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<東京怪談ノベル(シングル)>


拉致

 夜半の難民キャンプ。
 静寂と、極僅かに聞こえる人の声。
 鳳玖は仲間達と離れ、一人で歩哨に立っていた。
 サイバー騎士は一騎当千‥‥とは言え、本来ならば二人以上で組み、互いに互いの死角を補いあうのが最良の筈。
 だが、いかんせん人手不足ではどうしようもない。守りに立つ人数に比べ、守るべき範囲が広すぎるのだ。
 薄くなってしまった守りは、個々のサイバー騎士の努力で補う。今はそれが必要とされていいた。
 鳳玖は、装備したサイバーアイを暗視モードにし、闇を見通しながら周囲を警戒する。
 僅かな光を増幅して得る暗緑色の視界‥‥その中、僅かに不自然な茂みの微かな動き。
「‥‥‥‥」
 鳳玖が警戒し、高周波ブレードの柄に手をかけたその時‥‥攻撃は来た。
 音もなく飛来する光弾。それは、かわす間もなく鳳玖を直撃する。鳳玖は、当たった部分の装甲が歪む音を確かに聞いた。
 そして、その攻撃を牽制とし、3人の男達が茂みから飛び出してくる。鳳玖は敵の姿を見て、驚くと同時に疑問を覚えた。
「平和条約巡察士!?」
 敵の服装は、確かにエバーグリーンの平和条約巡察士だ。
 しかし、鳳玖には平和条約巡察士に襲われなければならない理由は思い当たらない。
 ひょっとすると、平和条約巡察士の格好は、本当の所属を隠す為の変装か‥‥在野のエスパーなど聞いた事もないが、平和条約巡察士に襲われるよりは納得がいく。
 そこまで考えた時、敵の一人の手から再び光弾が放たれた。光弾は鳳玖の身体に突き刺さり、その身を焼く。
「何にせよ、倒す方が先か」
 敵のエスパーの正体探しより、敵を倒す方が先‥‥鳳玖は思考を切り替え、敵に対する事に集中した。
 まず、キャンプの友軍に内蔵無線機で通信多くる。だが、返ったのはノイズのみ‥‥今日は、電波障害が酷いらしい。
「なら、一人で抑える!」
 敵の正体がわからない以上、殺すのは下策‥‥ならばと、鳳玖は素手で戦う構えを取る。
 距離を取っていては、敵の光弾に破れる。距離を詰めるのが正解‥‥そう判断した鳳玖は、高機動運動モードに入り、走った。
 敵は3人‥‥一人は光弾を放つ能力を持つエスパー。他二人はどんな能力を持つかわからない。なら、他二人が超能力を使う前に倒す。
 鳳玖は、未だ能力のわからない一人に狙いをつける。だがその瞬間、狙ったエスパーは鳳玖をまっすぐに睨み付けた。
「ぐっ! がぁっ!?」
 視覚的には何も起こらなかった‥‥しかし、鳳玖は突然襲ってきた頭痛に呻く。
 脳を締め付けられるような痛み。そして、極度の気怠さが鳳玖を襲った。
 その為か、鳳玖の拳は揺らぐ。直後、エスパーを捉えた一撃は、明らかにその威力を落としていた。
 それでも、エスパーは大きく後ろに殴り飛ばされ、地面を滑る。
 これで一人‥‥一撃で無力化とは行かなかったが、少しの間は起きてこられないだろう。
「こいつら、やってくれる‥‥」
 敵は強い。そう実感しながら鳳玖は、次の敵を探して視線を巡らせた。
 次‥‥もう一人の、まだ力を使っていないエスパーは、光弾を放つエスパーを庇うように立っている。
 ちょうど良い。まずは、こいつを叩く。
 そう決めた鳳玖は、狙いを定めて再び高機動運動で駆けた。
 目標は鳳玖を迎撃するつもりか、拳を構えた。
「出来るな‥‥しかし!」
 その構え‥‥悪くはない。経験を積んだ格闘家であろう事は見て取れる。腕前は互角と見た。
 だが、所詮は人間‥‥サイバーのパワーとスピードを持つ自分が有利。
 そう計算した鳳玖は、高機動運動の超高速をもって、人間ならば絶対にかわせないと確信する、鋭い拳の一撃を放つ。だが‥‥
「な!?」
 サイバーの格闘攻撃を見切ってかわす。それどころかエスパーは、その一瞬に鳳玖の腕を掴まえてしまっていた。
 鳳玖が振り解こうとするよりも一瞬速く、エスパーは鳳玖の腕をよじる。直後、耳障りな金属断裂音を上げて鳳玖の腕はねじ切れた。
 腕を失い、バランスを崩す鳳玖。
 そこにすかさず、エスパーの蹴りが入れられた。生身の筈のエスパーの身体は鋼鉄の固さと恐ろしいまでのパワーを持ち、鳳玖の装甲を拉げさせる。
 鳳玖は、まるでボールのようにゴロゴロと地面の上を転がった。
 そこに、もう一人のエスパーが更なる光弾を撃ち込む。
 為す術もなく鳳玖はその攻撃を自分の身体で受け止め、身体の重度損傷を関知したリミッターは脳の維持モードに移行する。
 鳳玖は行動を停止した。
「‥‥急げ。自動的に救難信号が出る。仲間が押し寄せてくるぞ」
 鳳玖を圧倒したパワーを見せたエスパーが、鳳玖に駆け寄り、人間の倍以上の重さがあるその身体を片腕一本で持ち上げる。
 持ち上げられた鳳玖の身体に、光弾を放っていたエスパーが、巨大なリボンに似た拘束帯をかけはじめた。
「‥‥あーあ、こんなに壊して。お嬢さんが、キレるかもな」
 光弾のエスパーの呆れた様な声に、今ようやく起きあがってきた残りのエスパーが言う。
「もっと、ぶっ壊せば良いんだ」
 そんな言葉を交わしあっている間にも光弾のエスパーは鳳玖を拘束帯で厳重に縛りつづけ、彼が作業を終えて鳳玖から離れた時には、鳳玖はまるでリボンをかけられたプレゼントのような様になっていた。
「よし、行くぞ‥‥」
 そんな鳳玖を腕に吊り下げたまま、エスパーが仲間二人に言う。
 その時になってようやく鳳玖の救難信号が届いたのか、キャンプの方で警報が鳴り始めていた。
 エスパー達は、その場からの逃走を図る。
 鳳玖は、何処の誰とも知らぬ、目的さえもわからぬエスパー達に拉致された。
 彼の運命は‥‥まだ誰にもわからない。
 ただ一人、彼を拉致するように指示を出した人物を除いて‥‥