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【Handle with Care】奪還〜傷つける力〜
Period:B1−【操作】
施設を見下ろせる小高い丘に、NGO「テンペスト・アーク」の一員、クリア・カンタートは立っていた。
その姿は、以前のようなラフな若者(男性)の姿。ぱっと見ても、どこにでもいる若者という感じである彼女の姿に、テンペスト・アークの陰は見えない。
そんなクリアが、遙か遠くの施設の方を見下ろしながら、小声で呟いた。
『……聖。貴方の力は、放置しておくのには危険なのよ……この施設だって、貴方の力を利用しようとする者の一つ。 ……例え、私はテンペスト・アークを裏切る事になったとしても、貴方を守ってみせるわ』
クリアの呟きは、誰に向けたものなのだろうか。それはクリア自身にしか分からない。
クリアは目を閉じて集中する。彼女の大いなる力が、次第に指先へと集中していく。
そして彼女の頭の中に、聖の姿を強く思い描いて。
『……貴方を苦しめたくは無い……だから、今の私が貴方を助けられる手段はこれしかないから……いくわよ』
と呟くと共に、クリアの能力は聖へと向けて発動される。緑色の火花と共に。
クリアを探しに外に出てきたのは、オールサイバーのクリストフ・ミュンツアーと、エスパーの黒神・響夜の二人である。
クリストフの【サイバーアイ】と【レーダー】により、容易くクリアの場所は特定する二人。
スコープから覗く、小高い丘の上に立つクリアの姿を確認する。プティーラ・ホワイトが以前話していた、聖を奪おうとした女性、クリア・カンタートの顔と一致していた。
「あの人がクリアさんですね……聖さんを操っている人は」
「そうみたいですね、一刻も早く彼女を倒さなければ、聖さんが連れ去られてしまうでしょう」
クリストフも響夜も、黒い服を着込んでいて、どことなく似ている。
それはさておき、二人はクリアの姿を遠くに見ながら作戦を考えていた。
「……僕がクリアさんを狙撃し、注意を引きつけますから響夜さんはその隙をついて、彼女を追い払うようお願いします」
「了解、任せて下さい」
(……聖さんをこの場で連れ去られてしまえば、聖さんと戦う事が出来なくなりますし。聖さんがエスパーとして成長してゆけば、きっと私の最高の敵となるでしょうしね……ふふ)
響夜は、聖を守りたいから守るのではなかった。
響夜が興味あるのは、聖の強いサイコ能力のみ。強い敵と戦いたいという、その興味の為である。
「それでは……作戦開始は今から10分後……行きましょうか」
クリストフの言葉に響夜は頷き、そして走り出ていく。
クリアと戦うために。
Period:B2−【狙撃】
『ええ……こっちよ、聖……そう、怖がる必要なんて無いわ。二人の言葉に惑わされないで……私の所へ……いらっしゃい』
聖を遠隔で誘導するクリア。しかしプティーラ・ホワイトとガブリエラ・ホフマンの二人が引き留めている事によって、抑えつけている筈の心が次第に復活し始めていて、彼女の計画は足止めを食らっていた。
強く引き寄せようとすれば、それ程に聖が苦しんでしまう。……だから、クリアは聖をそれ以上強く誘導する事は出来なかった。もちろんやろうとすれば、彼女がそれ以上の力で聖を抑えつける事が出来たのは言うまでもない。
『……大丈夫、恐れないで。私達は、貴方を保護してあげる……そこは危険よ』
とクリアが語りかけていたその時。クリストフと響夜の作戦開始から、ちょうど10分が経過した。
クリアに向けて放たれる弾丸。
『……厳しいわね、でも……あきらめるわけには……っ!』
クリアが呟いている所に、クリストフの20mmオートライフルが放たれる。
彼女の心臓を目掛けて放たれたその砲弾は、あと少しでの所で急所を外れた。
彼女の服を裂き、そしてそこから一筋の血が流れ出た。
けがをした部分を片手で押さえながら。
『くっ……敵か』
特に慌てた様子もなく、冷静に状況を判断するクリア。
周囲を確認するも、遠距離から放たれた銃弾は方向しか分からず、誰が放ったかは分かるはずが無かった。
更にクリストフはもう一発、二発とクリアを狙撃し続ける。クリアはかわし続けるものの、その為に聖への記憶操作は僅かにほころびが生じ始めていた。
そして……続けざまに響夜が自信を持っているテレパシー能力がクリアに向けて発動した。
その能力はサイ攻撃。響夜の額から赤いスパークが生じると。
『ぐぅ……っ!』
同じように、クリアの脳内に衝撃が生じ、その額からは響夜と同じく赤いスパークが生じる。
クリアは軽い目眩を覚えながらも耐えた。
『……2対1……分が悪いけど、負けるわけにはいかないのよ』
そう言うと、クリアは響夜の五感に痛みを送り込んだ。腕を引きちぎられるような痛みを響夜は感じる。
テンペスト・アークの一員であるクリア。自分自身が誰かの腕を引きちぎった事もある。
だからこそ、腕を引きちぎられる痛みに苦しむ者を何度も見てきていた。その心の苦しみを、響夜へと放った。
「ぅぁぁっ!!」
その痛みは、精神的に苦しめる永続的な痛み。
響夜は痛む片腕を抑えながら、クリアの前へと出てくる。痛みを感じさせないよう、思いきり強がっては見るものの、腕は悲鳴を上げている。
「ふふ……なかなかやりますね、クリア・カンタートさん」
『……貴方は誰? ……この施設の関係者である事は間違いないわね』
「さあね、関係者で無いかもしれませんよ」
『……そう、ともかくここの真実を知らない者の一人なのね……かわいそうな人』
「……ここの真実?」
そして二人の間に、僅かな静寂が流れる。
サイコ能力者が正対し、お互いの力量を見極め合った。
一対一では、明らかにクリアの方が上であるのが、響夜は即座に理解できる。
だからといって、逃げ去るわけにも行かない。クリアを倒さなければ、聖はこのまま連れ去られてしまう。自分の中の、最強の敵が、居なくなってしまうから。
「……負けません、私より強い奴を倒す事程、嬉しい者はないですから」
不敵に微笑むと、再度クリアと響夜のサイコ能力の応酬が始まった。
殆ど間合いが変化しないままで、二人の間をスパークが飛び交う。
その間を縫って、クリストフの放つ銃弾。かわし続けるのは、まだまだ余裕がある証拠だろう。
でも、いかに優れた能力を有するNGO「テンペスト・アーク」の一員であっても、やはり2対1の戦いは分が悪い。
二人なら疲労しないよう分散して攻撃をする事が出来るが、対するこっちは休む暇もないのだから。
次第に押され始める……捕まるなら、一度引いて体制を立て直すべきだと悟る。
『……仕方ないわ、でも……必ず聖は取り戻しに来る。 ……私の、大事な仲間だから』
「待てっ!」
響夜が追いかけるも、クリアはスパークと共に忽然と目の前から居なくなってしまった。
「……逃げられたかっ」
「仕方ないよ……追い払う事は出来たんだし……おっと」
クリアが逃げて少し経つと、インカムを通じて聖は無事に落ち着いた事が伝えられる。
「……聖の方も無事みたいだな。 戻るとするか」
響夜がそう言うと、クリストフは苦笑いを浮かべて。
「僕は遠慮しておきますよ。 アフターケア云々は、僕の柄の仕事でもないですしね」
と言って、クリストフは手をひらひら振って施設の警備へと戻っていく。
「……私だって、そんな柄ではないのですがね」
苦笑しながら戻る響夜。そこに。
『……一刻も早く、その施設を出た方がいい……きっと、後悔する事になる』
心の中に響く声。その声は……クリア。
「……どういう事でしょう?」
響夜が言葉を返すも、それに対する言葉は返ってこなかった。
Period:3 −【奪還】
施設医務室。
聖はガブリエラの精神治療によって、気を取り戻す聖。
『……私……私……こわ、こわかった、よぅ……』
ガブリエラの胸へと抱きついて無く聖。ガブリエラは抱きついてくる聖を優しく抱き留めた。
「大丈夫……もう、大丈夫ですから、ね?」
母親、というか姉のように微笑むガブリエラ。そしてその隣にはプティーラもにこっと微笑みながら立っている。
「うん、怖かったと思うよ? でも、戻ってきてくれてよかったの♪ 聖ちゃん、私はいつまでも聖ちゃんの友達だから、何でも話してくれると嬉しいの」
プティーラの言葉に、胸に顔を埋めながら頷く聖。
『本当に、本当に怖かった……でも、でも私、まだ皆に迷惑を掛けちゃった……私、やっぱりここにいても、皆に迷惑を掛けちゃうよね……』
「そんな事無いですよ? 私達が、聖の事を絶対に守ってあげますから」
ガブリエラの微笑み。しかし二度の事態が聖に自信喪失させていた。
そこに、更に追い打ちを掛けるような言葉が降りかかる。
「……貴方がそうしてふさぎ込んでいた所で、何も変わりはしませんよ? 泣きたければ泣けば宜しい。所詮は子供なのですから」
嘲笑うのは、戦闘を終えて戻ってきた響夜である。
「ちょ、な、何を言ってるのよっ!」
突き放す言葉を言う響夜に怒るプティーラ。しかし響夜の表情は微笑んだまま、その真意は隠されたままである。
「エスパーの力、超能力の力は、子供が容易く操れるものではないのですよ。そして使い方を間違えれば、人間の一人や二人、すぐに殺す事が出来る。 そんな力を使いたくないのなら、厳重に囲まれた部屋で泣きながら一生過ごしている事をおすすめしますよ」
人間の一人や二人、すぐに殺せる事が出来る力……震える体、そんな怯えている聖をぎゅっと抱きしめた。
「聖、大丈夫……超能力は悪じゃない。確かに貴方はまだ制御できないから、その力は恐ろしいかもしれない、でもそれを制御して、正しい事に使えば、何十人、いや何百人という人を助ける事が出来るの。 ……今は、制御できなくてもいい。少しずつ、制御できるようになればいいのよ」
次第に震えが治まっていく。
そして……聖は響夜に向けて叫ぶ。
『……大丈夫、だもんっ! 私、私……がんばって、自分の力を制御出来るようになって、たくさんの人、助けるんだもんっ!!』
「うん、プーも応援するねっ!」
プティーラの言葉に励まされ、そして聖は自分の力を制御出来るように努力する事を決めた。
しかし、完全に制御できるようになるのは、まだ先の話である。
「……ふう、そういえばこの施設、何をやってる所なんでしょう?」
施設の警備をしているクリストフ、警備を終えて施設の内部をぶらぶらと歩いていた。
「何だかの研究施設だとは聞いたけど、その詳細は教えてくれなかったんですよね……」
ぶらぶら歩くクリストフは、とある部屋の前に着くと。
<ゴボゴボゴボ…………>
熱帯魚の水槽の中に入れた酸素ポンプのような、そんな音が部屋の中から聞こえてくる。
「……ん?」
微かに興味を持ったクリストフは、ドアを僅かにそっと開ける。
ドア内部は、暗い部屋にたくさんの機械、そしてカプセルが見えていた。
「何なんでしょう、ここは……」
更に興味に駆られたクリストフ。ドアをそっと開けて、中へと侵入する。
そこには……。
「これは……人間?」
カプセルの中には、各々人間が入っていたのである。その外見年齢も幼少から青年まで多種揃っている。
「……なんでしょう、これ……」
彼の問いには答えず、カプセルと機械からは無機質な音が継続的に発せられるだけである。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【0026 / プティーラ・ホワイト / 女 / 6歳 / エスパー】
【0085 / ガブリエラ・ホフマン / 女 / 18歳 / エスパー】
【0234 / クリストフ・ミュンツアー / 男 /
32歳(外見15才) / オールサイバー】
【0382 / 黒神・響夜 / 男 / 24歳 / エスパー】
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■ ライター通信 ■
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どうも、お待たせ致しました、燕です。
【Handle With Care.】奪還〜傷つける力〜、お届けします。
今回、色々と意味深な言葉をクリアは吐いていますが、今後の依頼に関わっています。
又施設の一端も僅かに見え隠れしていますが、この部分は今回以前までは皆様知らない事になっている「施設の重要機密」な部分となっています。
これらの部分は今後知っている情報として扱って構いません。
それでは、また次の依頼で出会える事を……。
(2003/8/11 燕)
>クリストフ様
どうも、ご参加いただきありがとうございます。
今回最後に見たとおり、この施設は”ある物”を研究している施設です。
その裏に何があるのかは、今後明らかになっていく事になります。
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