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<アナザーレポート・PCゲームノベル>


亜空間へ行こう

★☆★ 序 ★☆★

「――あら、ちょうどいいところに来たわ。ねぇあなた、暇?」
 何か役に立つ物が転がっていないかとカガリの研究所を訪れた時、カガリに声をかけられた。
「ついにワームホールを作り出すことに成功したのよ。ちょっと行って見てきてくれない?」
 とんでもないことをさらりと言う。
 カガリの話によると、カガリはタイムESP所持者以外でもタイムトラベルができるようにと、タイムマシンの研究をしていたそうだ。
 その結果ついに、タイムトラベルに必要なワームホールを作り出すことに成功したらしい。ちなみにワームホールというのは、"時空の虫食い穴"という意味である。
「亜空間に繋がっているみたいなの。何か研究対象になりそうな物や、発明材料になりそうな物があったら持ってきてね。持ってきてくれたら、その辺に転がってる発明品どれかあげるから」
 まだ返事をしていないのに、いつの間にか行くことになっているようだ。
「私? 私は行かないわよ。万が一とじてしまったら、またあけなきゃならないじゃない」
 確かに、戻ってこられなくなったら困る。
「じゃ、頑張って」



★☆★ 視点⇒伊達・剣人(だて・けんと) ★☆★

(一体どんな場所に出るんだろうなぁ)
 俺はわくわくしながら暗い闇の中を歩いていた。ワームホールに入ってからずいぶん経つが、まだ光は見えない。俺が行くべき場所はかなり遠いようだ。
 まっすぐに歩いている感覚もどこかおかしくなってゆく中、俺はひとつの思いを抱いていた。
(――やべぇ、腹減ってきた……)
 こんなことになるとわかっていて、カガリのもとを訪れたわけでは当然ない。昼は霊能者として活動している俺は、除霊の際に何か役に立つアイテムはないかと思って研究所に寄ったのだった。もちろんすぐ帰るつもりだった。そしてそのあと昼飯を食べに行く予定だったのに――それが何故か、こんなことになってしまったのだ。
(くっそ〜どっかについたらまず食ってやる!)
 強引なカガリを断りきれなかった自分が悪いのだと諦めて、俺はそう決心した。その途端、暗闇の中に一筋の光が現れる。
(お、やっとか)
 俺はその光に向かってさらに歩いた。光は徐々に大きくなってゆき……やがて俺を呑みこむ――。

     ★

 眩しい光に閉じていた目を開けると、目の前を塞いでいたのはバカでかい門だった。5メートルはあるだろうか。門に隠れて太陽が見えない。
(なんだこりゃ)
 門はそのまま同じくバカ高い塀へと繋がっている。これでは門を開く以外に入る手段はなさそうだ。
(――ん?)
 門の脇の柱(?)に、見つけたプレートを読んでみる。
「学園都市……夢幻学園〜?」
「はいそうです! 何かご用ですか?」
「うわっ」
 突然降ってきた声に、俺は2、3歩あとずさった。誰かいるのかとキョロキョロ見回してみるが、人の姿は見えない。
(あれ?)
「どこを見ているんですか。私なら目の前におりますよ」
「へ?」
 また声が降る。――あれ、降るってことは上か!
 俺は門を見上げてみた。だが門の上に座っている奴もいない。ってか、いても困るが。
(他に目の前というと……)
 俺は門自体を凝視した。
「そんなに見つめないで下さい〜恥ずかしいですっ」
 そんな声が降ってくる。
「――もしかしなくても、あんた門?」
「見てわかりませんか? 確かに私は門ですよ」
「いや、わかるのはわかるけど……」
(なんでしゃべってんの?)
 そうつっこむのが何故か恥ずかしいことのように思えて、最後まで言えなかった。
「夢幻学園に、何かご用ですか?」
 門は至極当たり前のように、俺に問ってくる。
「え? 用? 用なんて別にないけど……」
「ないなら、何故いらしたんです?」
「何故って言われてもなぁ」
(半ば無理やりだったし)
「理由がなければ、お引取り下さい」
 門はきっぱりと言い放った。そういうふうに門教育(?)されているのだろうか。
(ジョーダンっ)
 何も持って帰らなかったら、カガリにどんな厭味を言われるかわからない。それに――
(! そうだ……)
「理由を思い出した。腹が減ってるんだ。なんか食わせてもらえないか?」
「空腹を満たしたい、と。ちょっとお待ち下さいね、生徒会室に問い合わせてみますから」
「…………」
 学園都市だから、学園の機能と都市の機能が一緒になっているのだろうか。生徒会室には市長がいて、保健室は病院とか……
 考えると恐ろしいが、実際中がそうなっていると思うと余計恐ろしい。
(できればまともな学園にしてくれよな……)
 そして早く、ご飯にありつけますように。
 願いながら、門の返答を待つ。
「――はい、あなたは入学を許可されました。お名前は?」
(入学?!)
 少し気になったが、話が長くなるのも嫌なのでおとなしく答える。
「伊達・剣人だ」
「では伊達・剣人さん。どうぞお入り下さ〜い」
 言葉と共に、学園への門が開かれた――



 なんてカッコよく表現してみても、実際はただ目の前に小さな穴が開いただけだ。
「――これは?」
「私の口ですよ。どうぞお入りを」
(口から入るのかよ……)
 あまりキレイな話ではない。が、そんなことはどうでもいいのも事実。
(今は飯だ、飯)
「どこに行けば飯が食える?」
 穴をくぐる前に問うと。
「食堂か購買ですね。ただし食堂は上級生――つまりここに長く住んでいる方用ですから、購買がいいでしょう」
「購買かぁ……ロクなものなさそうだな」
 菓子パンやおにぎりくらいしか、置いているイメージがない。
(豪勢な食事のはずだったのに……)
 そんな落胆は大きかった。
 すると門は何故か、少し揺れながら。
「ふっふっふ……」
「? 何だ?」
「夢幻学園を舐めてはいけませんよ。この学園にはここにしかない、"伝説の焼きそばパン"が存在しているのです!」
「でっ、"伝説の焼きそばパン"だってぇぇ?!」
 必要以上に驚いている自分に驚きながらも、俺は驚いていた。……あれ?
「それはあれか? ふんわりと焼き上げた最高級のバターロールに、極上のソースと麪を絡めてサッと炒めた最高のヤキソバを挟んだ伝説の焼きそばパンか?!」
(何だこのノリはっ)
 自分でも気づかないうちに、俺は熱くなっていた。
「ええ、そうですとも!」
「そうか――こんな所にあったのか。実はずっと探していたんだ」
(そうだっけ?)
 セリフと自分の思考が合っていない。――でもそんなこと、どうでも
(……ま、いっか)
 食べ物の話をして余計に空腹を感じてしまっている俺は、深く考えないことにした。そのまま流れに身を任せる。
「おお! そうでしたか。さすがにお目が高い。ただ数に限りがある上、狙っている生徒はかなり多いです。頑張ってゲットしてきて下さい!」
「やはり争奪戦があるのか。なら――」
 俺は右手の先に力をこめて伸ばし。
(聖なる炎の剣よ、我が呼び声に応えよ)
 その手に燃えさかる炎を帯びた剣を召喚した。
「これが役に立つな」
「おおっ、美しい武器ですね。購買の場所は1万飛んで4cm先の角を右に曲がった所です。炎が消える前にどうぞ!」
「消えないけどありがとう!」
 返事をして、俺は走り出――す前に、頭をぶつけないよう小さな穴をくぐる。それから凄い勢いで走り出した。

     ★

「――で?」
 俺の話を聞き終わると、カガリは呆れたような表情をした。
「これがその戦利品だ」
 俺が生徒たちとの激しいバトルの末入手してきた焼きそばパンを差し出す。
「帰るまでに食べなかったのは誉めてあげるけど……これをどう研究しろっていうのよ……」
「研究して、ぜひ作れるようになってくれ」
「あーのーねー」
「というのは100分の1冗談だが」
「ほとんど本気じゃない」
「これは"伝説の焼きそばパン"なんだぞ? つまり包装からして、普通の焼きそばパンとは違う」
 俺のその言葉に、今度はカガリも興味を示した。
「――どういうこと?」
「いいか、普通の焼きそばパンなら争奪戦などまず起こらないだろう。しかし"伝説の焼きそばパン"は違う。その周囲に必ずといっていいほど争奪戦が発生する。つまり……」
「つまり?」
「この焼きそばパンを包んでいる包装フィルムは、かなり頑丈だと言える! なにせ俺の必殺技が間違って当たっても破れなかったからな」
「…………ちなみに、必殺技というのは?」
「これだ」
 俺はカガリの前でそれを実演して見せた。
 右手に炎の聖剣を呼び、"伝説の焼きそばパン"を宙へと放り投げる。そして落ちてくる焼きそばパンに向かって。
「食らえ必殺火炎斬りーーーっ!」
 剣を高く振り上げ、俺自身も飛び上がって体重もすべて刀身にこめた。

  ――ばしぃぃぃぃっ

 みごと焼きそばパンにヒットすると、焼きそばパンは「しゅ〜」と煙を立てながら床に転がった。
「これはさすがに、穴が開いたんじゃないの?」
 カガリがそのパンに近づいていって、煙が消えるのを待ってからつまみあげる。
「どうかな」
「――あっ…全然無傷だわ。中身の焼きそばパンもそのまま……」
 途端に興奮し始めた。
「これは凄いわ! こんなに薄いのに……確かにこれは研究する価値があるかもしれないわね(中身はともかくとして)」
「(括弧の中も聞こえてるぞ)まぁ興味を持ってくれたのなら、取ってきたかいがあったってもんだ」
「そうね、ありがとう」
 カガリが珍しく微笑んだので、照れた俺は頭を掻いた。――と、そのまま後ろに倒れる。

  ――ドタンッ

「ど、どうしたの?!」
 どうしたもこうしたもない。
「腹へったぁ……」
 走り回ったおかげで余計腹が減ったのに、いまだ食事にありつけていないのだった。
「何か持ってきたら発明品くれるって言ってたよな? 発明品いらないからなんか食わせてくれ〜」
「あら、それならやっぱりこれ食べなさいよ。私は中身には興味がないし」
「それは……」
 研究して量産――という道を、諦めきれない。
「あなたが食べないなら私が食べるわよ?」
「えっじゃあ食べる食べる!」
 カガリはやると言ったらやる女だ。それがわかっていたから、俺はすぐカガリの手からそれを取り上げた。
「くれぐれもフィルムは捨てないでね」
「わかってるって♪」
 何だかんだ言っても"伝説の焼きそばパン"を食べられることはとても嬉しかったので、俺の顔は自然と笑っていた。
 鼻歌まで飛び出しながら、袋の口を開ける。
 ――いや、開けようとした。
「……あれ?」
「? どうしたの?」
「袋が開かないんだが……」
「え……」
 カガリと目を見合わせる。するとカガリが何かを思いついたようで。
「ねぇ、それってさぁ……」
「?」
「専用のハサミが必要なんじゃないの?」
「あ」



 ――というわけで。
 カガリは中に焼きそばパンを入れたままその超強力フィルムの研究をした。そのカガリが専用のハサミを作ってくれるまで、俺は"伝説の焼きそばパン"にありつくことはできなかった……。











                             (了)



★☆★ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ★☆★

整理番号 ★ PC名   ★ 性別 ★ 年齢 ★ 職業
 0351  ★ 伊達・剣人 ★ 男  ★ 23 ★ エスパー



★☆★ ライター通信 ★☆★

 こんにちは、お申し込みありがとうございました。ライターの伊塚和水です^^
 私自身はとても楽しんで書かせていただいた今回の作品、いかがでしたでしょうか。プレイングからコメディを希望しているようにとれたので、その方向へ流れるようにと頑張ってみました。少しでも気に入っていただけたら幸いです。ご意見・ご感想などありましたら、お気軽にどうぞ^^
 それでは、またお会いできることを願って……。

 伊塚和水 拝