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<アナザーレポート・PCゲームノベル>


こちら邪神温泉地獄一丁目旅館
●告白温泉〜国家機密暴露タイム〜
 いかに新婚夫婦とは言え、風呂と言うのは、たいてい別物と言うのが、普通の温泉だ。
「ルツー、そっちはどうですかー?」
「快適ですよー」
 塀の向こう側で、エルンスト・ローゼンクロイツの言葉に、そう答えるルツ・クラヴィーア。
「しかし‥‥。色々な湯があると言う話だったのに、貸切が多くて、困ってしまいます。それほど人気なんでしょうかね?」
 楽しい効能を期待してきたのだが、ついた時間が遅かったせいか、どこかしこも『貸切』だの『使用中』だのと書かれ、余り楽しめていない。もっとも、ルツは「私は普通の温泉で構いませんよ」と、そう答えてくれたのだが。
「それもそうですが‥‥。せっかくなんで、面白い湯に入って見たいと思うんですが、一緒にどうですか?」
「ローゼンクロイツさんとご一緒出来るなら、混浴でも構いませんわー」
 風呂上りのビールでも飲みながら、そう提案すると、彼女は快く引き受けてくれた。
「ははは。残念ながら、そう言う施設はなさそうだ」
 その代わりに、貸切風呂が多いのだろう。そう話していると、ちょうど目の前の風呂ががらりと開いた。
「お待たせしました」
「お。どうやらちょうど向こうの貸切が、開いたようだよ」
 出てきたのは、巫女風の着物に身を包んだ少女と、その手をひいている青年である。
「何だか2人とも、やけに顔が赤いですわね。どうしたのかしら」
「入ってみればわかると思うが‥‥」
 ルツの疑問に、そう答えるローゼンクロイツ。出てきた2人ともやけに真っ赤な顔である。その理由は、はいってみて、すぐにわかった。
「こ、これは‥‥。仕切りと言うより、板では‥‥」
 二つの湯船を仕切るのは、薄い板上の塀。しかも、普通に立ち上がると、頭1つ分出てしまうほどの低さだ。
「一応、申し訳程度に隠れるようだが‥‥。これは、ちょっと身軽な者なら、楽に飛び越えられるか、水練に長けた者なら、潜ってしまえそうだな」
 オマケに、底の方がつながって居るらしい。先ほどのカップルは、この移動のしやすさにかまけて、混浴してしまったのだろう。
「入ります?」
「もちろんだよ。温泉に来て、温泉に入らないのは、本末転倒だろう?」
 それでも、そう言ってくるローゼンクロイツ。
「ふむ‥‥。どうやら、外見的変化は起こらないようだ。しかし‥‥」
 ぐるりと周囲を見回して、彼が口にした言葉は。
「この形状は、○○の地下実験場の様ですね‥‥。こちらのは‥‥」
「えっ? 今一体‥‥」
 やはりこの温泉を調べていたもう一人、クリスが彼の話の内容に、眼を丸くする。
「あのプロジェクトは大変だったなぁ‥‥。ばらしてはいけないので、わざわざ三重のカモフラージュを施して‥‥」
 そう。彼の話していたセリフは、彼がかなり上の立場な事を利用して手に入れた、国家機密の数々だった。
「ちょ、ちょっと待ってください! それ、大変な事ですよ!?」
「え? そうでしたか?」
 しかも、ローゼンクロイツ自身には、欠片も自覚はないらしい。あわてたのは、話を聞いていたルツの方だ。
「うわぁぁぁ! 大変! ローゼンクロイツさんが、国家機密をしゃべってるー!」
「武器製造計画は、うまく進んでいるんでしょうか。あれは山の中で知られないように、こっそり行わなければ‥‥」
 今の所、過去の事ばかりで、重大な支障がある話は少ない。
「そ、そんな計画があったんですか!?」
「ええ」
 せいぜいクリスが眼を丸くする程度だ。
「まずいですわ! このままでは、いらない事までしゃべってしまいます‥‥。そうだ!」
 ポーンと名案の思いついたらしい彼女は、手を叩き、ローゼンクロイツの話に耳を傾けた。
「今、○○のシステムは、△△の秘密条項に従って、□□指揮官が中心になってますが、☆☆さんには、裏ルートでこっそり××を横流ししておかないと‥‥」
 長い事秘書をやっていたルツにとって、どれがまづい話で、どれが聞かせてもいい言葉かくらいは、判別できる。そのまづい話の部分に、彼女は自分の口で放送禁止音を流しまくっていた。
「何か、急に聞こえにくくなりましたが‥‥。まぁ、その方が安心できます。心臓に悪いですよ‥‥」
 クリスの方も、ほっと胸をなでおろす。これで余計な事を知って、暗殺なんて目には、正直、合いたくはない。
「ああ、調子に乗って、ぺらぺらと話し倒してしまいました。気がつかないうちに、だいぶストレスがたまっていたんですね‥‥」
「はー‥‥焦った‥‥」
 ようやく話は終わったらしい。安心するルツ。
「王様の耳はロバの耳。色々話してすっきりしましたよ」
「いえいえ。私も貴重なお話が聞けて、色々と情報を収集できました。なるほど、この不可思議な温泉も、国家的陰謀な機密条項に属するものなら、隠匿された建物であると言うのも、納得できます」
 クルスの方は、何かとんでもない勘違いをしてしまったようだ。
「いや、ここはそうでもないですよ。こんな面白い温泉があったら、是非、紹介したいですしね」
 これ以上余計な事を言われても困る。そう判断したルツは、壁からひょいっと顔をのぞかせて、彼に声をかけた。
「ローゼンクロイツさん。大丈夫ですか?」
「ええ。何かありましたか?」
 いつもの通りだ。と、その話相手を視界の端に入れたルツは、こう挨拶する。
「いえ‥‥。ああ、他にもいらっしゃったんですね」
「お邪魔虫ですみませんね。でも、こうして子供の振りして観察していたら、きっと重要な情報が手に入って‥‥あれ?」
 で、そのクルスの方も、浸かっていたせいで、『暴露温泉効果』の餌食になっている。
「気をつけた方がいいですよ。ここ、油断すると、言えない事を言わされちゃうみたいですから」
「自分では気付かないみたいですね。精神に作用して、深層心理に刷り込まれたモノを呼び起こす‥‥そんな感じでしょうか?」
 そう、この温泉、最初のうちはまともに話せるのだ。
「そこまで行かないでしょう。せいぜい、心にしまっておいた秘密‥‥くらいかと」
「そうですわね。やっぱり、カップリングするなら、絶対に総帥受けに限りますよね。いやー。ローゼンクロイツさんは、意外と攻めなんですけど、私以外の人を襲っちゃ嫌ですよ」
 だが、その話がとんでもない方向に、自然と向かってしまう。それが、その恐ろしい効能だった。
「それって、襲われるのは構わないって事ですよね。ああ、別に興味が湧いたら、男だろうが構わないんですけどね。私も」
「いや。私には、すでにルツと言う女性が‥‥。しかし、総帥には生涯忠義を尽くそうと‥‥」
 おまけに、1人効果が発動すると、あとは雪崩式。
「きゃあ、やっぱり♪ で、美味しくいただかれてしまうんですね」
「いやー。話を聞く限り、怪しいとは思ってたんですよ」
 いつの間にか、三人の話は、ローゼンクロイツを中心にした、いわゆる『同性愛ネタ』で盛り上がってしまっていた。
「これは、是非他の方々にも教えて差し上げないと。うふふふ。この間出るって言ってた、IF本、楽しみなんです」
「それは興味深い。是非一読して見たいものです」
 クリスも巻き込まれ、そんな事を口走っている。
「い、いかん! 止まらなくなっている。ここは頭を冷やさなければ!」
「あっ。ローゼンクロイツさん。そんな風に頭から潜ると!」
 ずぼっと湯船の中にもぐり、反対側のルツの居る場所へと向かうローゼンクロイツ。
「ルツ!」
 ざばぁっと浮上した彼は、がしりと彼女の両肩をつかみ、こう叫ぶ。
「私も年だ。早く子供が欲しい! 君にそんな恥ずかしいセリフを吐かせる位なら、いっそのこと、今ここで!」
「ろ、ローゼンクロイツさん! な、何言ってるんですか!!」
 強く抱き寄せられ、パニックを起こすルツ。
「ルツー! 愛しているぞーーー!!!」
「きゃぁぁぁっ。誰か止めてェェッ」
 いくら夫婦とは言え、ここで押し倒されるのは勘弁して欲しいですーーーー!! と、思わずそういいかけたその時だった。
 ばしゃぁっと、ローゼンクロイツに、水がかぶせられる。
「危なかったですね」
「あ、ありがとうございますぅ‥‥」
 大人しくなった彼を抱える格好となったルツだったが、ひとまず鬼畜プレイの餌食となる事だけは免れたらしい。礼を言う彼女。
「うーん‥‥」
「はっ! 大丈夫ですか? しっかりしてください!」
 何しろ、いい年である。このまま心臓発作でぽっくり‥‥なんて話も、冗談ではすまない。
「わ、私は何を‥‥」
「これ以上居ると、大変な事になりそうです。上がった方がいいと思いますよ」
 幸いにも、大した事はなく、ローゼンクロイツはすぐに眼を覚ました。クルスの忠告に、彼らは素直に従う事にする。
「そうですね。上がろうか」
「はい〜」
 ところが、話はこれで終わりではない。
「うわっ。ルツ!」
「きゅう〜」
 暴れたせいか、
「のぼせてしまいましたか。これ、どうぞ」
「助かります。さすがに、このまま連れて行くわけに行きませんから」
 バスタオルを受け取り、それにくるむようにして、彼女を横向きに抱え上げるローゼンクロイツ。
「お幸せに」
「‥‥」
 ぼそりとそう言われ、真っ赤になるのはご愛嬌。
「でも、今日は頑張ってみようと思ったのは、本当だよ♪」
「ぷしゅぅ〜‥‥」
 もっとも、囁かれた方は、そんな美味しいせりふを、気を失っていて聞き逃してしまうのだった。

●チェックアウト〜お会計〜
「結局ここでは何もわからなかったですね‥‥」
 散々調べまわったクルスは、不満そうにそう答えている。
「楽しかったー。またこようねっ」
 プティは、遊園地を後にするときの様に、上機嫌のままだ。
「私も、お兄様とまた来たいですわ」
「あ、あははは‥‥」
 彩の隣では、その兄貴が引きつった笑みを浮かべていたり。
「ぶー‥‥」
「何か、機嫌が悪いんだが」
「しらん」
 ネイナの所は、連れの子供の機嫌の悪さに、その子を抱いた青年が、情けない表情をして居る。
「どこのご家庭もご亭主は大変ですわねー」
「マスター・レーナ。それ以前に、これ、どうしましょう」
 その様子に、レーナがほほえましく言った。と、隣でガビィが尋ねてくる。そう、たった一人、元に戻らなかったのもいたのだ。
「ぴぎゃぁぁぁぁっ」
「しばらく放っておけば元に戻りますわ。オールサイバーだから、元にも戻りにくいんでしょう」
 ケーナズである。お仕置きと幼児化の湯の相乗効果で、未だに赤ん坊状態だ。
「何か、まだ頭がボーっとする‥‥」
 黎司は、湯あたりを起こしてしまったようだ。しばらく風に当たっていれば平気だろうが、はたしてその原因は、温泉疲れだけだろうか。
「大丈夫ですか? 熱に弱いのに、無茶するからですよ」
「うん‥‥」
 もう1人、湯あたりを起こしてしまった青年が居る。シオンと共に来たキウィもそうだ。
「あたたた、腰が‥‥」
「無理するからですよ。まったく、温泉に来て、ぎっくり腰になるなんて‥‥」
 ローゼンクロイツはと言えば、年寄りの冷や水で無茶をしすぎて、ルツにさすってもらっている。
 と、そんな彼らに、旅館を代表して、礼服を着た一番血色の悪そうな従業員が、こう言った。
「アリガトウゴザイマス。ミナサマノオカゲで、貴重な生体エネルギーが手に入りましたわ」
「あ、血色が良くなった」
 見る見るうちに、その血色が良くなっていき、言葉も滑らかな発音になって行く。
「これで、しばらくは行動できます。また、何人かには招待状を渡すかもしれませんが、その時には、別の趣向を凝らしますので、楽しみに待っていてくださいましね‥‥」
 だが、ソレとともに、旅館は次第にその姿を薄くして行った。
「消えた?」
 後に残ったのは、雑草の生い茂る野原。申し訳程度に、建物の跡はあるが、温泉も従業員も、影も形もなく消えている。
「ホログラフか‥‥。実体を伴うなんて、どこの技術だよ‥‥」
 世の中には、まだ自分の知らない技術があるようだ。そう思うクルス。
 ところが。
「あれ? そういえば‥‥。ここ、戦争か何かで、一回崩壊した城の跡とか言う話を聞いた覚えが‥‥」
「「「「なにぃぃぃぃっ!!?」」」
 黎司の言葉が、一同の温泉熱を、一気に零下まで、湯冷めさせてしまったのは、言うまでもなかった‥‥。