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【●ルルイエさんのお見舞い 〜ノース・ウィルinイギリス編〜】
■蘇芳 防斗■

<ノース・ウィル/アシュラファンタジーオンライン(ea2269)>

 英国にて、眠りについている時のルルイエへのお見舞い

 此処はイギリス‥‥由緒に歴史ある英国にて貴族としてその名を連ねるフォレクシー家の邸宅を訪れたのはその地と縁を持つ生真面目な面持ちを携えている神聖騎士のノース・ウィル。
 雲こそ空を覆うも冷たき風だけが舞う中、訪れた彼女のその目的は『魔本』との戦いにより深き眠りに着いたルルイエ・セルファードのお見舞いだった。
「‥‥やはり、時間を間違えてしまった様だな‥‥」
「どうぞ、お入り下さい」
「今更か、だがこれはこれで悪くはないだろう‥‥失礼する」
 屋敷に通されて後、部屋の前まで通されれば自身しかいない事より改めて、ノッテンガムと縁ある者達と待ち合わせていた時間を間違えた事に気付くが、今となってはどうしようもないとすぐに悟れば侍女の声が響くなり嘆息を漏らしながらもやがて笑顔を湛え、目の前の扉を静かに開け放つ。
「久し振りだな‥‥相変わらず寝たままの様だが、そちらは変わりないか?」
 するとその視界に飛び込んで来た、部屋の中央に位置するベッドの上でその身を横たわらせているルルイエを見止めれば彼女、形はどうあれ久々の再会に最初こそ声を上擦らせ‥‥だが暫しの間を置いて何時もの調子で言葉を紡げば、ノースはベッドの近くに置かれている椅子へと腰を掛ける。
「あの後、絵を習い始めた。拙いが‥‥殺風景な場所に多少の彩りにはなるだろう」
 そして暫くの間、身動ぎしない彼女を見つめ改めてルルイエが未だに深い眠りの中にいる事を実感すると、憂いをその表情に帯びながらもそれを振り払うべく持ち寄ったバックパックの中から一枚のカンバスに記された絵を取り出せば、彼女へ見せ付ける様に自身の眼前へ突き出しては呟き、部屋を見回すも
「‥‥そうでも、ないか」
 思っていたよりも華やかな部屋の雰囲気と、別に飾られていた絵を見てはその出来栄えに感心すると嘆息を漏らすノースではあったが、自身の行いには恥じず一月を掛けて描いたノッテンガムの風景画を傍らにある卓へ置けば‥‥先に取り出したカンバスと共に勝手に出て来ては『忘れるな』と言わんばかりに床へ落ちた手紙の存在を思い出す彼女。
「そう言えば、イスパニアへ旅立った友人から手紙が届いたのでこの場で拝読させて貰うが‥‥構わないよな? 貴女も良く知る人からだ」
 そしてそれを拾うべく上半身だけを屈め摘まめば、その手紙をひらつかせて眠り姫へ申し出るノースは暫しの沈黙の後、既に口が開け放たれている友人から送られてきた封筒より分厚い紙片の束を取り出す‥‥その量たるや軽く十枚は超えており、以前に読んだとは言え初めてその手紙を手にした時と同様に僅か、眉根を顰めるもやがて意を決してノースはその手紙を開けば、何時終わるだろう朗読を始めるのだった。
「『愛しのルルイエさんへ☆ 私は今、義父様とルルイエさんと離れた遠い地にいます♪ 私が離れてからのマリアさんとのお話はどうですか? お話に掛かりっきりで、身体の方は寝たきりでお世話で‥‥』」

「『まあまあまあ☆ 私が帰って来てもしルルイエさんが居なかったらその時は追いかけちゃいますからねっ! それでは、またお手紙送ります♪』‥‥だそうだ」
 やがて子一時間は経っただろうか‥‥ノースの友人らしい口調にて終始認められた手紙を所々で休みを挟みながら漸く、今になって読み終えると安堵の溜息を漏らして彼女はその手紙を傍らにあった卓へ置いた後、ルルイエを見つめて肩を竦めれば
「やれやれ、彼女らしいな」
 ある意味、友人らしい手紙に改めて感心して笑顔を湛えるとノースは真摯な面持ちにて改まって自身が胸の内を未だ、眠り続けるルルイエへ告げる。
「‥‥皆、心配している。出来る事ならまた以前の様に、言葉を交わしたいものだな」
 それは果たして真実で、しかし未だルルイエを眠りの縁より呼び戻す策すら見当たらない事から言葉にしなければ不安に押し潰されそうだったからこそ、漸く言の葉に出来た事から安堵の溜息を漏らすと
「‥‥もう、こんな時間か。冬は日が落ちるのが早くて好かない」
 今更に照れ臭くなってか、窓の方を見やれば雲だけが覆う空ではあったが僅かに覗く陽光が西へ沈み掛けている事に気付いてノースは整った面立ちに渋面を湛え呟けば
「それでは、今日は此処でお暇する。生憎と今は冒険者ギルドが機能していなくて平和なのでまたその内、足を運ぶつもりだ」
 手早く身支度を整え、再びの来訪をルルイエの顔を覗き込みながら誓えば颯爽と踵を返し‥‥扉の前にてふと立ち止まっては再び口を開く。
「‥‥因みに貴女が知っている者の多くは最近、続々とジャパンへ渡ったと言う。どうやら、アシュド殿がそちらの方に渡ったらしくてな。全く‥‥何を考えているのか。だが、だからこそか‥‥私は英国に残る。皆が帰ってくる場所を守る為に。だから‥‥」
 そしてその口より紡がれたのはルルイエを見知る者達の近況‥‥そしてその動きが根源である者の名を紡げば彼女は誰へともなく溜息を漏らすも次いで、自身の揺るがぬ決意だけ途中まで告げると
「だから、目が覚めたその時は‥‥」
 唐突に頬を染めてノースは言葉の最後が部屋に響くと同時、扉を開け放った際に軋んだ音にそれを重ね打ち消せば部屋を後にするのだった。

 その最後、彼女が果たして紡いだ言葉とは‥‥『今度こそ、守るよ』との、頑なな誓いだったがそれは今も、そしてこれからも彼女だけしか知らない。

「さて、平和な今をもう少しだけ楽しむとするかな」
 フォレクシー家の屋敷を後にしてノースは歩く事暫し、漸く晴れてきた雲の隙間から顔を覗かせる夕日の暁を見つめれば顔を綻ばせて今度はこの風景を題材にして絵を描き、またルルイエの元に参じようと思った‥‥彼女が見る事の出来ない『今』を刻み、残しては目覚めたその時に少しでも多く自身が見た『今』を彼女へ伝える為に‥‥。

 〜Fin〜



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この小説は株式会社テラネッツが運営するオーダーメイドCOMで作成されたものです。

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