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【霊も桜も春爛漫】
■神無月まりばな■

<モーリス・ラジアル/東京怪談 SECOND REVOLUTION(2318)>
<藍原・和馬/東京怪談 SECOND REVOLUTION(1533)>
<シュライン・エマ/東京怪談 SECOND REVOLUTION(0086)>
<直江・恭一郎/東京怪談 SECOND REVOLUTION(5228)>
<井の頭・弁天/東京怪談 SECOND REVOLUTION(NPC)>

ACT.1■桜たちを追いかけて

 春→桜→お花見→大宴会イベント→有志を募らねば!
 弁天のスイッチが、そんな定番な連想にロックオンされるこの季節。
 そろそろお花見イベントを企画せねばのう〜。花吹雪の舞う井の頭池にガレー船を浮かべて、オープンテラスの執事喫茶+けも耳メイドカフェのゴールデンコラボとか良い感じじゃのう〜。うっかり時空の裂け目に巻き込まれてタイムスリップする可能性もなきにしもあらずじゃが、ま、それはささいなこと。
 などと、楽しく企画(妄想とも言う)を練っていた、その矢先。
 ある意味、お約束ともいえる出来事が勃発したのである。
 弁財天宮の1階カウンターに、見覚えのある桜色の置き手紙が乗せられていたのだ。
 
「桜の精は、去年に引き続いて、今年も一斉休暇じゃと? ふざけるでない!」

 そう、井の頭公園の桜は、一筋縄ではいかない。
 桜だって花見がしたい♪ と主張して、一致団結ストライキを決行、桜前線を追いかけて北海道へ向かう旅に出てしまったのは去年のことだっったりする。
 ――そしてまた、今年も。
【ストライキとかじゃないんです。でも、あまりにも去年の旅が楽しかったものですから、今年も、井の頭公園ソメイヨシノ有志600名による労働組合は、慰安旅行を行おうと思います。オリジナルツアー・マジックキングダム・カンパニー(略称OMC)が、日本縦断お花見・食い倒れバスツアーを企画してるんで、全員でそれに参加しまーす。一応、スケジュールの載ったパンフ置いていきますけど、連絡とかはしないでくださいね。やっぱり旅行中は、浮き世のしがらみを忘れたいですもの。 by桜の精労働組合代表:染子】

「うぬぅ! 一度ならず二度までも! おのれ染子、どこまで反抗的なのじゃ!」
 置き手紙と、二頭身の黒やぎ&白やぎが温泉に浸かって桜を見上げている表紙イラストつきパンフレットをがしっと掴み上げ、破りすててしまおうと力を込めたとき。
 すう、としなやかな指が伸び、それらは弁天の手から救出された。くすくす笑いながら、モーリス・ラジアルは、手紙の文面を追う。
「おやおや。井の頭桜の皆さんは活動的ですね。先を越されてしまいました」
 モーリスは、井の頭公園の開花状況を確認に来ていたのだ。場合によっては、イベント企画に協力してくれるつもりだったらしい。
「モーリスぅ〜。わらわはもう、どうしてよいやら。ううう。最強の萌えイベントがお流れじゃあ〜!」
「タイムスリップな執事喫茶とメイドカフェは、収拾のつかなさ加減が楽しそうですね。いつか実現していただきたいですが、それはそれとして」
 パンフレットを広げ、モーリスの指がスケジュールをなぞる。
「いっそ、このツアーに参加してみませんか?」
「なんと」
「シュラインさんと、和馬さんと、恭一郎さんにも声を掛けてみましょう」
「ほほう! わらわたちも仲良しさんグループで慰安旅行というわけじゃな。良い考えじゃ」
 うんうんうんと、弁天は何度も頷く。
 弁天から仲良しさん呼ばわりされていると知ったら、シュライン・エマは、「まあ。光栄だわ」と、そつのない返事をしながらも遠い目をするだろうし、藍原和馬は、「えっ? 俺たちいつ仲良しになったんスか!」と吃驚仰天して青ざめるだろうし、直江恭一郎にいたっては「弁天さま……? 誰でしたっけ……?」と、真剣に考え込むに違いない。記憶を探ったなら、以前、寺根町の植物園にて、自走する巨大植物に追いかけられたとき、遭遇した女神に似ていることに気づくかも知れないが――あまり探りたくもない記憶であろう。
「そうと決まれば、買い出しをせねばな」
「バスでの長距離移動ですから、食べ物やお酒類を用意したほうがいいですね」
「あいわかった、さっそく皆を呼び出してデパ地下へGOじゃ。チョイスはシュラインに任せると効率的であろう」
「荷物持ちは和馬さんにお願いしましょうね」
「当然じゃ。和馬が荷物持ち担当なのは黄金のお約束というか、運命の必然というか、前世からの定めと言えよう。そうそう、お出かけ用の服も新調せねばのう。胸の谷間をばっちり強調して、恭一郎に見せつけるのじゃ」

 ……出発前から、そこはかとない腹黒さを秘めた、『仲良しさんグループ』であった。

ACT.2■いざ、テラヤギ公園へ

 そして今。シュライン、和馬、恭一郎、弁天の4名は、大丸の地下食品街『ごちそうパラダイス』コーナーを制覇するような勢いで買い物をしていた。弁天が激しく主張して、『吉兆:東京店』の懐石詰合せやら『銀座:寿司幸』のちらし寿司やら、『浅草田甫:草津亭』の季節弁当やらに突撃したあげく、『古市庵』の洋風サラダ巻きや『柿安』のキャベツと鶏肉の重ね蒸しまでも大量購入する勢いである。シュラインが制止したため、荷物は半分程度に収まったが、それでも結構な量になった(くどいようだが荷物持ちは和馬)。
 ちなみにモーリスは、出発前に済ませてしまいたい用事があるそうで、待ち合わせ場所に直接来ると言う。
「あのねぇ、デパ地下で買い物するのは構わないんだけど――どうしてわざわざ、大丸東京店に足を伸ばす必要があるの?」
「そうですよォ。弁天さまのショバの、東急吉祥寺店あたりでいいじゃないすかァ」
「ほほほ。大丸は、わらわ好みの酒類が充実しておるし、利き酒師もワインアドバイザーも待機しておって、何かとお役立ちなのじゃ。……さあて、そこな男前の利き酒師、今日の気分は大阪あたりの純米大吟醸、熱海の焼酎、北海道産ワインなのじゃが、グッドチョイスを頼もう!」
「……余計なことですけど、それ全部、このバスツアーのルートにある地域ですよ? 地元で手に入れたほうがいいんじゃ?」
「それもそうじゃの。ん〜! 恭一郎のお利口さんめ。褒めてつかわすぞ!」
「い、いや、おかまいなく。気持ちだけでいいで……す。…………ぐふっ」
 弁天に頭を撫でられ頬をさすられた衝撃に、恭一郎は鼻をおさえ、がくっと片膝をついた。押さえても押さえても噴き出す鼻血はフロアを濡らし、みるみるうちに床一面に広がっていく。
「弁天さん! だめよ、恭一郎さんをそんなに刺激しちゃ」
「わらわは何もしておらぬぞ?」
「はわァ。血みどろスプラッタ状態を見て、人が集まってきましたよぉ? あ、警備員も来た。……え? や、違いまっす、俺ら善良な一般人で、この人はちょーっと体調悪くて鼻血出しただけで、痴話喧嘩による殺人未遂だなんてとんでもない」
「そうよ、どこにも凶器はないでしょう? 強いて言うなら、女の魅力、かしらね? すみませんけど、モップ貸してくれるかしら?」
 シュラインは沈着冷静に事情を説明し、清掃用のモップを3本借りた。警備員に恭一郎の首の後ろをとんとんするよう指示し、シュラインと和馬と弁天は、デパ地下にふさわしからぬ床の血溜まりを除去したのである。

 ++ ++ ++

 そして、集合時間の8時30分。
 テラヤギ公園では、車掌の白やぎが、各班の点呼を取り始めている。
 モーリスは白やぎ像前で、一同と合流するべく、一足早くその到着を待っていた。
「『とうきょうなかよしさんぐるーぷ』の、もーりす・らじあるさん?」
「はい、来てます」
「おなじく、しゅらいん・えまさん?」
「……はい。今、着いたわ」
 息を切らせながら、シュラインが片手を上げる。
「おなじく、いのがしら・べんてんさん?」
「…………うむ、今参ったぞ。ぜぇぜぇ。掃除に思いのほか時間がかかったのう」
「おなじく、あいはら・かずまさん? ……あいはら・かずまさんは、いらっしゃいませんか? あいはらさーん?」
 返事までに間があったため、白やぎはきょろきょろと辺りを見回す。
「います。ここにいまーす! オオォー! 待ってくれェー! 荷物全部持った挙げ句に、男ひとり背負ってンだぞ!」
 土煙を立て、必死の形相で和馬が走ってきた。背にはぐったりした恭一郎をおんぶし、いったいどこをどう持てば運ぶことが可能なのか不思議なほどの、小山のような荷物を抱えている。
「ご苦労様です、和馬さん」
 買い出し中に何が起こったのか何となく察し、にこっと笑いかけて、それでモーリスのねぎらいは終了であった。
「おなじく、なおえ・きょういちろうさん?」
「……………は……ぃ…………」
「ぜんいんおそろいですね。では、しゅっぱつしますので、せきについてください」

ACT.3■もしかしなくても、ハードスケジュールですよ?

「よぉし。ではひとつ、わらわの美声を聞かせてしんぜよう。イベントバス車中恒例、中島みゆきヒットソングメドレー、いってみよー!」
「弁天さまァ。他のレパートリーないんですかぁ?」
 ひた走るバスの中、和馬は洋風サラダ巻をぱくつき、大丸で仕入れてきた深大寺ビールを飲みながらぼやく。
「ん? 和馬はみゆき以外を聞きたいのか? 良かろう、では初公開、ユーミンの『東京フリーウェイ』を」
「弁天さまには、マイクを持たせておけば、むしろ手がかからなくていいわね」
 ユーミンメドレーを熱唱している弁天はさておき、シュラインは改めてパンフレットに掲載されたスケジュールを検分した。
「……それにしてもOMCって、無茶というか、かなり大胆な旅行日程を組む旅行会社よね。テラヤギ公園→大阪→熱海→東京→札幌。日本縦断っていうのとは、ちょっと違うんじゃないかしら?」
「お花見の名所めぐりと食い倒れを両立させ、ついでに温泉も、となったら、こういう構成になるんでしょうね」
 微笑みながらも、さらっと鋭い分析をしつつ、モーリスは日程欄のひとつを指し示した。
「この、第2のお花見会場『心霊夜桜見物』は、とても楽しそうです。お花見をしながら怪奇体験ができるなんて、とても一石二鳥な場所ですね」
「桜は見事なようだから楽しみだけど、怪奇体験はねぇ……。いつも依頼で関わってるし」
 シュラインはふっと目を伏せる。たしかに草間興信所にいれば、怪奇事件も怪奇現象もおなかいっぱいであろう。
「普段の依頼ではなかなかお目にかかれない、珍しい幽霊さんがいるかも知れませんよ。恭一郎さんはどう思いますか?」
 しばらく横になっていたおかげで、ようやく血色を取り戻した恭一郎は、
「……どこでもいいですよ、熱海の混浴温泉以外なら……」
 と、呟いた。
 ユーミンをひととおり歌い終わり、今度はデュエット曲じゃ! 『銀座の恋の物語』『別れても好きな人』『愛が生まれた日』『LOVE〜since1999〜』のどれがいい恭一郎、さあさあ! と迫ってくる弁天から逃げ回りながら。

ACT.4■優麗(?)なる花見

 大阪での、第1の花見会場『通り抜け競歩ラリー』では、それぞれ好タイムを出し、『闇お好み焼き』も、食材と激闘しつつ堪能した。熱海の混浴温泉は、弁天が興味を示して一同を引っ張っていったところ、恭一郎が鼻血の海に溺れかけ瀕死状態になったのであえなく断念。東京名物ラーメン行列は、「いやァ。俺ら地元民だし。何もツアー中に並ぶのもなぁ」という、和馬のもっともな意見によりスルーした。ただ、異世界からの参加者たちには、もの珍しくて大好評だったらしい。
 そして、いよいよ。
 春の陽が落ち、とっぷりと夜が暮れたころ、ツアー一行は、第2の花見会場であるところの、約26万平方メートルの面積を誇る国営墓地に到着した。
 さすがに桜の名所として有名な場所だけあって、広大な敷地を埋め尽くさんばかりに樹齢数の高そうな名木が妍を競い、はらはらと花びらを降りこぼしている。
「おゥ。いいねえ、大阪じゃ、競歩するのに必死で、花をみる余裕はなかったもんな」
 ライトアップされた夜桜の幻想的な眺めに、和馬は目を細める。
「ううう。ここの桜はストライキもせずにきちんと咲いて、立派じゃのう。600本ばかり、うちのソメイヨシノとトレードしてくれぬかのう」
 どうじゃ、この地も悪くはないが、井の頭公園で咲いてみるつもりはないかえ? などと、弁天は手近な桜をスカウトし始めた。
(いまのうちに、弁天さまから遠ざかっておこう……)
 旅行中ずっと、反応を面白がった弁天から、さんざんセクハラを受けてきた恭一郎は、そーっと距離を取った。すでに何度も大量の鼻血を噴出してきており、夜桜の下で色っぽく迫られようものなら、今度こそ命が危ない。
「……ちょっと、聞いていいかしら?」
 シュラインが、モーリスに言う。
「何でしょう?」
「『出発前に済ませておきたい用事』って、いったい何だったの?」
「気づいてましたか。シュラインさんには、かないませんね」
 モーリスはふっと口元を綻ばせながら、それぞれ離れた位置にいる、和馬と、弁天と、恭一郎の後ろ姿を見た。もちろん彼らには、シュラインとの会話は聞こえていない。
「怖がる人がいないと、幽霊さんたちに申し訳ないと思いましてね。あちこちで捕獲させていただいてたんですよ。ここで解放してさしあげるつもりで」

 ++ ++ ++
 
(……そこにいるのは、黒狼か)
(まさしく! 騎士イェルク・ヌーヴェルトだ)
(かの内戦のおり、おぬしに破れた我らの恨み、思い知るが良い)
(こんなところで遭遇しようとは、『東京』にさまよい出た甲斐もあろうというもの)
(我らのことを、忘れたとは言わさぬ。覚悟!)
 はたと気づいたとき、和馬は、各種幻獣の幽霊に取り囲まれていた。どうやら、和馬似の騎士が倒した敵らしいのだが、当然ながら見ず知らずの幽霊である。なのに皆、殺気むんむんだった。
「えっ? えっ? 知らないっす。人違いですよォ。弁天さまァ、何か言ってくださいよ」
 和馬は辟易して弁天に助けを求めたが、弁天のほうも取り込み中だった。
(あんたのせいで、おれは初恋の彼女を、別の男に取られたんだ)
(おまえだな。彼女にあることないこと吹き込んで、心変わりをさせたのは)
(あたしの彼を返してよ)
(公園のボートに乗るまでは、上手くいってたのに)
「黙らっしゃい。恋愛の失敗をひとさまのせいにするなど言語道断。お互いの努力が足りなかったのじゃ。ちょっとそこに座らぬか」
 まったく、最近の若い霊は! と、弁天はぷりぷりしながら説教を始めた。
 座れと言われても、足のない霊たちはどうすることもできず、「どうしよう……」と狼狽している。
 恭一郎はといえば――
 しどけなく着物をはだけた大正ロマン風美人幽霊や、薄幸系の美人OL幽霊、異世界出身らしく種族不明だが多分女性であるらしい幽霊etc.に抱きつかれて悶絶し、やがて鼻血の海へ倒れ伏してしまった。
 桜吹雪の舞う墓地に、血溜まりが広がっていく。臨場感抜群である。

「あらあら」
 シュラインは、大きく枝を張った桜を選び、その下に茣蓙を敷き、買い付けてきた料理や酒類を並べるなどして、宴会の準備を整えていた。3人の受難を見やり、肩を竦める。
「……大サービスね」
「皆さんに、楽しんでいただこうと思いまして。もちろん、シュラインさんにも」
 しれっとしてモーリスが言ったとたん、シュラインの膝に、何やら、小さく柔らかな動物が何匹も、ぴょんぴょんと飛び乗った気配があった。触感だけで、姿は見えない。
(シュラインどの。お初にお目に掛かる。自分は、生前はルゥ・シャルムの赤い稲妻と呼ばれたジョルジュ大尉)
(青い冥王星、ジェローム中将です。名誉の戦死を遂げてのち、このふたつ名も、過去のものとなりました)
(金のほうき星、ダミアン大佐です)
「まあ、子うさぎ系幻獣の幽霊さんたち。どうぞよろしく」
 ふわもこ触り放題に、シュラインはにっこりした。
(モーリス様。ワインをお注ぎしましょう)
(何か食べ物を、お取りしましょうか?)
(抜け駆けするな。モーリス様のお世話はぼくが)
(いや、わたしが!)
 そして、モーリスはといえば、優雅なことに、金髪銀髪赤髪緑髪の、いずれ劣らぬ美青年・美少年幽霊たちを侍らせて、ひとあし先に耽美な夜桜宴会モードに突入していたのである。
 
 ++ ++ ++

 結局、和馬とイェルクを間違えていた幻獣幽霊の誤解も解け、失恋幽霊たちは弁天に説教されたあげくに、「ま、飲め。飲んで忘れるが良い」と酒の相手をさせられ、血の海から救出された恭一郎はシュラインの介抱を受け(信頼できるシュラインなら、多少平気らしい)、美女幽霊ともども宴席に加わった。
 そんな感じで、モーリスのおかげで(??)、お花見宴会は最高に盛り上がった(???)のだった。

 その後、時空を超えて、バスは北の大地へとぶっちぎる。
 札幌でのお花見ジンギスカン会場にて、一同は、超ハイテンションになっている染子&桜の精600人と遭遇したが、そのノリについて行けず、思いっきり他人のふりをした。

(ええい、もう、帰ってこんで宜しい……!)
 弁天は思わず、痛み始めた頭を押さえる。
 桜舞う井の頭池での、オープンテラス執事喫茶+けも耳メイドカフェ企画がいつ実現するのかは、未だ謎であった。


 ――Fin.



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この小説は株式会社テラネッツが運営するオーダーメイドCOMで作成されたものです。

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