイドブックと、マイクが準備されていたり。
「ここまで準備させといて、逃げる気? それじゃ、出発進行〜♪」
「ひきょーーーものーーーー!!」
全ては、『お膳立てされるとノらざるを得ない』レミ子の性格を見越した東雲の、根回しの結果である。
合掌。
●ライターより
設定が半分くらいでっち上げです(笑)
実際にアクス本編にそーゆー学校があるわけではありません。
で、その本編ですが、いい加減なんか書かないとなーとは思いますが、出来れば続きじゃない話(離れちゃった人多いので、その補完に新しい設定を活用させる感じです。レミ子が無かった事になるわけじゃありません)にしたいなぁと考えております。
まぁ色々と都合があるので、人数が居れば‥‥とは思います。
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