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【仕掛人の華麗なる一日〜シャルロットさんと遊び倒す計画〜】
■紡木■

<エーディット・ブラウン/アシュラファンタジーオンライン(eb1460)>
<シャルロット/アシュラファンタジーオンライン(NPC)>

 衣装、馬車、お弁当。その他諸々の小道具。
「これでばっちりです〜」
 うふふふ‥‥と密やかな笑い声。
「さあ、張り切りますよ〜」
 ぐっ、と手を握り締める。素敵な一日にしてみせましょう、仕掛人の名に懸けて♪

●お誘い大作戦
 可愛らしい馬車が、店先でぴたりと止まった。ステップを降りるのは、エルフの青年貴族。纏めた金髪が、柔らかく風に乗る。
「お迎えにあがりました」
 差し伸べた手の先には、店番の少女。
「エ、エーディットさん!?」
「はい。こんにちは〜ですよ〜、シャルロットさん♪」
 にっこりと微笑んだのは、エーディット・ブラウン(♀)。人呼んで、華麗なる仕掛人。

「突然いらっしゃるんだもの。びっくりしました」
 馬車の中、エーディットの向かいに座っているのは、シャルロット・ブラン。パリの雑貨店、ブラン商会の一人娘である。
「でも、お会いできて嬉しい。お誘い下さって、ありがとうございます。今日の格好もとっても素敵‥‥」
 本日のコンセプトは、ビシッと青年貴族風。見つめるシャルロットの目が、きらきらと輝いている。
「『王子様』には、及びませんけど〜」
「いいえ! 同じくらい素敵です!!」
 これは、シャルロット的最上級の褒め言葉。
 格調高い衣装は品の良い顔立ちを際立たせ、それでいて、本人の柔らかな雰囲気が近寄り難さを緩和する。その絶妙な調和が、実に素晴らしい。
「私、こんな普段着で恥ずかしいわ」
 何しろ、店番中だったのである。
「ふふふ〜♪ それなら、心配御無用ですよ〜」
 仕掛人に、抜かりはないのだ。

●お着替え大作戦
「ど、どうですか?」
「良い感じです〜。前々から似合うと思ってたのですよ〜♪ 隠れた魅力ですね〜」
 照れたように笑うシャルロットの格好は、商家の若旦那風。まごうかたなき男装である。
「ちょっと、不思議な感じ。男装って、自分でするとは思わなかったから‥‥ズボンって動きやすいんですね!」
 回ってみても、跳ねてみても、スカートが纏わりつかないのはちょっとした感動だ。
「執事衣装や、貴族風のものもありますから♪ 色々試してみましょうね〜。勿論、ドレスもありますよ〜」

●デート大作戦
 まずは、可愛らしいお店で、ティータイム。
 シャルロットの服装は、最後は可愛らしい貴族のご令嬢風に落ち着いた。エーディットと並んだときに、一番様になる格好だったからだ。
「男装も、とっても可愛らしかったですよ〜♪」
「でも、格好良くなるには、もっと大人にならないと駄目ですね」
 どう頑張っても、少年が背伸びしている様にしかならなかったのである。
「私が大人になっても、エルフのエーディットさんは、今とあまり変わらないでしょう? そうしたら、今度はエスコートさせてくださいね」
「うふふ〜、楽しみにしてますね〜」

 お茶の後は、お弁当を持って郊外の水辺へ。ぽかぽか陽気に、心まで軽くなる。
 お昼を済ませた後は、原っぱを駆け回ったり、リスにそうっと近づいて餌をあげたり、シロツメクサの花冠を交換したり。
「立派な服を着てこんな事をするなんて、普段なら絶対できない遊びですよ♪」
 二人とも、同じくらい立派な服で、同じくらいお転婆に、初夏の野原を駆け回った。
「ふふ‥‥気持ち良い」
 仰向けに寝転がると、空がどこまでも広かった。午後の風が、前髪を揺らす。
「そうですね〜」
 隣に寝転んだエーディットも、目を細める。
「‥‥ね、エーディットさん、ありがとう、ございます」
「何の事でしょう〜」
「私が落ち込んでると思って、誘って下さったんでしょ?」
「いいえ〜。私がシャルロットさんと遊びたかっただけですよ〜」
 嘘が、あんまり優しいから。目の奥が、少し熱くなる。
「でも、もやもやがあるんだったら、話してくださいね〜。風に流して、すっきりしましょ〜。気持ちも安らぎますよ〜」
 シャルロットが、照れ隠しに苦笑する。
「皆、私に甘すぎるんだわ。だから、こんなに我侭になっちゃったのよ」
「そうでしたっけ〜?」
 エーディットは、にっこりと笑った。
「我侭なのは、実は、あの人にだけでしょう〜? 女装だって男装だって、お願いはしても、強要したことはないですし〜」
 気づかれていたとは、思わなかった。エーディットの観察眼に、少し驚く。
「だって、嫌われたら、悲しいでしょう?」
「あの人には、嫌われないって分かってたんですよね〜?」
「‥‥はい。結局、甘えてたんです、ずっと」
 何を言っても、嫌わないでいてくれるから。傍に、居てくれたから。
「あの人にしか、甘えられなかったんですよね〜」
 その唯一の人が、今は傍に居ない。どれだけ寂しいだろう。少し背けられたシャルロットの頭を、そっと撫でる。
「私、ずるかったんです。妹扱いされてること‥‥妹としてなら、傍にいられること、分かってました」
 それは、彼にとっての『特別』。一番、欲しかった位置ではないけれど、とても、居心地が良くて。
 知っていた。彼が、幼馴染の少女だけを、見つめていたこと。そして、その想いが、決して叶わないだろうこと。
「このままで、いいって。このままが、いいって。‥‥彼の想いは叶わない。でも、彼女を想ってる限り、他のひとに取られることもないって‥‥私は、ずっと特別でいられるって‥‥本当に、計算高くて嫌な子供ね、私」
「そうするしか、なかったんですよ〜」
「いえ‥‥少しずつでも、こっちを見てもらえるようにすれば良かった。私は、妹じゃないのよって、少しはこっちを見てって。怖くても、傷ついても‥‥振られても。何度でも。そうすれば、もしかしたら‥‥いつか、こっちを見てくれたかも知れない。そうすれば‥‥あの人、あんなに、傷つかずに済んだかも、しれない」
 シャルロットは、彼自身の手で、初恋に幕を引いたことを知らない。その手助けをしたのが、エーディット達だということも。
「だから、私は可哀想なんかじゃないし、こんなに‥‥こんなに、エーディットさんや、皆さんに優しくしてもらってるんだから‥‥寂しいはず、ないんです。そんなこと、言う資格ないんです」
 シャルロットは、勢いよく上半身を起こした。
「でも、誰も、誰かの代わりには、なれませんよ〜」
 背を向けられているから、表情は見えない。エーディットは、小さく震える肩を、両腕でそっと包み込んだ。
「もし、ご両親もあの人も王子様も、他にも沢山の人が傍に居たとしたら〜私が突然消えても、ちっとも寂しくないですか〜?」
「そんな! すっごく、すっごく寂しいです。エ、エーディットさんに会えなくなっちゃったら、私‥‥」
「ありがとうございます〜。‥‥そういう、ことですよ〜。他の誰がいたって、あの人が居ないことを、寂しがって良いんですよ〜」
「あ‥‥」
 振り返ったシャルロットを、今度は何も言わず、もう一度抱きしめた。
 その光景を、遠目に見ている人がいたら、あるいは、若い恋人同士が睦まじく寄り添っているように見えたかもしれない。

●送り狼大作戦
 夕暮れ時、再び、馬車が店先に止まった。エーディットに手を取られ、シャルロットがステップを降りる。
「本当に、楽しかったです。ずっと、一人でぐるぐる考えてた事も聞いて貰えて‥‥すっきりしちゃった」
 寂しがっても良い。そう言ってもらえて、心が、すっと軽くなった。
「ありがとうございました」
「いえいえ〜私も楽しかったですよ〜。そうそう、あの人が帰ってきたら、お祝いパーティーしましょうね♪」
「はい。きっと」
 にこ、と微笑んだシャルロットの頬に、吐息と同じくらい、軽いキス。
「エ、エーディットさんッ」
 真っ赤な顔に、片目を瞑ってみせる。
「何せ送り狼ですから〜。あの人には内緒ですよ〜♪」
「‥‥もうっ」
 頬を膨らませていたのも束の間、堪えきれずに、シャルロットは笑い出す。
 エーディットも、満足げに頷いた。

 華麗なる仕掛人、本日の計画は、全て大成功。
 何せ、一番仕掛けたかったのは、今、ここにある笑顔なのだから。



<了>



●マスターより
今日は。いつもNPC達がお世話になっております。この度はノベルの発注、誠にありがとうございました。
そして、シャルロットのこと、ここまで気にかけてくださったことにも、心より感謝申し上げます。この子は、本当に幸せな子です。PCさん方に育ててもらっていると言っても、過言ではないでしょう。皆さんの姿や姿勢を目にして、吸収して、日々成長しているところです。確かに今は少々寂しがっておりますが、エーディットさんのお陰で、大分立ち直ったものと思われます。
エーディットさんの優しい空気や、素敵な仕掛の数々を描かせていただけて、紡木も幸せでした。
そして、紡木の最初のNPCであるアレですが、きっと今頃、修行の地で揉まれている所でしょう。戻ってきたら、パーティーで迎えてやってくださると、嬉しいです。

紡木の復帰もアレの帰還も、もう少々時間が必要と思われますが、その時には、またよろしくお願いいたします。

それでは、またお会いできる日を願って。



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この小説は株式会社テラネッツが運営するオーダーメイドCOMで作成されたものです。

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