トップページお問い合わせ(Mail)
BACK

夜明け
■桐島めのう■

<磨臥摘・斬人/東京怪談 SECOND REVOLUTION(5372)>

●夜明け
酒は浴びるほど。
女は飽きるほど。
金は溢れるほど。
それが俺の日常…だった。

全て、つかの間の夢なのだと。
限られた時間だからこそ…そう気づいたのは、いつだっただろう。
それとも、俺は初めから、知っていた…?

●回想
ホストの道に入ったのは、高校を卒業してすぐ。
若いうちに顔を売り。年を重ねるごとに人脈を得る。
自身の肉体時間さえも計算に入れて。
手っ取り早く成り上がる方法を、出した。
孤児の俺には居場所なんてなくて、帰りたい場所はなかった。
ならば、帰らなければいい。その必要さえも、なくしてしまえばいい。
だからがむしゃらに働いた。

センス、会話術、気の配り方…そして容姿。
ホストとして必要な、素養はあった。
必要な礼節を覚えれば、あとは右肩上がり…いや、それ以上だった、と思う。

…だった。
全ては、過去の話だ。

●階層
鼻をつく香水が嗅覚を壊し、強い酒が味覚を壊し、素顔を隠す化粧が信じる心を壊し。
段々と、俺が自分のカケラを失くしていく中。
地下にある薄暗いフロアは、まっとうな視力を奪う空間。
酒は浴びるもので、押し付けられるもの、それが常識になる場所。
俺が俺自身を、自ら手放していく様は、なかでも良い見世物で。
そうと知らぬ者さえも、惹きつけていた。
解放は快感に繋がり、その快感こそが求められる。
自ら行うその一線を越えられない存在が、線を越えた俺を見るのもきっと、必然。

そのまま続けていたら、今の俺はここにはいないだろう。
全てを受け入れているようで、受け入れていなかった俺は、過去に消えた。

●解法
光ははじめ、刃の形をしていた。
「つまらない」
ほんの一言。針といってもいい、小さな金属の欠片。だが俺はそれを、今でも刃と呼ぶ。
エンターテイナーを自称していた、その実は滑稽を体現したピエロである俺にとって、その言葉は何よりも武器になる。
ガラリともゴロリともつかぬ音が聞こえた。それは築き上げた地位が壊れ始める音。それまでステージだと思っていた場所が、いつまでたっても開発されない、開発予定地だと気づくきっかけ。
その刃が、それこそタイミングを見計らったかのように部屋に響いてしまったその瞬間から。
すでに蝕まれていた足場は、ひどく脆いのだ。

●介抱
刃は俺に向けられたものだった。しかし俺自身の内面に届くだけではなく。
俺の足元にあった、過去に俺自身が取り付けた枷を壊した。
がむしゃらに働くために、居場所を探す必要をなくすための、枷。
人に想われたいと願う心を封じ込めた、枷。
見返りを求めない代わりに、何も欲しがらない、しかし必要なものだけは与え続ける供給者という名のピエロとして成立していた俺を、根本から覆したのだ。
夢は醒めたのだ。

刃のあとの光は、優しい声音。
「捨て身をやめたら、面白くなるかもね」
ひたすら隠していた本質を暴き、その奥底で本当は求めていた言葉をくれた。

●開放
あのときから、俺の周りに群がる者たちはいなくなった。
刃も光も、それまでの俺を求めた者にとっては「つまらないモノ」だから。
しかし俺にとってそのふたつは、「かけがえのないモノ」なのだ。
ふたつの言葉を糧に、水平線よりも高い場所を見る決意をした。
居場所がないならば、作ればいい。

言葉の主は、俺の奥底を見ることはできたけれど、俺の求める存在ではなく。俺は一から、俺だけの居場所をみつけなければいけなくなった。
それでも、このきっかけをくれたことに感謝はしている。
孤独を想うたびに悲しくなる、以前の俺に戻りはしたけれど、それでも、上を見上げられるようになった今だから。

それでも、突然行動は変えられない。
それまで築いた「俺」も、俺であることに違いない。
このままでも、受け入れてくれる場所を探そう。
今までを思えば、それは難しいこと。でも望みと、想いがあれば。

軽い行動の中からでも、俺の想いと望みを見出してくれる、そんな存在を求めて。
俺は今日も、街に出る。



※この文章をホームページなどに掲載する際は、必ず以下の一文を表示してください。
この小説は株式会社テラネッツが運営するオーダーメイドCOMで作成されたものです。

BACK



このサイトはInternet Explorer5.5・MSN Explorer6.1・Netscape Communicator4.7以降での動作を確認しております。