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【■お花見に行こう☆】
■姜 飛葉■

<ガイアス・タンベル/アシュラファンタジーオンライン(ea7780)>

花びらの数が多い桜は、普通の桜よりも咲くのが遅いんだって。
だから今からお花見に行けるの。
山の中に1本だけある桜の樹は、長生きな分とってもとっても綺麗に咲いてるって聞いたの。
シェラが案内するから、一緒にお花見に行かない?
お弁当もって、素敵な時間を一緒に過ごしたい人を誘って♪

●山奥に1本だけ咲く八重桜を見に行きましょう
近くには綺麗な小川が流れていますからキャンプも出来ます
シェラ・ウパーラ(ez1079)は必要に応じてご一緒しますので恋人同士の語らいでも仲間と楽しくでもどちらでも楽しいひと時をご一緒しましょう


●待ち合わせ
 ガイアス・タンベル(ea7780)は、待ち合わせ場所である広場を目指し、パリの街並みが続く通りを愛馬の手綱を引きながら歩いていた。
 遅咲きの山桜を、見に行く約束をしているのだ。
 馬の背に振り分けられた荷物の中には、馴染みの店で作ってもらった特性の弁当が入っている。
 折角の機会、仕事ではないのだから保存食では味気ないと思い頼んだお弁当は、二人分。
 弁当の包みを開けるのが楽しみで、ついつい笑顔になる。
 一緒に行くあの子は喜んでくれるだろうかと思い悩む……楽しい悩み事を抱えながらの道行きは早いもので、目の前の角を曲がれば広場というところにまで来たガイアスの耳に入ったのは、賑やかな音の群れだった。
 広場には少なくない人の数。
 人間と比べてしまうと子供ほどの背丈のガイアスは、人ごみに少し苦労しながら待ち合わせの目印とした街路樹の下へ向かう。
 大勢の人がいたのは、小さな市が立っていたから。
 好もしい喧騒に、ガイアスはふと思いついた。
 待ち合わせ相手の性格を考えれば、気が惹かれるものにふらふらと引き寄せられてしまう可能性が否定できない。
 約束を忘れるような事は無いと思いたい……約束の鐘の音が鳴るまでは未だあと少し。
 信じて待とうとガイアスが思った矢先、少なくない人の輪から聞こえていた賑やかな音楽が止み、代わりに拍手が響く。
 何だろうと顔を上げたガイアスの目に飛び込んできたのは、銀緑色にきらめく光の跡……それを作り出した少女が嬉しそうに声を掛ける。
「ガイアスちゃん、早かったんだね!」
 その明るい声の主は、人の輪からふわり舞い翔び抜けだすとガイアスの肩に降り立った。
 もう来てたの?と笑み含んだ声で尋ねたのは、桜を見に行こうと誘ったシェラ・ウパーラ(ez1079)だった。
「シェラさんこそ……お待たせしてしまいましたか?」
「ううん、演奏会に飛び入りで混ぜてもらってただけだよ。今日はよろしくね」
 その時、約束の鐘の音が響いた。
 ぴったりだねと楽しそうに笑うシェラに笑顔で応じながら、宙を駈けた後に銀色の軌跡が僅かに残り、それがきれいだとガイアスは思った。


●山へれっつごー
「ガイアスちゃんがお馬さんと一緒でよかったの♪」
「遠いんですか?」
 言葉の意味を察したガイアスの問いにシェラは「地面を歩くと、ちょっとだけ」と答えた。
 酒場で誘われた時には聞かなかった事実に、変わらないなぁとついつい内心苦笑が浮かぶ。シェラの言葉はいつもどこか足りず、なぞなぞの様な言葉も多かった。だがそれも何となくシェラの人となりから理解できるようになった今、悪意はないし、相手を理解しようとする気持ちがあれば、埋まるものであったからガイアスは気にしては居なかった。
 最初にギルドの依頼で出会ってから、幾つも共に依頼を重ね。1度ノルマンの冒険者ギルドが閉鎖された時に、切れてしまったかと思った縁は、ギルドの再開を機にまた繋がる。
 それをシェラはとても喜んでいたが、ガイアスにも嬉しい事だった。
「でもね、もうちょっとだから。本当だよ?」
 束の間もの思いに捕らわれたガイアスの沈黙を不安と取ったのか、そう告げるシェラにガイアスは慌ててそうではないと答えた。
「ほんとに?」
「本当ですよ。僕がシェラさんに嘘を言った事がありましたか?」
 瞳を瞬かせたシェラは「そうだね」と頷く。そして、不意に「今日は一緒にありがとう」と言った。
 様子に小さく首を傾げたガイアスが、言葉を継ごうとした矢先に今度は「もう抜けるよ!」とシェラが言う。
 言葉通り、濃い森の緑が不意に途切れる。
 目の前に広がっていたのは自然が作り出す壮大な景観。
「素敵でしょ?」
 咲き誇る満開の桜が魅せる景色を、まるで自分のことのように得意げに語るシェラの言うとおり、流麗な風景が広がっていた。
 澄み渡った水碧の空は雲ひとつ無く。萌え吹く山々は新緑に染まる。
 夏を報せる栗花落雨が迫るまで……ひと時の色。
 その中に、たった1本だけ薄紅に染まる樹。1本きりだからこそ、より目を惹く。
 絢爛に咲き誇る多花弁の山桜は緑に映え、山間を吹く清涼な風にふわりふわりと花びらを舞わせる。
「シェラさんは、色々素敵なものをご存知なんですね」
 ガイアスの感想をシェラは嬉しそうに聞いていた。

●薄紅に染まる
 山奥にあるからこそ、余り人が来ず荒らされる事無くきれいに山桜に作られた薄紅色の敷物の上で、ガイアスはお弁当を広げる事にした。
 包みを開けば、たくさんの具材が挟まれたやわらかなパンに、野菜の酢漬けや色んな揚げ物や焼き物が目に楽しくたくさん詰められていた。
 目を輝かせてお弁当に手を出そうとするも、普通サイズに苦戦するシェラに、ガイアスは笑ってパンを半分にしてやる。
「半分こだね♪ ありがとう」
「遠慮しないで食べてくださいね」
 愛馬にも林檎を遣りながら、ガイアスは嬉しそうなシェラの顔を見て持ってきて良かったと心から思う。
 周りの景色を楽しみにながら、お弁当を食べる。
 言葉は尽きず、中々会えないけどと互いの近況を伝え合った。
 同じ冒険者とはいえ、駆け出し同然のシェラと優れたナイトのガイアスとでは、一緒の依頼で会う事は力量的に難しいため殆ど無いからだ。
「強い騎士様だから仕方ないよね」
「シェラさん……あの」
 仕方ないという顔が言葉通りに受け止めているようには見えず、言いかけた言葉を制しシェラは脇に抱えていた竪琴を皮袋から取り出した。
 和音を幾つか爪弾いて「お弁当のお礼」と、にこりと笑って紡ぎだした。
 明るい調べに乗せ、高く澄んだ声で歌い始めたシェラ。
 シフール用に作られた小さな竪琴は、人用のそれと違い奏でられる音色も小さい。音を膨らませる共鳴体部分が小さくなるためだ。
 だが、大勢に伝わらなくても良いのだから、シェラは気にしていなかった。
 目の前にいるたった一人への音だから良いよねと絃をなぞる。
 たくさんのありがとうと大好きを込めて。
 山から緑の合間を吹き抜けてくる風は気持ちよく、はらはらと降りしきる薄紅色の雪に似た花びらの中、自分だけに歌われる曲はとても嬉しくて、ここに一緒に来られた事がただただ幸せだなとガイアスは思った。

●帰路
 先ほどまで空高くにあったはずの太陽は、気がつけば傾き始めている。
 幻想的な風景に別れを告げるのは名残惜しいが、パリに戻るまでがピクニック。
 1日話しても未だ何か足りなく思えるのか、他愛も無い言葉を交わしながら、日が暮れる前に帰路についた。
 手綱を取り進むガイアスの肩の上、文字通り羽根を休めていたシェラは、柔らかな橙に染まる夕日を見つめながら呟きにも似た声で言葉を零す。
「ガイアスちゃん、今日も1日ありがとう。楽しかったし綺麗だったの」
「僕の方こそお誘いありがとうございました」
 本当に綺麗でしたね、と応じるガイアスの声は、朗らかないつもと変わらないもの。
 その言葉を聞いて、シェラはふわりと微笑んだ。
 内緒話をするように、他に誰かがいるわけでもないのだけれど、こっそり耳元で尋ねる。
「またきれいなもの、素敵なものを見に……一緒に遊んでね?」
 囁き歌うように紡がれた小さな願いに、ガイアスが答えた言葉は勿論決まっていた。
 ナイトとして守るべき民の幸せのため、剣を持つことはガイアスにとって当たり前の事だった。
 今を過ごすノルマン王国に降りかかる災厄を払う為に日々尽力している。
 パラという種族である事を考えれば、ガイアスの志は異端かもしれない。
 けれど、いつも好きな人に笑顔で居て欲しいと願うのは、種族も性別も職業も貴賎も関係ない事。

 遅い春のとある1日。
 おだやかなひと時。



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この小説は株式会社テラネッツが運営するオーダーメイドCOMで作成されたものです。

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