 |
Erdspinne Kommandeur 殺戮への招待
「これが新型機体のシミュレーターか？ こう言っては何だが、些か玩具じみているな」
ジャビル・ラフマンは、ゲーム筐体を前にして首を傾げていた。
まあ、元より新型機体のシミュレーターなどではなく、ゲームなのだから、玩具じみているのは当たり前なのだが‥‥
「まあ、別に良いでしょ？ さ、早く座って」
ジャビルの勘違いを些細な事と受け止めたのか、カガリはジャビルをシートに座らせる。
と、ジャビルは残るシートに人が一人も居ないのに気付いた。
「ん？ 参加者は我が輩のみなのか？ 座席が余っているではないか」
「みんな、ゲームは嫌いなんでしょ？」
カガリは腹立たしげに答えると、筐体を起動させる。
ややあって、筐体のモニターにタイトルが表示された。「Erdspinne Kommandeur」の飾り文字の下に、鋼鉄の質感を持つクモが描かれている。
「ゲームか‥‥子供だましだな。こんな物を我が輩がやる羽目になるとは‥‥」
文句を呟きつつ、ジャビルはスタートボタンを押す。すると画面は、３機種の蜘蛛型戦闘機械‥‥ＢＷの中から自機を選択する画面に移った。
ジャビルは、迷う事も無く基本型のＢＷを選択する。
その後、画面は暗転してアナウンスが流れた。
『よく来たな、良い子の少年少女達。さあ、蜘蛛型の戦闘マシンで、平和な街に住む軟弱なクソ虫共を、殺して、殺して、殺しまくれ。クソ虫共は逃げ回り、命乞いをし‥‥あるいは襲いかかってくる事もあるが、お前はただ一つの対処をすれば良い。「殺せ」。このゲームはそれが全てだ。クールにやろうぜ』
クスクスと笑い声の混じる、不快な声が囁く。そして、声は一際嬉しそうに言った。
『お前が俺の所に来るのを楽しみ待っているぜ‥‥』
その誘いの声に何か違和感を感じ、ジャビルはカガリの方に顔を向け、聞く。
「何が言いたいんだ？」
だが、そのメッセージの示す所はカガリにもわからないようで、彼女は首を横に振る。
「さあ？ このゲームに元から入っていたメッセージよ。それより、ゲームが始まるわ」
言われて、ジャビルは画面に目を戻した。
そこには‥‥ＣＧで精巧に表現された、審判の日以前のものであろう都市の映像が映し出されていた。
自機は、無数の人々の行き交う大都市の辻に放り出されている。人々は、自機の方を不思議そうな顔をして見ては、通り過ぎていく。
「おお、画面は綺麗だな。実物と何の変わりもない」
ジャビルは軽い驚きを感じて賞賛した。
普段、マスタースレイブの中から見ている画像と遜色無い‥‥いや、むしろよりリアルな画像が画面に映し出されている。
「さて‥‥確か、人を殺せばよいのだったな」
ジャビルは呟き、トリガーに指をかけ‥‥思い直して止めた。
「いやいや、まずは武器を手に入れてからだ。バルカンだけでは心許ない」
言いながらジャビルは機体を動かして周囲を見渡す。と、偶々案内板が目に入った。
案内板は、警察署の方向を距離を示している。
「警察か‥‥軍の方が武器はありそうだが」
軍の基地に行けば、武器は取り放題‥‥そう考えたが、良く考えれば当然のように軍の抵抗が有るはずで、そうなると一人で参加している今の状態では軍の基地を襲うのは難しいものがある。まあ、警察でも何かが有るだろうし、襲うにも手頃か‥‥
そう考え、ジャビルは案内板に従って自機を動かし始めた。
回りの人間達は、その動きに驚いたようだったが、それでもジャビルが何もしないせいか逃げようとまではしない。
自機の武装が彼らに向けられるために有るのだと、知らないが故‥‥そう考えれば、納得のいく反応ではある。
ジャビルは、そのまま自機を歩かせて、警察署の前に辿り着いた。
警察署の前にいた制服姿の警官達が、呆気にとられた様子で自機を見ているのが分かる。
すると、年輩の警官が恐る恐るといった様子で、自機に歩み寄って来、前に立ちはだかった。
「何なんだこいつ？ 誰かが動かしているのか？」
言いながら、警棒で自機を叩く。装甲が軽く音を立てた。そして、警官は自機の恐らくはカメラアイを覗き込み、問う。
「おい！ 何の悪戯だ！」
ジャビルは通信機に向かって話しかけた。
「ただのゲームだ」
言った直後にトリガーを押す。同時に撃ち放たれた７．６２mmバルカンの銃弾が、目の前にいた警官を一瞬で打ち砕いた。
全身から血と肉片を弾けさせ、踊るように身を捩りながら宙を舞う羽目になった警官が、本物さながらに画面に映し出される。
「これは凄い」
ジャビルは感嘆の声を漏らした。
まるで、全てが本当の出来事のようにさえ見える。たかがゲームで、ここまでの表現をする意味があるのかどうかは疑問だが‥‥
「はっはっは！」
ジャビルは笑い、目の前で突然起こった惨劇に凍り付いた市民や警官達を、バルカン砲で薙ぎ払うように撃つ。
各々、色とりどりの悲鳴を上げて倒れる人々。
倒れて動かない者あり、かろうじて動く体でなんとか逃げようと絶望的な足掻きを見せる者あり‥‥幸運にも無傷だった者は慌てて逃げ出していく。その内の一人が車道に飛び出し、走っていた自動車に跳ねられ、それが原因で次々に車がぶつかり始める。
「これは面白い！」
ジャビルはバルカン砲をその車の群に向けた。
撃ち放たれる銃弾が、車の外装を容易く貫き、中の者を殺傷する。それどころか、ガソリンタンクを貫通したのか、爆発までもを起こした。
拉げた車の中で炎にまかれ、死にものぐるいで暴れる人影‥‥火だるまになって炎の中から転げ出る者‥‥そして、火だるまの一人が、先ほどの銃撃で負傷して動けなくなっていた者に躓き、二人で一緒に燃え始める。
その全ての光景に、爆発音と悲痛な叫びが彩りを添える‥‥
その光景を楽しむジャビル‥‥だが、それを邪魔する小さな警告音が鳴った。
ふと気付くと、少しずつＨＰが減っている。攻撃を受けているのだ。
周囲を見渡したジャビルは、警察署の中から出てきた警官達が、玄関の辺りから拳銃で攻撃を仕掛けてきているのを知った。
「我が輩に傷を付けたな！」
すかさず、バルカン砲で応射する。警官達が血煙の中で踊り、背にした自動ドアのガラスが砕けた。
ジャビルは、すかさず自機を玄関へ移動させ、砕けたガラス片と警官の死体を踏みにじらせながら警察署の中へと突入させる。
警察署の玄関ロビー‥‥やはり、待ちかまえていた警官達の射撃が自機を迎え撃つ。
ＨＰの減りが僅かなのを良い事に、ジャビルは身を隠す事もなくバルカン砲で応戦。数度、玄関ロビーの中を薙ぐ様に撃ってやると、警官達からの攻撃はなくなった。
辺りに呻き声が満ちた中、バルカン砲はモーター音を響かせるだけで弾を吐き出さなくなる。
「弾切れか‥‥早いな」
ジャビルは溜め息をつく。と‥‥小さな音が鳴った。まだ、生き残っていた警官が居たのだ。
見れば、右足を鮮血に染めた警官が、必死の形相で自機に拳銃を向けている。
「この化け物め！ 化け物め！ 化け物め！」
小さな拳銃が火を噴く度、自機の装甲の上で小さな火花が踊る。
ともすれば気付かないほどに少しずつＨＰが減少していくが、これでは自機が死ぬ前に日が暮れてしまうだろう。そして、その前に拳銃の弾が‥‥
カチリと、拳銃は虚しく音を鳴らす。それでも、警官は拳銃の引き金を引き続けていた。
「化け物め！ 化け物め！ 化け‥‥」
「狂ったか、馬鹿め」
ジャビルは冷静に、辺りを見渡した。格闘用クローで片を付けても良いが、やはり射撃武器が欲しい。
と、ジャビルは、警官の死体が手に持ったオートショットガンに目をとめる。
「あれで良いか」
自機を移動させ、ショットガンの前に置く。すると、自機は自動的にそれにサブアームを伸ばした。
人の手と同等の機能を持つサブアームは、ショットガンを拾い上げて構える。生き残りの警官に向けて‥‥
「化けも‥‥」
「死ね」
ジャビルの呟き。そして、頭部に直撃した散弾が、そのまま警官の首から上を引きちぎっていった。
首から鮮血を吹き上げながら倒れる警官。
完全に抵抗の失せたロビー‥‥
「さてと、高得点を狙わねばな」
ジャビルは言いながら、未だ生きている警官の元を回る。
「や‥‥止めて‥‥」
涙を浮かべて命乞いする警官の顔に銃口を向けてトリガーを押す。直後に、頭部が消し飛ぶ警官。
「ひ‥‥ひぃ‥‥」
這いずって逃げようとする警官の尻に散弾を叩き込む。警官は、大きく痙攣して動かなくなる。
そして‥‥ジャビルはロビーの隅で恐怖で動けない親子を見た。
「お願い！ この子だけは‥‥この子だけは殺さないで！」
恐怖に表情を強張らせた母親が、その手に幼い少女を庇いながら、必死で自機から逃げようとする。父親らしき男は、二人から僅かに離れた場所で、警官の死体から拳銃を取ろうとしていた。
「お願い‥‥」
母親の目から涙が溢れる。少女は目を堅く瞑り、母親の胸にしがみついて震えている。
ジャビルは、軽くトリガーを引いた。
オートショットガンの連射。直後、母親と少女は、唯の血肉の塊となって弾け、壁に赤い物を撒き散らして張り付いた。
「神様！ 神様！ ああ‥‥何て事を」
男が、妻だった肉塊と娘だった肉塊を抱き締めた。錯乱しているのだろう。そのまま、幾度も妻子の名を呼び続ける。
ジャビルは、ＢＷを近寄らせた。男は、その動きに注意を向ける事もない。
格闘用クローを振り上げ、振り下ろす。
クローは男の胸を背中から貫いた。血を吐き、男は崩れるようにして妻子の上に倒れ込む。
直後、モニター画面の端に表示されたスコアが加算される。虚構の殺戮の代価として。
「おお、凄いな高得点じゃないか」
ジャビルは気付く。どうやら、より残忍な殺し方をすれば、より高い得点が狙えるらしい。
「ま、そんな事よりだ‥‥」
ジャビルは凄惨な親子の死体を捨て置いて、警察署の奥を見た。
いい加減、ここにいた者達は逃げ出したらしく、敵が居る様子もない。狙いの場所は、警察の武器庫‥‥ジャビルは自機を移動させる。
やがて、武器庫の扉を前にしたジャビルは、格闘用クローの一撃でその扉を打ち破った。
「‥‥思ったほどではないな」
中を見て、ジャビルは落胆の声を出す。
所詮は警察‥‥アサルトライフルやショットガンまではあっても、他にはめぼしい物はない。
それでも、よく調べてみようとジャビルは自機を進ませる。と‥‥奥に、木製の大きなケースがあるのが目に入った。
「何だ？」
木箱の表面を引っ掻くように、格闘用クローを振るう。すると、箱だけが壊れて、中から無骨な銃器が転がり出てきた。
「40mm榴弾機銃か‥‥これだ」
思わずニヤリと笑い、ジャビルはそれを自機に入手させる。
『40mm榴弾機銃を入手しました。７．６２mmバルカン砲と交換しますか？』
画面に表示された文字。ジャビルは考えるまでもなく、交換する事にした。どうせ、バルカン砲は弾切れなのだから。
すると、画面上で自機のサブアームが動き、７．６２mmバルカン砲を外して、変わりに40mm榴弾機銃を据えた。
『ＢＷ基本型からＢＷ砲撃戦型Ｂに機種が変わりました』
「ふむ‥‥しまった。こうなるとはな」
自機を動かしてみると、動きが重くなっている。歩兵携行できる武器ならともかく、重火器や搭載火器に分類される武器では、重量の影響が出てくると言う事か‥‥
「仕方がない。火力ならば十分ではある。他の武器が見つかるまではこれで‥‥」
ジャビルがそう決め、移動を再開しようとしたその時だった。
今までに無かった音量で警告音が響き、そしてＨＰが大きく減る。
「何！？」
敵の攻撃‥‥新しい武器に注意を向けていたせいで、気付かなかったのか‥‥
慌てて振り返ると、そこには大きな人型が立っていた。
「ＭＳ！？ そんな物が居たのか！」
ＭＳ（マスタースレイブ）‥‥ブルーナンと呼ばれるタイプだろう。
シールドと警棒、後は特殊弾を撃ち出すランチャーを装備している所から見ると、警察仕様らしい。とは言え、場所を考えれば当然とも言えるのだが。
そんな思考を巡らしている間に、ＭＳはもう一度警棒を振り上げた。
ジャビルはとっさに格闘用クローを繰り出す。しかし、それはＭＳのシールドを削り取るに終わる。
直後、ＭＳの警棒の一撃が再び襲い来た。
「動きが鈍ったのが響くな‥‥」
ＨＰがまた大きく減った。
不意打ちを受けなければ別だったのだろうが、動きの鈍くなった上にＨＰが低下した現状では、このまま格闘戦を続けても勝てるかどうか‥‥しかし、この距離では自分を巻き込む榴弾機銃は使えない。ショットガンはあるが、ＭＳの様な装甲の厚い敵には効果は薄いだろう。
そこまで考えた時、ジャビルにはまだ一つ、最後の手が残っている事に気付いた。
モニターの前でニヤリと笑い、筐体の片隅についた赤いボタンに手を伸ばす。
目の前、ＭＳが再び警棒を振り上げた‥‥
「ジハード！」
ジャビルの絶叫と同時に、画面は白く染まる。その中で、ＭＳが倒れるのが微かに見えた。
最後の得点が加算される。それはやはり、大した事は無い点数だった。
「やはり、民間人を殺すゲームか‥‥障害を排除しただけでは高得点は無理‥‥」
溜め息とともに、残念そうな台詞を吐き出すジャビル‥‥その前、画面にはゲームオーバーとの文字が表示されていた。
そして次に画面は、シルエットで描かれた男を表示する。
『おめでとう。お前のクールな殺戮を賞賛し、レベルが上げてやろう』
そう語りかけるシルエットの男の背景には、ジャビルが警察署内で親子を殺したシーンと、警察官達を一掃したシーンとがセピア色の回想シーンで流されていた。ただ、流した血だけは赤のままだったが。
『それと、お前はアイテムも手に入れていたな。次から、新しい機体を選ばせてやる。次は、こいつでもっともっと素晴らしい殺戮を見せてくれ』
男が言うと、画面には新たなる兵器が表示された。一つは、今まで使ったのと同じ機械蜘蛛の武装が違うバージョン。そして、もう一つは人型の兵器だった。
【ＢＷ砲撃戦型Ｂ】
40mm榴弾機銃、格闘用クロー装備の砲撃戦型。
広範囲を一瞬で焼き尽くす事が可能だが、やはり過重装備で動きが鈍い。
【警察仕様ＭＳ】
人型戦闘兵器。
ＭＳ用警棒とシールド装備。射撃武器は、非殺傷ゴム弾または暴徒鎮圧用催涙ガス弾。
『さあ、記録クリスタルを取りやがれ。次にゲームを始める時は、そいつをスロットルに入れろ。それで、お前は再び殺戮の中に帰れる』
男のメッセージが終わると同時に、筐体のスロットから記録クリスタルが排出される。
それと同時に画面は暗転していく‥‥最後にもう一言、男の声が聞こえた。
『ＵＭＥの戦士の殺戮‥‥楽しみにしている』
「ん‥‥何故、我が輩のことを知っている？」
ゲームをしただけだと言うのに‥‥
ジャビルは首を傾げるが、ゲームは既に終了しており、答が返る事はない。
「我が輩のデータを入力したのか？」
振り返り、後ろで見ていたカガリに聞くが、カガリは首を横に振った。
「そんな事しないわ。本当‥‥どうしてかしら」
少し悩んだ様子だったが、とりあえずは追求を後回しにしたのか、カガリはジャビルに問う。
「で‥‥どう？ ゲームの方は」
「うむ‥‥どうかな。変な気分だ。あくまでもゲームだからだろうが、弱い者を殺戮するのがこんなに気分が良いとはな」
正直な感想‥‥殺戮が楽しい。弱い者を踏みにじる喜びをこのゲームは与えてくれる。
本来は複数対戦ゲームなわけだから、面白さの半分くらいしか味わっていないのだろうが‥‥その分、殺戮の方に意識が行ったのかもしれない。
何にせよ、ゲームと言い捨ててしまうには非常にリアルで、ついつい熱中してしまっていた。
「まあ、面白かったぞ。ゲームと馬鹿にしてもいられんほどに熱中してしまった」
ジャビルのその言葉‥‥そして、興奮さめやらぬと言った感じのジャビルの様子にカガリは満足げに頷く。
「では、また来てね。引き続き、このゲームのテストプレイはやってるから」
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■ 登場人物（この物語に登場した人物の一覧） ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【整理番号 ／ ＰＣ名 ／ 性別 ／ 年齢 ／ 職業】
0020／ジャビル・ラフマン／男／エキスパート
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■ ライター通信 ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
参加ありがとうございました。
とりあえず、グチャグチャな殺戮をバーチャルに楽しむシナリオですので、こんな感じです。楽しんでいただけましたでしょうか？
尚、このシナリオに再度参加される時は、今回で入手した機体を使用できます。
戦闘と殺戮を楽しみたい時になど、参加していただけますれば幸いです。
|
 |
|
