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【ロングランハプニング――水着と旗と蟹‥‥蟹!?】
■切磋巧実■

<アデルハイド・イレ―シュ/サイコマスターズ アナザー・レポート(0063)>
<有坂・由希/神魔創世記 アクスディアEXceed(w3a528maoh)>
<アールシード/神魔創世記 アクスディアEXceed(w3a528ouma)>
<オルキーデア・ソーナ/サイコマスターズ アナザー・レポート(0038)>

 ――燦々と照り付ける陽光。
 灼熱の陽光を浴びた砂浜は蜃気楼を浮かばせ、小さな貝殻の艶やかな色がキラキラと輝いていた。
 天を仰げば蒼穹が鮮やかに広がっており、小波の音色と共に緩やかに流れる潮風も心地良い。
 どこまでも続いているかのように映るは、紺碧の大海だ。
 リフレッシュして寛ぐには申し分の無い楽園(リゾート)が『ここ』にあった。
 しかし、楽園は些細な手を加えただけで戦場に変容する事を、彼女達は知らなかった――――。

●ここは常夏大磯海岸・餌食にされたパートナー?
「ふ〜、快晴快晴♪ 良い感じじゃない」
 額に腕を翳し、爽やかな響きでオルキーデア・ソーナは砂浜に姿を見せた。体型の割りに魅惑的なプロポーションをしており、小麦色の健康的な肢体を包む、瞳の色より若干濃いブルーのビキニが似合っている。うんっと両手を左右に伸ばせば、たわわな膨らみが空を仰ぐさまに視線が集まったものだ。彼女は周囲の視線など気にする事なく、リボンで結った赤毛のポニーテールに弧を描かせると、端整な風貌を後方に向け微笑む。
「ほら、イレ―シュったら何時までバスタオルなんて巻いてるのよ?」
 オルキーの瞳が捉えたのは、バスタオルに肢体を包む清楚可憐な雰囲気の少女だ。腰ほどはある長い銀髪を三つ編みにしており、白いヘアバンドがアクセントを与えている。アデルハイド・イレ―シュは円らな緑色の瞳を上目遣いで流し、恥ずかしそうに頬を染めて愛らしい風貌の首を竦めていた。
「だ‥‥だって‥‥って、こ、来ないで下さいっ! オルキー、待ってっ!」
 不敵な笑みを浮かべた娘がゆっくりと近付くさまに、イレ―シュは腰を退きながら戸惑いの色を浮かべて長い三つ編みを「いやッいやッ」と左右に揺らす。そんな伴侶の羞恥に染まる姿がオルキーをそそる。
「なに今更恥ずかしがってるのよ、これまでだって色んなコスプレして来たじゃ、ないっ」
「やんっ」
 語尾と共に一気に少女を包むタオルがひん剥かれた。白い肢体を隠すのは、僅かな薄布で模られたビキニだ。二つの膨らみは突起を覆い隠すのみに近く、括れた腰骨に沿って大胆に切り込まれたハイレグが眩しい。こんな水着で海に入るのは明らかに自爆行為だ。イレ―シュは小さな悲鳴をあげると両手で双峰を庇い、腰を落とす中、涙に潤む眼差しを伴侶へ向ける。
「いくらオルキーでも、酷いです‥‥待ってって言ったじゃないですか‥‥」
「ごめんごめん、だって、うちの選んだ新しい水着のイレ―シュを陽光の下で見たかったんだよ。‥‥とても綺麗だ、イレ―シュ」
 赤毛を掻きながら屈託なく微笑むと、オルキーは腰を屈めて端整な風貌に精悍さを滲ませて近づけた。熱い眼差しが少女を捉え、イレ―シュはとろんと蕩けた瞳で頬を桜色に染めながら、小首を傾げて見せる。
「本当?」
「うん♪」
 スと差し出された手に応え、誘われるように腰をあげる少女。見つめ合う姿は太陽すら恥ずかしくなり、月へと変わりたくなる衝動を覚えた事だろう。
「さあ、うち等の戦場はここだよ、イレ―シュ!」
「はい、やるからには頑張りましょう!」
 イレ―シュの肩を抱き遠方の砂浜を指差すオルキー。
 彼女の瞳に捉えていないが、その先には潮風に揺れる旗が突き刺さっていた――――。

 ――オルキーデアとイレ―シュのペアが『ロングランビーチフラッグ』の激闘を繰り広げる中、また一組の娘達が砂浜に降り立つ。
「いっつ、しょーたーいむ♪」
 勢い良くバスタオルを解き放ち、有坂・由希は魅惑的な肢体を陽光に晒した。歌って踊れるマルチモデルらしく、快活そうな愛らしい風貌の胸元でたわわな膨らみが日差しを喜ぶかの如く弾み、リボンでポニーテールに束ねたこげ茶色の長髪が舞い揺れる。大胆なお披露目に、周囲の者達は驚愕と共に欲情に塗れた視線を注いだ事だろう。それもその筈、彼女の肢体を覆うはスリングショットと呼ばれる大胆な水着だ。
 ――スリングショット。
 Y字型の棹にゴム紐を張り、弾とゴム紐を一緒に摘まんで引っ張り手を離す事により、弾が飛んでゆく仕組みの道具である。
 つまりY字型のゴム紐に近い水着だ。とはいえ、スリングショットにも様々な種類がある。由希の肢体を覆う水着は紐の幅が広めで大人しい部類に入るだろう。だが、当然泳げるような代物ではない。
 仕事柄見られる事に慣れているマルチモデルは突き刺さる視線を気にも留めていないようだ。彼女の傍にバスタオルを巻いたアールシードが寄り、漆黒のショートヘアを揺らして微笑む。
「もぉ、由希様ったら恥ずかしいよぉ」
「なんだよアール、まだタオルなんか巻いてたの? あたしが選んだ水着を皆に見せてよ♪」
 パッチリと円らな瞳でウインク☆ 茶の瞳に映るパートナーは端整な風貌を崩して苦笑した。大きな汗マークでも浮かびそうな表情だ。
「え? えぇ〜と‥‥これ、かなり大胆だよぉ‥‥ボクにも覚悟ってものがぁ‥‥」
「しょーたいむの覚悟なんて限られているんだよ? 普段からお腹の開いた露出の高い服を着てるのに‥‥ほら、いっつ、しょーたーいむ♪」
「‥‥」
 スルリとバスタオルが滑り落ちる。羞恥に頬を染めて俯くアールシードも同様にスリングショットの水着に豊満な肢体を覆っていた。しかし、局部を覆う面積は由希の比較にならない。正にゴム紐だ。
「すっごおーい♪」
 由希が舐める様にアールシードの見つめ回す。はちきれそうな二つの膨らみは辛うじて突起を覆う細い紐、背中に回れば愛らしく丸みを帯びた桃尻が露に割れていた。少し離れた所から覗えば、丸裸と見えるだろう。海岸沿いの路上から激突音が響き渡ったように感じたのは気のせいか。殺人的な水着とはこんな代物を例えるのかもしれない。
「ゆ、由希様? あまり見ないでよぉ」
 ぷるぷると小刻みに肢体を戦慄かせるアールシードの蕾のような唇から熱い吐息が洩れ流れた。逢魔の羞恥に堪える姿に、魔皇が悪戯っぽく囁く。
「なに? 甘い息を弾ませてるんだよ☆ アールは見られて感じているのかな? まるで素っ裸みたいだよ♪」
 くんッとアールシードの円らな黒い瞳が見開かれた。由希はクスリと笑い、囁きを続ける。
「でも似合ってるよ♪ この試合が終わったらご褒美をあげる☆」
 魔皇が頬に唇を当てると、逢魔は複雑な表情ではにかんでみせた――――。

●類は友を呼ぶ? 波乱の決勝戦
 ――ロングランビーチフラッグ。
 大磯海岸2泊3日の臨海学校を楽しむ競技の一つである。
 コースは1000m。広大な砂浜を駆け、突き立てられた旗を手中に収めた者が勝者となるスポーツだ。しかし、走破する距離も尋常ではないが、もっと厄介な事があるのだが後に伝えよう。
 数々の激闘を潜り抜け、二組のペアが決勝を競う刻が近付いたのである。

 一組のペアはオルキーデアとイレ―シュだ。
 赤毛の娘と銀髪三つ編みの少女は、対峙するペアに驚愕の色を浮かべる。
「なッ? スリングショットとは随分とマニアックだね」
「嘘っ‥‥オルキー、まるで裸ですよ? 私だったら耐えられません」
 青い瞳と緑の瞳に映し出されたのは、由希と恥ずかしそうなアールシードだ。自分達(特にイレ―シュ)のビキニも無茶をしたかと思っていたが、相手のゴム紐状水着は比較にならない。同時にオルキーは羞恥に頬を染めて俯く娘を見つめて思う。
 ――イレ―シュにも着せてみたいと‥‥。
 殺人的なスリングショットに肢体を、否、局部のみを辛うじて覆う水着の少女は、どんな表情と仕草を見せて恥らってくれるだろうか? 
「‥‥オ、オルキー?」
 気のせいではない。
 隣に佇むパートナーが荒い息を洩らすさまに、イレ―シュは一抹の不安を覚えた――――。

 四人は一斉にうつ伏せになる。いずれも胸の谷間が露に覗き、さぞ競技を観戦に訪れた者達は目の保養になった事だろう。特にイレ―シュとアールシードには、危険極まりない体勢だ。空砲が放たれた瞬間、彼女達は一気に腰を捻り、駆け出さなければならない。勢い余れば桜色の果実がポロリの危険性を伴うのだ。何度やっても最も緊張する刻である。
『レディ‥‥GO!!』
 空砲が響き渡った。オルキーと由希の瞳がナイフの如く研ぎ澄まされ、一気に腰を捻り砂浜を蹴る。続いてイレ―シュとアールシードが真剣な眼差しで駆け出した。声援に混じり、『おぉー★』と感嘆の声も聞こえた気がするが、忘れる事にしよう。
 四人のロングランは注目を集めるのに十分だった。若い娘達が過激なビキニと危険なスリングショット水着で競技に挑む話題性もあったが、互いにルックスとプロポーションに申し分がない美女・美少女とキテいる。走る度に豊かな膨らみが弾み、健康的(当て嵌めるには厳しい二名もいるが)な肢体が駆け抜けるさまは、美しく艶やかだ。
 しかし、一見フェアプレイのビーチフラッグと思われるが、数々の障害が待ち構えていた。
「ハァハァ‥‥」
 銀に輝く三つ編みを跳ね上げながらイレ―シュは小麦色の背中を追う。距離も中間地点を越えており、愛らしい風貌に汗が滴る。
(あと少しでオルキーの傍に‥‥っ!?)
 刹那、ガクンと少女は体勢を崩した。一瞬、足元の砂はゼリーのような柔らかさを伝え、白い足を呑み込んでゆく。円らな緑色の瞳は驚愕に見開かれ、救いの手を先行くパートナーに差し伸ばす。
「オル‥‥きゃああぁぁッ!!」
 悲鳴と共に噴煙があがり、イレ―シュは落とし穴に埋まった。彼女はロングランビーチフラッグのトラップに嵌ってしまったのである。愛する者の悲鳴に赤毛のポニーテールが弧を描く。
「イレ―シュ!?」
 青い瞳に映し出されたのは、噴煙に浮かび上がる少女の姿だ。前のめりに倒れた所為か、ビキニは捲りあがっており、水着から覗く泣きそうな眼差しが憐れである。
「けほけほッ‥‥オ、オルキー‥‥あ、やんッ」
 何とか埋もれた腕を出して差し伸ばしたその時だ。首の後ろで結んだビキニの紐がスルリと解ける感覚を共に、目の前で捲れた水着が風に飛ぶ。イレ ―シュは「駄目ッ!」と慌てた声を響かせ、一気に落とし穴から半身を覗かせると、開放された水着を掴むべく腕を伸ばした。咄嗟の運動能力とは凄いものだ。風に吹かれたビキニが宙を舞う。しかし、その光景に今度はオルキーが慌てて叫ぶ。
「イ、イレ―シュ! 駄目だよ!」
「え? ‥‥きゃんッ」
 噴煙に霞む視界で少女が腰を反らせた瞬間、二人の刻でしか見せない曝け出された二つの膨らみが露に映った気がした。慌ててイレ―シュはうつ伏せになると、砂で白い膨らみを隠す。次の瞬間、オルキーは我が目を疑った。穿いてないのだ‥‥下の水着を‥‥。恐らく勢い良く砂の落とし穴から半身を抜け出した時、脱げてしまったのかもしれない。噴煙が完全に消えれば白い桃が周囲に晒されてしまう。風に舞うビキニに手を伸ばしながら、注意を促した。
「イレ―シュ! 直ぐに落とし穴に潜るんだよ! 下ッ! 下ーッ!」
「? 下?」
 きょとんとした表情を浮かべながらも、海側に腰を捻って背中に視線を流す。刹那、少女は曝け出されたヒップラインに硬直し、顔を真っ赤に染めるとヤドカリが後ろから砂に潜るようにガサガサと沈み込んだ。この際、砂の感触が複雑だが我慢である。
「ふえぇぇぇっ‥‥見られちゃいました?」
 まるで砂風呂にでも浸かっているようなイレ―シュは緑の瞳を潤ませた。程なくしてビキニを確保したオルキーが少女の許に滑り込む。
「大丈夫だよ、噴煙で見えていないから。それより、早く下の方を探そう」
「そ、そうですね。でも、競技が‥‥」
「バカ! うちが大事なのはイレ―シュなんだから。イレ―シュの恥ずかしい姿はうちだけのものだよ☆」
「‥‥オルキー‥‥その言い方も、恥ずかしいです‥‥」

 ――トラップによるハプニングで俄然有利なスリングショッ‥‥由希とアールシードのペア。
 このまま旗をゲットするにも十分な余裕があった。激しく弾む二人の胸元も軽やかだ。
 ‥‥‥‥ここまでは――――。
「由希様、この調子だと優勝はボク達のものだね♪」
「ふふん♪ スリングショットで加重を抑える必要も無かったよね☆」
 勝ち気そうな円らな瞳を流し、アールシードにウインクして微笑む由希。そうか、この極端に紐の如き水着にはそんな意図があったのか!? と、逢魔の娘が思ったかは定かでないが‥‥。ハプニングは前触れも無く起きる。軽やかに黒髪を揺らして駆けてゆく刹那、彼女の素足が何か固い物を踏んだ感触を伝えた。心なしか『カチッ★』なんてスイッチの入った乾いた音が聞こえた気さえする。
「カチ?」
 愛らしく小首を捻るアールシード。次の瞬間、作動した地雷が鈍い破裂音を響かせ、一気に周辺が噴煙に包まれた。続いて響き渡るは、地雷で吹っ飛ぶ逢魔の悲鳴だ。
「きゃあああぁぁぁぁッ!!」
「アールッ!?」
 慌てて腰を捻って由希が振り向く。視界に捉えたのは宙を舞うパートナーの姿だった。
「爆発は抑えてあるって聞いたけど‥‥風圧で飛んでるじゃない‥‥風圧!?」
 由希は落下してゆくアールシードへ向けて駆け出す。シャープな蝶の羽根の如く結ったリボンのポニーテールを靡かせて逆走する中、頬に不安を浮かべるような冷たい汗が滴り落ちた。
(あんな強烈な爆風を浴びたら水着が‥‥!)
 噴煙が吹き上がる。多分、そこに逢魔は落下したのだろう。駆けつけた由希の瞳に薄っすらとアールシードの姿が浮かんだ。
「はうぅぅ、油断しちゃったよぉ」
 尻餅を着いた娘の姿に、茶の瞳が見開く。噴煙で視界はハッキリとしないが、もはやY字型の水着はポロリの領域を遥かに越えた状況だ。例えるならボロリ‥‥それも微妙か。そんな中、彼女が我が身に起きた状態に気付かぬまま、悪戯な潮風がアールシードの噴煙をゆっくりと吹き飛ばしてゆく。
「アールッ!!」
 一気に加速をつけた由希が砂煙を巻き上げながら滑り込む。同時に「見るなあぁッ!!」と観客達に叫び、両手を左右に広げた。‥‥その時である。魔皇の素足が何かを踏み込んだのは‥‥。
「えっ? ‥‥わッ!」
 ボムッと弾ける鈍い音と共に風圧が襲い掛かった。アールシードの時より弱いらしく、身体が宙に吹っ飛ぶ事はない。それ故に、まともに彼女は風圧の洗礼を浴び、スリングショットが広げた腕に合わせて左右に引っ張られた。ポニーテールが舞い上がる程の強烈な風圧に晒され、眼下で食み出した二つの膨らみが派手に暴れ舞う。両手で庇おうとも風圧がなかなか許してくれない。
「ひいいぃぃッやあぁぁッ!」
 何とか両手で暴れた双峰を隠して身を屈めた後、羞恥に頬を染めながら、ゆっくりと刃の如き視線を観客に向ける。しかし、様子が変だ。と言うより、若い娘のあられもない姿を見た表情ではない。どうやら爆風と共に巻き上がった噴煙で、由希とアールシードの姿は見えなかったらしい。
「由希様‥‥ごめんなさぁい。ボクの為にわざわざ‥‥」
「なに言ってるんだよ♪ 相手との距離は十分に‥‥」
 シュンと瞳を潤ませる逢魔の黒髪から優しく砂を払い除け、視線を後方に流した途端、言葉は途切れた。駆けて来るのはオルキーデアとイレ―シュだ。
「アール! よし、水着は直したようだね。走るよ!」
「うん! 由希様!」
 四人はスタート時とほぼ変わらない差でゴールへ向けて砂を蹴った――――。

●ゴールの果てに
 ほぼ互角のペースで旗に近づく四人が一斉に飛び込みざまのスライディングで宙を舞う。
 いいのか? こんな際どい水着で滑り込んだら大変な事になるかもしれないのに‥‥。否、これは真剣勝負なのだ。後の事など考えていない。それぞれが差し伸ばした手に旗は目前だ。いざ勝利のフラッグを掴もうとした次の瞬間!
「うわあぁッ!!」「きゃうッ!!」
 何かに下から弾かれたように由希とアールシードが吹っ飛ばされた。次に響き渡ったのはイレ―シュの甲高い悲鳴と、オルキーの叫び声だ。
「きゃあああぁッ!!」「おわあぁぁッ!!」
 両足をパタつかせる二人がグンと砂浜から掲げられてゆく。彼女達の肢体は赤黒い巨大な鋏に捕らわれていた。眼下に映ったのは、巨大な蟹の化物だ。大きさはオルキーデアとイレ―シュを左右の腕で挟み掲げている事から察する事が出来るだろう。コイツが砂の中に潜んでいたのである。
 赤黒い甲殻を陽光に照り返す化物を見つめて、銀髪の少女は怯えるように両手を口元に運んだ。
「な、なに? シンクタンク?」
「違う、コイツは天然の蟹だよ」
「天然って‥‥この海にはそんな大きい‥‥えっ? ちょッ、やぁんッ」
 イレ―シュの声が恥じらいの色を浮かべたのに気付き、瞳を凝らす。視界に映ったのは鋏によってビキニを切られ、白い肌を覗かせる少女の姿だ。
「イレ―シュ!!」
 届かぬ手をパートナーに伸ばす中、乾いた音と共にオルキーの青いビキニがハラリと肌蹴た。頬を染めてバシバシと鋏を殴る。
「お、おいッ、エロ蟹ッ! 同人ネタじゃないんだよ! うッ」
 戦慄が疾った。尚もギリギリと鋏は褐色の肌に食い込んでゆくのだ。恥じらいの声を洩らしていた少女からも苦悶の響きが流れ出す。
「んんッ、ああぁぁ‥‥オ、オルキー‥‥」
 そんな中、どこまで吹っ飛ばされていたのか、由希とアールシードがようやく辿り着く。
「サーバントか天然か分からないけど、勝負の邪魔はさせないよ!」
「由希様、早く二人を助けないと大変な事になるよぉ!」
 魔皇と逢魔は魔を刻印を煌かせると、由希は魔皇殻『ショルダーキャノン』を肩に召喚し、『サベイジクロー』の太く鋭い四本の爪を腕部に輝かせた。アールシードは『祖霊の骨鎧』を纏う。蟹の化物など人化を解いた二人の敵ではないだろう。ダークフォースを駆使し、鋭利な爪の洗礼を叩き込む。
「クッ、硬い!」「きゃああぁぁッ」
 イレ―シュの悲鳴が棚引く中、由希へ巨大な鋏が薙ぎ振るわれる。一瞬の油断か、慌てて躱すものの、鋏の先端が掠り、乾いた音と共に水着が切られた。咄嗟に切断された部位から肢体を庇う。ハラハラと落ちて来るのは少女のビキニの切れ端か。
「ち、ちょっとッ、この水着はどっか切れただけで危険なんだよっ!」
「由希様、どうやらサーバントかもぉ」
「らしいよね。硬い甲殻の癖に人質を振り回すなんて卑怯だよッ!」
 見ればアールシードも鋏の先端攻撃を受け、スリングショットは切断されていた。尤も、凶骨の逢魔は鎧に守られてはいるが、振り回される度にオルキーのビキニが舞い散る有様だ。このまま持久戦となれば、いずれ二人は素っ裸。下手すれば凄惨な結末が待っているかもしれない。
 由希は魔皇殻『ディフレクトウォール』を召喚すると、ダークフォースを行使して肉迫した。鋏の先端を防げればイレ―シュとオルキーはダメージを被らない筈だ。浮遊盾が鋏の洗礼を防いだ刹那、獣牙突<ビーストアタック>による渾身の一撃を蟹の懐に叩き込む。一気に甲殻種の体液が放水の如くブチまけられた。グラリと揺らぐ巨体。次の瞬間、絶命した蟹の鋏が弱まり、銀髪の少女が落下する。
「きゃああぁぁぁッ」
 魔皇は一気に跳躍して宙を舞うと、イレ―シュを腕の中に抱えて救い出す。同時にオルキーはアールシードにより助けられた。華麗に着地すると共に、後方で巨大蟹が倒れて大きな噴煙が舞い上がる。
「もう大丈夫だよ☆」
「あ、ありがとうございます。なんてお礼を言ったらいいか‥‥」
 由希が微笑むと、涙で瞳を潤ませるイレーシュは彼女の腕の中で礼を告げた。清楚可憐な雰囲気の少女はアールとまた異なる魅力がある。水着を殆ど風に飛ばされた白い柔肌は美味しそうに見えた。頬を染めてはにかみながら「やだッ‥‥あんまり、見ないで下さい」なんて言われれば、魔皇の血が騒ぐというものだ(否、本人の嗜好に因るものだが)。こげ茶のポニーテール娘がニッコリと微笑む。
「じゃあお礼は‥‥♪」
「はい? ‥‥んんッ!?」
 唇を重ねられ、少女は緑の瞳を驚愕に見開いた。そのままイレーシュを砂浜のベッドに押し倒す由希。組み敷かれて両足をパタつかせる少女からくぐもった甘い吐息が洩れる。慌てたのはアールシードだ。
「ち、ちょっと、ゆ、由希様ぁ、なにやってるんだよぉ」
 二人に歩み寄ろうとした刹那、グンっとアールの腕が引っ張られた。黒髪を揺らして体勢を崩す中、背中が柔らかい感触に包まれた刹那、細い紐に覆われた二つの膨らみに小麦色の手が差し込まれる。ピクンと肩を跳ね上げ、頬を染めながら視線を後方へ向けた。瞳に映ったのは青い瞳をしっとりと濡らしたオルキーの恍惚と微笑む顔だ。
「まあ、こっちはこっちで、ね♪」
「あのぉ、ちょっ‥‥ひゃあんッ」
 互いに予期せぬ相手に迫られる中、砂浜で倒れたままの旗がむなしく風にはためいていた――――。


●ライターより
 この度はイベント発注ありがとうございました☆ はじめまして♪ 切磋巧実です。
 さて、いかがでしたでしょうか? イラストから想像できない性活振り(誤植ではありません)に、面食らったのはヒミツです(笑)。因みに水着の色は指定が無かったのでオルキーさん(いえ、青が似合いそうだなと)以外は自由に想像して頂けると幸いです。スリングショットは白かなとイメージ、イレーシュさんはこれまでも様々な色を着ているので絞れなかったのは内緒です(笑)。
 蟹の鋏に挟まれて水着が切れるって、どんな挟まれ方だと悩みましたが(苦笑)、脇のした辺りかなと(肩から股じゃないですよねっ)イメージしていますがいかがでしょうか。
 楽しんで頂けたら幸いです。よかったら感想お聞かせ下さいね。
 それでは、また出会える事を祈って☆


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