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【ビバ、家族旅行!】
■神無月まりばな■

<石神・月弥/東京怪談 SECOND REVOLUTION(2269)>
<井の頭・弁天/東京怪談 SECOND REVOLUTION(NPC)>
<御風音・ツムギ/東京怪談 SECOND REVOLUTION(2287)>
<有働・祇紀/東京怪談 SECOND REVOLUTION(2299)>
<帯刀・左京/東京怪談 SECOND REVOLUTION(2349)>

前哨戦■まずは、ご夫婦の縁結び相談を

 さてと。
 東京とかソーンとかアクスディアとかセフィロトの塔とかの、いわゆる世間さまが一丸となって、お花見とか宴会とかお花見とか宴会とかお花見とか宴(ぜいぜい)に明け暮れている昨今。
 ここ井の頭公園でも、弁天は最強萌えイベントと称して、「春爛漫、桜吹雪の舞う井の頭池にガレー船を浮かべ、オープンテラス執事喫茶+けも耳メイドカフェのゴールデンコラボ。オプションでタイムスリップ♪」な企画を練っていたのであるが。
 残念なことに、それはお流れになってしまった。
 またもや、桜の精労働組合代表の染子&ソメイヨシノ有志たちが、去年に引き続いて総勢600名もの慰安旅行を決行したせいで、井の頭公園の桜は咲く様相を見せないからである
 彼女らが参加したのは、オリジナルツアー・マジックキングダム・カンパニー(略称OMC)主催の、日本縦断お花見・食い倒れバスツアーであった。幸いにして奇特な人物が『東京仲良しさんグループ』を結成し、弁天もそこに誘ってくれたため、いろんなあれこれが展開されて、内容的には充実したツアーを過ごすことができた、のだが。
「ぬぉぉぉ〜! なんとしたことじゃ! 染子たちめ! なかなか帰ってこぬと思ったら、札幌でお花見ジンギスカンを堪能したあとは、南に向かうオプショナルツアーバスに乗り込んで、『ときめきの沖縄 〜青い海の休日〜』を堪能中じゃと〜! むぅううぅ。うらやまじぃー」
 弁財天宮1階カウンターで、弁天は真っ昼間から飲んだくれていた。慰安旅行の延長に、さすがに気が引けたらしい染子&ソメイヨシノたちが、泡盛の古酒詰め合わせを宅配便で送ってくれたのである。
 ……そんな状態であったので。
 とある相談事を抱え、弁財天宮に一歩足を踏み入れた御風音ツムギは、二歩目を踏み出すことを激しく躊躇した。
 しかし、弁天が来客を見逃すわけもない。
 ツムギが気づいたときには、カウンター前のスツールに座らされ、いつの間に出したものやら『縁結び相談、絶賛受付中。片思いの悩みからご夫婦仲の不安に至るまでオールマイティ。お気軽にどうぞ(はぁと)』と書かれたプレートを示され、伊達眼鏡をかけた弁天が、熱意を現すオレンジ色のオーラを放ちながらスタンバっていた。飲みかけ泡盛入りグラスは、そそくさと仕舞ってある。
「あの……」
「うむうむ、よう参った。皆まで言うな。おぬしの気持ちは良くわかっておる」
「本当に?」
「ことあるごとに揺れまくる、繊細な男心を察せぬわらわではないぞ。すべてまるっとお見通しじゃ。ツムギの悩みは、ずばり、石神月弥との仲じゃな?」
「……! 仰るとおりです」
 ツムギの表情がほっと落ち着いた。弁天を見る目に、信頼の色が宿る。弁天の縁結び能力には多々疑問があり、今の今まで不安で仕方なかったのだが、やはり、女神は女神だということか。
「実は……。その……」
「皆まで言うなというに。月弥はあれあのとおり、超絶ミラクルな魅了を放つ魔性のブルームーンストーンであるからして、おぬしはもう、可愛くて可愛くてしょうがなくて、夢中でメロメロでラブラブ無限大で世界の中心で愛を叫びっぱなしなのであろうの?」
「は、はい」
「しかしながら、その魅力に囚われているのは、おぬしだけではない。なにしろ月弥は、呪われたゲーム世界の中で、強力極まりないモンスターに囲まれたときでさえも、凝視するだけで力を及ぼすことができる邪眼(???)の持ち主じゃ。ライバルは全異世界におる。気が気ではなかろうで」
「それはもう、心配で心配で。何でも、どこぞの国の女宰相までが、月弥を狙っているとか」
「うむ、それについては、わらわも警戒しておるゆえ、安心するが良い。そんな懸案事項は多々あれど、目下、おぬしの最大の望みは」
「は、い?」
「最高にラブい時間を持つことじゃろう? できうることなら、ロマンチックな夜桜を見上げ、月弥とふたりっきりで激甘な世界に浸りたいのであろう!」
 御神託を告げるようような重々しさで、弁天は断言する。ツムギは、はっとなって身を乗り出し、その手をしっかと掴んだ。
「まさしくその通りです。師匠と呼ばせてください!」
「ほっほっほ。なあに、礼には及ばぬ。今度、ふたりでボート乗り場に来てくれて、各種イベントにも参加してくれて、年末年始には揃って挨拶に来てくれるだけで良い」
 さりげなく極道な売り込みをしながらも、弁天は、はたと首を捻り、一枚のメモ用紙を差し出した。
「しかしのう、ツムギや。わらわが草間興信所を使って秘密裏に調査したところによれば」

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 ツムギ→月弥(夫婦)
 月弥→ツムギ(親子)
============

「……おぬしたちの関係はこんな風になっておるぞ? おぬしは月弥と夫婦のつもりかも知れぬが、月弥にとってのおぬしとは、父のような存在の保護者なのではあるまいか?」
「そう、ですね。多少の温度差はあるかも知れません。 ですが弁天さま、俺は月弥をそっっれはもうっっ」
「ええい、わかっておるというに。それはそうと、ラブまっしぐら街道を貫くために難儀なのは、おぬしらを夫婦と仮定するならば、舅にあたる有働祇紀どのと、小舅にあたる帯刀左京の存在じゃのう」
「そうなんです! いえ、彼らが邪魔をするとか、そういうのではなく」
 ツムギはぐっと、拳を握りしめる。
「俺は、月弥とふたりで夜桜見物がしたくて、日本縦断お花見・食い倒れバスツアーに申し込んだんです。なのに、後で確認したら、舅と小舅も同じ班になっていて……! しかも班の名前が『つくも神一家の家族旅行』ですよ」
「つまり、おぬしは婿な扱いなのじゃな。……家族旅行か。ふぅむ」
 弁天の目が、きらーんと光った。よからぬことを思いついたらしい。
「ならば、わらわも参加してやっても良いぞ。戻ってきたばかりじゃが、このツアーは、何度行っても新たな発見があるからのう」
「ははあ。家族旅行に弁天さまも?」
「ほーっほっほっほ。祇紀どのも参加となれば、これはわらわと祇紀どのとの、熱々婚前旅行と考えても差し支えなかろう! ご家族の皆様と一緒ということは、すなわち、わらわもファミリーの一員なのじゃ」
 それこそ、祇紀との温度差がありすぎな気がするし、飛ばしすぎではなかろうか。そう思ったものの、弁天の次の言葉により、最後の理性がすっとんだ。
「わらわにまかせい。なにせ、東京の第2花見会場に行くのは2回めじゃ。どこへいけば、人目につかずにロマンチックムード満点になれる、いい感じの桜の木があるか知っておる。祇紀どのと右京はわらわが引き受けるゆえ、その間に、おぬしは月弥としっとり夜桜見物をすればよい」
「素晴らしいです、弁天さま! あなたが女神に見える!」
「……ほお〜? 今の今まで、見えておらんかったと」

決戦■ロマンチックは何処? 〜トンデモ屋台と心霊夜桜〜

 かくして、『つくも神一家の家族旅行』班は、テラヤギ公園白やぎ像前にめでたく集合した。
 8時30分きっかりに、車掌の白やぎによる点呼が始まる。
「『つくもがみいっかのかぞくりょこう』の、みなさん、おそろいですかー?」
「はーいはいはい! 祇紀どののお嫁さん候補ナンバーワンの井の頭弁天でぇーす! 楽しいファミリー旅行になるよう頑張りまぁす!」
 弁天が勇んで大きく手を挙げたが、白やぎはちら〜んと横目で一瞥し、
「ああ。せんじつ『とうきょうなかよしさんぐるーぷ』でごさんかだった、いのがしら・べんてんさん。ばすのなかでの、からおけまいくひとりじめは、ほどほどにしてくださいね。ほかのおきゃくさまのめいわくですから」
 冷たくそう言うと、次の点呼に進んだ。
「しつれいしましたー。いしがみ・つきやさん?」
「はーい」
 本日の月弥の外見年齢は15歳前後。シンプルなブラウスと動きやすいジーンズという簡素な服ながら、少年とも少女ともつかぬういういしく花咲き初めるお年頃の醸し出すそこはかとない色気が春の息吹を彷彿と(以下15行省略)。
「みふね・つむぎさん?」
「はい。私こそが月弥の夫です」
「……おーえむしーは、おきゃくさまどうしのごかんけいには、たちいらないことにしています。うどう・しきさん?」
「――うむ」
 いつもと変わらぬ和服姿の骨董屋『祥扇堂』店主は、ライトアップされた夜桜の下に立ったなら、さぞや絵になることだろう。ひらり、はらりと花が散る中、肩ごしに振り向かれなどしたら、ちょーっとわらわの自制心が持つかどうか心配じゃのう〜などと、弁天の妄想が勝手に爆走している。
「たてわき・うきょうさん?」
「おう。なあ、白やぎ。花見もいいが、屋台メニューは充実してんだろうな?」
  ファッショナブルな青いジャケットに両手を突っ込み、右京が問う。銀の瞳が刃物のようにきらめくさまに、初対面の弁天はほぉぉと見とれた。
「危険な香りのする少年じゃのう。おぬしのような美形と家族旅行とは……!」
「あ、弁天さまなら知ってるか。霊園の近くってさ、屋台出てんだろ。どんなのがあった?」
「さて? 前回はチェックしなかったでのう」
「なんだ。ま、いっか。現地行きゃわかるもんな」 
「花より団子なのじゃな。母性本能がくすぐられるのう〜」
「てんこのおわったはんは、じゅんばんにのってくださーい」
 ほどなく、バスは出発した。
 白やぎ車掌に注意されたというのに、車中、弁天はマイクを離さずに、『てんとうむしのサンバ』『愛の賛歌』『世界中の誰よりきっと』『Get Along Together』などなどを熱唱した。なお、結婚式ソングにしたのは、弁天なりに気を使ったのである。

 ++ ++ ++

『通り抜け競歩ラリー』も『闇お好み焼き』バトルもつつがなくこなし、混浴温泉は巧みにスルーされ、とうとう。
 家族旅行ご一行様は、天下分け目の大決戦会場、某国営墓地へ到着した。
 満月にこうこうと照らしだされた桜は、地上からのライトアップと相まって、凄みのある美しさだ。
 霊園の敷地を区切る道路には、ずらりと屋台が並んでいる。右京は満足そうに指をならし、全制覇するべく身構えた。
「よーし、食うぞ! っと、支払い頼む」
 駆け出そうとしてから振り返る右京に、祇紀は苦笑しつつ頷いた。
 右京のあとを鷹揚についていく祇紀の、その髪に、肩に、満開の桜が花びらを乗せていく。
「右京、祇紀どの。屋台巡りは、わらわもいくぞえ!」
 弁天は目線でツムギに合図を送る。
(今のうちに月弥を連れて、ロマンチックスポットに移動するのじゃ。ほれ、大久保利通の墓の、もそっと奧のほうに、よさげな桜の大木があろう?)
(ありがとうございます。恩に着ます)
 そう目で応えてから、ツムギは月弥の手を握り、そっと引いた。
「向こうに、ひときわ素敵な桜があるよ。行ってみようか?」
「うん!」
 ちなみにツムギと月弥は浴衣に着替えていた。髪を軽くアップにしているため、月弥の白いうなじが月光を受けて冴え冴えと(以下20行省略)。
 とりあえず夫婦を見送ってから、弁天は右京と祇紀を追いかけた……のだが。
 屋台は屋台で、危険がいっぱいだったのである。
 驚天動地の屋台巡りの模様を、一部紹介しよう。

 ++ ++ ++

「あれ、おじさん。この店ってタコ焼き屋じゃないのか?」
「タコ焼きには違いねえが、『射的タコ焼き』ってんだよ、坊ちゃん」
「は?」
「はいよ、銃。弾が10発入ってる。この檻の中のすばしっこいタコを3分以内に一匹でも仕留められれば、タコ入りのやつを食わせてやる。だがな、仕留められなかった時は」
「……どうなるんだ?」
「……世にも怖ろしい、『タコ抜きタコ焼き』を食べてもらわなくっちゃなんねぇ」
「なんだとぉ。どうしよっかな」
「やってみろ、右京。で、いくらだ?」
「へえ、350円で」
「良心価格だな」
「恐れ入やす」

 ++ ++ ++

「何とか、タコ入りタコ焼きをゲットできてよかったのう」
「まったくだぜ。……ん? この店って」
「ようこそ。激闘イカ焼きでございます」
「……またかよ。なんとなく見当がつく気もするけど、いったいどんな」
「このリングに上がって頂き、ボクシングマニアな巨大ヤリイカのジョーと、3分間デスマッチをしていただきます。お客様が勝てば、ジョーは素直に食されますが、もし、ジョーが勝てば」
「どうなるんだ、まさか俺」
「嗚呼。そんな怖ろしいこと、とても私の口からは……」
「勝ってくるがいい、右京。おまえなら出来る」
「おお、スパルタな祇紀どのも魅力的じゃ」
「店主、いくらだ」
「は、ちょっと高めで申し訳ないですが、700円で」
「命がけの勝負だ、それくらいはな――千円渡そう。釣りはいらぬ」
「毎度ありがとうございます」

 ++ ++ ++

「命がいくつあっても足んねー屋台街だな」
「勝負には勝ったものの、右京はジョーを食せなんだのう」
「あんな骨のあるイカ、固すぎて食えるか。……っと、食べ物系以外に行ってみっかな。おとなしく、金魚すくいでも」
「いらっしゃいませ。こちらは『金魚すくわれ』になります」
「はぁぁー?」
「この水槽に飛び込んでいただきますと、お客様の身体は、ありんこサイズになります。そこを、相対的に巨大化した金魚たちが、自分の口を開けてすくうというゲームでして。3分間、逃げ切ればお客様の勝ちです」
「まてぇー! 何が哀しくてそんな。すくわれたらどうすんだっ!」
「噛まないで呑み込むだけですから、安全ですよ? 物のわかった、大人の金魚さんばかりですし」
「それで、いくらだ?」
「逃げ切れれば、お代はいただきません。ただし、すくわれてしまった場合は、解放代として400円を」
「うわ。俺の命、安っ」

 ++ ++ ++

 そして肝心の、ヨメとふたりきりの時間を狙うべく、弁天に教えられた桜へと向かったムコさんが首尾良く激甘スイ〜トハニ〜なひとときを過ごせたかというと。
 結論からいって、無 理 だ っ た。
 目星をつけた桜の樹の下に行ってみたところ、そこにはすでに先客がいたのである。それも、別カップルなどという生やさしいもののではなく。
 見覚えのあるのやらないのやら取り混ぜて、各種妖怪と幽霊たちがうじゃうじゃ入り乱れ、てんやわんやの大宴会を繰り広げていたのだった。
 おまえたちも混ざれと手招きされ、月弥は大喜びで目を輝かせる。
「ありがとう、楽しそうだね。……先生の言うとおりだ、素敵な桜だね!」
 ……などと、無邪気に言われてしまっては、もうどうしようもない。
「ま、まぁ、せっかくだから、妖怪の皆さんと楽しむとしよう。は、はは……」

 どこからか、壮大な縦線が降りてきて、ツムギの背に漂う哀愁を強固にする。
 花びらがひとひら、ひゅるりら〜と舞った。
 

 ――Fin.



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この小説は株式会社テラネッツが運営するオーダーメイドCOMで作成されたものです。

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