PSYCOMASTERS TOP
新しいページを見るクリエーター別で見る商品一覧を見る前のページへ


<東京怪談ノベル(シングル)>


ドイツの和風旅館3代目若女将奮戦記?

 ドイツの和風旅館‥‥そんな何とも良くわからない代物をぶち立てた初代。奥さんがしっかりした人で、それなりに繁盛したらしい。
 それを‥‥盆暗な2代目が、廃業寸前と言う所まで没落させた。
 そして3代目、後を継いだのがマクダレーナ・シュミット、華の20歳である

「とは言っても、これでは‥‥」
 マクダレーナは、今日も人っ子一人いやしない旅館の中を見て溜め息をつく。
 客が来ないのなんか当たり前だし、当然のように従業員なんか雇えない。
 死にかけの潰れかけ。どーにもならない。
「いえ、きっと何かがある筈‥‥そう! 何か、この旅館に売りがあれば良いんです! 売りになりそうな物が‥‥」
 まあ、マクダレーナが本番生板ショーでもすれば人が来るのかも知れないが‥‥それは何か路線が違うというものだろう。
「日本‥‥サムライ‥‥ハラキリ‥‥ゲイシャ‥‥フジヤマ‥‥‥‥」
 考えれば考えるほど、どつぼにはまって何だか良くわからない物が頭の中を闊歩する。
 それは置いておいても、コックもいないのでは料理を出すこともできない。マクダレーナの料理はまあ十人並みだし、日本料理なんて物は作れないのだ。
「改装するお金はない。何か新しく始めようにもお金がない。人を雇おうにもお金がない。宣伝しようにもお金がない。何が無くともお金がない‥‥まずは、資金からですか」
 結論はそこに至る。
 お金があれば従業員も雇えるし、コックも雇えるわけで‥‥
 でも、お金があれば苦労はしないわけで。
「‥‥お金がかからなくて、何か売りになる物‥‥‥‥無いですよね、そんな」
 ぶつぶつ言いながら何やら考えていたマクダレーナは、やがて意を決して言った。
「仕方がありません。アルバイトをしましょう」
 まあ‥‥他に方法もあるまい。こうして、マクダレーナのアルバイトが始まった。

 コンビニでレジを打つマクダレーナ。

 街頭でティッシュを配るマクダレーナ。

 雨の中、新聞を配達するマクダレーナ。

 キャバレーでホステスをするマクダレーナ。

 ツルハシ片手にドカチンをするマクダレーナ。

 鉄道会社で“マグロ拾い”に勤しむマクダレーナ‥‥

 苦難の数ヶ月。
 そして、マクダレーナの手の中には、札束が入った分厚い封筒が握られていた。
「これで‥‥旅館を」
 マクダレーナは、がらんとした旅館の中で今後に思いを馳せる。
 まずは料理人‥‥だろうか。
 しかし、初代の頃から2代目にかけて働いていた料理人さんは既に引退している。
 だが、日本料理だなんて酔狂な物を作れる人間が、そうそう転がっている筈もない。
「日本料理屋から引き抜くか、それとも日本から連れてくるか‥‥でしょうね」
 もしくは、マクダレーナが日本料理を学ぶか‥‥何にせよ、難しい話だ。
「でも、料理人にばかりお金はかけていられないし、出来るなら他にも人手は欲しい‥‥」
 旅館を本格稼働させるなら、仲居も雇わなければならないし、力仕事をする男の人も欲しい。
「それに、こうも長く休業してたのでは、新規開業並に広告も打たなきゃ成りませんし‥‥」
 削れる所は削り、必要な部分だけを残して‥‥といった具合に色々と金勘定をする。
 しかし、大金を溜めたと思った資金でさえ、必要な額には足りない。特に、広告費は洒落にならない位に足りない‥‥
「はぁ‥‥でも、初代はどうやって旅館を盛り立てたんでしょう」
 初代とその妻が築き上げた物‥‥人脈や、経営ノウハウや、信用やらが、二代目に粉微塵に粉砕されているのが痛かった。
 孤立無援で働かなければならないマクダレーナにとって、そういった形にならない財産こそが重要であるわけだが‥‥
「ううう‥‥もう良いです。私、頑張りましたものね。どだい、無理なんですよこんな旅館をどうにかしようってのが」
 マクダレーナは急に冷めた気分になり、溜め息をついた。もう疲れたのだ‥‥
 そもそも、気分屋なマクダレーナに、旅館の女将なぞ務まるはずもなく‥‥旅館復活に立ち上がろうとし、数ヶ月間頑張っただけでも褒めてやりたいくらいだった。
「‥‥とにかく、このお金は置いて置いて‥‥気分転換でもしないと」
 マクダレーナは、気分屋の自分の悪い癖が出たと思いながら、疲れ切った気分で歩き出した。
 まあ、シャワーでも浴びてスッキリすれば、何か考えが変わるかも知れない‥‥ついでなので旅館の日本式の風呂を使ってみよう。日本式の風呂‥‥熱い湯に浸かるそれも、気持ちが良いものなのだと聞いた。
 マクダレーナはそんな事を考えながら、ボイラー室に入り、ボイラーに火を入れる。
 そのまま、マクダレーナは浴場へ向かうと、服を脱ぎ去って浴室へと入っていった。
 檜とか言う日本の木材で作られたバスタブ。
 マクダレーナはその中に身を沈め、何度目かになる溜め息をついた。
「くはあああああああぁぁぁぁぁ‥‥」
 熱い湯が心地良い。疲労が湯に溶けていく‥‥マクダレーナは湯の中でゆっくりとその身を伸ばす。
「ああ、これは結構良いんですね‥‥」
 その時、浴室の片隅‥‥窓の辺りで、小さなシャッター音が何度か響いた。
 しかし、風呂の心地よさに酔っていたマクダレーナは、その音に気付くことはなかった‥‥

 そして数日後‥‥旅館は突然、若い男の客で満ちた。
「いらっしゃいませーっ!」
 マクダレーナは忙しく働きながら応対をする。
 働くのがマクダレーナ一人だけであるが故に満足なサービスも出来ないのだが、不思議と誰も文句は言わない。
 だが、さすがにそれでは拙いので、早急に人を集めるために募集広告を打っていた。
 近い内に人手も入るだろうから、状況は改善されていくだろう。
 ついでに言えば、これ程人が来たなら広告費の問題は解決されたも同然。だから、他の事に資金を回せる。
 まさに万々歳‥‥しかし、マクダレーナにはどうしてこんなに客が来たのかはわからなかった。
 そう‥‥マクダレーナは知らない。客達は全員、『BeitragFotosammlung』という雑誌を持っていたと言う事に‥‥
 そして、その雑誌の中、PN『<』さんの投稿内容に‥‥
 マクダレーナは、全然気付いていなかった。