ぴんぽーん、とチャイムの音。
中からいらっしゃーい、の声が響き、その家の主は扉をあけて、笑顔を凍らせて、扉を閉めた。
ぱたりと。
「ちょっ、蓮さんっ! なんで扉閉めるの〜!」
「その理由は……後の二人だろうねぇ」
今日、料理作りすぎちゃったよー、食べにくるー? とお呼ばれしたのは紗綾とラシア・エルミナール、二人のはずだった。
だがその話を聞きつけていくいくー! とついてきた嶺雅。そして慧君も一緒に行こうね、うん、とほやほやカップルはえへへと柔らかな笑みで、渋谷蓮の自宅マンションまでやってきたのだった。
そう、たがいの恋人がついてきたことが、蓮が扉をさっと閉めた原因なのだった。
だんだんだーん、と紗綾は扉を叩く。嶺雅も一緒になって。
姉と弟、行動が同じ。
「だって、なんか、オーラがあれで! あれなオーラの人たちはおうちにはいれません! 怖いから!!」
「あーけーてー!」
「レイ」
あれなオーラの原因である嶺雅に、ラシアは諭すように名前を呼ぶ。
「だって、でも俺の目の黒いうちは慧君は紗綾に近づいちゃ駄目ー!!」
「はいはい、それは何度も聞いたから」
ずざっと二人の間に割り込み威嚇。ラシアは半ばあきれたような苦笑で嶺雅を宥める。
慧は歌の大先輩と尊敬している嶺雅のこの様子にしゅーん、紗綾は嶺雅と慧の間で仲良くしようねと頑張っている。
「ラシア嬢、そろそろ終わったー?」
「もうちょっとかね、あと五分くらい」
こそっと扉が少し開く。
三人が頑張っているのを達観して見守るラシアは、壁に背を預けていた。
「先に中はいっちゃう?」
「そうだね。これお土産、酸素缶とか……」
「あ、なんか気遣わせてごめんねー、ささあがってあがってー」
キィ、と扉の開く音。
ラシアが邪魔するね、と上がるのをみて、三人の絆が一気に固まる。
「お邪魔しまーす!」
「君たち今まで騒いでたのに変なとこで意気投合だね!」
それとこれとは別。
玄関で終わったかに見えた一波乱はまだまだ続く。
「はい、慧君。から揚げ」
「ありがとうさ……」
「はい紗綾、サラダとってあげたヨ!」
紗綾が慶に笑顔で差し出す。言葉にかぶせるように邪魔をする。
「レイ君てば!」
「蓮君お茶〜!」
攻められればはぐらかす嶺雅。
紗綾はどうしたら仲良くなれるかな、とまだ思案をする。
「いつもこーなの」
「そうらしいねぇ」
「止めないわけ?」
「必要があればね」
まだ必要ないレベルなんだね、と蓮はラシアに苦笑する。
「もう仲よくしなよー、しないとデザートなしだよー」
テーブルに並ぶ食べ物は減ってもすぐ増える。
「蓮さん何か手伝う?」
「んー、そだね。じゃあ慧君ちょっとこっちこっちー」
「僕?」
「うんうん」
お手伝いしてね、と慧をキッチンへ。
その間に、紗綾は嶺雅に慧と仲よくするように言うのだけれども、右から左へ言葉は嶺雅の耳を通り抜けていく。
そんな姉と弟の姿をラシアは紅茶を飲みながら静かに見守る。
「レイ君、レイ君ー!!」
「ラシア! そっちのサンドイッチとってー!」
「はい」
「ありがとう!」
と、そっちの騒ぎの音に苦笑しつつ、蓮は慧にこれ持ってねー、と料理を渡す。
「慧君幸せー?」
「えっと……はい」
「ノロけていいんだよ〜このこの〜」
「え、あ……ええと……」
テレテレテレ。
顔を赤くして、相手のことを思う。
それだけで気持ちは十分に伝わる。
「2人ってねーほわんほわんのふにゃんふにゃんていうか、幸せえへへー! ってオーラがすごく出てるんだよ」
「オーラ、ですか?」
「優しい感じでね、それを嶺雅君は感じてわーってなってるんだよ。だから彼ごと包んじゃば、いつかまーるく収まるんじゃないかなーって、僕思ったわけだ」
がんばりなよー、と励まされて、慧は表情を明るくする。
「ああ、本当に、ほわんほわんだー」
若いっていいねぇ、などと言われながら再び居間へ。
じろっと嶺雅の視線が威嚇する。
「嶺雅君、ほらうちのわんとにゃーが戯れてくれるらしいから、その顔をやめなさい」
見ると嶺雅とラシアの間をハスキー犬とトンキ二ーズがお前覚えてるぜー! とくるくるふんふんしていた。
去年の夏、出会ったことを思い出す。
「そういえば……海に一緒にいったんだっけね。ちっちゃかったのに今では大きくなって……」
ラシアが頭を撫でると尻尾がぶんぶん。子犬サイズはいまや立派な成犬サイズだ。しかも大型犬。そして撫でられている手が離れると、今度は嶺雅に体当たり。
「わ、ちょっ……ラシア助けて!」
「ラシア嬢、助けると巻き込まれるよ、女の子は危険です、やめておきなさい」
「……がんばれ」
ワンコに半強制的に戯れられる嶺雅。紗綾はいいなー、と呟く。
と、猫が慧のもとにすり寄ってにゃあと無く。
ふっと蓮と目が合うと、笑顔を返された。
「紗綾、猫さんこっちきてきてくれたよ」
「わー!! 」
にゃぁと甘い声。
紗綾はにこにこと、慧を二人で猫をはさんでいちゃこらする。
「!! こらそこっ、わっ」
良いぞ、グッジョブと愛犬に蓮は視線を送る。
この犬と猫、全部わかってやっているのだ。
「レイ、あんまり邪魔しちゃダメだよ」
「でも紗綾が……く、くすぐった……!」
ラシアはされるがまま状態の嶺雅にふっと笑む。
「アタシといる時とか、邪魔されたら嫌な気分にならない?」
「なる」
「同じことだよ」
言われて、嶺雅は黙る。
恋人できて、幸せそうで、おめでとうって伝えたいような気がしないでもない。
その反面、とられるような気がしてならない、その気持ちの方が強くてたまらない。
板挟みの気持ち。
ラシアもそれはなんとなくわかっている。もちろんすぐに切り替えのできる気持ちではないことも。
「ほら、二人幸せそうだろ」
「…………」
無言は肯定。
「ま、ちょっとずつでいいからさ」
「うん、ちょっとずつならね。一ミリならね……だから」
ぐっと、息をのむ。
「だからそれ以上くっついちゃダメー!!!」
もう飛び付かれたままで実力行使。
嶺雅は二人の邪魔を再び始める。
「……嶺雅君わかってるのか、わかってないのか」
「ま、いきなりは無理だしね……長い目で」
あはは、と苦笑交じり。
「苦労しそうだね、慧君」
「今もしてるね」
嶺雅の態度にしゅん。
でも紗綾が好きなことには、変わりない。
嶺雅が紗綾を好きなことも、紗綾が自分も、嶺雅も好きなことはわかっている。
だからいつかは。
時間はかかりそうだけれども。
「……でもいつまでもこの騒ぎだと僕も怒っちゃうよ」
目の前のごはんの前で喧嘩、および騒ぎは許しません。
そんな雰囲気で。
ラシアは静かに、ご飯おいしいと料理に箸をつける。
「騒ぐ子はご飯食べなくてよろしいですっ!」
「「「!!!」」」
「全部包んでラシア嬢に持って帰ってもらおう、そうしよう」
「さすがに全部は無理」
ささっと、自分の前から消えていく料理。
何かしらのオカンスイッチがオンになった様子。
このままでは、本当に何も食べれない! と三人は通じ合う。
「「「ごめんなさいっ」」」
「……仲良くする?」
「私はしてほしいの……」
「僕もしたい……」
ほわんほわんの二人はしゅーん。
「嶺雅君は?」
「…………」
じー。
「シマスッ!」
このままじゃ俺悪者!
嶺雅は一時休戦を約束する。
「よし、待て解除!」
その言葉とともに再び前には料理が戻ってくる。
扱いがワンコと一緒ー!? と思いつつも、おいしいからよし。
最初はぎくしゃくしていた雰囲気も、次第に和らいでいく。
「お邪魔しましたー」
「蓮クンおみやげもありがとネ!」
楽しい時間はあっという間。
待て、以降もめることなく時間は過ぎる。
余った料理はお持ち帰り。
マンションの玄関まで一人と二匹がお見送り。
「喧嘩せずに帰るんだよー」
「帰ろうか、紗綾」
「うん!」
ほわほわの二人は手をつないで、ちょっと照れつつ、歩いて行く。
嶺雅は、ちょっとおもしろくない。
でも、ラシアに名を呼ばれる。
「俺たちも、手繋ぐ?」
「繋ぐ?」
問われて問い返す。
嶺雅とラシアも手を繋ぐ。
と、嶺雅は振り向いて。
「今日は許してあげるけど、泣かせたりしたら車で挽き飛ばしにいくからね!」
そう聞こえるように言って、さくさくと紗綾と慧とは逆方向へ、向かっていく。
ラシアはそんな嶺雅にふっと気がつかれないように笑みを送る。
そして慧と紗綾は、なんとなく顔を見合せて、笑みあう。
それぞれ、幸せはすぐお隣に、あるのです。
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