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<東京怪談ノベル(シングル)>


光の中の影

 陽の下に居る奴が、誰しも真っ当に生きてる・・・・・・そんな先入観を抱いて居ないか?
もし、そんな考えを持ってるなら今すぐ改める事だ。何も陽の当たらない世界に生きる
奴だけが、危ない橋を渡ってる訳じゃないし、逆に言えば陽の下に居る奴の方が危ない
かも知れないってな。光の下の影の方が、よっぽど目立つって事を・・・・・・

 燦々と降り注ぐ光は、柔らかな温もりと共に辺りを照らし出し、周囲の風景をありあ
りと見せてくれる。高く隆起した瓦礫の山、彼方此方ひび割れた道や建物・・・・・・その全
てはかつての遺物であり、この世界を象徴する物達だ。そんな中でさえ、人の営みは失
われる事なく続いているのだから不思議だし、続いているからこそ俺は居るのだろう。
 俺の名前はグリフィン・クロウ。外見のお陰で幼く見られがちだが、これでも19歳
・・・・・れっきとした大人だ。この場所に移民して来てから然程時間は経っては居ない為、
今一勝手が分らずにブラブラしているのが現状だ。今日も今日とて、この瓦礫の街並み
を眺めながら何する訳でもなく歩いている。時折擦れ違う人々の口からは、連邦とUM
Eの抗争が更に活発化して来ている事が窺い知れるし、この街の復興の現状等も時折は
耳に出来る為、案外面白いものだ。
「今日はあっちの方に行ってみるか。」
 まだ行った事のない道を発見した俺は、今日はその道を行く事に決めた。幾らか残っ
た、ビルの残骸に陽の光が遮られた道を、俺は何する訳でもなく歩く。だが、周囲への
警戒は怠らない。この御時世、何が起こってもおかしくは無いし、まして俺は巻き込ま
れるつもりも無いからだ。それと同時に、何処かに抜けられる道は無いか素早く目を走
らせた。真っ直ぐ伸びる道の合間合間に、横に入る道がちらほらと見て取れる。何か起
こった際は、あの辺りの横道を利用しようと思いつつ、通り過ぎ様に素早く視線を投げ
る。
「なるほど、あの辺りに出るのか。」
 ちらりと覗いた先の光景を、今まで歩いて見てきた俺なりの地図に当てはめて大体の
場所を確認する。所々、行き止まりっぽい所もある様だがそれなりに抜けれる場所を三
箇所ほど確認し、俺は満足気に歩を進め路地を抜ける。明るい光に照らされた場所には、
乱立するビル群が真っ先に視界に入り、そのビル群の下にはキラキラと輝く水面がその
様を映し出している。
「ほぉ、ここがそうなのか。」
 幾度が話しに聞いては居たが、実際に見るのは初めてなその場所を俺は目を細め見詰
める。あの日全てが包まれた絶望と言う名の日、その影響を辛くも逃れた場所が世界各
地には存在し、その場所は多くの人に求められると……その場所がここなのだ。ビルの
外観も、そこに居並ぶ街灯も全てが過去のまま……刻の忘れ物の如く存在し、一際目立
って居るのが良く分かる。この街にとってこの場所は重要な要所である事は直ぐに分る。
何故なら、ガードの数も通常の市街地に比べて明らかに多いからだ。行き交う人々の中
に上手く隠れている様には見えるが、それと分る者には直ぐに分る物腰や視線の配り方
でそれがガードかガードで無いか分る。俺は至って怪しまれない様、何気ない素振りで
そこを見つつ通過していく。途中、幾度かガードらしき奴らと視線が合うが、気にせず
歩く。まあ、辺りを見ながら歩けば当然視線が合う事位有るし、そう納得し俺はその場
を離れた。
「今夜にでも、来て見るか……」
 口の中で呟きが零れた……

 静かな夜……俺は一人部屋の机に座り地図を描く。然程綿密とは言えないが、それは
これから確認しに行く予定だし、大まかな物で問題なかった。昼間確認した場所の再確
認と、あの場所への調査は出来るだけ速やかに行うべきだし、何よりそれが俺の仕事だ。
記憶を頼りに、図面に線を走らせる。脱出経路や侵入経路等、これからまだまだ見なけ
ればならない所も多いが、現状としては上手く進んでいる方だ。
「問題はあそこか……どうせ、キーコードなんかも必要だろうな。まあ、それに関して
は問題ないだろう。」
 机の端を指で弾き、俺は立ち上がると服を着替える。流石に、こんな原色のシャツや
らなんやらで行く訳に行かない。サイバーとなった体を、着慣れた黒のシャツとジャケ
ットに着替え、武器を所定の位置に収めていく。使い慣れた武器達を仕舞えば、自然と
気持ちが高揚していくのが分る。これが俺の生きる世界であり、俺の居場所だと実感さ
せてくれる。
「さて、行くか……」
 窓を開け、闇に染まる虚構の街に身を翻した俺の体が夜の空気に溶け込んでいく。微
かな微笑と共に、闇に紛れた俺の体は徐々にその姿を隠しそして消える……闇を駆け抜
ける為に、陽の元にでる事……それは危険だがその危険を冒す事が、次に繋がるのであ
れば、俺は満足だ。それに、その危険の中に居る事が俺の価値を見出して貰えるなら、
それに越したことは無い。
 俺の名前は、グリフィン・クロウ……故郷を捨てたエスパーにして連邦に所属するハ
ーフサイバー諜報員……俺の生きる道は、光と共に有る影の中だ……