英国にて、眠りについている時のルルイエへのお見舞い
此処はイギリス‥‥由緒に歴史ある英国にて貴族としてその名を連ねるフォレクシー家の邸宅を訪れたのはその地と縁を持つ土の魔術師がルーティ・フィルファニア。
雪が今日も降り積もる中、訪れた彼女のその目的は『魔本』との戦いにより深き眠りに着いたルルイエ・セルファードのお見舞いだった。
「あれから、健在でしょうか。もしかしていきなり体調を崩されて‥‥って今になっておろおろしてもしょうがありませんよね、うん」
「どうぞ、お入り下さい」
「ありがとうございます、それでは‥‥!」
屋敷に通されて後、最初こそ神妙な面持ちを湛える彼女ではあったが‥‥余り難しい事を考えるのが得意ではない事からやがて笑顔を浮かべ前向きに考えれば、侍女の呼び掛けが後に思い切りルルイエが眠る部屋の扉を開け放つ。
「失礼しまーす‥‥」
しかし取った行動の割、部屋にはこっそりと‥‥声も潜ませて足を踏み入れれば
「良かった、ちゃんといますね」
部屋の中央に座するベッドへ静かに横たわっている、自身と同じエルフの女性が姿を見止めて当然とは言え安堵の溜息を漏らすと、そのベッドの傍らにある椅子へ腰を掛けてルーティ。
「今日も冷えるので折角ですから棲家の片隅で眠っていた紅茶の道具を持って来ました、一緒に飲みましょうね」
手近にあった卓へ、携えて来た陶器製のポットやティーカップを並べつつ笑顔を湛えて呟くと、お湯を探すべく視線を彷徨わせるが‥‥唐突にその瞳は窓の外にて今も降る雪を見つめると
「アシュドさん、結局どこに行ったのかさっぱり分からないんですよ? 皆さんに何の音沙汰もなく‥‥折角パーティー抜け出してまで探したのに、酷くありません?」
新しい年を迎えてからも姿を晦ませたままである、此処の屋敷が主に対して文句を垂れ流し始め‥‥その最中、漸くお湯の入った大振りのポットを見付ければそちらへ歩み寄っては再び卓へ戻って来て彼女。
「ルルイエさんって幸せ者なんですよ? 皆さん揃って心配してくれて‥‥まぁ、一番心配しているだろう人は心配の余り、何をしているのか分からないんですが」
瞳を瞑ったままであるルルイエを覗き込み、安らかなその顔を見つめ呼び掛けて‥‥だがすぐに此処の屋敷が主の事を思い出して嘆息を再び漏らすと、それから暫くは静かに紅茶を淹れる事だけに専念する。
「‥‥良し! 久々に紅茶を淹れました。今日持って来た葉は無難にダージリンです、だからこそ淹れ方を気にしましたが‥‥」
やがて多からず時間を経て紅茶をカップへ注ぎ終えるとルーティ、会心の笑みを湛えると琥珀色の液体が注がれたカップの一つをルルイエの方へ差し出し、懇切に説明してからもう一つのカップに口をつけて一口だけ啜れば
「ちょっと、渋かったみたいです」
すぐに眉根を顰め、自身が淹れた紅茶の感想を紡ぐとすぐにカップを置いて未だ瞳を開かないルルイエへ再び視線を配すると
「すべすべで羨ましいなー、と言うか妬ましいなー」
「‥‥‥」
その身を横たえているベッドへ再び歩み寄ってはやがて、その縁へ腰を下ろし彼女の頬を一撫ですれば‥‥しかし返って来ない答えに瞳を細めると
「と言うか今になって良く考えてみると私達、余り話した事がなかったですよね?」
今更に首を傾げてはルルイエへ問い掛けるルーティ‥‥『魔本』に囚われる前、本来の彼女と口を交わしたのは幾度あった事だろうか。
思い出そうとしても思い出せない程にそれは少なかったからこそ、彼女の口から今になって出た問い。
「ルルイエさんがどんな人で、何を考えていて、何を大事にしているのか‥‥『あの時』が来るまで殆ど考えた事がなくて今更、都合がいいかも知れませんけど」
無論、それに答える者はおらず‥‥しかし、だからこそか彼女は『あの時』から今までに蓄積された想いの丈を紡ぎ、微笑むと
「‥‥目を覚まされたらその時は私に色々、教えて下さいね。ルルイエさんの事。勿論、私の事も一杯話しますからその時はちゃんと聞いて下さいね〜」
今こそ独り善がりではあるが、果たして約束を交わして彼女は再び外を見つめ‥‥今も雪を降らせている雲の隙間から顔を覗かせた太陽を見付ければ、僅かに温くなった紅茶の残りを一気に飲み干すといよいよ立ち上がれば
「それじゃ、一足先に行ってきます」
最後にルルイエの顔を凝視した後、それだけ告げれば彼女は踵を返してその部屋を後にする。
「アシュドさんが何処にいるのかもまだ、検討すら付いていませんけどそれでもやっぱり、少しでも支えていければいいなぁ、って思っているので暫くは任せて下さいっ! それでは、次にお逢い出来る日まで‥‥お待ちしていますね♪」
もその途中、扉の前で立ち止まればルルイエともう一つだけ約束を交わしてルーティは来た時と同様に思い切り扉を開け放ち‥‥そして今度は静かに閉めてから扉へ寄り掛かり顔を上げては嘆息を漏らすと、未だ姿を晦ませている屋敷の主を探すべく息をまいては駆け出すのだった。
「‥‥取りあえずもう少しだけ、キャメロットとノッテンガムを探してみますか」
果たしてそれより後、英国より離れた異国の地にて『彼』と予想だにしない再会を果たすのだが‥‥無論それは今の彼女が知る筈もなく、だが己が立てた誓いを実践すべくルーティは尽力するのだった。
何時か目を覚ますだろう、ルルイエの笑顔を見る為に。
〜Fin〜
※この文章をホームページなどに掲載する際は、必ず以下の一文を表示してください。
この小説は株式会社テラネッツが運営するオーダーメイドCOMで作成されたものです。
|