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【『テラやぎタベルナ』にて〜正装と言うよりコスプレ満干全席】
■深海残月■

<セレスティ・カーニンガム/東京怪談 SECOND REVOLUTION(1883)>
<モーリス・ラジアル/東京怪談 SECOND REVOLUTION(2318)>
<マリオン・バーガンディ/東京怪談 SECOND REVOLUTION(4164)>
<シュライン・エマ/東京怪談 SECOND REVOLUTION(0086)>
<真咲・誠名/東京怪談 SECOND REVOLUTION(NPC)>

 総合巨大レストラン「テラやぎタベルナ」へようこそ。
 タベルナとは、食堂を意味する言葉。ありとあらゆる世界からのお客様を、和・洋・中あるいは文化国家を超越した豪華なお食事の数々をご用意して、店員テラやぎ一同揃っておもてなしするレストラン。それが、この「テラやぎタベルナ」です。
 なお、「テラやぎタベルナ」が、テラやぎを食べるなという意味じゃないからと言って、テラやぎを食べちゃいけません。テラやぎは全て、当レストランの店員です。



 …と、そんな案内メッセージを見て当レストランに訪れて下さいましたお客様は五名様。
 まず主賓はセレスティ・カーニンガム様。
 そしてそのお連れ様、モーリス・ラジアル様に、マリオン・バーガンディ様。
 シュライン・エマ様に、真咲誠名様で御座います。

 お客様方の御希望は、『中華』の本格宮廷料理コースでと承っております。
 正装は…レンタルサービスでとなっていますね。では御席に御案内する前に更衣室へ御案内致します。ああ、着付けの心配は不要です。不安な方は、当レストラン専属の従業員が着付けて差し上げますので。
 マナーに関するレクチャーは…多分大丈夫だと思いますが念の為に一応、と。畏まりました。
 では皆様、それぞれの衣裳にお着替えになって、御待ち下さいませ。
 お着替えが終わりましたら、御席に御案内致しますので。



 更衣室。

「…皇帝は…決まりですね」
「ですね。主様はやっぱり主様なのですからして皇帝陛下がお似合いなのです♪」
「…って、宮廷料理の正装となると、結局やっぱり男は皇帝の扮装にするしかないような気がするんですけれど…正装とは言えもう少し砕けた感じにはできないんでしょうか? …ほら、皆が皆同じより、それぞれ違っていた方が楽しそうじゃないですか? ね?」
「まぁ…ひとまずセレスティ様の衣裳だけは確定と言う事になりますけどね。と、なると…他の皆様や私はどうしましょうか。…従業員さんいい案あります? ええ。…そうです。それなりに華のあるような」
「これなんかどうですか…って、へー。色々出てきますねー。面白いのです。…皇帝風に続いて皇子様風に高級官吏さん風、剣士さん風に功夫服っぽいもの、道士さん風にお坊さん風まで。どれにしようか迷ってしまうのです♪」
「………………つーか既に正装と言うよりコスプレの域に達していると思うのは気のせいか」
「気のせいですよ誠名さん。ここはイベント限定のテラやぎタベルナなんですから何でもありって事で、細かい事は気になさらずに。…それよりシュライン嬢も選び甲斐があって面白そうですね? 男性用より女性用の衣裳の方が多種多様な種類があって煌びやかなようですし? ってそう言えば誠名さん」
「はい?」
「…誠名さんは『どちら』になさるんでしょう?」
「? 何がです? …っておい何でそこで当然のようにこれを押し付けてくる従業員。女物の旗袍――チャイナドレスだろうがこれ」
「ああ、折角ですからそれ着てみませんか。…ほら従業員さんたちもお勧めのようですし」
「………………ってそーきますか? …まぁどうしてもっつぅならいいけど」
「…」
「…」
「…」
「…ってあっさり…。いいんですかそれ…他にも男物の服は用意されている気がするんですけれど?」
「…や、あんまりよくねぇけどどうしてもってんなら仕方ないかって覚悟はしてるんで今回の男女比率考える限り。…って俺どっからどう見ても女性だって? …いや、そりゃな…カタチは合ってる訳だしな…否定は出来ないけどな…だからって完全に正しいとも言えないんだよな…俺は俺な訳だしな…従業員のテラやぎな皆さんには何つったらいいのかな…」
「…楽しみですね誠名さんの女装♪」
「………………この場合女装っつーのか…?」
「勿論」
「でしょうねぇ」
「はいなのです」
「まぁ…そうよね」
「…」

 数分後。

「結構ゆったりしててたくさん食べられそうなのです♪」
「お似合いですよ。モーリス、マリオン」
「セレスティ様の方こそ」
「そうですセレスティ様こそお似合いなのです私やモーリスとは貫禄が違うのです。…ってあれ? シュラインさんと誠名さんがまだ個室から出て来ないのです」

「…ってちょっと待て幾ら何でも足入らねぇって」
「…う、私も難しいかも」
「…あのー従業員さーん、もうちょい大きいサイズの靴ってありますかー。え、それで入る? …いやちょっと待ってそれ勘弁して。正装に限らず当時のいいところの娘さんは皆やってたんだから大丈夫って…無理無理無理無理無理」
「あ、どうも。大きめの…って言うか普通サイズの靴有難う御座います。…って大丈夫かしら誠名さん…」
「………………なんでエマさんの方は素直に換えてくれて俺は無理矢理履かされかかるんだ…」

「大丈夫ですかー、二人ともー?」



 と、更衣室の方で何やら微妙な騒ぎもあったようですが、お客様方のお着替えが済んだところで、御席への御案内です。
 それから、一応一通り、との事でマナーの方も簡単にですが説明を頂き。
 座る席次やら箸を付ける順番やら回転卓の回し方、回す時はゆっくり、時計回りに周りを気遣いつつやりましょう。飲み物等回転卓に置かないよう――置き忘れないよう気を付けましょう。…回転卓を回す時等色々と問題が起こります。取り分け方、料理を取る時に手を交差させない身を乗り出さない席を立たない。それから逆さ箸は厳禁なので注意。…取り分け方がよくわからなかったり取り分け難い料理については店員が取り分けますのでお気軽にお申しつけ下さい。器は基本的に持ち上げません。スープを食べる時はちりれんげを使って音は立てないように。…ちりれんげは麺類を食べる時にも使ったりします。また、取り皿の代わりにちょっと使ったりする事も可能です。取り皿は毎回替えないのが普通ですので、調味料は少しずつ必要な時に必要な分だけ取った方が後々良いですよ。もう充分頂きましたと言う意味で残すのが礼儀、但し自分に取り分けた分に限っては食べ切らないと逆に失礼になります、などなどなど。
 そんな訳でマナーを説明されつつ案内されました御席では、主賓席に清朝時代の皇帝姿のセレスティ様、その左隣に同時代皇妃姿――長い黒髪も艶やかに結い上げたシュライン様、右隣にはどういう加減でか(…)皇女姿になっているのに違和感が全くと言っていい程無い誠名様、シュライン様の左隣には上品な高級官吏姿のモーリス様、誠名様の右隣には何故か道士姿、と言うかむしろ浮世離れした仙人姿(?)のマリオン様、と着かれる事になりました。…皆様煌びやかです。
 何処からともなくまるまっちぃテラやぎさん=店員さんたちが次々と料理の載った大皿をよいしょよいしょと運んで来、回転卓にちゃーんと置いて行きます。…大皿から皆でそれぞれ取り分けて食べる方式の中華料理――よくよく考えると料理の大皿を持ち運ぶ事自体に不安すら覚えるようなちんまい体格の店員さん方ですが、それでも器用に危なげなく運んで確りと卓上に並べております。
 あっという間に前菜で卓上がいっぱいになりました。
 大皿に載せられた各種料理からは食欲をそそる匂いが鼻腔を擽ります。

 …では。
 どうぞごゆるりとお楽しみ下さいませ。



 で。
 言われた通りにマナーに則り、ちょっとずつ卓を回しながら皆さん箸で自分の取り皿に少しずつ取り分けていきます。まずセレスティ様、次にシュライン様、誠名様、それからモーリス様、マリオン様の順。前菜、特に最初の料理だけは全員が取り分け終わってから箸を付けます。一度目に取り分けた分で足りなくてまだ残っているようだったら――また新たに取り分けて頂いたり。今の時点では皆さん特に困る事なく食べています――いやむしろ出てくるものが匂いと味だけではなく目にも鮮やかで楽しみで仕方ないようです。
 皆さん出身の御国柄故かあまり馴染みはないマナーで、初めの内は多少ぎこちなくはありましたが――そんな中華料理のマナーも少しずつ慣れて来ました。…ただ、特に物珍しいお料理が出されますと、マリオン様辺りがそわそわしてらっしゃって卓に乗り出しそうになってもいるようですが。お隣のモーリス様や誠名様に落ち着きなさいなとひっそり制止されていたりもします。…箸休めとでも言う事なのでしょうか。料理の合間、何やら甘いお菓子が饗される率も高いので――余計です。
 わくわくと楽しみにしているマリオン様の様子を見てかどうなのか、それらお菓子関係についてはモーリス様は味見程度取るだけでマリオン様に回しています。…モーリス様はあまり甘いものがお好きと言う訳ではないようで、すぐ隣でそこまで楽しみにされると譲りたくなってしまう、と言ったところなのでしょう。…ちなみにセレスティ様からしてそんな節があったりするのですが。結果、何となくお菓子関係と思しき料理はマリオン様の取り皿の上に一番多く載せられています。…そしてそのまま残る訳もなく彼の胃袋の中にあっさりと消えて行きます。早いです。ぺろりと平らげてしまいます。マリオン様、御満悦です。

 …自分一人では頼む気にはならないものですが御一緒する方が居るのなら。少し珍しい料理にしましょう、とセレスティの一声で決まったこのテラやぎタベルナでの満干全席。普通のお店にも増して(?)何が出てくるかわからない面白さと怖さ(…)があります。そしてそもそも苦手好物と言う問題ではなく、量の問題として、出された種類の料理を制覇出来るかどうかも謎なところがあります。…残すのが礼儀と言っても本当にお腹一杯で新しく出された料理に箸を付ける事すら出来ない程では…さすがに寂しいものがありますから。そして料理の総量としてはどの皿についても――個数が決まっているもの以外は――結構多めに出される訳で、各種料理をそれぞれどの程度の量で食べるのを止めておくかの自己判断が問われます。
 中華料理――この場合中国各地から料理をピックアップして提供するとは言え宮廷料理と言う以上一応ベースは北京料理、と言う事で、炒め物や揚げ物、味付けがやや濃い目の物が多くなっています。が――同時に意外とあっさりした物も多かったりします。きっと良い油を使って上手く火を通しているからなのでしょう――何やらシュライン様が店員のテラやぎさんを掴まえつつ揚げ物のコツやら何やら熱心に訊いていたりします。訊かれた店員のテラやぎさんがわたわたと言葉に詰まって困っていたりもします。…仕方無く企業秘密の部分があると苦し紛れの言い訳なども出てきたり――いやそもそもウェイターさんとコックさんではお仕事の畑違いとも言う訳で…まぁ答えが芳しくなくともシュライン様もあまり無理は言いません。…駄目元です。
 むしろ後でこっそり厨房に訊きに行こうとか思っていたりもします。…お食事中の中座も基本的にマナー違反な訳で。いえ別にマナー違反でなくともわざわざ食べ頃の美味しいお食事が並んでいるところで、食べる前に作り方を訊きに行くようなつもりは全くない訳ですが。ただそれでも、料理の名前や材料、味の感じ、予想される調味料をちらちらとこまめにメモしていたりします。特に今回初めて食べる料理については興味津々で、どんな料理が出てきてもパスする事なく一口でもきっちり食べています。…作れそうだったら自宅――と言うかいつもの草間興信所で作ってみたりするつもりなのでしょう。今回は興信所の御家族同然な皆さんとは一緒に来られなかった訳ですから。
 油っこいものが多いかと多少覚悟しつつ来たのですが、意外とあっさりした料理が多く出されているのでセレスティ様も結構箸が進みます。マナーからして苦手な物が出たとしてもさくっと避け易いのであまり気負わずに好きなように好きな物を選んで食べられるのがまた嬉しいところ、とも言えるでしょうか。そもそもマナーと言っても、西欧の食事のマナーが染みついている身にすると…それ程うるさくは思えません。むしろバイキング方式に近いような気軽な気分、それも目の前まで取りたい料理を回転卓で持って来る事が出来るのですから便利とすら思えます。
 と、そんな事をつらつら思ったりしつつ、セレスティ様はのんびり北京料理代表格の北京ダックなどを頬張ったりもします。皮だけ削ぎ取って食べる贅沢な料理。取り分けるのは運んで来て下さった店員のテラやぎさんにお任せで、荷葉餅に薬味と一緒に載せて包んでぱくり。他の皆様も勿論口にしております。
 食事の合間合間に各種中国茶なども注いでもらえます。油の多めな料理には必須と言う事で、烏龍茶やジャスミン茶など皆様お好みで選んでいます。基本的に料理の方はお客様同士で取り分け合う事はしませんが、お茶の方は注ぎ合ったりするそうで。…そんなこんなで歓談の潤滑油にも役立つようです。
 と、そんな和気藹々とした空気が流れる中。
 新たに運ばれて来た料理に使われていた食材は――熊の掌でした。
 ででんと姿まで確りわかる熊の右手の料理を見、思わずぶるぶると身体を震わせるマリオン様。
 …その時点でお気付きになられていたのでしょう。
 更に駄目押しの如く店員さんに料理の説明をされますと、それを耳にしますと…マリオン様の反応が何だか今までと違います。
 泣きそうです。
 何やら切ないようです。
 …そうでした。マリオン様は熊のぬいぐるみなどがお好きなのだそうで…。この料理に限っては順番が回って来ても手が動きません。思わず救いを求めるような潤んだ目で主様を見ます。見ますが…その主様の正面の取り皿には既に当の熊の掌料理が取り分けてあり…。いや他の皆様の取り皿にも…。
 マリオン様、それらを見て更に切なくなっています――ごめんなさいと謝って俯いてしまいました。
 …取り敢えず、パスと言う方向で。
 何だか掛ける言葉がありません。

 ――…そしてこの辺から、少々珍しい食材を使った珍味、ぶっちゃけ下手物料理と言えそうな系統の料理が卓上に増えて参りました。そろそろ食材が千差万別な広東料理系とでも言うのでしょうか。
 熊の掌の次は――冬虫夏草。
 それも苗床と言うか…とにかく根が張っている元の虫まで付いている状態で使われております。
 …。
 冬虫夏草の次は――鹿さんや山羊さん(…え?)のあんまり大声では言いたくない部位だそうです。
 ちなみに従業員を料理した訳ではありません。…念の為。
 この料理の食材はテラやぎではなく普通の山羊です。…それでもテラやぎさんの中の誰かが料理したのだと思うと何だかアレですが。
 …。
 そのまた次は――蛇だそうです。
 まぁ、姿がそのままなければ見た場ではそれ程気になる感じではないでしょうが。
 …。
 ともあれ、そんな感じで色々出て来ます。
 俄かにお客様の皆様の箸が止まります。
 …誰も取り皿に取り分けません。
 それは確かに、匂いは美味しそうなのですが…料理の説明をされてしまうと。
 ちと二の足を踏んでしまいます。
 と、料理になっている訳ですから大丈夫ですよ。と、誰にともなくさらっとセレスティ様の微笑みが炸裂しています。ですが当の御本人様手を出しません。勧めていますが食べずに待っております…卓をさりげなく次の方の為に回しています。…何だか詐欺っぽいです。
 で、シュライン様が当の料理を暫くじーっと見てからチャレンジです。まずは一口分だけ取り分けます。口に運んでみます。…案外美味しかったようです。いけるとばかりに思わずこくりと頷いて、まだ誰も次に取らない――取りそうにないのを見ると同じ料理をまた取り分けています。美味しいですよと他の皆様にも勧めます。
 と、それと同じ頃、卓が動かないのを良い事に誠名様がまた別の料理を取り分けて食べていました。これもその手の料理でしたが特に抵抗無く。…どうやら真咲さんちの人々は多かれ少なかれその辺の免疫は付いているようです。それから――シュライン様や誠名様が食べてから、セレスティ様やモーリス様も少しずつ取り皿に取り分け始めました。…どうやらこの席では女性陣(?)の方が肝が座っているようです。
 ちなみに。
 …この時マリオン様はまだ熊の掌料理から立ち直ってません…。

 それから出て来たのが、ふかひれやら、燕の巣――それも赤色の最高級品を使った料理まで出てきます。
 …この辺の高級な代物になると食材を入手するのも結構大変でしょうから、シュライン様もあまりメモは取っていません。饗される通り素直に味わってみます。マリオン様も漸く立ち直ったようで、少しずつ取り分けて食べていました。美味しいですと素直に感嘆しつつ。
 辛い物も出てきました。今度は四川料理の系統でしょうか、いかにも辛そうな唐辛子の赤色が目立ちます――そんな料理はモーリス様が好んで取り分けているようでした。…あっさりした物の方が良いのですけれどと言いつつ、手の方はその言葉に反して実際には辛い物の方を取り分けています。
 今度は先程の甘い物とは逆に、マリオン様の取る量が減ってその分モーリス様に回っている節があります――まぁ、四川料理の場合総じて辛さの度合が半端では無いですからして、本当に辛い物が好きでないと結構大変かもしれません。そして好きは好きでもあまり量食べられないと言う事もあるでしょう。…話に聞くところによれば漬物一欠片でご飯一杯食べられると言うような場合もありますからして――先程のマリオン様に殆ど回ったお菓子程ではないですが、必然的に辛い物はあまり売れ行きが宜しくありません。
 そしてその分、モーリス様に回って来る分が妙に多くなっています。…モーリス様は比較的普通に食べていますので。反面、セレスティ様やシュライン様はそれ程取り分けていません。そして極力刺激物は止めておきたいとか言うお話で誠名様もあまり辛い物には手を出そうとしません――お話を聞く限りでは辛い物はお好きらしいのですが何故か手は出しません。…何だか曖昧な言い方をしてますが、曰くこの辺りの事情についてはセレスティ様がお詳しいようです。以前、お花見の時に理由を聞いたとか聞かないとかで。
 何にしろ、辛い物を食べるとご飯が進む事は確かです。
 …そろそろコースの終わりが見えて来ました。
 コースの締めの料理が出てくると、またマリオン様が喜んでおります。…ここに至り熊さんのトラウマは完全に払拭されているようで、初めの頃のはしゃぎっぷりまで戻って来ております。饅頭や春巻等の点心、杏仁豆腐や八宝飯等の甘味が出されます。そしてやっぱり…特に甘味は、モーリス様からマリオン様に譲られる率が高いです。
 そんなこんなで、マナー通り大皿の方はちょこっと残す形で、お腹いっぱい、食べました。
 で。
 それから。
 …この姿でゲームとか面白そうです、とセレスティ様が提案したりもしますが。
 その途端。
 この本格宮廷料理コースではお食事でおもてなししながらお客様に御歓談して頂く事が目的なのであってゲームをして遊ぶのが目的ではありませんっ、と店員なテラやぎさんにぴしゃりと叱られてしまいました。
 …まぁそれもそうです。ここはテラやぎタベルナです。総合巨大レストランです。物を食べるところでゲームをするところではありません。…特に本格宮廷料理コースのスペースともなれば尚更その辺うるさい筈です。
 ただ、少し考えてみたセレスティ様は店員さんなテラやぎさんの耳にこそっと囁いてみます。
 ――…暫くこの衣裳お借りしておくのはまずいでしょうか、と。
 つまりは、『ここで』じゃなくて『ここの外』、『この姿のまま』で『他のお客様の御迷惑にならないように』遊んでくるのはどーかなー、と言う訳で。
 と。
 それなら、と店員のテラやぎさん、あっさり許可。
 構わないそうです。
 が。
 当のお客様約一名様の方から待ったがかかりました。

「…待ってくれ」
「?」
「俺出来る限りとっとと着替えたいんですが?」
「…」
「…」
「…」
「…ああ、あんまりお似合いなんで忘れてました。ねぇ皆さん?」
「はい、お似合いなのです。可愛いのですそのまま飾っておきたいようなのです♪」
「…ええ…確かに…こうやって見てても何だか全然違和感ないんですよね誠名さんのその格好…マリオンくんの言うように本当にお人形さんみたいと言うか。…ってごめんなさいあんまり可愛くて」
「どうせ言うならそれは沙璃に言ってやってくれ…」
「ですから誠名さんを通して沙璃嬢に言っている事になる訳で。ここまでぴたりと似合われてしまうとからかう方まで頭が回りませんよ。元々そのつもりでいたとしても」
「そーすか。…からかわれるのもアレですがからかう方まで頭が回らないとか言われるのも逆に複雑なんですが。いやそれはさておき。従業員さん俺だけでも本当に着替えたいんですが?」
「折角の機会なんですから勿体無いと思うんですが?」
「…ってさりげなく従業員さんの耳伏せて押さえてるのは何なんだラジアルの兄さん…」
「勿論今の我々の言葉を聞かせない為ですが?」
「そうやって聞こえなくてあたふた困ってるテラやぎさんもまた可愛いのよね…ふふ☆」
「さすがモーリス、よくわかってますね♪」
「誠名さんも暫くこのままなのです♪」
「………………勘弁してくれ」
「もう少しくらい愛でさせて下さっても良いじゃないですか。…お似合いですよ。お姫様?」
「…ついでに迫らんでくれラジアルの兄さん…本物の綺麗なお姉さんならそこにもまだ居るだろーが…」
「今は貴方を相手にした方が面白そうでしょう?」
「…ってなぁ」

 …とまぁ、お食事は終わってもコスプレ…もとい正装の方はまだ暫く続ける事になったようですが。
 何はともあれまずは食べ物への感謝の御挨拶。

 ごちそうさまでした。


【了】



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この小説は株式会社テラネッツが運営するオーダーメイドCOMで作成されたものです。

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