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<アナザーレポート・PCゲームノベル>


【Handle with Care】奪還〜傷つける力〜

Period:A1−【傷つける力】

 歩く少女。その目は虚ろなるままに、施設の廊下を歩き続けている。その足取りはふらふらとおぼつかない足取り……誰かに操られているというのが、一目瞭然であった。
『……こ、っち……? 境君……こっちに、いるの?』
 周囲の誰もが、施設を歩く少女、聖・沙羅亜を止められずにいた。
 彼女がいた部屋は、厚いドアによって仕切られていた、いわば独居房のような部屋である。並大抵のエスパーでも、そのドアは壊せない程のドアが彼女の部屋に設置してあったのだ……しかし、そのドアを容易く破壊したのは紛れもなく彼女自身の力である。
 彼女の力に、今ここで対抗出来るような者はいない。誰だって、自分の命が最優先である。
 しかし。
「聖ちゃん、聖ちゃん!どうしたの? ねぇ、止まってよ!」
 彼女の前に立ち塞がり、声を掛けるのは、彼女をここに連れてきた、弱冠6才の少女プティーラ・ホワイト。
(……今の聖ちゃん、何が正しいのかも、何が間違っているのかも分かってない。いつもの聖ちゃんじゃない。でも……プーは聖ちゃんが好きだし、守りたいもん。だから聖ちゃんを絶対に止めてみせるの)
 プティーラの内面に、そのような思いが生まれていた。今の聖が普段の聖ではない事も重々承知している。
 しかし、止められずにはいなかった。それが情愛なのか、ただの興味から来ているのかは分からない。でも、聖の事をプティーラは友達と思っているのは紛れもない事実。だからこそ、苦しんでいる彼女を助けてあげたいと思う。
 自分が連れてきて、部屋でずっと泣き続けていた聖。プティーラは幾度となく部屋を訪れ、ドア越しに励まそうとしたが……顔を上げる事もなく、泣き続けていたのである。
『……私を……助けて……』
 聖が虚ろに呟いた言葉は、誰に向けて呟いた言葉なのだろうか。
「プーが助けてあげるから、聖ちゃん、絶対に守ってあげるから! だからお願い、止まってよ!」
 プティーラの言葉は、聖に通じたのだろうか。僅かにプティーラの前で立ち止まる聖。
「聖ちゃん!?」
 聖の目を見ながら叫ぶプティーラ。しかし。
『…………』
 聖はプティーラの横を通り過ぎていく。
「聖ちゃん! お願い、立ち止まってよぉ……」
 力押しだけはしたくない。彼女が自分の意志でどこかへ行くなら、自分は止められないから……。
 だからプティーラは、延々と聖に語り続けるしかなかった。
 彼女に止まって欲しい、そして、話を聞いて欲しい。その一心だけで。

Period:A2−【守護】

 プティーラと同じく、彼女に向けて語りかける者が居た。
 彼女の名前は、ガブリエラ・ホフマン。神秘的な濃い緑色の瞳をしたエスパーの少女。
 彼女の過去は、今の聖とダブる部分が多くあった。だからこそ、聖の辛さは我が身のように感じていたのだ。
 ガブリエラは、遠距離会話の能力を使って聖へと呼びかけ続ける。彼女が少しでも自分の話に共感してくれれば、少しでも足止めになるならと思いながら……。
「……聖、聖。お願い、話を聞いて?」
 少し離れた所から、彼女に直接語りかける。少しでも立ち止まってくれるように、クリアに少しでも近づけないように。そして、自分の話に心を開いて貰えるように、母親のような口調で話していた。
 プティーラも彼女と共に語りかけている。二人の必死の説得に、聖の中に存在する抑えつけられている心は、精神操作によって乗っ取っている心を必死にはね除けようとしていた。
 外でクリアへの狙撃が成功し、クリアのサイコ能力が僅かに揺らいだ為だろうか、その力関係は次第に抑えつけられていた心の方が勝ろうとしていた。
 一つの心の中でせめぎ合う二つの心。聖の心は、今葛藤状態にある。
 立ち止まった聖に対して、ガブリエラは彼女へと続けて語りかけていく。自分の過去を淡々と。
「……聖、……あたし、聖の事は良く分かるよ。 あたしだって……昔は自分の力が怖くてしょうがなかった。こんな力いらないって、私も思った事あるわ」
『……私だって……こんな、こんな力……いらない、よ……』
 絞り出すような聖の声。
「うん……でも、今は違う。大切なマスター、そして大勢の人達と巡り会って、自分の力をどう制御するべきかを学んだから。だから、聖……貴方はまだ絶望するのはまだ早いの。みんな、貴方の仲間よ? プティーラも、そして私も貴方の仲間。 貴方を傷つけたくない。だから……クリアのサイコ能力になんて、負けないで」
『……でも、でも……』
 ガブリエラの言葉の後に、プティーラが続く。
「そうだよ、みんな聖ちゃんを傷つけたくないもん。 ……プー、聖ちゃんの事友達だと思ってる。私からの一方通行かもしれないけどね、でも友達を傷つけたくないよ。だから……戻ってきて」
 聖の手を、両手でぎゅっと握るプティーラ。聖の手を覆い隠す事は出来ないものの、人の温かさが手を通じて聖に伝わっていく。
 その隙に、ガブリエラは、そのまま彼女の思考の中に潜入する。
 彼女の今までの記憶、少しでも探れれば……と。
 しかし、クリアの強い精神操作のエスパー能力によって、思考の断片は読み取れるものの、深層心理の部分までは入り込める状態ではなかった。
 足を止め、虚ろな表情の聖。
 そして……外でクリアを追い払ったと共に、聖への精神操作は解ける事になる。

                 ◇

 クリアのサイコ能力が解けると共に、聖はその場に倒れる。まるで、糸が切れた操り人形かのように。
「聖ちゃんっ!」
 プティーラが慌てて駆け寄る。6才の体に10才の体が重なる……プティーラは抑えきれずに、聖の体を受け止めたままその場にしりもちを付いた。
「いたたたた……聖ちゃん、大丈夫っ?」
 お尻は痛い、涙が出そうだけれどそれは必死に我慢するプティーラ。今は自分の体より、聖の体の方が大事だから。
 しかし、聖に声を掛けても声は帰ってこない。
 クリアの精神操作の能力、そして聖自身が持つ能力を使用した為に既に聖の疲労は限界に陥っている。糸が切れたように彼女は深い気絶の状態へと陥っていたのだ。
 少し時間が経過、ガブリエラがプティーラの所へと走ってくる。
「プティーラさん、大丈夫?」
「う、うん、大丈夫だよぉ……私よりも聖さんを助けてあげてぇ……」
 ちっちゃい体をじたばたさせながら、プティーラは答える。
 プティーラの上に乗っかっている聖を抱き上げる。聖の体はまだぐったりとしている。
 ガブリエラが聖の口に手を当てる……手に感じる呼吸。息はある。
「……大丈夫、聖は生きていますわ。 死んではいません」
「良かったぁ……聖ちゃん、生きてるんだ……」
 ほっとしたプティーラ。どっと疲れが出てくるけれど、聖が意識を取り戻すまでは安心出来ない。
「でも、大丈夫かなぁ……?」
「私が、聖の精神治療をしますから。 ……医務室のベッドにでも、聖を寝かせてあげた方が良いかと思います」
「うん、そうだねっ」
 プティーラがガブリエラと共に聖を医務室に連れて行く。
 ベッドに寝かせた聖の顔は、どことなく安らかに微笑んでいた。
「……聖の精神、私が直してあげるから……ね」
 と呟き、ガブリエラは聖の精神治療の能力を行使する。
 彼女の手を、ガブリエラの両手で包み、彼女の精神に残った影響を取り除いていく。
 ただ見つめるプティーラ。手を合わせ、聖の意識が早く戻ってくれる事を祈っていた。
 そして……数分後、聖は目を開けた。

Period:3 −【奪還】

 施設医務室。
 聖はガブリエラの精神治療によって、気を取り戻す聖。
『……私……私……こわ、こわかった、よぅ……』
 ガブリエラの胸へと抱きついて無く聖。ガブリエラは抱きついてくる聖を優しく抱き留めた。
「大丈夫……もう、大丈夫ですから、ね?」
 母親、というか姉のように微笑むガブリエラ。そしてその隣にはプティーラもにこっと微笑みながら立っている。
「うん、怖かったと思うよ? でも、戻ってきてくれてよかったの♪ 聖ちゃん、私はいつまでも聖ちゃんの友達だから、何でも話してくれると嬉しいの」
 プティーラの言葉に、胸に顔を埋めながら頷く聖。
『本当に、本当に怖かった……でも、でも私、まだ皆に迷惑を掛けちゃった……私、やっぱりここにいても、皆に迷惑を掛けちゃうよね……』
「そんな事無いですよ? 私達が、聖の事を絶対に守ってあげますから」
 ガブリエラの微笑み。しかし二度の事態が聖に自信喪失させていた。
 そこに、更に追い打ちを掛けるような言葉が降りかかる。
「……貴方がそうしてふさぎ込んでいた所で、何も変わりはしませんよ? 泣きたければ泣けば宜しい。所詮は子供なのですから」
 嘲笑うのは、戦闘を終えて戻ってきた響夜である。
「ちょ、な、何を言ってるのよっ!」
 突き放す言葉を言う響夜に怒るプティーラ。しかし響夜の表情は微笑んだまま、その真意は隠されたままである。
「エスパーの力、超能力の力は、子供が容易く操れるものではないのですよ。そして使い方を間違えれば、人間の一人や二人、すぐに殺す事が出来る。 そんな力を使いたくないのなら、厳重に囲まれた部屋で泣きながら一生過ごしている事をおすすめしますよ」
 人間の一人や二人、すぐに殺せる事が出来る力……震える体、そんな怯えている聖をぎゅっと抱きしめた。
「聖、大丈夫……超能力は悪じゃない。確かに貴方はまだ制御できないから、その力は恐ろしいかもしれない、でもそれを制御して、正しい事に使えば、何十人、いや何百人という人を助ける事が出来るの。 ……今は、制御できなくてもいい。少しずつ、制御できるようになればいいのよ」
 次第に震えが治まっていく。
 そして……聖は響夜に向けて叫ぶ。
『……大丈夫、だもんっ! 私、私……がんばって、自分の力を制御出来るようになって、たくさんの人、助けるんだもんっ!!』
「うん、プーも応援するねっ!」
 プティーラの言葉に励まされ、そして聖は自分の力を制御出来るように努力する事を決めた。
 しかし、完全に制御できるようになるのは、まだ先の話である。

「……ふう、そういえばこの施設、何をやってる所なんでしょう?」
 施設の警備をしているクリストフ、警備を終えて施設の内部をぶらぶらと歩いていた。
「何だかの研究施設だとは聞いたけど、その詳細は教えてくれなかったんですよね……」
 ぶらぶら歩くクリストフは、とある部屋の前に着くと。
<ゴボゴボゴボ…………>
 熱帯魚の水槽の中に入れた酸素ポンプのような、そんな音が部屋の中から聞こえてくる。
「……ん?」
 微かに興味を持ったクリストフは、ドアを僅かにそっと開ける。
 ドア内部は、暗い部屋にたくさんの機械、そしてカプセルが見えていた。
「何なんでしょう、ここは……」
 更に興味に駆られたクリストフ。ドアをそっと開けて、中へと侵入する。
 そこには……。
「これは……人間?」
 カプセルの中には、各々人間が入っていたのである。その外見年齢も幼少から青年まで多種揃っている。
「……なんでしょう、これ……」
 彼の問いには答えず、カプセルと機械からは無機質な音が継続的に発せられるだけである。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【0026 / プティーラ・ホワイト / 女 / 6歳 / エスパー】
【0085 / ガブリエラ・ホフマン / 女 / 18歳 / エスパー】
【0234 / クリストフ・ミュンツアー / 男 /
                32歳(外見15才) / オールサイバー】
【0382 / 黒神・響夜 / 男 / 24歳 / エスパー】

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■   ライター通信          ■
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 どうも、お待たせ致しました、燕です。
 【Handle With Care.】奪還〜傷つける力〜、お届けします。
 今回、色々と意味深な言葉をクリアは吐いていますが、今後の依頼に関わっています。
 又施設の一端も僅かに見え隠れしていますが、この部分は今回以前までは皆様知らない事になっている「施設の重要機密」な部分となっています。
 これらの部分は今後知っている情報として扱って構いません。

 それでは、また次の依頼で出会える事を……。

                              (2003/8/11 燕)
>ガブリエラ様
 どうもご参加いただきどうもありがとうございます。
 主に聖と同じ境遇と言う事で、かなり活躍しています。
 聖も自分の能力を伸ばそうとする事になりました。ただまだ未熟な力な為、皆様の助けが必要となるでしょう。
 末永く見守ってやって下さいませ。