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<PCシチュエーションノベル(ツイン)>


☆★ネコ猫ネコ猫★☆

●なんとなくアッサム
 赤い液体がなみなみと注がれるクリスタルのカップ。
 立ち上るは芳醇な茶葉の薫り。
 午後の日差しが厳しい屋外とはうってかわって、彼女達の居る部屋は涼しい空気が緩やかな流れを生み出している。
「ねぇティナ、ブルーベリー残ってた?」
 ポニーテールの髪を高い位置で纏めて、動くのに邪魔にならないようにしていたエリザベート・ルナシスが双子の姉妹に声をかける。
「リズが昨日食べたので最後。私の分は、今朝食べました」
 ティーサーバーを手に、砂糖とジャムの載ったトレイを脚の低いテーブルに降ろしたクリスティーナ・ルナシスが無表情に答えてくる。
「‥‥あれ、私が食べるつもりだったのに‥‥」
 ぷぅっと、エリザベートの頬が膨らんで、マイクロビーズで一杯の黄色いソファにふて腐れた大きな白猫が転がった。
「『あーあ。またリズがふててる、ふててる』『どうにかしなさいよ、アレ。私達のご飯にも影響するんだから』」
 白猫ブランシェと黒猫ノワールがテーブルの下で喉を鳴らしているのを見ながらクリスティーナが腹話術。
 まるで、猫達のひそひそ話がテーブルの下で始まっているかの様だが、もう一人の飼い主、エリザベートは全く気が付いていない様子だ。
 ソファに寝転がって、Tシャツにショートパンツのままで自己流のリズムに合わせて反発してみせる。
「リズのおやつ取った〜。ティナが取った〜」
 余り怒ってもなさげなその歌声に、クリスティーナは耳を貸そうともしない。軽く、硬質の音を立てるカップを並べると、彼女はティーサーバーの中で茶葉が上から下へ、下から上へと巡る様をじっと見つめている。
「ティナのおデブー。くいしんぼー」
 パタパタパタと、脚をバタ付かせながらソファの上で器用に転がったリズが、ソファに置いてあった小さなクッションで表情を隠しながらクリスティーナを覗き見ている。
「‥‥えっとー」
「‥‥」
 無言で茶葉の上下を見つめているクリスティーナの視線は、全くエリザベートには向けられない。
 無言の行は、ツインテールの少女に軍配が上がった様子で、テーブルの対角に小さく正座したエリザベートが御免なさいと頭を下げる。
「‥‥1分半。丁度蒸れあがったみたいね。さ、お茶にしましょリズ」
 朗らかに、今まで何があったのか全く感知せずと言う明るい笑顔でクリスティーナがカップを手に取った。
「‥‥ティナったら、私の話全然聞いてない‥‥」
 別の意味で、また頬を膨らませるエリザベートだった。

●ほんのちょっとセイロン
 お気に入りのパンズを売るお店で、とっておきのクロワッサンとマドレーヌを手に入れた二人が決めたのは、週末の午後を何もしないで過ごすという、ここ数ヶ月の中で一番贅沢な遊びだった。
「んー美味しい。サクサクで、香ばしい中にほんのり甘くて」
「『そして、また太るニャ』」
 ポンと、クリスティーナの言葉に続いてエリザベートの脇を突いたノワール。
 コツンと、ノワールの頭にエリザベートの爪が落雷する。
「ティナーこの子、やっぱり昨日から反抗的だよぉ」
「‥‥ノワールが? 大変ねぇ」
 さも大変だと、膝元に駆け寄った黒猫を抱き上げるクリスティーナ。一応、眉は寄せて心配そうに見えるのだが‥‥その口元には僅かに笑みが見える。
「駄目よノワール、更年期障害の人に変に話しかけちゃ。『はーい』」
 ノワールの耳元で囁いて、続けて腹話術のクリスティーナに、タイミング良く素直にお返事のノワール。
「‥‥なんか、微妙に気に掛かるんですけどーソコ‥‥」
 両手で持ったカップを傾けて、プチプチと文句を言いながらもマドレーヌの甘い誘惑にも負けているエリザベートからご相伴を授かっていた白猫がご馳走様と顔を上げて飼い主の膝元に駆け寄った。
「『別に気にしなくても良いニャ。リズはリズのまんまが一番ニャ!』だって」
 スリスリと、主人の脚に頭をこすりつけるブランシェの喉の下を掻いてやるエリザベートはクリスティーナの抱き上げたノワールを見てまだまだ不満そうに呟いている。
「‥‥その腹話術‥‥良いケドね。だって、ノワールったら昨日の夜もギューッて、背中にひっかき傷作るんだもん。乙女の柔肌が台無しよ。ホラホラ!」
「ふーん?」
 腕まくりならぬ服まくりで背を見せるエリザベートにも、クリスティーナは余り動じた風でもない。
 片手でノワールにクロワッサンを分けてやり、空いた手でカップを傾けてホウと至福の溜息を一つ。
「で‥‥」
「ん?」
 ようやく自分の話題に乗ってくれたと、エリザベートは持ち上げた服もそのままにクリスティーナに向き直る。
「ホントに、その傷ノワールがやったの? 昨日って、連邦の『誰かさん』と夜遅くまで出かけてたみたいだし‥‥ああ、リズってば、私が知らない間に大人の階段を登っちゃったのねー」
「な、な、何言ってるのよ!?」
 最後の辺りは下手な芝居よりも棒読みなのだが、残念ながらそんな機微を読みとれる程エリザベートは落ち着いていられなかった。
 耳元ばかりでなく、首元のゆったりしたTシャツの下に覗く白い肌が桜色に染まっていく。
「悔しいけど、ほんの少しだけ、リズの方がブラ大きくなったよね‥‥」
「え? エヘヘー。そ、そうかなー? うん、最近ジョグも続けてるし、うん、明日からティナも一緒に走らない?」
 真っ赤になって慌てていたエリザベートが照れ笑い。
「‥‥『まーた、遊ばれてるニャ』『リズってば、単純ねぇ』」
 瞬間を捕らえて、クリスティーナの逆襲が始まる。ブランシェとノワール二匹がじゃれ合っているのに合わせて、声を変えてみせる気配り(?)も忘れないのがクリスティーナだ。
「そ、こ。もういいから‥‥」
 脱力で溜息を吐いた双子の姉妹の耳元に、ふっと息をかけて囁きかけてやる。
「うーん、でも、私がお邪魔してもねぇ。3人で一つのベッドって、狭いじゃない?」
「‥‥‥‥‥‥」
 固まるエリザベートの笑い。
「‥‥‥‥‥‥」
 してやったりと、勝利の微笑みのクリスティーナ。
「『待避ニャ−−−−−−!』『孤児院まで逃げるニャーーーーーー!』っと言うわけでーす」
 大戦争勃発のボタンが押される直前に、猫二匹を促してクリスティーナは廊下へと走り出すのだった。

●やっぱりきっとダージリン
 走り回って疲れたのだろう、ノワールとブランシェが丸くなって白と黒の固まりになって眠っている。
 それを囲むように、金の髪の少女達が丸くなってベッドに身を横たえている。
「で、本当のところはどうなんでしょう、リズさん?」
 何処かの芸能リポーターの様に、スプーンを差し出したクリスティーナにまだ頬を膨らませていたエリザベートがスプーンのアップルジャムを頬張って少し考え込んでいる。
「一寸お砂糖多かったかな?」
 突然、話題を変えてくるツインテールの少女。
 違うでしょと、真顔でジャムを差し出してきたクリスティーナに返すと、エリザベートはポニーテールを解いて白いシーツに腕を伸ばして沈み込んでしまう。
「どうなのかなー。私、彼のこと‥‥好き‥‥なのかな?」
 尻つぼみで小さくなる声。
 困惑の表情の中に染め上がる頬と耳朶。
「それ、私が聞いたんだけど? あ、でも。顔だけだったらあっちの子だよね。変にテロなんかの片棒活がなかったらねぇ〜」
「あ、やっぱり、ティナもそう思った?」
 テロの片棒を担いだとされる連邦の騎士と、イスタンブールに住まう子どもを護る為に闘っている一人の騎士を思い浮かべて双子達は話に興じていた。
「顔だけはね」
「うんうん。顔だけはねー」
 女3人寄れば姦しいとはよく言われるのだが、この双子の場合、お互いが1.5人前は口が動いているのだろう。
 充分に、寝室には乙女の声が充満している。
「で、ホントのところは?」
「ティ、ナァ〜〜!!」
 真顔のクリスティーナに、怒りのエリザベートから枕爆弾が投下されたのは数瞬後だった。
 まだ、イスタンブールが平和な‥‥そんな週末の黄昏時だった。

【END】