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<アナザーレポート・PCゲームノベル>


過去の遺産

◆好奇心の固まりです。
「すっごーい!おもしろそう〜」
ちうちうとストローでオレンジジュースを飲みながら、リッチの話を聞いていたプティーラ・ホワイトは瞳を輝かせて立ち上がった。
と、それとは反対にがくっと頬杖を付いていたリッチの肘がテーブルから落ちる。
「あのな……」
「ねぇねぇ。プーもやりたい。やっていいでしょ?」
軽やかに銀の髪を揺らしながら側へとやって来たプティーラにリッチは眉を寄せる。
小さな女の子が一人でこんな場所にいるという事もだが、こうも人懐っこい幼女にリッチは少し戸惑うが、すぐに気を取り直す。
「ガキの遊びじゃねーんだよ」
「ガキじゃないもん!」
子供扱いされるのが嫌いなプティーラが口を尖らせるが、リッチは気にした様子もなく軽くプティーラの頭を叩くと店の入り口を指差した。
「ガキは早く帰って寝な」
と、言われた当人は口をへの字に曲げ、顔が赤くなって行く。
その瞳は怒りを湛えているが、愛くるしい少女に睨まれても様々な窮地を乗り越えて来たリッチにはどうって言う事はない。
暫く睨んでいたプティーラはリッチが酒を飲もうと瓶を傾けた時、力一杯彼の体を押した。
「ばか!いいもん、プーひとりでやるもんね。ベ〜っだ!」
「てめ……このガキ!」
顔中ビールで濡らし、リッチが何か言葉を吐こうとした時には、銀の髪を持った小さな体は扉の外へと抜け出ていた。

◆完璧です。
白で統一された部屋の中は可愛らしい人形やらぬいぐるみがたくさん並んでいる。
みんな淋しがりやなプティーラの大切な友達だ。
そんな少女趣味の部屋で流れるロッ○ーのテーマ。
音と景観との不釣合いな空間の中で、上下白のジャージに着替えたプティーラが立っていた。
荒い麻の軍手を装着し、自分の足元に広げてある荷物をチェックする。
「防塵眼鏡、よーっし。ヘルメット、よーっし。てぬぐい、よーっし」
一つ一つ声に出しながら、プティーラはそれらを身に付けて行く。
防塵眼鏡を首にかけ、少し大きいヘルメットが目元に覆い被さってくるのを何度も持ち上げながら、てぬぐいを首に巻きつけた。
小さな体にとてもヘルメットが重そうに映るが、本人は鏡に映る自分の姿を見ながら、くるりとその場で一回転してみた。
「うん。なかなかイケル♪」
ずり落ちるヘルメットを直しながら、鏡の中の自分に満足そうに笑んだ。
それから、ころりと転がる小さな栓のような物体を拾い上げ、プティーラはしばらく考えそれを耳の穴へと入れた。
「耳栓よーっし!」
ひとつ壁の向こう側からするような自分の声を聞いて、プティーラは残りの懐中電灯を布製の背負い袋の中に入れた。
準備万端。音楽で気分も高まっている。
(プーはゴミ探しくらい出来るもん。ぜーったい、すっごい物見つけても教えてあげないんだから)
心の中でも尊大な態度のリッチに舌を出すと、硬い足首まで保護するどんな荒地もどんと来い!な靴を履くと過去の遺産の眠る場所へ向かったのだった。


プティーラはただ可愛いだけの子供ではなかった。
頭が良く、慎重的。
そして、エスパーだった。
半径3キロに渡る広大なスクラップの山は足場が悪く、小さなプティーラが歩くには困難だった。
だが、今プティーラはその上を進んでいる。
言葉どおりにそのスクラップの上を飛んでいるのだ。
小柄な背中には輝く翼のようなものが現われて、プティーラの体を持ち上げている。
普段のプティーラならば、愛くるしい子供の天使が荒廃した町を飛んでいるという一種幻想的に見えなくもないのだが、ヘルメットを目深に被ったジャージ姿では滑稽であり奇異。
そんなプティーラは辺りを見渡し、平坦で少し広い場所を見つけるとそこへと降りた。
「さ、やるぞ〜!」
元気にそう言ったプティーラは、しゃがむと足元のゴミを少し掘り返して見た。
何かのコードの切れ端だったり、鉄製の四角い固まりだったり、日に焼けプティーラが持っただけでボロボロに崩れてしまったりと実に様々だ。
しばらく何の気なしにゴミを漁っていたプティーラは考えた。
「ん〜何を探そうかな。機械はよくわからないし、電子機器もパス」
手近にある無数のカラフルな線の付いた黒い箱のようなものを脇へ退かしながら、自分の部屋をふっと思い出した。
「やっぱり、おもちゃかな。ぬいぐるみとかお人形とかきれいにしてあげて、きちんと使ってあげないと……だめだよ」
誰に言うでもなく、そう呟くとプティーラは顔を上げた。
プティーラのいる場所から少し先の方にまるで小さな丘のようになったスクラップの固まりの地面近くに、まるで店先の日除けのように突き出た鉄板の下に何か気になるものが見える。
近づけばそれが何なのか、判った。
赤い染料は剥げかけ、先が欠けた木製の人形の足らしき物体がスクラップの中にその大部分を隠しているのだ。
プティーラは日除けのように突き出た鉄板を何度も別の角度から観察し軽く下に引っ張ったりして容易に崩れないかをみる。
鉄板はびくともせず、これなら安心だろうとプティーラはその下に潜り込んだ。
赤い小さな人形の靴を優しく撫でてみると、不思議なぬくもりを感じたような気がした。
人形の足の周りのスクラップを少しずつ掘り出して行く。
ICチップの固まりをどけ、もう元が何なのか判らない屑を取り除き少しづつ穴を開けていった。
数時間。流れる汗を拭いながら、決して焦る事なく掘り進んだプティーラの目には年月の経ったビロード生地のズボンを履いた人形の下半身が見えていた。
「ふぅ、もう少しだからね、お人形さん」
まだ顔の見えない人形にそう言って微笑むと、プティーラは穴を広げようと手頃な棒でスクラップをほじる。
圧力で硬くなり、なかなか掘り出す事が出来なくなっていた。
手加減して棒を動かしていたプティーラだが、硬い壁のように何の変化もないとだんだん大胆になっていく。
少し強めに棒を突き刺してみるが、ダメ。
腕を少し大きく後ろに引き、思いっきり突き刺す。
「あ」
がつっ、と鈍い音を立て、スクラップにめり込んだ棒は引き抜こうとしても動かない。
ぐりぐりと棒を回してなんとか引き抜こうとするがびくともしない。
プティーラは突き刺さったスクラップに両足を付け、全体重をかけ棒を引き抜こうとする。
「ん〜〜!」
体を伸ばすように力を込めると、勢い良く棒が抜け、ころりと小さな体が転がる。
「……ったぁ〜」
打った腰を擦っていたプティーラの耳に小さいが嫌な音が響く。
物が軋む音にぐらりと頭上の鉄板が動いた。
咄嗟に体を縮め、頭を腕で覆うがそれで落ちてくる鉄板を耐える事は出来ない。
固く瞑った瞼の裏で一瞬やばい、と思ったプティーラだがその次に来る筈の衝撃が来ない事に心の中で訝しげに首をかしげた時、ふっと体が浮いた。
「んきゃ……!?」
次には大きな地響きと砂煙が舞い上がり、しばらく視界が遮られたが防塵眼鏡で目は保護されていたプティーラは口と鼻を手ぬぐいで覆った。
「……ったく。チビが何やってんだよ」
聞いた事のある声に顔を向けると、砂煙の合間からリッチが面倒臭そうな顔をしてプティーラの襟首を持ち上げ立っている。
「何って……ゴミ捜し」
小さく言ったプティーラにリッチは大げさな溜息を吐く。
「ゴミ探してどうすんだよ。スクラップの中から使える物を探すんだろうが。ったく……仕方ねぇな」
プティーラを下ろすとリッチは自分の服の埃を払い歩き出した。
「付いて来な。仕事のやり方教えてやるよ」
ぶっきらぼうにそう言ったリッチの背中をしばらくぼうっと見ていたプティーラだが、彼の言った意味が少しずつ理解してくると嬉しそうに顔を綻ばせ駆け出した。
駆け出し《天使の翼》で浮き上がるとそのままリッチの背中にしがみ付き、プティーラは弾むような声で言った。
「あのね、プー猫のぬいぐるみが欲しい」
「ぬいぐるみぃ?」
軽い体を気にした様子もなく歩くリッチに大きく頷く。
「ぼろぼろの猫のぬいぐるみがいいな。綺麗にしてあげてプーの宝物にするんだ」
純粋な響きの言葉にリッチは小さく微笑むと、煙草に火を付けた。
大きな背中に揺られながら、プティーラはほんわかと自分の心の中が暖かくなるのを感じながら、小さな拳を青く晴れた空へと突き上げた。
「さ、がんばろー!」


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0026/プティーラ・ホワイト/女/六歳/エスパー】

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■         ライター通信          ■
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初めまして、壬生ナギサと申します。
初めてのアナザー・レポート。
初めてのサイコマのお客様と初めてづくしですが如何でしたでしょうか?

少し子供っぽすぎるかも……と思いつつプティーラちゃんを書いてみました。
大人になりたいけど子供を抜け切れない。
未熟な少女を楽しく愛おしく書かせて頂きました。
宜しければ感想・ご意見をお待ちしております。
では、ご縁がありましたらお会いできる事を楽しみにしております。