PSYCOMASTERS TOP
新しいページを見るクリエーター別で見る商品一覧を見る前のページへ


<東京怪談ノベル(シングル)>


【白狼の軌跡――ジーニー03小隊】
――金色に輝く砂の大海。荒涼とした大地に小さな村があった。
 そこに響き渡るは銃声と幾つもの悲鳴、そして断末魔だ。
「積め込めるだけの食料を片っ端から突っ込め!」
 スキンヘッドの巨漢が大型バイクに跨りながら指示を飛ばす。その付近では配下の野郎共が民家に押し寄せては銃声とボウガンを放ち、木箱に納められた食料を肩に運んでいた。中には両肩に足をバタつかせる若い女を抱えている者も見受けられる。彼等はこの近辺で略奪行為を繰り返している野盗だ。次の獲物と定められた村は不幸としか言いようが無い。数刻も過ぎれば死体と荒らされた光景のみが残る筈だった。
「兄じゃ! 東から金属反応ですぜ!」
「あん? キャリアカーか何かか? もう少し女を詰め込めそうだな‥‥掻っ攫えっ!!」
 奇声と共に爆音を奏でて、武装を施したオフロードカーと大型バイクが砂塵を巻き上げてゆく。確かに遠方に砂煙を巻き上げるモノが確認された。片手でライフルを構える男が狙い定める――が、その表情が次第に歪む。
「‥‥あれは‥‥MSだと!?」
「は、速いぜ!」
「MSなら小回りの効く俺達が有利だ!」
 蜃気楼の如く浮かび上がって来たのは四機の機影だ。菱形陣形を執る機影の一機が陽光に白い装甲を照り返らせ、白銀に輝いていた。全体的に流線型のシルエットに模られ、背中を覆う程の砂塵を巻き上げるホバー機構を持つMSは、野盗等が始めて見る機体だ。
 望遠カメラ越しに大型バイクを確認し、蒼いバンダナを巻いた精悍な風貌の青年が指示を飛ばす。
「トゥバンより各機へ、対地ミサイルは威嚇だけにしろ! 戦力を削げれば良い‥‥トゥバン小隊、これより武装集団排除を開始する!」
『了解ッ!!』
 グッとフットペダルを踏み込み、MS『ジーニー』はホバー出力をあげた。野盗の放つ銃弾が砂を舞い飛ばす中、四機のジーニーは散開して包囲するように機体を滑らせ回り込み、12.7mmオートライフルの銃声を響かせた。次々に大型バイクのタイヤが洗礼を浴び、野盗等を派手に吹っ飛ばす。
 響き渡る銃声と爆音に黒煙‥‥。村で仲間の帰りを待つスキンヘッドの巨漢は女から離れ、訝しげな顔色を浮かばせていた。そんな中、バイクの運転に動揺の色を浮かばせる仲間の一人が戻って来る。
「兄じゃ! UMEのMSですぜ!」
「UMEだと? チッ、この辺りは守備範囲ってことかよ」
――UME軍。
 かつて多国籍軍と第三次世界大戦を繰り広げる中、審判の日、大暗黒時代と続く厄災に軍事機関は機能を停止した筈だった。時にAD2050、再び中東に秩序が甦ろうとしていた。この物語は『白狼』と呼ばれるトゥバン・ラズリ率いるジーニー小隊の記録の一つである――――

●明日の笑顔の為に出来る事‥‥
『トゥバン小隊へ、UME加盟の村が武装集団に襲われています。直ちに急行願います』
「こちらトゥバン、了解した。野盗連中は拘束した、処理部隊の派遣を要請する」
『了解しました。村の座標とデータを送信します』
 オペレーターからの指示に、彼は中距離レーダーとマップを手早く照らし合わせる。
「ここから数キロか‥‥ジーニー小隊、出るぞ!」
 部下に声を掛け、トゥバンは胸部コクピットへと滑り込む。ハッチを閉じると防塵加工された頭部の隙間からカメラアイが赤く輝き、ローター音が唸り声をあげ、四機のジーニーは村を離れるのだった。熱砂の大海を高速で滑走するトゥバン小隊の望遠カメラ越しに、村とその付近に機影を捉える。
「エリドゥーにブルーナンだと? 混乱期に手に入れた兵器って訳か‥‥。各機へ、何時もの同じに行くぞ!」
『トゥバン隊長、敵はMSです。それでも‥‥』
「ああ、なるべく相手は殺すな。勿論、自分が危険だと思えば躊躇わずにトリガーを引け! だが忘れるな、失って良い命なんて有ってはならない事を‥‥来るぞ!」
 望遠カメラに捉えた敵機がマズルフラッシュを輝かせながら、対地LHミサイルを放って来た。トゥバンは操縦桿のスイッチを的確に探り出し、親指で押し込む。MSは腕をマスターアームに入れて操作する機体である。手の動きと連動する操縦桿の火器管制装置を視認できず、感覚と経験でコントロールする必要があるのだ。
 ジーニー肩部のスモークポッドが射出され、視界を塞がれたLHミサイルが大きな砂柱を噴き上げる中、白煙から散開したジーニーが飛び出して来る。素早く照準を合わせて人差し指でトリガーを絞った。放たれる銃弾にブルーナンとエリドゥーが鈍い着弾音と火花を迸らせ、やがて黒煙を吹き上げてゆく。
「所詮はプロとアマの違いだな‥‥あれが親玉!」
 一機だけ残った赤いエリドゥーの銃弾を小刻みな動作で躱しながら、白いジーニーが肉迫する。
「同胞の機体に牙を向けるのは忍びないが、黙って貰わねば困る! 炸裂せよ! ホォワイトォォファァァングッ!!」
 敵機のランスシューターの鉄槌を躱し、大きな砂飛沫をあげながら機体を滑り込ませて旋回、同時にフットペダルを踏み込み加速しながら真横からエリドゥーの頭部へ狼の牙を剥く! 放たれた鉄槌がカメラアイを抉り飛ばす中、直ぐに反転して右腕を赤い胸部へ叩き込んだ。砂漠という不安定な地表に敵機は体制を崩して倒れ込む中、白いジーニーはランスシューターを突きつけた。観念したのか赤いエリドゥーは胸部ハッチを鈍く軋ませながら開くと、トゥバンは瞳を見開き動揺の声をあげる。
「!! コイツがリーダーだと!?」
 コクピットから覗いたのは未だあどけなさの残る女だった。ビキニにボロボロの上着を羽織っただけの褐色の少女が、ギンッと鋭い眼光でジーニーの頭部を睨む。
「はやく止めを刺したらどお? それとも女と分かってヤリたくなった? 見逃してくれるなら‥‥いいよ」
「なんだと!? ふざけるな‥‥俺はそんなつもりは‥‥」
『隊長、武装集団は皆、女です!』
 仲間が沈黙した機体のハッチを開けて姿を晒す光景を見て、リーダーの少女は慌てて身を乗り出す。
「あの娘達は見逃してくれよ!」
「安心しろ、捕虜に手を出したりしない。だが、本国で裁きは受けて貰う」
「へっ! 気取ってくれるね。英雄のつもりかい? 今更権力振り翳すとは結構な身分だよ! 過去はお構い無しかい!」
「何が、言いたいんだ?」
「氏族抗争の果てに生き残って、食い繋ぐのも必死な連中もいるって事さ! 今更UME軍だって? あの村にはね、食料もあるけど、アタシ達の仇がのさばってるんだよ! 聞けば村民より贅沢な生活をしてるそうじゃないか。それでも守ってやる価値があるって兵隊さんは仰られるのかい?」
 堰を切ったように女リーダーは身振り手振りを交えて言い放った。
「俺は‥‥(明日の笑顔のために‥‥皆が幸せになるために剣を振るっているのだ)」
『隊長、捕虜の拘束が済みました。本部に連絡をお願いします』
 このまま連行すれば任務は完了する。だが、それで皆が笑顔でいられるのか? トゥバンの脳裏に大切な女(ひと)の顔が浮かぶ。
――俺はどうすればいい?

●あとがき(?)
 ご購入有り難うございました☆ 切磋巧実です。お言葉に甘えて次回への引きを作らせて頂きました(笑)。勿論、このままでも一応物語は終わります。後はトゥバンさんの行動次第。尚、MS描写については独自の解釈が成されている部分がある事を御了承願います。感想頂けると嬉しいです☆ お待ちしていますね♪