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<アナザーレポート・PCゲームノベル>


●貸切『セクハラ』親子風呂
 さて、先に入った者達が、大人になったり子供になったり、男になったりしている頃、玄関では、後発組が続々とたどり着いてきていた。
「ここが邪神温泉か・・・・。怪しい。怪しすぎる。だが、ここで入らねば、敵の正体は見極められない。あえて、誘いに乗るのも重要な手段だ!」
 小麦色の肌をしたネイナ・コリンが、旅館を見上げながら、声高らかにそう宣言している。背中にある弓矢を外そうとした時、後ろから低い男の声が掛かった。
「どうでもいいが、玄関脇のタヌキの前でポーズ決めても、全然かっこよくないと思うが?」
「うるさいなー。折角気分が乗ってるんだから、邪魔するなよー」
 ぶっすーと乱暴な口調を治そうともせず、そう答えるネイナ。確かに、『歓迎』と看板ぶら下げた純日本風狸の置物前で、これから乗り込みますと言った姿を見せても、全然かっこよくはない。
「敵は・・・・いったい・・・・」
「どう見ても、平和な温泉宿だなー。多少血色悪いが、うちの従業員どもに比べたら、対応もいい」
 フロントにチェックインしながら、そう感想をもらした連れの男に、ネイナの平手が飛んできた。
「って、何口説いてんだ。お前はぁぁ!」
「だーめー」
 ついでに、足元で1歳そこそこの赤ん坊が、ネイナの見方をするように、足を引っ張っている。
「いやまてっ。何弓矢出してるっ。俺は別にそこの饅頭が美味そうだったから・・・・」
 背中からじぇらしぃのオーラを噴出させるネイナの姿に、壁に張り付くその青年。
「問答無用ッ! 覚悟!」
「うぎゃぁぁぁっ」
 だが、言い訳なんぞ聞き入れられるはずもなく、壁には、歌劇・ウィリアム・テルよろしく、矢が突き刺さっていた。
「ったく。余計な手間をかけさせるんじゃない! 行くぞ」
「お前・・・・。子供産んで、凶暴さ増してないか?」
 げぃん。
「いっつー・・・・」
「一言多い!」
 たんこぶが1つ増えた。
「いいじゃないかー、うちの弟みたいに、野郎にまで手ー出してるわけじゃないんだしー、少しくらい・・・・って。どこ行くんだ?」
「決まっているだろう。温泉だ!」
 即答するネイナに、その連れの青年は、にやぁりと意地悪く囁きながら、耳元でこう囁く。
「ほうほう。ブツブツ言ってたわりには、やる気まんまんだなー」
「バカ! これも作戦だ!」
 しつこく仕事と言い張る彼女。
「作戦ねぇ・・・・」
「敵はこっちが温泉に入るのを待っているんだ。ここは、敵を誘うために温泉に入るふりをするんだ」
 『作戦概要書』なんぞと書かれた彼女の手書きのそれは、知らないものが見れば、10人中9人は、『旅行のしおり?』と答えるような代物だ。
「いや。俺にはどう見ても、『温泉旅行に来た家族連れ』にしか見えないんだが」
 彼がそう言うのももっともで、従業員をはじめとする、背景の人間の大半は、そう言う視線でほのぼのと見ていた。
「つべこべ言わずに、お前は子供をまもっとれー!!」
「だーっ。わかった! わかったって!!」
 だが、ネイナはまだ17歳だ。認めたくはないらしい。と、そんな一行へ、従業員が声をかけた。
「オキャクサマ。ゴカゾクヅレノカタノタメニ、トウテンデハ、カシキリブロモゴヨウイシテオリマス」
 家族風呂があるらしい。
「なんだ。一緒には入れるじゃないか。なぁ?」
「う・・・・」
 もはや、完全に一家として扱われているネイナの目の前で、連れの野郎はさっさと「家族風呂の予約を頼む」なんぞと注文している。
「勝手に決めるなー・・・・!」
 真っ赤になったネイナの声は、二人の耳には届かない。
 で。
「大体、風呂なら家で一緒に入ってるじゃないか・・・・」
「いつも五右衛門風呂みたなもんだろ。別荘は長老の許可ないと使えないし。足を伸ばせる温泉と言うのは、いいものだ」
 ぶつぶつと言うネイナに、連れの男性はそう言った。
「もしかして・・・・。あんた、散々入ってた人?」
「おう。それだけには、金をかけさせたからな」
 ちらりと、不穏な発言を見え隠れさせつつ、三人は、用意された家族風呂へと向かう。
「へー、広いねー」
「家族風呂とは思えんな」
 山奥だけに、土地だけは余りまくっているらしい。広々とした室内は、ちょっとした銭湯並みだ。
「だー」
「あっ、こら! 勝手に行くんじゃない!」
 興味を引かれたのか、一緒に手を引いていた一歳児が、とてとてと中に進んで行く。
「ゆー」
「危ないッ! きゃぁっ!」
 水で濡れて居るせいか、非常に滑りやすくなっている。あわてて走りこんだ彼女は、そのとたん、つるりと滑ってしまった。
「あーあ。やった‥‥」
 連れの男性が頭を抱える中、ネイナはそのまま湯船の中へ、盛大な水飛沫を上げて、ダイブしてしまっていた。
「大丈夫か?」
「ああ。何とか・・・・」
 助け起こされて、ようやく立ち上がる。一方の子供の方は、その光景を見ながら、きゃっきゃと手を叩いて喜んでいた。
「・・・・・・・・」
 と、連れの男性の表情が硬い。
「どうした?」
「鏡、見てみろ」
 彼は、そう言って、備え付けの鏡を指差した。だが、そこに写っていたのは、いつもの黒髪に小麦肌、黒曜石の瞳を持つネイナではなく、黒髪で青い目、白い肌の美少年だ。
「そんな! 声まで変わって!?」
「変身の湯『美少年』・・・・だそうだ」
 看板を見ると、そう書いてある。
「た、大変だっ! 元に戻らなきゃ!」
 よっぽど混乱してしまったのか、よく確認もせずに、別の湯へと入る彼女。
「今度は金髪か」
「見るんじゃない。これも違うか・・・・」
 ハズレらしい。
「褐色メイドと」
「いやぁん。見ないで下さいましぃ」
 声質だけではなく、口調や性格、さらには衣服まで変わってしまうようだ。
「だー、あー」
「面白いなー。ほーら、ネイナ七変化だぞー」
 子供と青年は、腹を抱えて大笑い。まるでかくし芸大会でも見て居るような態度である。
「遊ぶなぁぁぁッ!!」
 そんな2人に、ネイナの鉄拳制裁が振り下ろされたのは、言うまでもない。
 で。
「結局元に戻らなかった・・・・」
 いろいろあったが、元の姿に戻る事は出来ず、結局白い髪に、少年のような体躯と、やたらと装飾のついた水色のワンピース‥‥と言ういでたちに落ち着いていた。
「社員旅行か・・・・。どこでも宴会部長と言うのは居るもんだな」
 廊下では、迷子になったらしい少年が、潜り込んだ宴会場で、未成年者飲酒法違反に手を染めさせている。と、その横を通過し、別の廊下には言ったその時だった。
「わっ」
「あ、すまん」
 妙に親父くさい謝り方をする3歳児。ぽすんとぶつかったその男の子は、離れようともせず、ネイナの腕の中に納まったまま、こう言った。
「お姉さんっ。いい匂いするね♪」
 ソレにお肌も柔らかくってふかふかー。アイスクリームみたいで面白い〜☆ と、小動物めいた甘え方をする彼。
「誰よ、あんた」
「僕? ケーナズって言うんだ。ねぇねぇお姉さん、一人でお風呂入るのも寂しいし、一緒に入ってよーう」
 それをべり、と引き剥がして問うと、彼はごろごろと喉を鳴らしうながら、こう言った。
「あのな。男女七歳にして席を同じくするべからずって話、聞いた事ないか?」
「何それ。僕、ドイツ生まれだから、日本のことわざって、よくわからなーい」
 再び胸を触りはじめるケーナズ。ネイナが「だーっ! くっつくなー!」と騒いでも、「ねーねー。いいでしょー?」と、わがまま全開だ。
「だー! あんた、ほんとに子供か!? 触り方がやらしいぞ!」
「さぁね。うふふふ、お姉さんの胸、おーっきーなー」
 むにむにと両の胸をもみしだく彼。
「だー! のかんかー!!」
「やだぷっぷー!」
 見かけは3歳児だが、やってる事は充分いい年のオヤジである。
「ほほぅ。貴様、どうしても死の制裁を食らいたい様だな・・・・」
「ぎく」
 と、その背中に、ゆらぁりと起き上がる青年の姿。
「人の女に何をするーーーー!!」
「うぎゃぁぁぁぁっ!!」
 普通なら負けないのにぃぃぃ!! と、哀れお星様になるケーナズだった。
「ったく。大丈夫か?」
「あ、ああ」
 へたり込んだネイナは、やっぱり支え起こされて、その側に子供がいない事に気付く。
「あれ? ところで子供は・・・・」
「え? お前が預かっていると思って、来たんだが・・・・」
 そこで、襲われているのを助けただけらしい。だが、だとすると、子供は。
「しまったぁぁぁ! 迷子になったー!」
「何ぃぃっ!?」
 どうやら、一大事件が勃発してしまったようである。

●チェックアウト〜お会計〜
「結局ここでは何もわからなかったですね‥‥」
 散々調べまわったクルスは、不満そうにそう答えている。
「楽しかったー。またこようねっ」
 プティは、遊園地を後にするときの様に、上機嫌のままだ。
「私も、お兄様とまた来たいですわ」
「あ、あははは‥‥」
 彩の隣では、その兄貴が引きつった笑みを浮かべていたり。
「ぶー‥‥」
「何か、機嫌が悪いんだが」
「しらん」
 ネイナの所は、連れの子供の機嫌の悪さに、その子を抱いた青年が、情けない表情をして居る。
「どこのご家庭もご亭主は大変ですわねー」
「マスター・レーナ。それ以前に、これ、どうしましょう」
 その様子に、レーナがほほえましく言った。と、隣でガビィが尋ねてくる。そう、たった一人、元に戻らなかったのもいたのだ。
「ぴぎゃぁぁぁぁっ」
「しばらく放っておけば元に戻りますわ。オールサイバーだから、元にも戻りにくいんでしょう」
 ケーナズである。お仕置きと幼児化の湯の相乗効果で、未だに赤ん坊状態だ。
「何か、まだ頭がボーっとする‥‥」
 黎司は、湯あたりを起こしてしまったようだ。しばらく風に当たっていれば平気だろうが、はたしてその原因は、温泉疲れだけだろうか。
「大丈夫ですか? 熱に弱いのに、無茶するからですよ」
「うん‥‥」
 もう1人、湯あたりを起こしてしまった青年が居る。シオンと共に来たキウィもそうだ。
「あたたた、腰が‥‥」
「無理するからですよ。まったく、温泉に来て、ぎっくり腰になるなんて‥‥」
 ローゼンクロイツはと言えば、年寄りの冷や水で無茶をしすぎて、ルツにさすってもらっている。
 と、そんな彼らに、旅館を代表して、礼服を着た一番血色の悪そうな従業員が、こう言った。
「アリガトウゴザイマス。ミナサマノオカゲで、貴重な生体エネルギーが手に入りましたわ」
「あ、血色が良くなった」
 見る見るうちに、その血色が良くなっていき、言葉も滑らかな発音になって行く。
「これで、しばらくは行動できます。また、何人かには招待状を渡すかもしれませんが、その時には、別の趣向を凝らしますので、楽しみに待っていてくださいましね‥‥」
 だが、ソレとともに、旅館は次第にその姿を薄くして行った。
「消えた?」
 後に残ったのは、雑草の生い茂る野原。申し訳程度に、建物の跡はあるが、温泉も従業員も、影も形もなく消えている。
「ホログラフか‥‥。実体を伴うなんて、どこの技術だよ‥‥」
 世の中には、まだ自分の知らない技術があるようだ。そう思うクルス。
 ところが。
「あれ? そういえば‥‥。ここ、戦争か何かで、一回崩壊した城の跡とか言う話を聞いた覚えが‥‥」
「「「「なにぃぃぃぃっ!!?」」」
 黎司の言葉が、一同の温泉熱を、一気に零下まで、湯冷めさせてしまったのは、言うまでもなかった‥‥。